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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

片思い

作者: 浅木 志信

片思い継続中。だけど、気持ちを伝えることはしません。的な感じ、かな?


こんな形の片思いもあるんじゃないと思って書いてみました。思いつきで書いたので、あんまり深くはないです。

 俺、中谷幸助はゲイである。しかし、付き合った人は誰も居ない。

 突然のカミングアウトに驚く方もいるだろう。というか、こいつ何言ってんの?という目で見られることは間違いない。

 だがまあ、事実なので仕方がない。自分が同性愛者であると自覚したのは小学校5年生の時。ちょうど思春期のはじまったころだ。

 まあ、それ以前に女子を好きになったことはある(幼稚園のときとかそれくらい?)がある意味ではそれ以上の感情であっただろう。

 初恋の相手は4つ上の先輩で、きっかけは水泳教室。学区が同じでよく会うことから練習時間以外でも遊んだりしているうちに仲良くなった。

 いつの間にか先輩のことを考えていたり、一緒に居たいと思うようになったり、とにかくそんな考えばかりだった。

 これが恋愛感情ではないかと気が付いた時には、遅かった。まあ、気が付いていたとしても、打ち明けることはなかったと思う。

「俺、彼女ができたんだ」

 俺が中学生になったころの夏。先輩、歩さんのその一言で俺は硬直した。頭が真っ白になるというのはこういう事かと、割とどうでもいいことが頭の片隅にあったが。その時のことはあまり覚えていない。まあ、そのことは今はどうでもいい。

 勘の良い方は分かったのではないだろうか?俺が誰とも付き合ったことがないという理由。

 

