第11話 各々のエチュード1
2021/9/28追加
一歩樹海へ踏み入っただけで不快指数が跳ね上がる。
立ち込める排煙と足元から立ち上る湿気が肌にまとわり付く。
木々の梢が頭上を隠すため、ろくに日光も差し込まない。
逃げ出せない煙は薄闇と相まって視界を奪う。
そんな場所であっても、街を拡張するためには必要な土地である。
開拓の障害となるのが野獣、魔獣、あるいは魔物と呼ばれるものたちだ。
「シャアアアア!!」
鎌首をもたげ、口を開いて威嚇の音を鳴らす大蛇の魔獣が今回の討伐対象。
胴の太さはお嬢様二人分ほど、首をもたげれば迫力は充分だ。
種族としてはまだら蛇と呼ばれる。
主に群れで行動し、個々で違う魔法を扱うためにそう名付けられた。
そう聞けば厄介な相手だが、この世界で魔力の流れを察知できない者は居ない。
察知できるので、知識が編み上がる術式を先んじて察することも可能だ。
「今度は足元ですか!」
発生位置は丁度相方との間から、距離を離させるよう左右に渡って。
告げると同時、槍の穂先を地面に突き立てる。
相方は風を足場に空中へ飛び、手にした剣をひと薙ぎ。
停滞を内包する刃が地面から伸びてきた氷の牙を砕く。
棒高跳びの要領で空に避けたお嬢様は、勢いをそのまま蛇の頭上へ。
丁度小さな娘の体など容易に飲み込む口が迫ってくる。
「疾ッ!」
短い気合は以前より重く、馴染んでいた。
ためらいなく右手に握っていた手槍を投擲。
蛇の下顎を穿ち、地面へ向けて荷重をかける。
だが、一点の攻撃で止めることができるほど相手は小さくない。
指揮棒と化石樹の種を核とし、事前に作っておいた刻印へ魔力を通す。
種の発芽と枝の形状変化は一瞬だ。
指揮棒の周囲を化石樹が囲み、一本の木槍と化す。
魔力の質が影響したのか、黄金に色づいてしまったのは改良点か。
出来上がった木槍で、投擲の勢いを利用して蛇の頭部を殴打。
返ってくる力は減衰することなく体を通り、次の一打を強化する。
フィッシュテールスカートを翻して追加の蹴りが落とされた。
「思ったとおり、化石樹は頑丈です。」
「指揮棒の外装術式は成功みたいだね。」
今度こそ大蛇を大地へ叩き落とし、木製の槍で頭蓋を粉砕。
非常に足場が悪いため、下手な踏み込みは動きを阻害する。
踏み込みが甘ければ、質量差を跳ね返すだけの力は得られない。
ならば足場を作ればいい、息絶えたまだら蛇の上に相方も着地。
浄化の魔法を木槍越しに行使し、手槍を回収。
槍二本となれば通常使いはできなくなるが、足の代わりになる。
方やフードに認識阻害の眼鏡、マスクと言った不審者外見のお嬢様。
方や王国の麻服に帝国の小袖、マスク着用の迷走ファッションの相方。
「早速実戦投入するとは思いませんでした。依頼書から、多くて数匹と思っていたのですが……。」
現在二人で三ツ葉の依頼を遂行中だ。
あれからフォクシ嬢達と合流し、ギルドから呼び出しを受けていることを聞いた。
その内容が昇級と知って、フォクシ嬢は渋い顔をしていた。
話を聞くと、『勝頭巾』に対してルカン氏の推薦があったらしい。
階級にはさしてこだわりはなかったが、突然梯子をかけられた。
勝手に二つ名を定着させ、恩を売りつけられたと思えば微妙な気持ちだ。
とは言え、稼ぎがよくなることも確か。
早速三ツ葉依頼の中でも当日で終わりそうな依頼を受けてきた。
「そうだね。確かに数の指定は無かったけど――、おっと。」
軽い踏み込みの音だけを残し、相方が飛ぶ。
今まさに鎌首をもたげようとしていた蛇の首を切り落とし、その胴部に着地。
こちらを見据え次第、土の槍を飛ばそうとしていたようだ。
発動させようとしていた魔法はたちまち霧散する。
「こういうところだと、竜の息じゃあ対応できないね。」
