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ちょとつ!@異世界にて  作者: 月蝕いくり
第七章~不意打ちシューティング~
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第12話 ジャズに向けて

 緊急議会の開幕は、決定と同時に連邦国内に知れ渡った。

 議題内容は伏せられたが、既に話の種は巻かれた後だ。

 フェイル州に対する何らかの制裁についてだろうと推測している者は多い。

 現在連邦国としての体面があるのは、王国側からの歩み寄りが大きい。

 感謝する者は少ないが、だからと言って再び争いたいわけではない。


「さて、一通り盤面は整いましたわ。出立に関してですが、バトイディアの現在地からステラムへ向かうには少々日数がかかります。」


 バシリス嬢の誇る庭園型工房。

 お嬢様率いる面々と、各護衛リーダーが集まっていた。

 浮遊するマギク州の州都は相変わらず、人里離れた場所を飛んでいる。

 物資運搬用の飛行船で向かうには数日かかるだろう。

 開催日は各州の状況も加味されているため、そこに問題はない。


「ですが、わたくしの改良を重ねた私用艇を使いますので、想定される半分の時間で到着致しますわ。」


 バシリス嬢がむふーっと得意げに胸を張ってみせる。

 試運転初日に襲撃を受けた私用艇は、ようやく整備が終わった所だ。

 お嬢様からあれこれ伝えられた技術を利用して大改修、相当な自信作。

 早く他の州へお披露目したいらしい。


「つまり今回は、最後の打ち合わせです。」


 本体の内部は大掛かりに弄れないため、外部に補助設備が増設された。

 おかげで場所に適した出力の微調整という融通が効く。

 念の為火砲も増設されているが、こちらは必要最低限。

 移動としての船は、道中の魔獣を払う程度でいいというのがバシリス嬢の美学だ。

 速度が増せば、そもそも獲物として追いかけられることも少なくなる。


「ギア比が代わりましたが、これも外部に接続歯を加えたことで問題はありません。さらに圧力の伝達経路の最適化と複数炉の連結から直列、並列への任意駆動と同期させたバルブ操作、物理的な稼働は内部レールに魔法刻印を追加することで――。」


「おい誰かこのお嬢様止めろ、脱線どころか暴走してんぞ。」


 早馬作成の際散々振り回されたため、フォクシ嬢の扱いはぞんざいだ。

 自身の報酬だったので大人しく付き合っていたが、今回は関係ない。

 加えて今回はフォクシ嬢の指摘は至極まっとうだ。

 分別無く語り続けるほどバシリス嬢は子供ではなかった。


「失礼。言いたかったことは、定員は増えていないことですの。護衛の皆様には先んじて、侍女達と共に別の船でステラムへ向かっていただきます。わたくし達はそれから二日ほど遅れて到着の予定ですわ。」


