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ちょとつ!@異世界にて  作者: 月蝕いくり
第六章~存在既知のケーフェイ~
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第13話 各々のエチュード3

2021/10/17追加

 時刻は昼時。

 お嬢様と相方がまだら蛇(ランダム)の群れと戦っているところに遡る。

 二人の戦いっぷりを観察する者がいた。


「女は化けると言うが、あそこまで変わるものなのか。」


 化石樹の中腹から伸びた枝の上で楽しそうな声が上がる。

 まだら蛇の群れのはるか外。

 町にほど近い場所から眺めて居るのは、お嬢様達の階位を上げたルカン氏だ。

 純人の視力では到底見えないが、そこは道具に頼っている。

 ガラスの凹凸を利用した双眼型の遠眼鏡は魔力を使わない。

 そのため体内魔力を感じ取られる心配もなかった。


「あの身のこなし、キナップが逃がすのも頷けるな。五ツ葉の方が良かったか。」


 そうすれば、もっと面白い相手をぶつけられただろう。

 当日依頼に紛らわしい依頼書を紛れ込ませたと言うのに無駄になってしまった。

 本来ギルドの昇級推薦は、推薦者の一つ下の階級まで。

 五ツ葉であるルカン氏に推薦する権限はない。

 だが籠絡した受付嬢と女性冒険者の伝手を使えば容易いことだ。

 最も、推薦で昇級したものは例外なく侮られ、馬鹿にされるのが常なのだが。


「……より食い甲斐のある身体に化けたものだ。頂くにはそばに居る騎士が邪魔だな。」


 遠眼鏡に映るのはうまく蛇を足場に飛び上がっていくお嬢様の姿。

 その都度スカートが揺れ、大胆な蹴りで白肌が露出する。

 本人は気づいていないだろうが、目立つのは足だけではない。

 好色な目は力強い動きに反して柔らかく、丸みを帯びた身体を追ってしまう。

 四肢の動き、身体の躍動感、舞う度に描かれる黄金の魔力の無駄のなさ。

 戦場におけるその動きは、他者を魅入らせ死へと導く舞姫だ。


「おっと危ない、こりゃあ魔性と囃し立てられるわけだ。」


 これ以上は眼福であると同時に目の毒となる。

 遠眼鏡をしまいながら、ルカン氏は口元を歪めた。

 お嬢様のようなタイプは魅了よりも、力任せに屈服させるほうが良い。

 従順になってしまった駒より長く楽しめるだろう。

 懸念材料としては、まだら蛇の魔法が一切届いていなかったこと。

 何らかの対策が施されているのだろう、魔法的な拘束は無駄と見ていい。

 当然ながら物理的な拘束を許すような性根には見えない。


「少しばかり考えないとな。呪い(・・)に踊らされる馬鹿は王国だけでいい。」


 ギルドで見たときから美味そうな娘と感じたのは間違いではなかった。

 彼女に対する執着が、ますます熟成されてゆく。

 とは言え仕込みに時間がかかることは事実。

 見たところ、今の段階ではルカン氏の方が実力は下だ。

 何かしらの補助道具か、力をつける必要がある。


「……ああ、その馬鹿共と手を組んだ州があったな。」


 思いつきで支離滅裂な行動を取る一部の貴族たち。

 そのくせ妙なところで悪知恵があり、見えている尻尾を掴ませない。

 呪いという衝動に任せ、彼らは邪道に外道、禁忌を平然と犯す。

 それと手を組んだフェイル州はご同類ということだ。


「いい宝箱が見つかった。潰される前に向かっておくか。」


 自滅に巻き込まれる気はないが、掠め取るくらいなら問題ない。

 そうとなれば早めに行動をしておく必要がある。

 何せフェイル州は悪評が広がり始め、州民からの当たりもきつくなっている。

 次の議会内容次第では州の解体まであり得る。

 飛行船の手配と現地での下準備、猶予はあるが時間との戦いだ。

 立ち去ったことで、お嬢様と相方が仲睦まじくする様子は覗かれなかった。


 * * *


 空が闇に染まりだして間もなく。

 夕食も終えたお嬢様達は二部屋に分かれていた。


「生きている村は三割ですか。死の森と揶揄されるわけです。」


 届いた資料を広げながら、お嬢様の眉根が寄る。