即時左右の手をスイッチし、袖口で突っ込んできた蛇の横面を叩いて回避。
別方向から飛びかかってくるものは大剣に切り替え、横一文字に捌く。
さらに剣を振った勢いのまま空中で左右スイッチ。
やり過ごした大蛇を胴半ばから二枚におろした。
どちらの全力も貫通性が高すぎる。
「そのための魔道具です。」
「ここは任せようかな。僕は群れの中を見てくるよ。」
離れていく相方の背中を見送り、お嬢様は指揮棒内部の魔力を動かす。
停滞による断絶によって世界から隔離された小さな世界。
内部は全てお嬢様の体内魔力によって満たされている。
この世界の外で行われる変革は制約と契約には引っかからない。
かくして広域に渡る選別型の魔法準備は完了する。
『うわ、予想以上だ。何十匹いるだろう?』
距離が離れたため、やり取りは絆を介して行う。
現在の討伐合計は二人合わせて十匹と少し。
少し前まで一匹ずつ様子を見るよう襲いかかっていた。
こちらの動きをあらかた把握したつもりなのか、徐々に攻撃の密度が増している。
一人が側を離れたのを好機と見たのか、お嬢様の方にも大蛇が飛びかかってきた。
手槍を軸に体を浮き上げ、ブーツの重さを利用した蹴りを横面に叩き込んだ。
「気は抜けませんね!」
ぶわりとスカートがめくれ上がるも、今回はきちんとショートパンツを着用済み。
何匹か風を操り無音で仕掛けてくるが、固定魔法を有するお嬢様には届かない。
木槍で止めを刺した後、くるんと腰を捻る。
突撃してきた大蛇を凌ぎ、手槍の穂先で過たず目を串刺した。
吹き出す血を浴びることなく蹴りと槍の引きを同時に行い、木槍から魔力を流す。
周囲の湿気を利用し、圧縮した水で飛びかかろうとする蛇たちへ牽制。
『数えるのは後にしましょう、討伐証に牙を集めれば解ります。まだら蛇が引くまで私たちも戻れませんから。』
『それじゃ、僕はこのまま外周から片付けていくよ。』
物量に怖気づき、下手に背を見せれば一斉に襲いかかってくる。
それがこの魔獣の狩り方だ。
薄闇に紛れ、身を伏せている蛇はまだまだ居る。
まだら蛇は群れるタイプの魔獣だが、中でも今回は規模が大きい。
「規模的には群れが五つほど合流? 魔獣が同じ縄張りを持つことは、無いわけではありませんが。」
魔力を色彩として捉える碧目は、多種多様な魔法を有する個体を確認している。
実際の視界に頼るわけではないため、視界不良でも生物の位置なら掴める。
広域に対する任意攻撃の手段を得られたのは非常にありがたい。
手始めに再度術式を描き、準備を開始。
意識を裂くのは突撃してくる蛇の巨体だけで充分だ。
仲間の死骸を物ともせず、全身をバネにして四匹がお嬢様へ飛びかかる。
「噴っ!」
応じて手槍を地面に突き刺し、石突きを足場に空へと回避。
浮き上がる力と相手の突進力、腰の捻りを乗せながら覚醒を行使。
一瞬固定魔法の規模を広げることで過剰魔力を多めに生み出す。
下腹部の疼きを経て、指揮棒の中へ魔力補填と身体強化。
術式と回路、発動の魔力を全て自身で補うため、定期的に補充する必要がある。
「呀!」
声質は変わらず可愛らしいが、裏腹にどんと凶悪な衝撃が空気を揺らす。
風車のように足を開いた蹴りは、矮躯から想像できない重さを有する。
蹴った頭を足場として、更に空へと飛び上がる。
ダイナミックな動きにスカートが広がり、引き締まった脚線美が際立つ。
異性相手なら意識の隙ができるだろうが、相手は魔獣だ。
「そこ!」
残りの三匹が体を木々へ打ち付け、強引に角度を変えて襲いかかる。
丁度展開した回路の範囲に入った瞬間。
木槍を媒体に、先程描いた術式へ魔力を通した。
「ジャアッ……!?」
巨体の風切り音が途切れ、隆起した大地の槍が三匹を同時に宙へ縫い付ける。
高所から相方を確認すれば、群れの外周へ切り込んだところ。
