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僕の色

作者: ナイキ

「人それぞれに色があります。小さな頃は真っ白な画用紙だとして、今の貴方達はたくさんの経験を積んで色を塗っていってるの。だから、いつか死んでしまう時までには沢山の色を塗った画用紙にしましょうね」


小学校低学年の先生が言ってた言葉だ。

あのときの僕は確かに、良い言葉だなんて思ってたなぁ。

いや、本当に。実際、今でも頭に残るくらいには素敵な言葉だと思ってるよ。


けどさ、赤にも青にも黄にもなれるような真っ白な画用紙を持ってる子供が普通だったとするよ。

それじゃあ、もとより画用紙が真っ黒だったら―――


どうしたらいいのかな?


いや、別にどうしようもない話だよ。ここからとびきり面白い話が続くとか言う訳じゃない。

でも、気になったんだよね。あの言葉は【人生=画用紙】に模した話だってのは分かってるし、【赤子=真っ白な画用紙】にしているのも分かる。

けどほら、例えばで話させてもらうけど。性格の歪んだ両親の元に生まれた子供は真っ白なのかな?って思ったわけなんだよね。


遺伝子ってやつは必ず存在すると思う。だからこそこの疑問が生じたわけなんだけど。はてさて、あんな事を言ってくれた先生はその答えを知ってるのだろうか。

知るはず無いだろうな。こんな疑問抱くやつがそんなにいる筈も無いだろう。


まぁいいんだ。答えを探してる訳じゃないからね。まぁ僕が言いたいのはさ


「こんな僕でも綺麗に画用紙(じんせい)を完成させられますか?」

「・・・」


僕の前にしっかりとアイロンを掛けたであろう白衣に身を包んだ爺さんは嫌悪の目を向けてきた。

分かってるよ。それが社会ってやつの反応だろう。


僕は昔から、真っ黒だった。全ての答えって奴を否定してきた。簡単な数式にもいちゃもんをつけてきた。

もっといえば、ひらがなっていうやつは、なぜひらがなって呼ぶのかが未だに不思議であるくらいにはひねくれている。


僕はそっと病室を出た。

医者も看護士も僕の背中を見つめていたに違いない。

だって僕はオカシイから。



「殺していい?」



病室を出た瞬間に聞いた声は、若い女の声だった。明るい雰囲気を纏った少女の声だった。が、それとは相反するような質問を僕めがけて飛ばしてきやがった。

なんで、僕に聞いたかわかるのかって?だってこいつ、隣で輝いた目で僕を見てるんだもん。


「あ?だれ、おまえ」

「いやいや、質問に答えてよ!殺していい?」


たしかに、この病院は12才未満専用のいわゆる、【オカシイ子】のための場所だけどさ。こいつは、オカシイどころじゃない。


「ダメだよ。殺したりするのは悪いことなんだよ」


なんとなく、そんな言葉が口から出てしまった。心にも思ってないのになぁ。


「え、なんで?」


衝撃的だった。どのくらい衝撃的だったかというと、若くしての余命宣告の数倍くらい。


――――お前は僕かよ


それが常識だとこの世界では決まってるんだ。この世界では多数決で決まってるんだ。良し悪しってのは人が決めるんだ。

だから、自身の尊重なんて無いし、発言権も無いんだよ。

悪いことってやつは決めつけられてるから悪いんだよ。


って言ってあげたい。

けど、僕はそれは認めない。良し悪しは自分が決めるもんじゃない。世界が決めるもんでもない。

良し悪しなんてこの世には無いんだよ。

きっとそうだ。って思ってるから衝撃的だった。

こんな当たり前のような疑問を僕に問いかけてくるこいつに。


「どーしたの、喋ってよ。あ、やっぱいいや。殺したいから頷くだけでいいよ」

「いや、お前さ。頭オカシイだろ?」

「当たり前じゃん。それが普通でしょ」


身震いしたよ。あぁ、こいつは僕よりとんでもない異端者だ。特別が普通って言うやつは危ない奴だよ。


「ほら、なにしてんの?殺すからお外に出なきゃ」


殺すからお外に出なきゃってお前。あぁ、良かった。僕以上にとんでもない人間がまだいるんだなぁ。上には上がいる。いや、この場合、下には下がいるかな。

どうしよう。逃げたいけど、それはそれで面倒なことになりそうだなぁ。


「あら?もしかして、死んでる?ダメだよー。生き返ってよー」

「いや、生きてるよ。で、どうやったら見逃してもらえる?」

「見逃す?え、見逃してほしいの?君、オカシイね」


この女にだけは言われたくない。きっと、この子の常識ってやつは世界の非常識に繋がってるんだ。そうにちがいない。


「ねえ、チューしていい?」

「!?」


いや、飛躍しすぎだろ。いや、飛躍とかじゃなくてイカれすぎだろ。こんな僕だって、世界の常識になるべく沿って生きてるのにさ。こいつ、なに考えてんだ?


