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4.「リカ」

「ヨシキ君大変!!」

寝間着のままユウリは慌てている。

「リカさんが…!」

「寝室か!?」

嫌な予感を感じヨシキは寝室に急ぐ。

そこには血だらけになり苦しそうに悶えるリカの姿があった。

「大丈夫か!!」

「ぐぅ…!」

動かそうとするとリカは呻き声を上げた。血の跡は外から続いている。

「何があった!!!」

「わた……な…から」

聞き取れない。

「分かったもういい!喋るな!」

このままだと死んでしまう。何か手はないか。ユウリもどうしていいか分からずオロオロしている。

焦るヨシキ。回復薬とか薬草?買いに行く時間はない。店の場所もわからない。医者も同じだ。何かないか!何か……魔法は?魔法なら!ダメだ。回復魔法なんて覚えていない。有るのかもわからない。

「ヨシキ…さん」

「喋るなと言ってるだろう!」

「ありがと…ござい…た」

まずい。何か!早く思い付けよ俺!!!

「さい…ごに…あなた方に…会えて…」

「やめろよ!!話すな!!死んでしまう」

「ヨシキ君!!!創作魔法!!!」

ユウリが叫ぶ。それだ。急いでイメージする。折れた骨が元通り繋がる。破れた血管も、傷付いた内臓も修復する。出来るだけ早く、正確にイメージする。そして、名前を決めなければ!何でもいい!!!

「手当て…!」

リカの肩に手を置きヨシキは詠唱する。

リカの全身が青く輝く。

「間に合ったのか!?」

先程まで苦しそうにしていたリカだったが、ヨシキの魔法が発動すると穏やかな表情になり、呼吸も静かになり、いつのまにか眠っていた。

「良かった!間に合った…」

ヨシキは脱力する。

突如、「ピコン」と頭に響いた。あの空間でユウリのジョブが増えた時と同じ音だ。だが、タブレットが無い。そう言えば昨日から忘れていた。と考えていたら、手元に現れた。どうやら、見たい時だけ現れるようだ。ステータスチェッカーを開く。取得可能ジョブ一覧に小さく1と表示されている。開いて見ると「治癒術師」と書いてあった。とりあえず確認は後回しにしてリカの体を綺麗にして寝かせなければ。