 一緒に新しい王国の新聞も広げ、今度はため息だ。

 領内での行為が明るみになり、状況が広まっているらしい。

 お嬢様に対する表現は和らいでいるが、節々に魔性の名残を匂わせる。

 書かれた印象を覆そうにも、王国まで距離がありすぎる。

 直接的なイメージアップは難しい。


「……セラ達も頑張ってくれているのです。急ぎ次の行動を頼みましょう。」


 状況は把握できた。

 次にするべきは生き残っている領民の安全確保、及び食糧問題だ。

 自給自足ができたからこそ生き残れたのだろうが、限界が近いことは間違いない。

 納税免除は通ったが、それにも期間がある。

 それまでにベーラ領の領土に応じた税を徴収するだけの体制を整える必要があった。

 領民の数はその下地になるもので、決しておろそかにしてはならない。

 前領主はフェイル州や墓荒らし(グレイヴン)からどれだけの援助を受けていたのだろう。


「時間に多少猶予があるのは幸いだよ。領名変更も通ったみたいだ、こちらは早めに決めたほうがいいね。」


 相方もお嬢様と交互に資料へ目を通し、唸っている。

 これは領地運営、貴族としての話し合いだ。

 流石に他の面々が参加するのは難しい。

 きちんと互いの匂いは落とした後、部屋には湯船の残り香が立ち上る。

 宿の中なのでケープやアームカバー、着物は身につけていない。


「ファウベルトにします。実家(フォールンベルト)から、カイゼルも移ってくれるはずですから。」


 血と排煙の臭いが消えたせいで、届くのは相方と石鹸のものだけ。

 お互いに触れあったおかげで思考が乱されることはあまりない。

 心地よさと恥ずかしさで少しばかり心臓が早鐘を打つ程度だ。

 くすぶる不安感を打ち消すには丁度良い。


「……そう言えば僕(カイゼル)は、まだフォールンベルト家所属だったね。」


 唐突にこつりと額がぶつかり、お嬢様の視界に明かりが入る。

 深く考えるあまり、久々に強く目を瞑っていた。

 今行うべきは状況を見ながらの対策だ、資料から目を逸らしてはならない。

 眼下の地図には機能している村と、全滅してしまった村の位置。

 それに道の名残も引かれている。

 あっという間に判明したのは、ハルト氏とレオン嬢が頑張ってくれたおかげだ。

 その恩に報いるためにも、墓荒らし対策を始めできることは終わらせておきたい。


「それに、好きな人の名前(ルゼイア・ファウル)からとってもいいでしょう?」


「他の人には絶対に言えない理由だよ、エル。」


 視線を絡めることはないが、ほんの少し微笑むだけの余裕はできた。

 領名の変更など、領民にとっては興味の対象外。

 貴族として責務を果たすための儀式に過ぎない。

 暗い歴史を引きずるのではなく、少しでもマシにするため。

 領名変更の際にはゲン担ぎを行うのが通例だ。


「――セラのおかげでラディ商会が付いてくれたのは幸いです。落ち目の領土に関わってくれる商人はいません。」


「ロウエルの道を最優先で繋げて、東西の道を整備すれば宿場町もできそうだね。今仕入れを行うのは北の入り口だけらしいから。」


「物流の経路を確保するのですね。では、労働者向けの建物を宿や住居へ再利用できるよう工夫してもらいましょう。」


 労働奴隷とて常時働かせられるわけではない。

 最低限の衣食住と休憩は必要だし、その費用は雇い主が保証しなければならない。

 ベーラ領に入り、道中で立ち寄ったロウエルは、道すがら丁度いい位置にあった。

 ラッティ氏の交渉で、道を整備することを条件に協力表明を取り付けてもらえた。

 街道整備と同時に領地開拓を行うにはもってこいだ。 


『お役に立てたようで何よりです。建築、建材についてはそのように指示しておきましょう。』


『人を集めるにあたってベーラ領、あらためファウベルト領の特産物を探そうにも無いのが悩みね。』


 そして、領土運営の話であれば年長者に伺うのが早い。

 現在お父様、お母様にセラが揃って通信口に立っている。

 最も魔道具はベッドの上で、二人は床に資料を広げているため互いは見えない。

 こうしておかなければ、相方との距離でお父様が暴れかねない。