気になった。別に意味なんてないけど、気になったんだ。


「えへへ」


もしかすると、こいつは【画用紙を破り捨てた】人間なんじゃないだろうか。人生ってやつを木っ端にした奴なんじゃないのだろうか。

そんな事を考えていると割りと調った顔のこいつは僕の頬にキスをした。


「・・・なにやってんだおまえ」

「え、チューだよ。君のこと殺したいからチューしたの」

「分かったから。どっかいってくれないかな?」

「なんで?」

「いや、なんでじゃなくてさ。僕は今から自分の部屋に戻るんだ」

「戻ってもいいよ。でもここから動いたら殺す」


泣きそうになってきた。


「ほら、殺されるか殺されるかどっちかにしてよ。私、時間ないからさ」

「・・・僕がお前を殺してやるよ」


その言葉は正解だったのかは知らないが、眩しくて醜い笑顔をぶちまけた。

恐れてしまった。なんだ、僕はもしかすると普通なんじゃないだろうか。だって怖いでしょこんなの。あー止めた止めた。

こんなひねくれて生きるのはやめて普通になろう。


「私ね、一目惚れしちゃったの!私より気持ちの悪い雰囲気を纏った人初めてみちゃったからさ!だから、殺したいな!」

「あ?」

「喜んでるの?」

「もういいから止めてくれ。お前に用なんてないから」


鈍痛ってやつだ。地味に温かい痛みを右足の太股から感じた。

裁ち鋏が思いきり捩じ込まれていた。


「痛ぇ」

「なんで?」


震えは止まった。この痛みで僕はたぶん真人間に戻れたな。良かった良かった。この病院を直ぐに去ろう。早く帰って皆と普通に楽しく遊ぼう。


「大丈夫?」


その一言は、僕の体を完全に停止させた。

金縛りににも似て、動かそうとしても全身の一部すら動かない。


「怪我してるよ?待ってね治療してあげるから」


またも、鈍痛。眉間にまち針を刺された。


「えへへ。治ったらいいなぁ」


喋らないでくれおかしくなってしまう。

お前と話していると壊れていく。

もう――――嫌だ。


サクッ。


脳に直接聞かされたかのようなそんな音を最後に僕の意識は無くなった。


◯月△日

彼女は笑顔で僕の体に針を指し続けている。看護士が消えたと思えばこの少女は僕の体に傷をつけていた。

心地よく感じてきたのはこの少女にであってから一週間後だった。

彼女の愛情に似た殺意はとても心地がよかった。


僕はオカシイ。生まれたことが間違えなのかもしれない。


「今日はたくさん遊んだねぇ。はやく殺したいなぁ。壊したいなぁ。あぁ、こんなに殺したいのに殺せないなんてやだよぉ」

「・・・」


唇を縫われているため、喋ることは叶わない。

僕の画用紙は今何色なんだろう。

真っ黒なままなんだろうか。

それとも、真っ赤に染まってるのだろうか。


「ねえ、明日殺すから」


何も思わない。もういいかなって。

無駄に生きてきたから今殺されても悔いはない。

逆に楽しみだよ。死んだら僕は意識を保てるのかな?僕ってやつはなんなのかくらい知れるだろうか。




翌日。

彼女は病院に顔を出すことは無かった。翌々日もだ。

なんとなく、不安に思った僕は彼女の病院へと向かった。

いや、本当は全然知らないから探し回った。


彼女は机に向かってなにか呟いていた。


「あー、死にたいなぁ」


初めて、彼女の言葉を理解できた気がした。