「ユウリさん、リカさんの身体を拭いてもらえ…いや」

言いかけて言い直す。

「ユウリさん、身体の汚れを落とす創作魔法考えてもらえないかな?」

「拭くだけじゃだめなの?」

「出来ればそういう魔法を覚えてもらった方が後々便利だと思って…俺はもう1つ覚えてしまってるから」

「分かった」

体を綺麗にするイメージをユウリはする。ついでに傷とかも消えないかな。女の子だし。と考えながら、

「リザレクション」と詠唱する。すると今度はリカの体が緑色に光り、汚れがみるみる落ちて行く。皮膚の傷も治って行く。

「凄い」

「出来た」

その時ユウリの頭の中でも「ピコン」と鳴っていた。が、それより気になることがあった。

「でもさぁ、変じゃない?」

ユウリは首をかしげる。

「何が?」

「クールタイムだよ。ヨシキ君が魔法使ってからそんなに経ってないし、まあクールタイムの長さが分からないからなんとも言えないけど」

確かにそうだ。ヨシキは考える。

「確かに瀕死の状態から治しているからそれなりに長そうだけど…もしかして」

デミウルゴスが言っていたことを思い出す。

「魄属性?」

ユウリも同じことを考えていたようだ。

そう。肉体を司る魄。つまりHP消費魔法。

「だろうね」

その線が妥当だろう。

「ま、ともかくリカさんは一旦ユウリさんの布団に寝かせておいてもいい?」

「いいよ」

ユウリは家全体にもリザレクションをかけてみる。上手くいった。血の跡が消えている。

「凄いね」

「自分でもビックリだよ!」

「俺は少し外を見てくるからユウリさんはリカさんを頼む」

「分かった。気を付けてね」

外に出ると正面の道に血の跡が続いている。辿って行くと、この辺りで一番大きな家の前で途切れた。ここでリカは怪我をしたらしい。

「誰だお前。何の用だ」

大きい家の庭から出てきた男に声を掛けられる。鋭い目つき、いやらしくニヤける口元、そして肥えた腹、年齢は今のヨシキと同じくらい。

ここまでの情報でヨシキは大体察した。

「ここら辺に今朝早く、獣人が来なかったか?」

「知らねえよ。とっとと失せな」

その男は右手で追い払うような仕草をする。ヨシキはその手元の血痕を見逃さなかった。

素早くその手を掴み、一本背負いを決める。躊躇せず全力で。ただ、殺してしまわないように受け身は取らせた。

「がはっ!」

なぜ自分が見下ろされているのか。なぜ背中を地面に叩き付けられたのか。理解できない男。そしてヨシキは男に聞く。

「正直に答えろよ…次は、殺す!」

キレていた。この男の正体は大体予想は付くが、ヨシキは溢れる怒りを、憤怒を抑えられなかった。

「ひぃっ!?」

あまりの気迫に、男は身じろぎひとつ出来ない。

「今朝、獣人がここに居たな?」

「居まっ…した!」

ガタガタと震えながら男は答える。

「何をした?」

「家に連れ込んで、その……」

男は言い淀む。

「抵抗されて…痛い目を見れば言うこと聞くかと思って…」

「そうか」

ヨシキは馬乗りになり、男を殴る。何度も。

「やめっ…やめて!助けて」

「お前はそう言われて、やめたのか?」

「……!」

男は黙る。

「あの子は恐らく肋骨が折れていた。間に合わなければ死んでいた」

ヨシキは殴るのをやめる。

そして立ち上がり、男の肋骨めがけて足を踏み込んだ。嫌な音が響いた。

「ああああああぁ!!!」

男は痛みのあまり絶叫する。骨が内臓に刺さったらしく、吐血している。

「このまま放っておいたらお前は死ぬな」

ヨシキはニヤリと笑う。

「待って、助けて、医者を、医者を呼んでくれっ!」

「あの娘にそう言われたらお前は医者を呼んだのか?」

男は絶望する。自分は死ぬのだと。

「充分だな」

頭が冷えてきたヨシキはヨシキは男に手を当てる。男はこれ以上何をされるのかと戦々恐々としている。

「手当て」

ヨシキが詠唱すると男が青く光り始める。

「回復…魔法!?」

徐々に痛みが引いて行く。

「俺はお前とは違う」

ヨシキはそう言うとそのまま帰って行く。

「待ってくれ」

「なんだ、死にたいのか?」

ヨシキは既に冷静だったが、あえてそう聞く。

「違う違う!」

先ほど死にかけて助けられた男は首をブンブンと横に振る。

「あの子はあんたの奴隷なんだろ?」

「やっぱり死にたいらしい」

奴隷と言う言葉に過剰反応するヨシキ。

「何で奴隷の証が無いんだ。獣人なのに!」

慌てて言葉にする男。

「証?」

ヨシキは聞き返す。

「奴隷には左手首に鎖のような模様があるんだ!だが、あの子はそれが無かった。だから…」

「だから?人のものじゃないから?お前は自分の欲を満たそうとしたのか?あの娘の気持ちも考えずに?そうか」

ヨシキは男に向き直る。

「だって、奴隷だぞ?そんなのどう扱ったって…」

「反省しているなら許そうと思ったが…」

ヨシキは男に向かって歩き出す。

「男がどうして女より力があるか、知っているか?」

歩きながら男に尋ねる。

「男が優れているからだろう?」

ビクビクしながら答える男。

「暴力を振るうためじゃない…護る為だ!」

殺気を放ちながらヨシキは怒鳴った。その瞬間、余りの恐怖に男は失禁し、泡を吹いて気絶する。

周りには先程の男の悲鳴を聞きつけたのか、野次馬が集まっていた。もう十分リカの苦しみを味わっただろう。何より、これだけ大勢の前でこんな醜態を晒している。もう充分だ。そう思い、群衆を無視して、ヨシキは家に戻る。

