2.創造主との出会い
文章内に出て来る「魂」の読みは「こん」、「魄」は「はく」になります。
『来たか』
闇に包まれた空間の中に浮かぶように並んでいた2人は何者かの声を聞き、目を開ける。
『ようこそ。安心院ヨシキ君、久遠ユウリ君。私がデミウルゴスだ。』
2人の目の前に立っていたのは、神々しさとは程遠い、中学生程の見た目をした少女だった。手紙の文章から勝手に老人だと思っていた2人は面食らう。
銀髪の髪を太腿まで伸ばし、雰囲気は天真爛漫という印象だ。しかもかなりかわいい。こんなかわいい少女をヨシキは見たことが無かった為、思わず見入ってしまう。
不意に、左側から視線を感じた。
「ヨシキ君幼い子が好きなんですね」
その声のトーンに現実に引き戻されたヨシキはその声の方向を見ることは出来なかった。
『済まない。ユウリ君』
ヨシキをジト目で睨むユウリにデミウルゴスは言った。
『創造主だけが持つ魅了の力が働いているんだ。見た目が女性なので男性には必要以上に効果を発揮してしまう。逆に女性には効きづらいのだ。まさかヨシキ君にこれほど効くとは予想外だったが。』
「そうですか」
ユウリはデミウルゴスを見てもヨシキの様に釘付けにはならなかった。
『少し待っていてくれ』
そう言うと、デミウルゴスはヨシキにに手をかざし、何かを唱えた。
『これで大丈夫。ヨシキ君、どうだい?』
先程ユウリに睨まれたヨシキはデミウルゴスから目を逸らしていた。デミウルゴスに促され、視線を戻す。
「あれ?」
ヨシキにはそこに立っていた存在が先程と同一人物とは思えなかった。
「何をしたの?」
ユウリが聞く。
『私の魅了の力に耐えられる抵抗力をヨシキ君に与えた。あまり見つめられていても話が進まないのでね。』
「なるほど。それでここはどこですか?」
先程からデミウルゴスを見ながら首をかしげるヨシキを横目にユウリが聞く。
『そうだな。精神世界とでも言ったところかな。ここでこれからの事を少し話しておきたくてね』
「「これからの事?」」
シンクロする2人。
『そう。まずは2人にこの世界「ラプシヌプルクル」について簡単に説明しよう。ヨシキ君、ユウリ君、ゲームは好きかい?』
「学生時代は色んなゲームをしてたけど…」
「私はあんまり。モンスターを捕まえるゲームを少しやったことあるけど…」
『そうか。ヨシキ君はすぐ理解できそうだね。この世界は「RPG」なんだよ』
ロールプレイングゲーム。懐かしい響きだとヨシキは思っていた。ユウリは分かっていない様子だ。
「なんとなく理解したよ」
ヨシキは続ける。
「つまり、経験を積んで強くなってボスである魔王を倒せばいいんだな?」
『半分正解だ』
「え?」
『確かに経験を積んで強くなるのはその通りだが、魔王を倒す必要はない』
「?でも、手紙には!」
持っていた手紙をデミウルゴスに突き付ける。
『それはあくまで私の願いであって、無理に実行する必要はない』
「それじゃあ…」
『ではヨシキ君、君はなぜ魔王を倒さなければならない?魔王が君に何をした?』
「それは……」
ヨシキには答えられなかった。
『きっと君は魔王が悪者だから、人類の敵だから、討伐されるべきだ。そう考えたのだろう?』
図星だった。ヨシキは魔王がどんな存在かも知らず、ただ魔王だからという理由だけで倒されるべき存在だと思っていた。
『確かに私は魔王を討伐してほしい。だが、君達にそれを強制はしない。この世界で色々学び、それからどう生きるか決めればいい。答えは君達自身で見つけて欲しい』
ヨシキは短絡的に魔王を敵だと考えていた自分を恥じた。
ユウリは半分も理解できていないようだ。
「……じゃあ何故俺達2人を呼んだんだ?どちらか1人でも良かったんじゃないか?」
招待状が届いた時から思っていた事を聞くヨシキ。
『そのことは…』
デミウルゴスは一旦言葉を切り、2人を交互に見つめ、微笑みながら
『いずれ分かる』
