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3.こちらの世界も腐ってました

アクションを書くのはもう少し先になりそうです。

ヨシキとユウリは目を覚ます。眠っていたようだ。周りを見ると、どうやら古民家のようだ。土間があって、囲炉裏があって、土間には親切に薪ストーブまで用意してある。囲炉裏のそばで2人は寝ていたらしい。

「古民家!?」

ヨシキは驚く。そう。古民家なのだ。何の変哲も無い。

「俺達異世界に来たんじゃ…」

「ここどこ?」

ユウリも不安そうにキョロキョロしている。

すると、台所と思しき場所から声が掛かる。

「起きたんですね。少々お待ち下さい」

女性の声だ。2人の視線が同じ場所に集まる。少しして、お盆に湯呑みを二つ乗せて運んで来る女性。静かに2人の前に湯呑みを置いて2人の正面に座る。お茶のいい匂いがする。だが2人の意識は女性の頭に持って行かれていた。

「あ…」

「まさか…」

その女性には耳が付いていた。猫の耳だ。ケモ耳だ!

「じ、獣人…なのか?」

ヨシキが恐る恐る聞く。

「そうですにゃ」

その女性はわざとらしく語尾に「にゃ」とつけて答える。

「マジか!」

ヨシキのテンションが一気に跳ね上がる。ユウリも目をキラキラさせている。ん?気のせいか?ユウリの様子が変だ。

「ユウリさん、なんか幼くなってません?髪の毛そんなに長くなかったですよね?」

「そういうヨシキ君こそいつからそんなに筋肉質になったの?髪も坊主になってるし」

2人とも自分の体を確かめる。ヨシキは昔柔道をしていた頃の鍛え上げた体になっており、ユウリも若返り、髪が腰辺りまで伸びている。とても手入れされた綺麗な黒髪だ。

「デミウルゴス様より伝言がございます。あなた方2人の身体を、全盛期の身体である18歳に戻したそうです」

なにその黒の組織に狙われる名探偵の小学生みたいな状態。この場合見た目は高校生、頭脳は大人。になるが。そんなこと出来んのか。

「申し遅れました。私はリカと申します。お2人の身の回りのお世話をさせて頂くことになっております。ご覧の通り猫の獣人で歳は20でございます」

丁寧に女性は名乗る。改めて2人はリカを見る。髪はショート、髪色はブラウンで同じ毛色のネコミミ。毛の艶も良く、とても触り心地が良さそうだ。顔も美形で少しツリ目だ。目の色は青い。そして、なぜか浴衣を着ていることに気付くヨシキとユウリ。全体的に薄い青、紫の花柄をあしらったデザインだ。日本の物と比べても遜色無い。ただ、グラマーな体系をしているため、色々と目に毒だ。

「あの、お2人は猫はお嫌いでしたか?」

先程から無言で見つめられているリカは心配そうな顔で聞いてくる。

そんなことは無かった。ヨシキは地球上の生き物で猫が一番好きだった。ユウリも動物全般が好きだが、中でも猫はトップクラスに好きだった。

「「いや、好きだよ」」

シンクロする。2人同時に告白したみたいになっている。まさにトライアングラーだ。

「良かったです」

ホッとするリカ。

「とりあえず、聞きたい事が沢山あるんだが…」

「何なりと」

「まず、ここは何処だ?」

「ここはラプシヌプルクルでも唯一の漁業国家、シカマ国の東側に位置するお2人の住居でございます」

ラプシヌプルクルは確かこっちの世界の名前だったな。長いし、言いずれ〜よ。と心の中で突っ込んでおく。

「俺達の家?」

「元々はデミウルゴス様の住居でしたが、お2人に譲るとおっしゃってました。実質、住んでいたのは私だけですが」

「ここは何で日本の古民家みたいになってるの?」

ユウリが尋ねる。

「ニホン?申し訳ありません。分かりません」

知らないらしい。

「この世界の家は全部こうなのか?」

ヨシキが続ける。

「いえ、この様式の住居はシカマ国から海を挟んで南にあるオテギネ国特有の物です。私が着ているものもオテギネ国から来た商人からデミウルゴス様が買い、私に与えてくださったものでございます」