 今回の目的は違法技術の撲滅、及びフェイル州への仕返しだ。

 時間の許す限り準備はしておきたい。

 件の私用艇は詰めに詰めて乗り込んでも十二人まで。

 うち七名はバシリス嬢、モルドモ氏、船員達なので実質残り五人だ。

 議会の切り札であるお嬢様、離れるわけがない相方、バレッタ氏で残り二人。


「いやー、しっかしお貴族様とは。綺麗な上にズレてるのも納得だわー。」


「あまり茶化すなフィア。オレも含めて枠外(・・)だと思い知らされただろう。」


「そうそう、おいらは一蹴されて……思い出したら凹むわ!」


 既にお嬢様の身分と、議会における役割について彼らに伝えた後だ。

 秘密にすること含めて即座に把握してくれたが、時折話の種になる。

 最もそれは自身らに対する戒めという意味が強い。


「ええと、その節はすみませんでした?」


「あ、エルシィ様……さんが謝ることではないんです。貴族は護衛を雇う側、守られる立場と視野が狭まっていたボクらが悪いので。」


 爵位は得たが最低位。

 同僚には今まで通り冒険者としての扱いをお願いしてある。

 彼らにとって身分の高いものは金払いの良い客なのだ。

 嗜む程度ならまだしも、六ツ葉に食らいつける腕前があるはずない。

 そういう常識に縛られすぎていた。


「いや、エルシィは例外だからな? 普通こんな貴族と出会わねーから。」


「……えへ。」


 姉弟子の指摘は笑って誤魔化した。

 いくら事前に聞いていたとは言え、姿を見れば力量を疑ってしまう。

 お嬢様の見た目だけは、荒事には向かないような華奢な少女なのだ。

 力量を知っていても、笑み一つでベルドラド氏の頬を染めさせる。


「初日に威嚇しておいて正解だったかな。」


 自らの目を開くのは良いが、大切な恋人(ゆうしゃ)に見惚れられては困る。

 声が、容姿が、存在と体内魔力が、意識を惹きつけるのだ。

 本人が恋人(まおう)一筋であろうと、不快なことに変わりはない。

 しっかり指を絡めて繋ぐことで、互いの関係を周知させる。

 その影響でお嬢様がぽわぽわしているが、そこは諦めてもらおう。


「ところで、我らが技術の王女殿。金の君たちを乗せるとなると、あとは雪狐殿とゼルドが同乗すると見て良いのかな。」


「うっわ、背中が薄ら寒くなったわ。」


「わたくしの呼び名が一貫しませんわね!? ……こほん、同乗者はその通りです。まだまだ話を詰める必要がありますもの。」


 ラヴィテス氏に対する二名の評価は散々である。

 当人はその反応を見て気を悪くするわけでなく、非常に楽しそうだ。

 的確にリアクションを引き出すのは六ツ葉の観察眼ならではか。

 ともあれ手綱を緩めたが、フォクシ嬢はゼルド氏の側に居なくてはならない。

 手綱使いの意味でもズレた常識修正の意味でも、常識枠の二人は必要だ。


「当然フェイル州が素直に実験内容を認めることはないでしょう。自らの州民へ更に不信感を抱かせるだけですわ。」


 他国ながら平然と人体実験を行っていた。

 その矛先が自分たちに向かないと言い切るだけの信頼はない。

 フェイル州の開発する技術は大半が連邦国でも却下されている。

 世界に多大な負債を負わせるか、開発に様々な犠牲が伴うものばかり。

 効率だけで言えば確かに高いが、それは世界の命を削るためだ。

 墓荒らしが資金を提供していたらしいが、それもそろそろ限界だ。


「提出された論文を見せて頂きましたけれど、技術体系は戦時の発展を目的としたものでした。」


 いつぞや試作艇の襲撃時に使われた物品。

 それらは証拠品として保管されている。

 確認しようと思ったのは、レオン嬢から墓荒らしとの書簡を受け取ったからだ。

 関わりだした時期は曖昧だが、墓荒らしの痕跡があるかもしれない。


「やだねぇ、もう戦争は終わってんのに。大体真っ先にテーブルについた州っしょ。」


 結論から言えば、関連性は見いだせなかった。

 徹頭徹尾、提出される技術は大規模な戦闘を想定したもの。

 連邦国が形になった頃から、論文の連続性に不自然な点はなかった。

 当時から墓荒らしが暗躍していたのなら、とっくにお母様が察知している。


「フェイル州も気になりますけど、それ以上に危険なのが墓荒らし(グレイヴン)という組織です。作られたばかりでしたら、裏の世界で名を広める絶好の集まりになりますよね。」