意味深にそう言った。
ヨシキがどうするか悩んでいると、ユウリが口を開く。
「話が全然分からなかったんだけど、結局私達は何をすればいいの?」
『そうだね。簡単に言えば自由だ。本来なら君達は強制的に呼ぶことも出来た。だが、私は君達の意思を尊重したかった。だから招待状を送った。そして君達はそれに答えてくれた。何も知らない異世界に臆することなく。だからこの世界で自由に生きて欲しい。これはお礼のようなものだよ』
「分からないけど、分かった」
ユウリはそれ以上聞くことはしなかった。
『この世界で生きている物は、固定概念に縛られている。君達にはそれだけ言っておくとしよう』
また意味深な事を言うデミウルゴス。
『さて、聞きたい事はもう無いかな?』
2人は頷く。
『じゃあ「ラプシヌプルクル」のシステムについて説明しておこう。まず、この世界にはレベルという概念は存在しない』
「なんだって!?」
ヨシキは声を荒らげる。レベルがないという事は、最後までレベル1である事と変わらない。
「じゃあどうやって強くなるんだ?」
『最初に君も言っていたじゃないか。経験だよ』
ヨシキは理解できず、途方に暮れている。
『この世界では、経験した事柄に応じてステータスが上がり、経験する事でジョブを獲得出来る。ジョブというのは職業のようなものだ』
「なるほど、鍛え続ければいくらでも強くなり、複数の職業に付くことも出来るんだな?」
『飲み込みが早くて助かるよ。ステータスの上げ方については、上げたいステータスのカテゴリーのモンスターを討伐することで上がっていく。上限はない。』
「誰でも超人になれるじゃねえか…」
『ただ、自分より高いステータスを持つモンスターを討伐しなければステータスは上がらない。そして、討伐すれば必ず上がるわけではない』
「なるほど。確率でアップということか」
『そういう事になる。ステータスが高くなるほど確率は低くなる。モンスターが格上になるほど確率は上がる。ステータスについては以上だ』
「分かった」
ヨシキは理解したがユウリは理解出来ていない。
『次はジョブについてだが、これはそのジョブを経験する事で変更可能になる。これは見て貰った方が早いだろう』
デミウルゴスは言い終わると指を鳴らす。ユウリの目の前に裁縫道具と縫い目のほつれたネコのぬいぐるみが現れた。
『ユウリ君、そのほつれを直してもらえるか?それとその前にこれを渡しておこう』
ユウリとヨシキそれぞれにどこかで見たことがある物を渡すデミウルゴス。それはタブレットによく似ていた。
『君達の分かりやすい形に作った物だ。操作は大体分かるね?』
2人はステータスチェッカーと書かれたアイコンを押してみる。メニューが出て来る。ステータス、ジョブ、魔法、スキル、取得可能ジョブ一覧、取得可能魔法一覧、取得可能スキル一覧と並んでいる。取得可能ジョブ一覧の項目を開く。
ヨシキには「格闘家」「村人」「商人」が表示されていた。
ユウリには「拳闘士」「剣士」「狩人」「砲撃手」「村人」が表示されていた。
ヨシキはなんとなく法則を理解した。
「村人ってのは共通で持ってるものか?」
『そう』
デミウルゴスは短く答える。ユウリのジョブの多さはきっと…
「ユウリさん、学生時代の部活を全部教えてもらえますか?」
自分の予想を確信に変えるためにユウリに聞くヨシキ。
「小学校は空手、中高は剣道だよ」
やっぱり。だが狩人と砲撃手は分からない。
「狩人か……弓道とかやってませんでした?」
「趣味でアーチェリーやってたよ」
なるほど。
「砲撃手は何か心当たりありませんか?」
「砲撃…砲撃…あ!もしかして1度だけクレー射撃やったからそれかも」
そういう事か。この世界にはショットガンが無いのか?だから近い職業になったのか。近くもないが。
「ヨシキ君は格闘家と、商人?。」
