一日目
目を覚ましたのは6:29だった。アラームが鳴る一分前だった。少し優越感に浸り、その寝ぼけ眼で時計の隅っこにある日付を確認した。
「―――m…?」
すなわち月曜日。絶望。
いつもどうりに7:45分くらいに教室に入り何かしらの教科書あるいは本はを開き1人だけの世界を造りだした。クラスの奴等が続々と入ってくるにはあと30分はかかる。
僕は毎日のこの時間ほど集中力がわいたものはなかった。
8時くらいになると一人の女子が入ってくる。畠中緋彩だ。
彼女も僕と同じように入ってくるなり何かしらの書物を自席の上に広げた。互いに不干渉を決め込んだ静かな教室に会話が流れることは決してなかった。
彼女がどう思っていたかは知らないけど、僕は案外二人のこの空気を気に入っていたんだ。僕が彼女のことを周りの女の子よりもちょっと可愛いと思っていたのもあるけれど、二人だけに流れる時間、二人だけしか知らない時間…子供っぽいけど僕は秘密というものが大好きだったんだ。
けど今日は違った。彼女は自席に鞄を置くと僕が居るのを確認して僕の席に向かって来たんだ。
「おはよう」
「え?」
彼女は笑顔を向けていたが、僕の意識があまりにもぼうっとしていたのか、はたまた彼女の声があまりにも小さいのかは分からないが彼女の声に上手く反応出来なかった。
「お、おはよう」
彼女は僕の席の前にきて屈み、腕を組んで机の上にちょこんとのせた。
「今日は何の勉強?」
彼女の質問は坦々としていたが透き通っていて綺麗な声だった。僕は恐らく彼女の声を初めて聞いた。
「…今日は英語。畠中は?」
「緋彩でいいよ。いつも朝は二人きりじゃない小野瀬くん」
―――僕のことは名字読みなのね…
「じゃあ緋彩の予定は?」
「うーん…小野瀬くんとお話…かな?」
「なんだよそれ」
とりあえず、なんかいい雰囲気だったんだよね。畠…緋彩がこんなに生き生き話してるのも見たことなかったし。
普段の彼女は一人でいることが多かったし、ましてや男子と会話するなんて無かったんじゃないかな?右記にもあるように彼女本当にしゃべらないんだよね。
彼女とは取り留めのない話を適当に話しただけだったが僕には至極幸福なものだった。彼女は他のクラスメイトが入ってくるなり決まりが悪そうな顔をして自席に戻っていった。
その日僕と彼女の間に会話が流れることはなかった。なんなら彼女の連絡先でも聞き出しておけば良かったなどと寝る前のセットした時計に愚痴をこぼした。