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1.本日、旅立ちます。

「今なんて?」

ヨシキは混乱していた。ユウリの言ったことが理解出来ず、思わず聞き返す。

「だから!異世界に一緒に行って欲しいの!」

「…………」

ヨシキは顎に手を当てて考える。そして、

「もう酔っ払ったんですね。家まで送って行くんで帰りましょう」

「私酔ってないよ」

真顔でユウリはヨシキを見る。

「だって異世界って…」

「それは話すより見てもらったほうが早いかな」

ユウリがカバンから何かを取り出そうとするのと同時に、郵便受けに何かが入れられる音がした。

「郵便が届いたみたい。見てみたら?」

考え込んでいたヨシキに声をかけるユウリ。混乱したまま取り敢えず立ち上がり、郵便物を取りに行くヨシキ。

郵便受けの中を見ると灰色の封筒が入っていた。『安心院 ヨシキ様へ』とだけ書かれている。

「開けてみて」

ユウリに言われるがまま封を破る。

手紙と謎の紙切れ10枚が入っていた。手紙にはこう書かれている。


招待状


初めまして。安心院 ヨシキ君。私は君の世界で言う所の神だ。正確には創造主。突然で済まないが、君にこちらの世界に来て頂きたい。こちらの世界には魔王という存在が居る。君には魔王を討伐、もしくはその手伝いをして頂きたい。もし来て頂けるのであれば、そこに居るユウリ君と2人で手を繋ぎ、この『招待状』を持ったまま目を閉じ『転移』と念じればいい。それではよろしく頼む。 創造主デミウルゴスより


追伸 こちらの世界に持ち込みたいものは身に付けておいて欲しい。こちらの世界の貨幣を同封しておくのでくれぐれも忘れずに。


「なるほど」

読み終えたヨシキは手紙を置く。

「どこのガキだ。こんなイタズラしたの」

「ヨシキ君、これはイタズラじゃないよ。ほら」

そう言ってユウリはカバンから同じ封筒に入った手紙を見せる。ヨシキ宛の手紙と同じ事が書いてある。1部分を除いて。

「ユウリさんの手紙には転移に俺を誘えと書いてありますね」

「そうなの。私としては嬉しいけどね」

「…………」

余りに非常識な情報が多すぎてヨシキは考えこむ。

ユウリに同じ手紙が来てるならイタズラの線はだいぶ薄くなる。そして同封されている謎の紙切れ。海外の紙幣に似ている気がしないでもない。だがこんなものは見たことない。そもそも異世界だの転移だの非現実的なことばかりだ。魔王の存在ってまるでゲームみたいだし、そしてユウリに俺を誘えという創造主デミウルゴスって奴の思惑も謎だ。知るためには本人に聞くしかないか…。