「だから、あたし達が二日でそれを調べる。」


「ひょえっ!?」


 突然話に割り込んできたミリィ嬢にベルドラド氏が悲鳴を上げた。

 先んじて護衛の一部を送り出す理由のもう一つ。

 おそらくフェイル州と結びつきのある連邦国側の墓荒らし。

 その足取りと仕込みを調べてもらうためだ。

 お嬢様のパーティーから離れるが、彼女なりにわけがある。


「あちらで姉御と合流する。追加情報を送る余裕は無い。現地で渡すから対応して。」


「疑わしい所を絞り込んでいただければ、殴り込みに行きますね!」


 お嬢様がぐ、と空いている手が握りこぶしを作った。

 そんな事をすれば真相も正体も闇の中へ隠れてしまう。

 引きずり出すところまで行かずとも、足取りくらいは掴んでおきたい。


「エル、少し落ち着こうか。」


 当然相方から待てがかかる。

 握っていた手を包むように持ち替えて、頭も撫でる二段構え。

 拳から力が抜けるのに秒も必要なかった。


「はい。その代わり、もう少し寄ってください。」


 ぶつかって叩きのめせるなら、とっくに王国の問題は終わっている。

 解っているのか居ないのか、ぽわぽわモードのお嬢様は甘え始めた。

 肉体的な成長を強いられたが、精神面の変化は思ったほどないようだ。


「……鼻が曲がる。」


「このような有様ですので、皆様には先んじて向かっていただく必要がありますの。」


 ミリィ嬢は露骨に嫌な顔をし、バシリス嬢は微妙な表情を浮かべた。

 自分以外の異性を寄せ付けたくない魔王の過保護。

 相方の仮婚約話を聞かされてから始まったお嬢様の甘え癖。

 両方が合わさることによって仲睦まじすぎる二人の出来上がりだ。


「ああー……。」


 誰ともなく納得の息が漏れた。

 きちんとスイッチを入れる時は入れるので分別がなくなったわけではない。

 軽いミーティング程度ならば何の支障もなく行える。

 だが、ことはミーティングで終わるほど軽くはないのだ。

 それなら無理やりスイッチを入れるため、さっさと動いた方がいい。

 これが二手に分かれる最大の理由なのだ。


 * * *


 フェイル州州都、ゼーレヴァは議会への対応に追われていた。

 他の州ならともかく、マギク州から発案された緊急議会なのだ。

 まず確実に例の実験に関してだろうが、それ以外にも思い当たる節が多い。

 特許の無断使用。

 非合法な組織との癒着。

 認可されなかった技術の横流しによる財源の確保。

 他州の実験に対する武力的な妨害行為。

 余罪はいくらでも出てくる。


「戦時といい、王国は厄の種しかないのか!」


 同じ連邦国でも、州によって統治体制は変わる。

 会議に参加する面々はマギク州とは全く違った。

 州長の他に運営のため細分化された各省の長。

 あとは議事録を作成する秘書の女性と、護衛冒険者のまとめ役が着いている。

 真っ先に喚いたのは技術省を取りまとめている長だ。

 若年ながら頭角を現し、実力でその地位を得た能力は確かなもの。

 ただし、それは専門分野に関してだ。


「綺麗事ばかり並べて、結局連邦国から真銀(ミスリル)を奪うばかり! 提供される刻印は研究の役に立たない!」


 戦時はどれだけ技術の粋を集めても一蹴された。

 だからこそ相手の技術を奪うため、真っ先に和平の席へついた歴史を持つ。

 真銀を提供し、交換条件として蒸気技術を超えるための刻印技術を学ぶ。

 だと言うのに提供される刻印は日常品や、蒸気技術を補佐する程度のもの。

 潤うのは民ばかりで、彼らが求めた武器は与えられなかった。


「マギク州も、何が世界への負債だ! 犠牲なくして技術の進歩は有りえない!」


「この場で喚いても仕方あるまい。もはや州民の目も無視できん。」


 激高する若人をなだめるように声をかけたのは財務省。

 彼は趣味も相まり、よく市場へ足を運ぶ。

 町中を歩いていると州長や、技術の方向性に関する不満の声が耳に入る。

 最近では面白おかしく書いた新聞を見る度に破り捨てたくなる。

 不毛の地で人々を生かすため、身を粉にして働いている自負があった。

 強力な力は必要不可欠だが、州民からそっぽを向かれてはそれも使えない。


「大体、その王国の土地を買収して使っていただろう。」


