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恋・愛・時・間

恋愛というのは時間がかかる。

恋愛が始まるのも、終わらせるのも。

忘れようと思っても簡単に忘れられるものではない。


私は歩きながら、そう思った。


一年は短く感じ、好きな人を待つときは長くも短くも感じ。

そして聞きたくない答えを待つときは短く感じる。


かの今の私はというと、その聞きたくない答えを聞いて歩き始めたばかりだ。

これからそれを忘れて歩き出さなくてはならない。

私は足を止めた。

次の始まりに時間がかかって当然だ。

今、ここで止めてもそれほど変わりはない。


空を見上げる。冬の夕方雲の彼方の向こうには夕日がうっすらと見えた。

こみ上げるような想いが浮かんだが強い冷たい風がそれを冷やした。

夕日が美しかったのが幸いだったかもしれない。


クリスマスイブ前日の日か…。

百貨店周辺はイルミネーションが綺麗だ。大勢の人が店を出入りしている。

幸せそうに見える。一見。彼らも大なり小なり悩みはあるだろう。

もしかしたら深刻かもしれない。それをひとときのイベントでごまかしているのかもしれないし、純粋に楽しんでいるのかもしれない。


私はとくに買いたいものも無かったが百貨店に入った。

音楽はお決まりのクリスマスソング。

入ってすぐに思った。

こんな場所に来るべきではなかった。私は入るのをやめて入口に行こうとした。


ドン、カシャンという音がして何かが落ちたようだ。

音は小さかったが、私が急に方向を変えたためだろう。

振り向くと綺麗にラッピングしたプレゼントが下に落ち床の上でどうやら割れているみたいだ。


咄嗟に


「スミマセン。弁償します。」


と項垂れた。謝るしかない。ひたすら。弁償もしなければ。

後ろにいる人物を見た。年齢は30代前半くらいの男性だった。

恋人のプレゼントだっただろう。


男性は一瞬落胆した顔をしたが、微笑して


「いいですよ。」


と言った。


イヤでも、それは対面的。怒って当たり前だ。

「本当に申し訳ありません。おいくらの品ですか?よろしければお金だけでも。」


イヤな言葉だ。まさか自分がこういうことを言うとは思いもしなかった。

しかし、世の中謝罪には金銭が一番だろう。離婚ですら金で片付く。


「いいんです。」


男性はそのプレゼントの箱を持ち上げると私に軽く会釈して百貨店を出ようとした。


「待って。」


私は気づくとその男性を追いかけていた。


男性は苦笑した。


「もう、本当にいいんです。買わなくてよかったものなんです。お金のことなら気にしないで。」


買わなくても良かったものって?

男性の顔を見た。口元は笑ってはいたが、目は哀しそうだった。


この人も傷ついている。


ここから先は聞くべきことではないと思った。私ができることはすぐその場から離れることぐらいだろう。詮索はするべきではない。


「わかりました。とにかく申し訳ありませんでした。あと、引き留めてスミマセン。」


私はペコリと頭を下げた。男性は軽く会釈をして足早に百貨店から出た。

あの人はこれからどこへ行くのだろうか?


私はこれから帰る気もおきなくて百貨店をすこしブラついてみることにした。

食器類を売っているコーナーに来た。

マグカップの売り場で足がすくんだ。


あのカップ見たことがあった。めまいがした。

お揃いの色違い。仲良く並んでおいてあったというのに。

些細なことで喧嘩をして思わず割った。


それからどんどん冷えて行った。


あのカップだ。もう一度あのセットを買って使ってみることで元に戻せるのか?

答えはNOだろう。


私がずっとこのカップを見ているので店員が来た。

ペラペラと愛想よく商品の説明をしている。

私は割れていなかった方のカップを思い出した。


自分のカップは割らなかったんだ。そうか、わかった。

あの男性は割った物を買ったのかもしれない。それをもとに戻すことで修復ができるかもしらないと思ったのかもしれない。

いや、多分違う。人のことを勘ぐってはいけない。

あの人はあの人のなんらかの問題があったのだ。


私は私の問題に集中すればいい。誰も私の代わりに問題を解いてはくれないのだし。


私は割っていない方のカップを購入することにした。

ギフト包装もしてもらった。


贈るはずのないプレゼントか。

こんなギフト包装してもらわなくても良かった。


家に帰った。もうすぐあの時間が来る。

あの日、あの時間にもとに戻ることができればいいのに。

いや、いづれにせよそれが運命だったのだ。

せめてあの時間の前に今何かを起こせば変わるのだろうか?

あの時間。

まさかね。そんなに単純なものではない。

私は首を振った。

いいんだ。それでも、始まるどころか、

終わってすらないんだから!


私はプレゼントの箱を床に叩き付けた。


『カッシャーン』


音が響いた。ドンと私は戸棚にもたれかかった。フラフラする。

時計を見た。あの時間よりも少し早かった。

私は笑った。

時計はグラグラと揺れ、床に落ちた。


『ゴトッ カッシーン』


壊すつもりもなかったものが壊れ、私は床に座りこんだ。


こんなことして何になるんだろう。

バカだ。壊れた時計を見つめた。止まっている。壊れたんだから。

ポトポトと涙が落ちた。

しばらく立ち直れないな、これは。


『カッシッ』


と音がした。時計の長針が動いた。

針は9を差した。


21:45


動いた。

多分、衝撃で動いたんだろう。

でもあのとき、止まった時間はまた動きだしたんだ。

 

終わったんだよ。


また今日から始めるんだ。


とりあえず、今日、時計を買いに行こう。


久しぶりの投稿。

気軽にお読みください。

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