「おーい!帰って来〜い」

思考に沈んでいるヨシキにユウリが声を掛ける。考えている間ずっと声を掛けていたらしい。

「すいません。考え込んでました」

「何回話しかけても気付かないんだもん」

ユウリが頬を膨らませてプンスカしている。その仕草をかわいいと思ってしまったヨシキ。

「この手紙の内容だと俺はユウリさんと一緒じゃないと転移出来ないみたいですね」

「そうみたいだね」

「ちなみに転移したらこっちの世界では行方不明的な扱いなんですかね」

「それは私も分からない」

ですよね。これも行って見なきゃ分からないか。

「じゃあ、行きましょう!」

「え?ホントに!?」

「勿論です。色々怪しいけど、ユウリさんが転移してしまうと俺はもう行けなくなるみたいですし。」

「それに…知り合いが一緒に行ってくれるなら不安が和らぎそうですしね」

「そうだね。私も好きな人と一緒なら頑張れる気がする」

えぇ〜このタイミングかよ。マジか。これ告白だよね。どうしよう。

「ユウリさん、あの…」

「何?」

「その事なんですけど、ごめんなさい」

意を決して謝るヨシキ。

「え…」

まさかのタイミングで振られたユウリは青ざめ、今にも泣きそうだ。

「いや、ユウリさんは魅力的ですよ?これは俺の個人的な問題です」

泣きそうになっていたユウリはヨシキの言葉を聞き、キョトンとしている。

「俺の父親の事なんですが、酒癖が悪くてよく母親に暴力を振るっていたんです。DVってやつですね。それで、その…」

ヨシキは言い淀む。

「そんな環境で育ってたなんて知らなくて無神経な事しててごめんね」

何故かユウリが謝る。

「ヨシキ君は私が酔ってる姿を父親と重ねてたんだね。ごねんね」

「父親のことは会社の誰にも話した事ないからしょうがないですよ。謝らないで下さい」

「そのことじゃないの」

「え?」

「私が酔っ払っているのは、本当は演技なんだ」

「えぇ!?」

衝撃の告白。告白の瞬間より衝撃だった。

「酒癖が悪い女なんて無理。そう考える男の人は多いでしょ?私はヨシキ君に一途だから…他の人には面倒な女だと思って欲しかったの。なのに、ごめんね」

おおぅ……まだ付き合ってもいないのに一途とか重すぎだろ。だがそれがいい。

「そうだったんですか…」

どう答えるのがベストか考える。そもそも酒癖が悪い事が演技なら、ヨシキにとって障害は何もない。でもあのユウリの姿が目に焼き付いて離れないし、本当に演技していたのか疑問だ。つい先程もひと口でコップ一杯の日本酒飲み干してたし。一升でも足りないとか言ってたし。

「ユウリさん」

ヨシキは結論をユウリに伝える。

「俺もユウリさんのことは好きです。酒癖の件が演技だとしても、ユウリさんの悪酔いした姿が頭から離れない。なので、これからもう少し一緒に過ごして、本当に演技かどうか判断出来たらさっきの告白に返事します。それじゃダメですか?」

さっきまで泣きそうな顔をしていたユウリは安心して笑顔になりながら、今度は嬉し泣きしそうな顔で、

「よろしくお願いします」

と返した。ここだけ見るとプロポーズのシーンのようだ。

「それじゃあ、行きましょうか。異世界に」

「ヨシキ君、その前に」

溢れそうになっていた涙を拭きながら、ユウリは続ける。

「持っていくものを決めないと」

「そういえばそうですね」

ヨシキのアパートには荷物がほとんどない。食料もカップ麺が3個と乾麺が1束。

「食料と水は持って行きたいですね」

「あと着替えも何着か欲しいね」

「俺はすぐ準備できるので終わったらユウリさの家に行きましょう」

「分かった」

ヨシキはカップ麺3個と3着の着替えをリュックに詰める。

「終わりました」

「じゃあ、私の家に行こう」

「あ、ちょっと待ってください」

ヨシキは少しだけ残っていたビールを飲み干す。残りの2本と余った惣菜は一応持っていく。

その間ユウリはどこかに電話していた。電話が終わると一升瓶を抱えた。まったく淀みのない自然な流れで。流石っす姐さん。

「すいません。行きましょう」

「そうだね」

玄関を開けるとタクシーが止まっていた。

まさか。

「さっき呼んでおいたんだ」

「流石っす姐さん!」

声に出てた。

「でしょ?」

ユウリは胸を張っている。やべ、嫁力たけ〜なこの人。

「行きましょう」

「一生ついて行きます!」

冗談めかしてヨシキは言う。満更でもないユウリ。。運転手のおっさんも若人の惚気と勘違いして苦笑い。

2人が乗り込むとタクシーは走り出す。


ー数分後ー


ユウリの家に着き、ユウリは荷物を選ぶために家の中へ。ヨシキはというと、玄関の外にいた。

既にユウリが家に入ってから20分は経過している。

「女が服選びに時間かかるのはなんでなんだ」

思わず独り言。

更に10分後。

「ごめんね、凄く待たせちゃって」

ユウリが勢い良く扉を開けながら出てくる。

「…ひゃい!」

座り込み、壁にもたれ掛かって寝ていたヨシキは驚いて変な声を出す。

「ゴメンね、ホントゴメン」

そんなヨシキを見て更に謝るユウリ。

「大丈夫です。ユウリさんも荷物大丈夫ですか?持ちましょうか?」

ユウリは服を詰め込んだであろうリュックを両肩に1個ずつ2個背負っていた。

「それじゃあリュック1個お願いできる?」

ヨシキは遠慮がちに言ったユウリから無言でリュックを2個とも預かった。

「行きましょう」

男らしいヨシキの行動にキュンキュンが止まらないユウリ。ごちそうさまです。お腹いっぱいです。

ユウリの家から少し離れた公園に移動し、大きめの遊具の影に隠れるように入る。別にいかがわしい事をする為ではない。

「ここなら道路から見えないから大丈夫でしょう」

「それじゃあ準備はいい?」

「OKです」

ヨシキは左手を、ユウリは右手を差し出し、握る。空いた手にそれぞれ招待状を持つ。

「せーの。で念じましょう」

「分かった」

2人は目を閉じる。

「…せーの!」

「「転移!」」

2人が念じると周りの空間が歪み始める。2人は目を閉じているが、船酔いのような感覚を感じていた。

そのまま2人の姿が薄くなっていく。

そして……ヨシキとユウリはこの世界から消失した。


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