「今回の騒ぎは研究省の責任だと? ならば噂通りに振る舞えば良かったのか!」


「誰もそこまでは言っておらんわ!」


「法務省から問いたい。周りの州からも度々苦情が入っている、研究省は情報省との連携を何だと思っているのか。」


 各部門へ責任を問う声が出始めれば、あとはなし崩しだ。

 普段から顔を合わせることが少ない各省へ向けての不満が噴出する。

 彼らは本来、決して無能ではない。

 だが、他の意見を聞き、足並みを揃えることに長けていなかった。


「法務省が言えたことか! 民間の情報規制すらできていない!」


「法務には防衛省からも言いたい。どれだけ素性の知れぬ者を引き入れた。州内の犯罪率が――。」


「防衛の、法務を責めるが交通省から言いたい。貴公らの発案で橋を落とし、各州から交通、交易が滞った件に批判が集まったことは忘れぬよう――。」


「……州長、お声を。」


 議会対策のために州内の代表を集めた会議がこのザマだ。

 最終的に側付きの秘書がことの集収を促した。

 州長は薄くなった頭に青筋を立て、無理やり抑えるべく深呼吸を一つ。

 同じようにわめき散らしたところで自体は収まらない。


「貴様ら、頭を冷やせ。このままろくに話も進まずステラムへ向かえば、良くて州の取り潰し、悪ければ全員が処刑台だ。」


 状況的には後者となる可能性が非常に高い。

 今の所王国は静かにしているが、再び戦争となれば結果は過去と同じ道。

 何せ戦争技術全般はあの頃からほとんど進歩していないのだ。

 連邦国という体は州同士、相互利益があるからこそ成り立っている。

 王国との戦争回避のため、間違いなくフェイル州は切り捨てられるだろう。


「勇者兵――、だったかな。それが多少でも居れば、いい披露場面になったんだろうなあ。」


 州長の護衛をしている冒険者が口を挟む。

 全員の視線が刃のように、禁句を零した冒険者に突き刺さった。

 世界からのバックアップを受けた存在、それは世界と共存を意味する。

 たとえ非情なものであろうと、方法さえ確立できれば問題ない。

 犠牲となる人数、状況が定まれば、生贄に犯罪者でも使えばいい。

 だが、それが認められるのならこんな会議はしていない。


「おっと、これは失礼。お偉方の話に五ツ葉程度が話を挟むものではなかったかな。」


「いいえ、ルカン様。この場は皆の意見を伺う場。お館様があなたをこの場に置いたのはそのためです。」


 集まった視線に悪びれる様子も無く謝罪する冒険者。

 その謝罪を、議事録を作成する秘書が即時否定した。

 各都市、国をまたぐ冒険者としての意見は、まれに状況打破の一手を生む。

 たとえ態度が目に余るものでも、縋れるなら何だって掴みたい状況だ。


「……新聞ではさぞ面白おかしく捏造(・・)されていたことだろうな、冒険者。だが我々が王国で行っていたのは相互利益による土壌改善(・・・・)だ。」


 激高していた研究省の声のトーンが落ちた。

 余談ではあるが、秘書は凛と静かな風貌をしている。

 自らの手腕で州長の片腕に上り詰めた経歴から、仕事の腕も申し分ない。

 平時は裏方で各省の干渉役に回っており、助けられた者は数しれず。

 そんな彼女に憧れる者はかなり多い。

 この場にもその面々は居るが、中でも研究省は解りやすかった。


「くく、俺としたことが、大衆の与太話に踊らされてしまった。バレーナ、折角庇ったのに無駄だったな。」


「これが私の仕事ですから。」


 突き刺すような視線を気にした様子はない。

 逆に秘書(あこがれ)の名を呼び捨て挑発する。

 視線の棘は増したが、この件で声を荒げることはなかった。


「……オロス州の筆頭冒険者が踊らされるのならば、国の外まで醜聞は広まっていることだろうよ。」


 フェイル州が旧ベーラ領で行っていたことは、もはや公然の秘密だ。

 王国側の新聞を購読していれば、照らし合わせて答えにたどり着く。

 だからこそ、フェイル州は決して認めてはならなかった。

 自ら断頭台の下へ首を差し出す趣味など誰も持ち合わせていない。


「問題となるのが、その()情報なのですよ。」


 情報省を担う女官が頭を抱えた。

 複数の州からなる連邦国では、動向を探るため間者を潜り込ませる。

 その筋からもたらされた情報は、今や都合の悪いものばかり。