家に入ると、ユウリが飛んでくる。

「ヨシキ君大丈夫だった?」

「大丈夫、あと、犯人ボコボコにしてきた」

「犯人って事は、人だったんだ…あんな酷いことをする人間が居るなんて…」

「俺も考えたくないよ」

「リカさんが目覚めるまでステータスの確認でもしてようか?」

ヨシキが提案する。

「だね」

ヨシキは先程の一件の最中、何度か着信音が鳴っていた。それに、2人とも自分のステータスを把握していない。今思えば危ないことをしたものだ。

囲炉裏を囲み、2人はタブレットを見る。

ヨシキは自分のステータスを見てみた。


安心院ヨシキ 格闘家 商人 村人

HP 300+200

腕力 110

知力 70+10

耐久力 95+5

命中 150

回避 100

運 10


ユウリもステータスを見る。


久遠ユウリ 狩人 剣士 拳闘士

HP 200

腕力 90+10+10

知力 50+20

耐久力 80

命中 380+30

回避 200+50

運 500


おいおいちょっと待て。バグか?ユウリのステータスに驚くヨシキ。そしてヨシキはパッとしない。

「高いかどうか分かんないね」

ユウリは言った。いやアンタは高いだろどう考えても!とヨシキは心の中で突っ込んだ。

次に取得可能スキル一覧を見る。


安心院ヨシキ

「猫萌え」…猫、猫の獣人族に敵対されなくなり、懐かれやすい。猫系のモンスターも寄って来る。

「平常心」…幻惑系魔法の一切を打ち消す。

「救急救命」…回復魔法使用時効果が上がり、瀕死の状態でも回復できる。

「火事場の馬鹿力」…1日1回の回数制限有り。切羽詰まった状況下でのみ発動。その状況を1度だけ覆す。

「憤怒」…怒れば怒るほど攻撃の威力が上がる。

「近接戦闘術」…近接戦闘において全ての技の威力が上がる。

「騎士道精神」…護るべき者のため戦う心構え。仲間を背に戦う時、敵の攻撃を全て自分に引き付ける。

「威圧」…自分より格下の相手を寄せ付けない。


「何だ猫萌えって!好きだけど」

「ヨシキ君面白いスキル持ってるね」

だが、その他のスキルは有用なものばかり。ステータスにいいところが無い分、妥当だとヨシキは考えた。

ユウリのスキルも見る。


久遠ユウリ

「恋慕」…恋い慕う乙女心。愛する相手と共にいることで基本ステータスがアップ。上昇率は気持ちと比例する。

「酔拳」…拳闘士をジョブに設定しないと発動しない。酒を飲むほど敵の攻撃を避けやすくなる。

「動物萌え」…全ての動物、獣人族に敵対されなくなり、懐かれやすい。モンスターも寄ってくる。

「軍師」…危機的状況を覆す方策を提示できるようになる。


「ちょっと!恋慕だってよ!」

恥ずかしそうに喜んでいる。

名前はともかく、スキルの内容は完全にチートだろう。ユウリがヨシキを好きになる程ユウリは強くなる。

あと何だ酔拳って!戦いながら酒飲むなよ!