「俺は部活小中高柔道だったので、格闘家はそれだと思いますが…商人か…もしかして仕事でコストダウン要求したりされたりしてたからかな?」値引き交渉みたいなものだ。それなら合点が行く。
『取得可能ジョブの確認は良いかな?』
疑問が解決した所を見計らった様にデミウルゴスは声を掛ける。
『ではユウリ君、ぬいぐるみを直してくれ』
「分かった」
ユウリは裁縫は得意だった。
3分と掛からず直し終える。とても綺麗に縫われている。
すると、ユウリのタブレットがピコンと鳴った。ステータスチェッカーのアイコンに小さく1と表示されていた。開いてみると、取得可能ジョブ一覧に小さく1と表示されていた。取得可能ジョブ一覧を開くと新たに「裁縫士」のジョブが追加されていた。
『これで分かったかい?』
「分かった」
ユウリはそう言いながら裁縫なんて誰でも出来るのでは無いかと思っていた。
『ユウリ君、今君は裁縫は誰でも出来ると思ってないかい?』
「そうだね。元々いた世界では学校の授業でやるものだし…」
『じゃあ、ヨシキ君やってみてくれるかい?』
再び指を鳴らすデミウルゴス。今度はヨシキの前に裁縫道具と縫い目がほつれた犬のぬいぐるみが現れる。
「やってみるか」
ヨシキは裁縫が苦手だった。
「出来た」
お世辞にも上手いとは言えない出来だ。縫い付けた箇所が所々引っ張られ、かわいそうな顔をしているぬいぐるみ。
ヨシキは自分のタブレットを確認する。が、何も変化は起きていない。
『もう分かったと思うが、経験の他に習熟度も必要なんだよ。』
「ちょっと待て。じゃあ一度きりしかやった事ないユウリさんのクレー射撃の説明がつかないだろう!」
ヨシキは怒鳴る。
「ヨシキ君」
「なんですか?」
「クレー射撃初めてやった時、全部当たったんだ…」
ヨシキは開いた口が塞がらない。
「怒鳴ってごめんデミウルゴス。俺が間違ってました。初めての競技で習熟度MAXの怪物がここにいました」
「怪物は言い過ぎだよヨシキ君!」
ユウリは両手を腰に置き、前かがみになって怒っている。
『君達は面白いね』
ニコニコしながらデミウルゴスは言う。
『ジョブについては以上だ。次は魔法について説明しよう』
魔法。現実世界では使えない力。思わずテンションが上がるヨシキ。
『魔法には人それぞれに適性がある。火、水、風、地の4属性が基本となり、適性についてはヨシキ君、君は風、ユウリ君は地だ。習得の条件は魔法の発動を見るか、人に教えてもらうかだ。』
『魔法なら弱点と耐性がある。とヨシキ君は考えているだろう?それは少し違う。』
「なん…だと!?」
テンションが上がっているヨシキはオーバーリアクション気味に驚く。
『考えてみてくれ。火は風で消えたりもするが、空気が熱せられ上昇気流が起きることもある。水は火を消すが、火に蒸発させられる事もある。大地は水の恩恵を受け育つが、水により削られる事もある。結局の所、それぞれに弱点、耐性なんてものは無いんだ。』
「なるほど。一理ある」
『だが、モンスターによっては特定の属性を吸収したり、跳ね返したりする事もある。それと、4属性の他に実は互いに弱点同士の性質を持つ物がある』
「光と闇とか、陰と陽とかそんなんだろ?」
ヨシキはドヤ顔で言う。
『惜しいね。考えとしては間違っていない。正解は「魂」と「魄」。「精神を司る魂」と「肉体を司る魄」の2属性だ』
「なんか聞きなれない言葉だな」
ドヤ顔で間違って恥ずかしそうにしているヨシキ。
『基本の4属性は適性があった方が習得しやすいが、基本的に全ての魔法を習得できる。ちなみに全て習得できれば複数の属性を組み合わせて天災レベルの災害を発生させる事もできる』
「「何それ怖い」」
シンクロする2人。ユウリも話に付いてきているようだ。
『魂と魄に関しては、生れながら属性が決まっている。必ずどちらかに属するようになっていて、その属性の魔法を使えるということだ。ただ稀に、両方併せ持った存在もいる。ヨシキ君、君のように』
マジかよ!主人公補正キタコレ!!