 俺は、今のところノーマルの人にしか恋をしていないのだ。


 歩さんとはそれからも普通の友達付き合いが続き、俺も何人かの人に惹かれはしたけれど、その尽くがノーマル、いわゆるノンケというやつであった。

「ノーマルに恋するのはやめとけ。お前も、相手も辛い。ろくなことにはならない」

 歩さんの友達で、俺が同性愛者だと知ってもなお普通でいてくれた人。そして、俺が歩さんに恋していることに気が付いた人からの忠告。

 歩さんはその後結婚し、子供が生まれた。子供の世話には俺もよく借り出されるような、そんな付き合いが続いていた。


「こんばんは。お疲れ様でした、幸助くん」

 歩さんの家に行くと、歩さんの後輩で同僚の向井君に迎えられる。彼は俺の一つ年上だ。温和な表情で、職場の女性曰く「癒し系男子」なのだそうだ。

「こんばんは、向井さん。歩さんは?」

 そう問うと、向井さんは困ったように笑う。

「まあ、見ればわかります」

 向井さんに連れられてリビングに行くと、いつもとは違う光景が目の前にあった。

 いつもなら歩さんが、その友達である直哉さんに叱られているのだが、今回、直哉さんが叱っているのは、歩さんの息子の匠であった。当の歩さんは、ソファの上に倒れている。

「え、ちょ、これどういう状況ですか!?」

「あ、コウちゃん!助けて!」

「幸助、こっちはいいから、歩の方なんとかしとけ」

 助けを求める匠と、そんなことよりもあっちを何とかしろと示す直哉さん。

「とりあえず、何があったんですか?あと匠は正座を崩さない」

 何やら悲痛な声を上げているが、今は無視する。

 向井さんの話では、状況はこうだった。

 俺達4人とも、明日の休みが重なったので久々に飲み会をしようとなったのだが、俺が残業で遅くなるということで先に始める。

 ほぼ最初のほうで、強めのお酒を開けてしまい、それに気が付かずに飲んでしまう。

 歩さんはお酒に強くはないため、すぐに酔っぱらった。

 その状態で匠に絡み、「お父さん、うざい」と言われた。

 直哉さんは、その言葉遣いに対して説教中。←いまここ。

 で、その説教の最中に、「いくら本当のことでも」「うざいとか鬱陶しいとか」など直哉さんが言ったために、歩さんがへこんだらしい。

「説教でとどめさしてどうするんですか……」

 実際、歩さんは酔うと絡んでくる。慣れればそれほどうざくはないのだが、匠の場合はあまりにかまわれ過ぎているからその所為もあるのだろう。

「直哉さんも、説教はほどほどにしてくださいね?匠、宿題は?」

「……まだです」

「なら、お説教が終わったらちゃんとやる事。明日早起きしてやるっていうのは無しだからね。向井さん、こっちはお願いします」

 匠が何やら嘆いているが、無視する。言葉遣いに関しては最近気になっていたのでいい機会だろう。そろそろ反抗期とはいえ、それとこれとは別問題である。

 その場を向井さんにまかせて、歩さんを肩に担ぐ。そのまま部屋につれて行き、ベッドに寝かせる。アルコールにやられただけだろうから、しばらくすれば目を覚ますだろう。

「ん…良子……?」

 歩さんの口から出た名前に、無意識に歯を食いしばる。それは、歩さんの奥さんの名前だ。

 いま、この家に彼女はいない。それは、彼女が買い物に行っているとか、行方不明になったとかいうわけではない。単純な話、離婚したというだけである。

 匠が生まれて2年後くらいに発覚した浮気。そして離婚。その際に、親権争いがあったのだが、親権は歩さんの手に渡った。その理由は知らないし、知る必要もない。

 匠はそのことについては知らない。ただ、母親は小さいころに死んだと思っている。彼が高校を卒業するか、成人した辺りで話すことになるだろう。その役目も俺ではない。

 まあ、そんなこと今はどうでもいい。今重要なのは、俺のこの感情を、態度に出してはいけない。声に出してはいけない。気付かせてはいけない。この3点だ。でも……。

「……良子さんは、もういないんですよ」

 そうぼやくだけは許して下さい。


 歩さんは、裏切られて離婚した今でも、あの人のことが好きなんだろう。こうして酔っぱらった時、よく彼女の名前が出てくる。それを聞くたびに、胸が痛い。

 あれから8年もたってるのに、いまだに彼女を思っている。

 俺のそんな気持ちに気が付かず、眠っている歩さんの頭を軽くなでて、部屋を出る。部屋の前には、直哉さんがいた。

「お前さ、いつまで引きずってんの?」

「匠はどうしたんです?」

「向井に任せてきた。で?」

 せっかく話をそらそうとしたのに、元に戻された。

「……何が言いたいんですか?」

 直哉さんはため息をつくと言った。

「今のあいつはかなり弱ってる。今おまえの気持ちを言えばそれでまるっと解決するだろ」

「できないですよ。そんなの」

 相手が弱っているすきを突かなくては、自分の気持ちを言えず、押し通せないなんて。そんなの、自分が惨めな奴だと自分で言っているようなものではないか。

「だいたい、歩さんはいまだにあの人のことを思ってるんです。俺が入る余地なんてないですよ。だから、今のままでいいです」

 言えば、歩さんを混乱させるだけ。そして、同情で言ってるだけだと思われるだけ。そんなのは嫌だ。俺は、歩さんを困らせたいわけじゃない。

 この気持ちは同情じゃない。俺の方が、あの人よりも先に歩さんを好きだった。俺の方が、歩さんを大事に思っている。俺の方が……。俺だったら……。

 そんなことを言っていたらキリがないし、何よりも、そんな風に思う自分が嫌になる。

「あいつもおまえも、本当に不器用だな」

「大体、匠にはなんて言うんですか?父親が二人になるなんて、簡単には受け入れられないでしょ?」

「この場合、お前が義理の兄になるだけのような気もするが……。まあ、匠だってお前に懐いてるし、何の問題もないと思うけどな」

 あっさりと言ってくれる。俺が、どんな気持ちでいたかを知っているくせに。

「まあ、決めるのはお前だからな。俺があれこれ言うのもおかしいか」

「直哉さん、絶対酔ってますよね?」

 でなければ、こんなこと言いださない。俺に忠告した張本人なんだから。

「さあな。でも、お前ら見てるとなんとなく口出したくなるんだよ」

 そう言って、直哉さんはリビングまで行こうとして、ふと振り返る。

「なあ幸助。報われる保証がなかったら、思いを伝えることは悪いことなのか?」

 疑問の形で言っているのに、俺の答えも聞かずに、直哉さんは今度こそリビングに行ってしまった。リビングでは、匠が宿題をやっている。そのそばで、向井さんがお酒片手に勉強を見ていた。

 俺はキッチンに行って水を持って、また歩さんの部屋に行く。彼はまだ起きていない。


 歩さんは、髪を短く切りそろえており、黙っていればかなり男前である。しかし、口を開けば二枚目というよりは三枚目という印象になる。向井さんの話では、歩さんの親ばかは有名らしく、女性職員には恋愛関係になることはないと言われているそうだ。