「オテギネ?どっかで聞いたような…」

ヨシキは唸りながら考え込んでいる。

「海も有るんだね」

ユウリが代わりに尋ねる。

「はい。シカマ国は領土の多くが海に面していて、国が主導で漁業を推し進めています。比較的モンスターも少ないので、泳ぐことも出来ますよ」

サメのモンスターとか居たら某映画にになってしまう。

「思い出した!!!リカさん、オテギネ国はもしかして鋳造や鉄製品が盛んだったりする?」

「リカで良いですよ。その通りです。オテギネ国は鉄製品が主な商業です。何でも、豊富な鉱脈が国内に多数あるそうですよ」

「やっぱりか」

ヨシキは昔、槍というものに憧れていた。子供の頃の話だ。その頃、天下三名槍という名前を見つけた。

蜻蛉切、日本号、そして御手杵。日本の槍の名前が使われているなら、日本と同じような作りの家も何となく納得してしまう。

「凄いヨシキ君、知ってたの?」

「いや、勘」

「その方が逆に凄いよ」

「褒めても何も出ませんよ。ユウリさん」

「ヨシキ君、私達今同い年なんだよ?さん付けはやめて欲しいな〜」

ユウリはイタズラっぽく笑いながらヨシキに言った。

「えぇ!?」

予想もしない事を言われヨシキは戸惑う。

改めて若返ったユウリを見ると、元々童顔の為、実年齢より更に幼く見えるが、色気は失っていない。プロポーションは変わっておらず、18歳にして完成されていると言っても過言では無かった。髪も長い方が似合っている。かたや、パッとしない顔のヨシキは若返っても、身体は鍛えられていても顔はそんなに変わらない。ユウリは何故自分の事が好きなのか。ヨシキはいつも疑問だった。

「そんないきなりは無理ですよ」

「分かった。じゃあ、敬語は辞めてね?」

「わかりま……分かったよ」

恥ずかしそうにヨシキは言い直す。

「よく出来ました」

ニコニコするユウリ。

「本当に仲がよろしいんですね。お2人は恋人ですか?」

「そう思ってていいよ」

ユウリが胸を張って答える。

「いや、まだそうなるかどうかは…いえ、その通りです」

慌てて訂正しようとしたが、ユウリから物凄い威圧感を感じたためヨシキは断念する。

「リカさんは結婚とかしてないの?」

ユウリが聞く。

「私は、その……奴隷ですので」

「「奴隷!?」」

まさかこの世界に奴隷制度が有るとは…。2人は驚いた。奴隷として扱われる人がいかに凄惨な日々を過ごすか、想像に難くない。

ヨシキは言葉を失う。ユウリは申し訳なさそうにしている。

「ごめんねリカさん」

「お気になさらずに。幸い私は奴隷として売られてすぐにデミウルゴス様に買って頂いたので他の奴隷の方のような酷い事をされた事はありません。」

リカの境遇を聞き、少しだけホッとしたが、

「ここでは奴隷制度が常識なんだな!…」

「ヨシキ君!」

「俺、ここで最初にやりたい事、いや、やらなきゃ無い事を見付けました」

「私もだよ」

「まずは強くならないと」

「そうだね」

「ところでリカさん、奴隷って事は誓約書とか契約書みたいなのありますよね?」

「ございます。しかし特殊な魔法が掛かっているため、奴隷本人は触れられません」

「それはどこに有るの?」

「そちらの棚に」

ヨシキの後ろにそれは有った。ヨシキとユウリはそれを睨む。その中を漁り、奴隷契約書を見つける。リカの所有者はヨシキになっていた。

ヨシキが何を考えているか、リカには分からなかった。

「胸糞悪い!」

ヨシキは契約書を囲炉裏に焚べる。

「あっ!」

リカはビックリして思わず声を上げた。

「リカさん、この契約は破棄だ。これで君はもう自由だ」

「ヨシキ君グッジョブ!」

ユウリはサムズアップしてみせる。リカは突然のことに混乱している。

「君はもう自由だ。故郷にでも帰るといいよ」

「えっと…帰れないんです」

ようやく落ち着きを取り戻したリカは続ける。

「でもまずは自由にしていただいてありがとうございます。」

「いいって。俺は何もしていない。ただ要らない紙を処分しただけだ」

「奴隷の契約を破棄する人なんて聞いたことありませんでした。私の知る限りあなた方が初めてです」

「俺は君を物扱いしたくないだけだ。対等に人として接したいだけだ」

「そんな考えの方も…居るんですね……」

人として対等に。リカはこの言葉に驚いた。初めてリカが人として扱われた瞬間でもあった。

「この世界では獣人族は全て奴隷として扱われています。なので、獣人族は「ワサダ国」という島国に住んでいます。その島に、時折人が奴隷狩りにやって来ます。私もそうして連れて来られました。獣人だけでワサダ国に渡ろうとすると、船着場で捕まり、結局売られるのです。なので、ワサダ国から出てしまうともう故郷には帰る事は叶いません」

「腐ってんな」

ヨシキはイライラしていた。こんな非人道的な行為が世界規模で行われていることに。

「リカさんは帰りたいよね?」

ユウリが尋ねる。

「叶うなら」

諦めた様にリカは言った。

「よし!じゃあ、行きますか!ワサダ国」

「そうだね」

「え!?」

リカは困惑していた。

「ただ、準備してからになるから…一週間後くらいに出発で!」

「賛成!」

ユウリもやる気満々だ。

「で、でも!これ以上お2人にご迷惑は掛けられません」

「何が?」

「ユウリさん、俺達はワサダ国に何しに行くんだっけ?」

ヨシキはユウリが乗っかってくれる事を期待しながら聞く。ユウリはそれを察する。

「旅行だよ」

流石っす姐さん!