「じゃあ最強ってことですか?」
先生に質問する小学生みたいにヨシキは聞く。
『そうだね。最強だ。だが、互いに弱点だと話したろう?』
そうだよね。美味しい話には裏があるものだよね。調子乗ってすいません。
「俺には2属性共効いちゃうわけね」
「ヨシキ君ドンマイ!」
『ユウリ君は魄だ』
「そっか」
あっけらかんとしているユウリ。
『じゃあ、魔法を使う上で重要なものは?』
「MPだろ?」
『正解。勿論強力な魔法ほど消費MPも大きい。と言いたいところだが』
「まさかそれも特殊なのか?」
『そう。基本の4属性はMP消費が無い。と言うよりそもそもこの世界にはMPの概念がない』
「そうなのか!」
ヨシキは驚く。消費するものが無ければ魔法『打ち放題だ。とか考えただろう?』
思考を先回りして言われた。
『4属性の魔法は空気中に存在しているスピリットと呼ばれる存在に術者が干渉し、起こしてもらっているものだ』
「そうなのか!」
「やってもらうのってなんか悪いね」
『そして、魔法を起こしたスピリット達は少しの間動けない。クールタイムと言えば分かりやすいだろう?』
「なるほど!もしかして強力な魔法ほどクールタイムも長いのか?」
『その通り。しかし魂と魄の属性魔法だけは、HPを消費して発動する。勿論威力に応じて消費HPも変わる』
危ないとヨシキは率直に思った。もし魔法発動した瞬間に攻撃を受けたら、HPによっては死ぬだろう。
『それと自分のHPを超える消費量の魔法は使えない。例えばHPが10なら9消費する魔法しか使えない。そして魂と魄にクールタイムは無い。魔法の説明は以上だ』
「使い所が限られてくるな」
「そうだね」
『おっと、言い忘れていた。4属性魔法は決まった魔法の他に創作魔法を2個まで登録できる。自分で名前を決められて、他人には使えない魔法だ。面白い魔法を思いついたら試して見るといい。イメージしながら詠唱すればスピリットがやってくれるだろう』
マジかよ。自由度高すぎ。
『最後にスキルについてだが、スキルの可能性は無限大だ。今後の経験によってはいくらでも増えるだろう。だが、装備できるのは10個までだ。よく考えて装備するといい』
2人は頷く。
『では説明は以上だ。2人ともジョブを設定するんだ。ジョブはファースト、セカンド、サードと3つまで設定できる。だが、ファーストジョブは一度設定すると変えることは出来ない。セカンド、サードは入れ替え自由だ』
「「分かった」」
シンクロする2人。
ヨシキは格闘家をファーストジョブに設定し、セカンドに商人、サードに村人を設定する。
3つまでってか3つしかねーわ!と心の中で突っ込みながら。
ユウリはファーストに狩人、セカンドに剣士、サードに拳闘士を設定した。
なんていうか、万能じゃん。俺いらないじゃん。ヨシキは思う。
『設定したね。ジョブによってステータスに恩恵があるんだけど、それは外に出てから確認して欲しい。まず、君達を「シカマ国」に送る。手紙に同封した紙幣は持ってきているね?』
2人は持ってきていた紙幣を見せる。
『それだ。それで10万ソル。日本円にして10万円だ。それで装備を整えてくれ。では、健闘を祈るよ』
「なんか、至れり尽くせりで申し訳ないな」
「ホントだね。本当にありがとう」
『気にすることはない。それでは、頑張ってくれ』
デミウルゴスが指を鳴らすと魔法陣のようなものが2人の足元に現れた。
『向こうに着いたら少しサプライズを用意してある。きっと気に入ってくれるだろう。ではまた会おう』
そして、2人はシカマ国に送られた。
『答えを見つけ、会いに来てくれよ。』
2人がいなくなった空間でデミウルゴスは寂しそうに言った。
勢いに乗って連続投稿します。感想お待ちしております。