「連邦国の特定州との空路を整備してみるのはどうでしょう。」


『確かに連邦国とうちは友好国だ。とは言え一隻二隻ならともかく……。どうするフリグ、頻繁な往来となれば橋周りの防衛刻印が反応するだろう?』


『飛行船に通過用の刻印と術式を入れればいいわ。こんな事もあろうかと、魔法貨物(シェイプレター)以外の割符をいくつか用意してあるもの。』


 お嬢様がイメージしたのは単純に、国際空港だ。

 基本的に両国は国境にある大橋でしか行き来ができない。

 新しく橋を建てようにも、あの規模の刻印魔法は簡単に作れない。

 ならば別手段で空路を用いればいい。

 王国は竜人がいれば空路の大半をまかなえるため、空港設備がほぼ存在しない。

 国境門の意味が薄れてしまうが、飛行船を扱える州はごく一部。

 それに東の端であるベーラ領へ、西の特産物を仕入れることにも一役買う。

 そうなれば各商会も参入せざるを得まい。

 需要を満たすだけの大きな町が、すぐ北に広がっているのだから。


『なるほど。特産物が無いなら他所から引き寄せてしまおう、と。かつてのお嬢様の勢いを思い出します。』


「んんっ! 可能であれば発行人と受取人がはっきりと分かる、バシリスさんに頂いた州章と似たものが好ましいです。」


 お転婆時代を懐かしむような発言に思わず咳払いを挟んだ。

 ただし、大きな事業となれば相当のお金と時間がかかる。

 あくまで今後できれば良いという目標止まり。


『その前段階を解決しないといけないわね。』


 そもそも、着手するための下地がまだ完成していないからだ。

 ここを乗り越えなければどれだけ論じようとも理想論止まりとなる。


「労働奴隷を入れてもらっているとは言え、三ツ葉の報酬で資金繰りは不可能です。どこかから借りるべきでしょうが……。」


 王国内の大手商会は、大抵墓荒らしの息がかかっている。

 前領主の私財を全て換金して工事費用に充てれば少しはもつだろう。

 とは言え、所詮は片田舎の領主が溜め込んだ利益でしかない。

 領土全体を整備するには明らかに足りなかった。


『大手の力を借りることは難しいと思われます。とは言え中堅ではまず足りないでしょう。』


「……エル、この前はバシリスさんに無償で技術提供をしていたけどさ。次の機会があれば技術料をもらったほうが良いと思うよ。」


「うーん、あれは趣味の話だからこそ思いついたのですが……。」


 渋りはするが、資金問題は全く解決策が浮かばない。

 街道整備に村の防衛強化、環境整備。

 まずその三点を解決しなければならない。


『あら。その技術、文面にして送ってもらえるかしら? もしかしたら特許状を出せるかも知れないわ。』


「お母様でしたら、連邦側の技術も把握をしているのでは?」


 表に裏に、情報を扱うことも魔法団長の仕事だと姉弟子から聞いていた。

 実際に連邦国の技術を魔力と紐付け、国内で早馬として利用している。

 当然浮かぶ疑問に対し、苦笑する空気が伝わってきた。


『私の知識は魔力が中心なの。付与や代替えはできても、根本である蒸気技術に対する知識が浅いわ。』


『そう言えばお嬢様は幼少の頃より理解の範疇外にいらっしゃいました。』


「……むう。」


 続くセラの発言にお嬢様は思わず不服気な表情を浮かべた。

 心当たりがありすぎて反論ができない。

 たしかにバシリス嬢の飛行船を見たり、牽引車の作成の際に現在の技術は覚えた。

 それでも常識の範囲外という意味では、お母様に及ばないはずだ。

 相方があやすように頭を撫でてくれたのでひとまず溜飲を下げる。


『エルー、カイゼルー。空気が妙じゃないかー。』


 お父様の諦めた声に、こほんと二人同時に咳払い。

 領土運営に関して最大の懸念は、整備の間一切収入を得られないことだ。

 たしかに物が無ければ知識や技術を売ればいい。


「最初の申請金は何とかなりそうですけれど、問題は申請が通るかどうか……。」


『王国は飛行船や早馬技術が頭打ちになっているのよ。』


『物流も警備も、空は竜人と相方が行えるからな。ただ、同格の権利から一組につき二人分の支払いが必要になる。』


