鈴奈庵を燃やせ! 霊夢の誤算
─── 鈴奈庵の近く…
キョロキョロ
華扇「……ここに来るまで、食べ物の付喪神はいなかったわね。」
霊夢「きっと『鈴奈庵』の妖魔本の中に戻ったのよ。
いい? 着いたら私が『鈴奈庵』を結界の中に閉じ込めるから、魔理沙は結界の中へ火力MAXのマスタースパークを撃ってね。」
魔理沙「わかった。」
ス~ン
小鈴「分かるなーーーー!!
それ、私のお店ごと燃やす気でしょーーー!!!!!!
いやーーーー!! 放火魔ーーーー!!!!!!」
ズぅぅ~~ン!!!!
わー! ギャー!
??「あら、どうしたの? 小鈴…」
小鈴「あっ! 阿求! 助けて~!」
タターッ! ひしっ!
阿求「え、ええ!? 大丈夫? 小鈴!?
…………あら?」
霊夢「阿求じゃない。」
華扇「あなたは……、稗田家の九代目阿礼乙女の。」
阿求「霊夢さんに魔理沙さん……そして、あなたは山の仙人の茨木華扇さんですね。
…もしかして今回の異変の調査でしょうか。」
魔理沙「まぁそうだな。」
霊夢「ふふん。調査なんてもう終わったわ。犯人が分かったからね。
今回の異変の犯人は…………『鈴奈──」
阿求「それは違います。」
ガクッ!
霊夢「うげげっ!」
魔理沙「なに? 『鈴奈庵』の妖魔本は関係ないというのか?」
阿求「そうですね。」
小鈴「あ、阿求~~……。
やっぱり持つべきは良識のある友ね!」
キラキラキラ……
阿求「私も人間の里で異変が起きたと聞いた時は『また鈴奈庵か。』と秒で疑いました。
こんな、大勢の人様に迷惑をかけるような輩は人間の里では『鈴奈庵』……もとい小鈴くらいなものですから。
私は、小鈴の唯一の友として叱ってやろうと思いあわてて『鈴奈庵』に向かったのですが──」
魔理沙「良かったな小鈴。やっぱり持つべきはこういう時に叱ってくれる友だぜ。」
ポン……
小鈴「あ、あきゅうううぅぅぅぅ……!」
ビキビキ…
阿求「──ですが、『鈴奈庵』に小鈴が居ませんでした。
成る程、霊夢さん達を呼びに行っていたのね。」
霊夢「……それで、どうしたの?」
阿求「しょうがないので、小鈴が居ない間に『鈴奈庵』の中を調べました。
『鈴奈庵』が原因だ、という確たる証拠を押さえるためにね。
……しかし、調査の結果『鈴奈庵』は無実だと分かりました。」
霊夢「ど、どういうこと?」
阿求「『鈴奈庵』の妖魔本から魔力が溢れた痕跡がなかったんですよ。
あれほどの異変を起こす位の魔力が溢れたとすると、専門家でなくとも強い力を肌で感じるはずです。
しかし今回はそれがなかった。」
魔理沙「なるほどなぁ。確かに『鈴奈庵』からは魔力を一切感じないぜ。」
霊夢「そんな……『鈴奈庵』が原因じゃないなんて……。
お手上げだわ……もう。」
クラッ……
華扇「しっかりしなさい異変解決のスペシャリストさん。;」
ズーン…
阿求「…というわけで、こちらもアテが外れたので里を回って聞き込みなど詳しく調査をしました。
今それが一段落着いてここに戻って来たところです。」
霊夢「……それ、私も詳しく聞きたいわ……。」
阿求「はい。
事件発生は約二時間前……。最初に付喪神が確認されたのは西の門付近の居住区です。
突然そこ一帯の家々の食べ物が同時に付喪神化しました。
動き出した食べ物は野菜から魚……肉類、甘味、更には調味料まで……!
とにかく、食に関するあらゆる全ての物が付喪神化ししたようです。」
魔理沙「なんだと……。調味料って塩とか砂糖か。
そんなものまで動き出したというのか。」
華扇「……なんてこと…!