「もう8年なんですよ?いい加減、忘れてもいいと思うんですけど」

 そうつい、声に出してしまった。今夜の俺はおかしい。普段なら、絶対に口に出さないのに。

「ん……こうすけ?」

 歩さんが目を覚ましたようだ。だが、まだ酔いが残っているのか、若干舌足らずだ。

「こうすけ、泣いてんの?」

「え?」

「ほら、泣いてる」

 そう言って、俺の頬に触れてくる。どうやら、気が付かないうちに涙が出ていたようだ。

「また、直哉になんか言われたのか?」

「違いますよ、目にゴミが入っただけです」

 よく、直哉さんにからかわれて、そのたびに涙目になっていたことを思い出す。たぶん、その時と重なっているのだろう。

 俺の気持ちは知られたくない。知られたら、絶対に何かが変わってしまうから。だから、俺はいくらでもウソをつく。

「そっか。なんか言われたらちゃんと言えよ?俺がガツン、と言ってやるから」

 そう言って、俺の頭をなでる。

「ちゃんと言いますよ。ほら、水飲んでください」

「ん」

 コップを差し出せば、素直に飲む。そして、俺の方をじっと見た。

「幸助」

 俺の名前を呼んで、手招きをする。

「なんですか?」

 素直に近寄れば、温もりに包まれる。

「まだ酔ってます?」

「んー。なんか、こうした方がいいかなあって」

 俺の頭をなでながらそう言って、彼は笑う。

「幸助は頑張り屋さんだからな。あんまり弱音もはかないし、頼っても来ないし。兄ちゃんはちょっと寂しいな」

「……」

 かれこれ、17年近くの付き合いだ。俺にとっては、兄のようだった。そのせいか、時々兄のように振る舞ったりしていた。その時を思い出す。そして、改めて思い知らされる。この人にとって俺は、弟のような立ち位置でしかないのだと。

「さっさと酔いを…」

覚ましてくれ、と言おうとして、寝息を立てていることに気が付いた。

 ゆっくりと彼の手を放して、寝かせる。そして、布団をかけて部屋を出た。

「まったく、なんでこんな人を好きになったんだか」

 そんな疑問を持つことはあっても、好きにならなければよかったとは思わない。むしろ、好きになってよかったとさえ思う。

 そうやって思うあたり、俺はかなり重傷なのだろう。


 よく、小説や映画の中では、報われない恋が描かれる。その結末は、様々な形があれども、ほとんどがとても綺麗に終わる。けれど、実際はそんなに綺麗なものじゃなく、もっと暗くてドロッとしていて、とても醜いものだ。

 本当は、彼が欲しいのに。彼と一緒に居たいのに。受け入れてもらいたいのに。

 泣きわいてでも、思いを伝えることができたら。何度そう思ったことか。けれど、そのたびに踏みとどまる。そんな情けない自分は嫌だ。

 何を意地になっているのかとも思うけれど、嫌だった。そして、伝えることで今の関係が変わってしまうことも嫌だ。

 この思いを拒否されることはないと思う。けれど、受け入れてもらえるとも思えない。報われる保証がなければ伝えることもできない自分も、変わってしまうことにおびえる自分も、本当に大嫌いだ。

 だからこの気持ちには蓋をして、知らないふりをして。嫌いな自分を見ないようにして。ただの、友達以上家族未満の関係に落ち着いて。そうでもしなければ、きっと動けなくなる。

 こんなことを思うのも、きっと今だけ。明日には切り替えて、いつも通り。それが俺の望んだ結末だから。そんなことを考えながら、酒飲みたちに付き合うためにリビングに向かった。


ほんとは他にも設定を思いつきましたが、収拾がつかなくなりそうなのでカット。

感情の描写って難しい……。

こんな感じにした方が良い。というのがありましたらアドバイスを頂けるとありがたいです。


必要ないかもしれない人物設定

中谷幸助 

主人公。ゲイ。小学生の時に先輩である歩に恋するが、彼が彼女と付き合うことを聞いてあっさり失恋。それでも諦めることができずにいた。一応その後もいろんな人に惹かれはしたが、ほぼ全員がノーマル。そして、惹かれはしても結局は歩のほうが比率が大きくなるので、誰とも付き合ったことがない。

自分に自信がなく、後ろ向きな考えにとらわれることが多い。

背が低く童顔のため、年相応に見られることが少ない。

歩の息子・匠との仲もよく、頼られることが多い。


高橋歩

バツイチ子持ち。幸助の先輩。幸助の気持ちには気が付いていない。しかし、幸助のことは大事に思っている。幸助を弟のように感じているため、幸助の恋が成就することはほぼない。離婚はしたものの、息子のことを考えると、再婚した方がいいのだろうとは思うものの、いまだに前妻を忘れられずにいる。

結構ヘタレ。


高橋匠

 歩の息子。小学校4年生。幸助のことを兄のように思っており、仲がいい。母親のいない理由を知らされていないが、小さいころに死んだのだと思っている。

直哉や向井もおり、にぎやかで楽しいので、特に母親が欲しいとは思っていない。


渡辺直哉

歩の友人。幸助が同性愛者であることを知っているが、恋愛の形はいろいろとあると思っているので、特になんとも思っていない。普段は穏やかだが、怒ると怖く、説教が長い。


向井武人

歩の職場の後輩。温和な表情で女性から好意を寄せられることが多いが、あまり興味はない様子。幸介が歩に対してただならぬ好意を寄せていることには気が付いている。


松永良子

歩の元妻。名前のみの登場。息子が生まれ、それなりの家庭を築いていたが、以前の職場の同僚と浮気してしまい、離婚。現在は派遣社員として働いているらしい。

歩が幸助を大事にしているのを知っており、幸介のことをあまりよく思っていない。

親権を得ようとしたが、生活能力が認められず親権は得られなかった。

裁判の際に接触禁止を言い渡されたため、姿を現すことはない。


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