 王国内で中型の早馬はよく見かけるが、大型の飛行船は見た記憶がない。

 竜の力は非常に強大だ。

 今日だって相方が軽く手を払い、数メートルある大蛇を消し飛ばしていた。

 あれは空帝竜としての権能ではなく、純粋な肉体強度の差だ。

 大規模な運輸となれば、貨物のバランスを取るため複数組を雇わねばならない。

 初期投資の開発費と累積する人件費。

 天秤にかければ前者のほうが後々安く抑えられるし応用もできる。


「ところでフリグさん、それって墓荒らしがエルを呼び戻す餌にしないかな?」


『その辺りは領主代理のカール君が緩衝材になってくれるでしょう。』


「……エルに向ける視線は気に入らないけど、胃に穴を開けないよう祈っておくよ。」


 貴族の世界は表面こそ優雅に取り繕うが、油断の許されない世界だ。

 毎日のように思想に派閥、呪いによる蹴落とし合いが行われている。

 裏表ない貴族など田舎に送られるごく少数だ。

 そしてそんな領主は、大抵利用された上で潰される。


「それははありがたいですけれど……やっぱり貴族って苦手です。」


 そういう意味で墓荒らしの渦中に居るカール氏はこれ以上無いほど適任だ。

 だが両陣営に板挟みにされる以上、心労は想像を絶するだろう。

 彼ならあの日の夜会のように、ある程度立ち回れるとしてもだ。


『王宮ではシルヴィ嬢の猛威が記憶に新しい。エルのことはあまり刺激できない状況を維持してるんだが……。』


『抑え続ければどうなるか解ったものではありません。尻尾切りなど日常茶飯事のようですので。適度に隙を見せて誘わねばなりません。』


「それで死の森の報道ですか。」


 決して大げさではない領内の報道は、ガス抜きのためだ。

 隙につけ込み、引きずり出す手を打てたと思えば呪いで簡単に自己満足に浸る。

 目先の目的はお嬢様(ペット)を手に入れること。

 視野が狭くなれば他を蔑ろにして、自然と王国を内側から腐らせる。

 呪いの目的にとって、お嬢様は格好の誘蛾灯なのだ。


「セラさんがいてくれて良かった。困ったことに、王国ばかりに目を向けていられない。」


『こちらにはまだ伝わっておりませんが、フェイル州への揺さぶり(・・・・)は順調のようで。』


 王国から届けられた資料の他に、連邦国から届いた資料もある。

 先だってマギク州に預けた闇組織たちへの尋問結果がギルドに届いていた。

 ご丁寧に厳重な封印まで施されてあったため、覗き見られた可能性はない。


「バシリスさんの飛行船を襲撃したのは、非合法技術に特化したイベイジという組織だそうです。……どうやらフェイル州とも繋がっていたらしくて。」


 手紙に記されていた内容は、所属していた闇組織名とその後ろ盾。

 墓荒らしと直接的な繋がりはなかったが、無視できない州と繋がりがあった。

 他国へ忍び込んで人体実験を行う暴挙、当然戦争のきっかけになる。

 本来ならば王国が抗議を行うはずだが、墓荒らしが揉めているため滞っている。

 マギク州は先んじてこの件を用い、次の州議会でフェイル州を詰問するそうだ。


「支持率っていうのを見たけれど、人の声が反映されやすいところは王国と随分違うね。」


『下賜された領地ではなく、各々の土地が独立してるからな。とは言え振り回されて州が潰れ、大混乱を起こしたこともある。』


 購入した新聞によると、広めた情報の影響もあり支持率が三割まで落ち込んでいる。

 その上でマギク州からの発表があれば更に落ち込むだろう。

 わざわざ他国へ忍び込んで行われていたのだ、州内に犠牲がなかったとは思えない。

 明日は我が身となれば、州長に対する当たりは一気に強くなる。

 そうなればお父様の言うように、州が潰れる可能性も高い。

 領地ではなく州自体が潰れる、それは一国が滅びるということだ。


『そちらも大騒ぎみたいね。対処のタイミングが重なるのは厄介だわ。』


「……すみません、もうしばらく領地のことは頼らせていただきます。」


 騒動が大きくなれば、どこかに綻びが出てくる。

 特に他国ならば、いかに誤魔化すことが特異な墓荒らしとて限界がある。