「そうそう。リカさんも一緒に行きませんか?旅行は人数多い方が楽しいですよ」

「だよね〜」

この人達は何を言っている?奴隷契約を破棄するだけでも前代未聞。それなのに、獣人の私のために気を使わせない様に旅行なんて嘘までついて。なんでこんな事をしてくれるの?

「なんで…どうして…私なんかの為に……そこまで?」

リカは泣いていた。泣きながら思っていた事が口に出ていた。

「なんでって言われてもなぁ」

「私、猫も好きだけど、リカさんも好きだから」

ユウリの本心だった。こんな境遇でも腐ることのないリカを見て強い人だと思った。悪い人ではないと確信していた。

「俺は下心だよ?」

「ちょ!ヨシキ君何言ってんの!?殴るよ?」

雰囲気ぶち壊しのヨシキにユウリが詰め寄る。しかし、リカにはもうヨシキの本心は伝わっていた。この人はそういう人なのだとなんとなく分かっていた。

「そういう意味じゃなくて、俺生き物の中で猫が一番好きなんです。猫をモフるのが俺の唯一の癒しなんですよ。だから、獣人だらけの国、行きたいじゃないですか。思う存分モフりたいじゃないですか!」

いやらしく手を動かしながらゲヘヘと下品な笑みを浮かべている。

「そうやってすぐふざけるんだから…」

ふざけるのだ。人に手を差し伸べて、正面からお礼を言われるのが恥ずかしくて誤魔化す為にふざける。あたかも自分の為にやったかの様に振る舞うのだ。

「触りたいならどうぞ」

リカは泣きながら、気を使ってくれているヨシキに嬉しそうに近づいて、お辞儀したような格好で頭をヨシキに向ける。

猫は恐怖を感じるものから目を離す事ができない。視線を逸らすのは相手に敵意がない事を伝えるサインなのだ。仲のいい猫同士は頭を擦り付けあったりもする。リカも少なからずその特性を持っている。リカの場合、頭を無防備にヨシキに預けようとしている。これは猫の獣人にとって信頼、親愛の証とも言える。事実、リカは今、家族といる時のような心が暖かくなるような気持ちを感じていた。

「おぉ……いいんですか?」

いきなりの出来事にヨシキはどうしたらいいか分からず困惑する。

「リカさん、私も触っていい?」

「どうぞ」

2人で猫耳を触る。

「これ程とは!…」

「こんなにモフモフしてる耳は初めて!」

品評会みたいになっている。

「癒されますな〜」

「そうだね〜」

ひとしきりモフると満足した2人はお礼を言う。

「ありがとうリカさん」

「ごちそうさまでした」

またふざけるヨシキ。

顔を上げたリカは泣き止んでおり、とても嬉しそうな表情をしていた。

「じゃあ、これからの事は明日から詰めて行くことにして今日はもうご飯食べて休もう」

気が付けば、すっかり深夜だった。

「お食事は簡単なものならすぐお作り致しますが…」

「ユウリさん、惣菜が残ってたよね?」

「そうだったね」

「じゃあそれをみんなで食べよう」

「ソウザイ?」

リカは分からない様子だ。

「大丈夫!美味しいから!」

「食べ物なんですね…」

食べ物だと言うことで少し安心した様子だ。

「あと、風呂は有るの?」

「お2人は待っていて頂ければ、私がお風呂の準備を致します」

「それは悪いよ。俺がやっておくから2人は食べてていいよ」

「じゃあお言葉に甘えさせてもらうね、ヨシキ君」

そう言ってユウリは自分の荷物を漁って、残っていた惣菜を取り出す。

「俺のも食べてていいよ。でも、残しておいてね」

そう言って風呂場にヨシキは向かう。

「そうか!そうだよな…古民家だもんな」

風呂場に着くなり驚いて声を上げる。所謂五右衛門風呂だ。結局三人で準備をし、その後、皆で食卓を囲み、交代で風呂に入り、寝室にユウリとリカが、居間にヨシキが寝る。

「ユウリさん、今日は楽しかったです」

「私もだよ。きっとヨシキ君もそう思ってるよ」

「おやすみなさい」

「おやすみ〜」

ユウリは眠りに落ちる。

リカは今日ほど楽しかったのは本当に久しぶりだった。

「私もお2人の力になれないかな」

そんなことを1人こぼしながら眠りに落ちる。



ーー翌朝ーー


ユウリが目を覚ますと、隣で血だらけでうずくまるリカの姿があった。

読んで下さってありがとうございます。3日毎更新を目標に頑張っております。

次回あたりから魔法が出始めます。スキルも出ます。

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