「スキル少なくてガッカリだよ」

ユウリは詰まらなそうに言う。

チックショーーーーー!ヨシキは某太夫の様に心の叫びを上げた。

「スキルどうする?」

ユウリが聞く。

「取り敢えず2人共全部付けよう。そして俺はユウリさんに嫌われない様頑張ります!」

「頑張ってね」

ふふっと笑いながらユウリは言った。

「朝飯の準備でもして、リカさんが起きるの待ちますか」

少し遅い朝ごはんを提案するヨシキ。

「そういえば、食材あるかな?」

ヨシキはカップ麺しか持ってきていない。

「…ごめん」

ユウリが謝る。

「どしたの?」

「服選びに夢中で、食料の事すっかり忘れてた」

さすが天然。2人の朝食はカップ麺に決定した。

かまどにやかんが備え付けてあり、難なくお湯を沸かす。

お湯が沸騰した頃、リカは目を覚ます。

「あれ?私…生きてる?」

痛くない。あれだけの傷を負って、折れた肋骨が内臓に刺さり、命からがら逃げてきて、もう自分でも手遅れだと分かっていた。ヨシキに最後の別れを告げようとした…はず。

「生きてる…!」

実感を得られず同じ事を口にする。すると、声が聞こえたのだろう。ユウリが急いで様子を見に来た。

「リカさん!大丈夫?どこも痛くない?」

リカの体をペタペタ触りながらユウリが尋ねる。

「はい。何ともありません」

2人が話しているとヨシキも急いでやって来る。

「リカさん大丈夫!?」

「はい。どこも痛くありません」

「良かったぁ〜」

安堵するヨシキ。涙目で喜ぶユウリ。

「ヨシキ君が回復魔法をかけてくれたんだよ?」

「ユウリさんが魔法でリカさんの身体を綺麗にしたんだ」

「えっ!?」

リカは驚いた。

「お2人共、治癒系の魔法が使えるのですか?」

「そうだけど…なんで?」

ヨシキは首をかしげる。

「凄いです!治癒系魔法の使い手はここから北にある「アッカ帝国」にしか居ないと聞いています」

「マジで?」

「マジです!」

「じゃあ怪我とか、病気はどうするの?」

「薬とかお医者様に見てもらいます」

だからさっきの男も驚いたのか。

「それにしても、2度も助けて頂いてありがとうございました」

「まずはリカさんが無事で良かった。一体何があったの?」

「はい。今朝早く、食料を買いに出かけたら、この辺りの地主の息子が声をかけて来たんです。それで、話していたらいきなり家に連れ込まれて乱暴されそうになって、抵抗していたら棍棒で何度も殴られて、逃げようとしたらその棍棒が肋骨に当たってしまって…骨が折れて地主の息子が驚いている隙に逃げて来たんですが…家に着いたときはもう手遅れだと自分でも分かりました」

リカは涙目で話す。ユウリは泣きながら、怒りに震えている。

「ちょっとソイツ殺して来る」

「ユウリさんそれはダメだ!」

「だって、リカさんを酷い目に…」

「アイツには相応の体験をしてもらったからもう手は出してこないよ」

「私の気が収まらないよ!」

「今頃ここら辺で笑い話になってるよ。地主の息子がションベン漏らして気絶してたって」

「ご迷惑をお掛け致しました」

「リカさんは何も悪くない。迷惑をかけたのはアイツだ」

「ありがとうございます」

どうやらリカのためにヨシキが仕返しをしたらしい事を理解して、リカはお礼を言った。

「ホントに権力者の息子ってクズばっかだよな!」

「自分は偉くないのにね」

なんて優しい人達なんだろう。この2人の役に立ちたい。リカは決意する。

「ヨシキさん、ユウリさん!

「「なに?」」

シンクロ。

「私をお2人の仲間にしてもらえないでしょうか!」

「「いいよ」」

即答。

「俺も誘うつもりでいたし」

「私も」

リカはポカンとしていた。獣人を仲間にする事は通常有り得ない。奴隷だから。この世界では武器や防具と同じ「物」という認識なのである。それをリカは分かった上で、奴隷という立場から救ってくれた2人であっても、断られるのではないかと怯えていた。そんな事は無かった。考えもせず即答。リカは込み上げる感情を抑えられない。泣いていた。嬉しくて。この2人の仲間になれて。

「た〜だ〜し!1つ条件があります!」

人差し指を立てながらユウリが言った。

「何でしょうか?」

「それ!」

突き立てた人差し指をそのままリカに向けた。

「敬語禁止!あと絶対危ない事はしない!」

「一つじゃ無かったんですか?」

「そこ!うるさい!」

今度はヨシキをビシッと指差す。

「俺からも条件があります。それは、死なない事。俺達の誰か1人が欠けたら、俺達全員が死ぬのと同義です!文字通り一心同体!それと、俺ももう敬語は使わない」

「これからは遠慮せず何でも話してくれ。仲間だろ?」

「ヨシキ君て、かっこいい言葉が全然似合わないね」

「やめてそれ凄い傷付く」

キメるシーンも2人だと夫婦漫才になってしまう。それが良いところでもあるとリカは思った。

本当に本心で歓迎されているとリカは感じた。一心同体。自分には縁のない事だと思っていた。今は違う。

「今まで生きて来て、今日が一番幸せ。2人共、ありがとう」

リカは心の底から笑って言った。


そしてパーティメンバーが3人になった。

次回はリカのステータスの話になるでしょう。

ちなみにヨシキが治したのは骨と血管と内臓だけ。

ユウリは外傷を治しながら、汚れを落としていたという事です。

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