 とは言え彼らのことだ、調整用の捨て駒を配置していることだろう。

 だからこそ好機なのだ。

 根本にある呪いへの対処にせよ、墓荒らしの構成員を殴り飛ばすにせよ。

 お嬢様たちは相手を知る必要がある。

 伸びてくる手をかいくぐり、もはや滅びた者の残滓を紐解かねばならない。


『わたし達はこの件に関して積極的には動けないものね。』


『……あの時、もっと気をつけておくべきだったなあ。』


 王国内で最も力があるにも関わらず、縛られたことで無力になってしまった二人。

 その原因をはっ倒す気は満々だが、何も故郷を滅ぼしたいわけではない。

 回りくどい相手に回りくどい方法しか取れなかった。


「少しでも多くを解析(・・)してきます。」


 魔法や技術の解析。

 それは体を動かすのと同じくらいお嬢様の得意分野だ。

 深い碧の双眸は、魔力を視ることに長けている。

 呪いという存在を知ったことで、意識して探ることができる。

 数々の知識はそれらを分析し、構造を紐解くことに用いられる。


「フェイル州のような技術なら、僕も役にたてるからね。」


 その瞳が、今やもう一対。

 黒銀は黄金と同格。

 普段は一歩引いてくれているが、有する知識はお嬢様と同量だ。

 大きな違いは、彼は停滞に敏いというところ。

 停滞の膜で隠されようと、魔王の知覚から逃れることは容易ではない。


『ええ、期待しているわ。さて、今日はこの辺りかしら。領地運営は引き続きセラ達に任せましょう。』


『かしこまりました。三日に一度は戻りますので進捗がありましたらその時に。』


「無くても口は出してくれるのでしょう、セラ?」


『もちろん、旦那様と奥様がお嬢様を引き止め、お嬢様の睡眠時間を削ることなどあってはなりません。』


 さすがはお転婆だった頃から、唯一ついてきてくれた侍女だ。

 引きずられて、お父様お母様に対してもずばずばとものを言う。

 画面向こうで二人が目を逸らしている様子が想像できた。


「では、飛行船に関して少し書類を作ってから眠ることにします。お父様、お母様、セラ、おやすみなさい。」


「スフォルさん、フリグさん、セラさん、おやすみなさい。……エル、睡眠時間を削らないためにも本当に少しだけだからね。」


 就寝の挨拶を終えると、早速頭の中にある技術の出力へ移る。

 蒸気機関の複数設置、それぞれの連結方式、可動域の拡張。

 覚えた技術に魔力を介入させ、王国でも作れるよう改良が必要だ。

 役割分担、床に散らばった資料の整頓は相方が行ってくれる。


「解っています。二人を止める人(セラ)がいないのに、寝不足なんてしていられません。」


「ならいいんだけど。」


 疑う相方に拗ねた視線を向け、備え付けられた机に向かう。

 熱中し始めると周りが見えなくなる自覚はあった。

 椅子を引こうとして、ふと動きが止まる。

 書類を作り終えれば相方とは一晩離れ離れになるのだ。


「……カイゼル、膝の上にお邪魔しても良いですか?」


「甘えん坊だね?」


 まだら蛇と戦ったときの火照りはお互い収まっている。

 その際お互いに感情の確認を行ったため、ますます離れ難くなってしまった。

 たった一晩というのに、胸が締め付けられて苦しい。


「う、あの、えっと……、…………はい。」


 言い訳を探した後、赤くなる頬を隠せないまま頷いた。

 揶揄された恥ずかしさで長耳が垂れたが、後悔はしない。

 お互いに適度な気持ちの発散が必要なことは学んでいた。

 小さくなるお嬢様を見つめる青い瞳が嬉しそうに細められる。

 寂しさを感じるのは同じだった。


「うん、いいよ。僕の鞄を机代わりにしよう。……何故か通信機の代わりに足がついてたんだけど、こういうことを見越してかな、フリグさん。」


 かくしてお嬢様の内心をよく知る恋人(あいかた)は我儘を聞いてくれた。

 資料と図面を作る最中、体を預けて相談しあう。

 考え込むたび髪をすいてもらって吐息が漏れ、背中を預けて髪を撫で返し。

 ゆっくりとゆっくりと夜が更ける。

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