そらおいしそうだわ……!」
ごくりッッ…!
魔理沙「それを言うなら "そら恐ろしい" だろ。」
阿求「動き出した食べ物達は家から飛び出して大通りに出て集まりました。
それから、誰かが音頭取るでもなく、列を成し大通りから東に向けて行進を始めます。
その異様な光景はまさに百鬼夜行……!
『食べ物百鬼夜行』とでも言いましょうか……!」
ゴォォ…!
魔理沙「食べ物百鬼夜行…!」
ゾッ…!
阿求「食べ物達が東に進むにつれ、連鎖的に里のあらゆる場所で食べ物の付喪神化が発生し、そして列に加わっていきました。
この『鈴奈庵』の食べ物もそうです。今回ばかりはここも謎の異変に巻き込まれたようですね。」
小鈴「そうですよーっ! 私の妖魔本のせいじゃないじゃないですからねー霊夢さん?!」
プンスコ!
霊夢「ご、ごめんね。」
魔理沙「里の西側から異変が起こり、食べ物の行進に合わせるように次々と付喪神になっていったのか……。
むぅぅ、まるで発端が分からんな。」
華扇「なにか、前兆のようなものは無かったのかしら。」
阿求「……特にそれらしいものは何も……。
……いや、ですが気になる話がありましたよ。
昨日の夜中、西の門から怪しい人影が入ってきたとか。
目撃者によるとその人影は二人組で、片方は異様に体が小さく、もう片方は鬼の角のようなものが見えた……と。
その二人組は不気味に笑いながら里の大通りを徘徊し東の門まで抜けて姿を消した……との事です。
……これは付喪神が辿ったルートと重なります。もしかしたら何か関係があるのかもしれません。」
霊夢「鬼の角って…………まさかこの異変の犯人は、鬼!?」
華扇「それはない。
鬼がこんなつまらない異変を起こす道理がないもの。」
キッパリ!
魔理沙「なんだ、随分と鬼の事に詳しい口振りだな。華仙。」
華扇「け、経験上よ。私も長く生きてますから。」
オホン…
霊夢「……で。食べ物達はどこへ行ったの?」
阿求「……膨大な数にまで膨れ上がった食べ物百鬼夜行は最後に東の門に突き当たりました。
そこで散り散りに分かれ、逃げ去ってしまいました。
それから監視を置いているようですが、どうやら里からは出ていないみたいですね。」
魔理沙「おいおい、この里にまだ沢山の食べ物の付喪神が隠れてるというのか。」
霊夢「……危険ね。
その食べ物百鬼夜行で怪我人とか出ていない?」
阿求「人が沢山居る里の中心の繁華街では何人か怪我人が出ています。
といっても食べ物から直接手を出されたわけではなく、付喪神が現れてパニックになった際に転んだりして怪我をした人達が大半ですが。」
霊夢「えぇぇ、怪我人出てるんだぁ……。
困ったなぁ。早急になんとかしないといけないわね……。」
小鈴「ひゃあ、私が博麗神社に向かってる間に大変な事になっていたのねぇ。
お昼時だったもんね。そりゃあパニックにもなるわねぇ。」
阿求「えぇ、食べ物を提供するお店なんかは酷かったそうよ。
なんせお店にある大量の食材までも付喪神化したんだからねぇ。
中でも里で一番繁盛している蕎麦屋は特に被害が大きかったみたい。」
華扇「蕎麦屋……!」──√ ̄ ̄
キュピピィーーンッ…!
華扇「それは可哀想に。
霊夢、お見舞いと調査も兼ねてその蕎麦屋にも行ってみてはどうでしょう。
何か分かることがあるかもしれないし、蕎麦を食べたり、または蕎麦を食べたり、もしくは蕎麦を食べましょう。蕎麦を食べましょう。蕎麦を。」
ハァハァ……ぎゅるるるる
魔理沙「蕎麦を食いたいという熱い思いが隠しきれていない!」
ズーン!!
霊夢「そうね。行ってみましょう。」