嬉しいかって言われるとそうでもないんだけど。

こんなオカシイやつでも鬱になることはあるんだなぁって思っただけ。


まぁだからさ。


殺してやった。

首を思いきり180度ねじ曲げて殺してやったんだ。

あー、殺したい。

映ってしまったのだろうか。

お腹すいた。

人を殴りたい。

映画をみたい。

幸せになって、人を殺してみたい。

失明してみたい。

リンゴを投げつけたい。


「あーーーー」


普通だよこれは。色々と普通なんだ。特別な感情は持ち合わせていたよ。可愛かったし、何だかんだ退屈じゃなかった。けど、殺した。


僕はオカシイのかなぁ。

別にオカシイ分けないと思うんだけど。


――――ま、いいや。死のう。


そこで僕の意識は完全に消えた。







死ねなかった。なんでだろうか。僕は今18才になる。

あのオカシイ女の子を殺して、今刑務所にいる。

別に構わない。あのときから何も成長していない。

僕はやっぱりオカシイんだ。


「8番。あんたに手紙だ」

「あー?」


監視のおじさんに手紙をそっと手渡された。

「なにこれ」


興味なんてなかったけど、暇潰しに見てみる。


「君の、画用紙は私が、破い、てあげたから、ねだ。から。泣かない。で」


無駄に独点の多い手紙だなぁ。なんて思いながらも意味はしっかりと理解していた。


彼女からの手紙だと直ぐに気がついた。僕が殺す前に書いた手紙だだろう。日付が書いてある。


ふと、顔もとに違和感を感じ触れてみると、滴が。


「泣いてる?」


初めて泣いてしまったような気がした。

なんだよ、なんだよそれ。僕がいつ画用紙の話をしたって言うんだよ。お前が、僕の何を知ってるんだよ。死んでも僕に構うのかふざけてんじゃねえよ。


「面会の時間だ」

「なんだって?」

「立て、行くぞ」


無理矢理連れ込まれた面会室。

目の前には見知らぬ同い年くらいの女の子。

僕を見た瞬間に笑顔をこぼした。


「大丈夫。君は画用紙に色を塗らなくて良いんだ」

「・・・まさか」

「久しぶりだね」

「僕が殺した筈だろ?」

「生きてたんだなぁこれが。はは。残念だったね」


直ぐに違和感を感じた。

なぜ、話せている?いや、言葉通りの意味ではなく。なぜ会話ができている?

この女は会話なんて出来てなかったじゃないか。

「泣かないで、君は一人じゃないよ」

「・・・」


もう一度涙を流した。僕の破けた画用紙はきっと元にもどってたんだろう。直ぐにわかった。真っ白にされたのを僕は感じた。


「気分はどう?」

「そっか、僕は。いや、君は」


全てを思い出した。僕は生まれた頃から真っ黒なんかじゃなかった。とても純粋だった。パパとママと一緒に幸せな生活を過ごしていた。けど、


「死んだんだったね」

「そうだよ。君の家族は死んじゃったんだ」

「・・・そして、」


――――気が付けば僕は見覚えのある病室で突っ立っていた。


――――目の前にはパパとママが悲しそうに誰かに抱きついていた。


――――そっか、僕はもう死んでたんだね


――――彼女は僕だったのか。


――――そっか。良かった。僕に画用紙なんて





――――無かったんだ




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