 ボルカン州付近から広がりだした噂は、既に連邦国全土へ広がっていた。


「法務省は何度も差し止めを命じた。処罰も込でだ。だが規制すればするほど奴らは喜んで書き立てる。」


 確たる証拠もない上に、情報提供者の正体は不明。

 最初こそ気に留められなかったが、連日報じられれば民衆の意識は誘導される。

 そこへ来て話題に上がっていた王国領土の取り潰し、新領主の受勲。

 領地に付随したフェイル州の関与は何度も何度も引用された。


「ええ。その結果、我が州のみならず、それが連邦国内の真実となっています。」


「……そもそも王国側から提案してきたことだと言うのに。書面を残さなかったのはこのためか。」


 州長が大きく息を吐いた。

 お互いことを明るみに出すわけにはいかなかった。

 そのため最初期の書簡はお互い処分することが契約内容だった。

 研究レポートを漁れば、ある程度の関わりは見つかるだろう。

 だが、領主の印も捺されていないものが証拠になるはずがない。


「下手に我々の工房を荒らされてはかなわない。いっそ書類を捏造して……。」


「たわけ、仕込むには時間がなさすぎるわ。現地の協力者(・・・)が保護できれば良かったものを。」


 辛うじて成功した唯一の人工勇者。

 その性能を試す最中、組み込んでおいたはずの枷が焼き切れた。

 勇者のデータが存在していなかったため、世界の影響力を見誤ったのだ。

 反射的に研究省の男が腰を浮かせた。


「我々に責任を問うのか! そもそもあの時はデータが足りなかった! 法務省から受け取った術具が弱すぎたのだと……元を辿れば、あれも王国の技術か。くそ!」


 忌々しげに舌打ちし、どかりと座り直した。

 元々は囚人を大人しくさせるための術式の一つ。

 それを裏組織のイベイジが世界への影響を気にせず改良したものだ。

 一度人に対して使ってしまえば、被験者の自意識など消えるほどのものだった。


「州長、話が進んでおりません。」


「それでは少しいいかな、州長どの。」


「……何か妙案でも浮かんだのか。」


 秘書が州長へ進行を促す声をかけると同時、冒険者が挙手してみせた。

 これまで勝手に話をするような相手だったため、一瞬間ができる。

 たかが冒険者に言葉を遮られた州長が不機嫌そうに鼻を鳴らし、先を促す。


「土壌改善の基本的な条件は判明しているのだろう? それなら議会都市で実演(・・)してみせれば良い。納得してくれることだろうよ。」


 さも妙案のように楽しげに口にしたのは、一同をして絶句せしめた。

 議会が開かれるとあれば、各州の州長はじめとしてその護衛達や従者が集まる。

 商機とみて行商人たちも集まってくるだろう。

 そもそも首都にあたるステラムは上層部のみならず、下層部のスラムにも人が多い。

 理論の上だけで語るならば数人は作れる(・・・)土台ができている。


「……お前を雇ったのは間違いだったようだ。情報省を通じて抗議させてもらう。」


 ことを起こせば周辺の州が黙っていない。

 連邦国全土と不毛な州が戦ったところで、結果は火を見るより明らかだ。

 落ち目の州で護衛依頼を受けるような冒険者は少ない。

 そのため裏の世界から紹介して貰ったのだが、狂犬を依頼した覚えはない。

 幸いにも、会議はまだ表面を撫でた程度。

 州長はこれ以上情報を聞かせることは不利益になると判断した。


「護衛の任を解く、叩き出せ。だが議会が終わるまで決して州都からは出すな。」


「今更禁忌の一つや二つ、大したことはないだろう? ……解った解った、そう睨まないでくれ。俺だって命は惜しい、誓ってこれ以上口を挟まない。」


 近づいてくる衛兵に両手を上げ、降参の姿勢を見せる。

 彼は人の枠を超えた六ツ葉ではない。

 何より裏組織に口添えしてもらった身だ。

 抵抗することの意味は弁えている。


「期待していたんだが、ここは駄目だな。まだ勝頭巾や小万能の方が楽しめる。」


 あの様子では奇跡でも起きない限り打開策は見つかるまい。

 最も、奇跡が起こったところでもはや手遅れだ。

 身の危険も気にせず、ルカン氏は楽しそうに唇を歪めた。

お読みいただきありがとうございます!

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