右手から左手、左手から右手へ剣を持ち替え。
止まらない動きは、まるで二本の剣を持っているようだ。
物質化した魔力の刃が振るわれる度に大蛇の首が跳ね飛ばされる。
魔法に対しては、片っ端から術式をパレットナイフで切り刻む。
魔王の力はあらゆる奇跡を憎み、打ち消すものだ。
たまに逆手の拳で頭部を吹き飛ばすのは、本体の質量を伴った一撃だろう。
竜の道を妨げる者は、圧倒的な力で蹂躙される。
「私も負けていられません。夕食の準備が残っています。」
つぶやくお嬢様へ向けて、地上から更に大蛇が飛びかかる。
体を捻り、竜の牙と化した足で蹴り落としながらどんどん上へ。
一蹴りごとに返ってくる力が体内で螺旋を描いて次の力に上乗せされる。
一打追加する度に重く空気が揺れ、周囲の化石樹をずんと揺さぶる。
四匹蹴ったところで蛇達の射程圏外へ到達した。
蛇たちから魔法が飛んでくるが、ことごとく黄金竜に食い尽くされる。
「術式構築――、いざ。」
ハルト氏を真似た空中機動、足の裏へ空気を圧縮。
頭と木槍の穂先を地面へ向け、衝撃保護の術式を準備。
加速度の上昇と摩擦係数の削減を別術式として展開。
衝撃の伝搬と過剰魔力の再利用、風の流れを流用して経路の設定。
規模が大きいため、世界への認可を最後に記す。
黄金の刻印が薄く広く、合計三層に渡って立体刻印が出来上がる。
蛇たちは落下するタイミングを狙っているのか、眼下に集まり始めていた。
「――!!」
裂帛の気合は置いていかれる。
着地位置は最初に足場とした手槍の近く、全回路に魔力を通す。
木々のもたらす薄闇が、一瞬金色の輝きに染め上げられた。
空気が、地面が、世界が揺れる。
巨木の半分ほどの高さから、瞬きの半分に満たぬ速度で地面まで到達。
音の壁を突き破り、保護の膜が割れ、風の塊に貫かれた蛇の胴に穴が開く。
そんな勢いの癖に着地時はスカートが柔らかく揺れる程度。
生じた衝撃波は、作り上げた法則性に従って力へ変換される。
周囲から飛びかかろうとしていた大蛇の下から空気の杭が迫り上がる。
広域に渡る刻印は、中心に近いほど影響に気づけない。
刻印魔法が大掛かりな戦場で使われるのもそのためだ。
避ける暇もなく大蛇が空へ逆巻く風で串刺しにされた。
さあ、と振る血の雨は別途保護膜を作り上げて退ける。
『こちらは終わりました、カイゼル。』
着地の衝撃で弾き飛ばされた手槍がくるくると落ちてきたところで掴む。
足場も失われたが、仕込みに時間をかけた分近くに生き残りは居ないはずだ。
油断をするつもりは無いが、魔獣の体内魔力は見えない。
外周のほうでは、一部が森の奥へ逃げ出している。
『僕も終わったよ。三ツ葉の当日討伐なら、数が居てもこんなものかな。』
各々を囮にして攻勢に出た結果、排煙と湿気に混じって生臭い血の臭いが漂う。
マスクが無ければ非常に息苦しい思いをするところだ。
だがあとは討伐の証として、残った死骸から牙を剥ぎ取るだけ。
程なくして外周から牙を回収した相方が戻ってくる。
「ところで、エル。」
「はいっ?」
牙の回収をしていたところで、唐突に相方から声をかけられた。
特に違和感は無いのだが、お嬢様の口からは固い声が出た。
生まれたときからの付き合いだ、彼が怒りに近い感情を封じている事が解る。
周囲の排煙を空帝竜の権能で散らして一歩。
それに合わせて思わず手を止めたお嬢様が後ろへ一歩。
「戦い方はとやかく言わないけれど、あのズボンは何?」
「お、オロス州で購入したものです。連邦国では普通の女性用のものだと。」
「なるほど。別世界の経験に引きずられたのかと思ったけど、これは文化の違いか……。」
また一歩、応じてお嬢様も後ろへ一歩。
異世界基準とのズレはあれど、購入時に常識的かどうかの確認はしてある。
だが、国によって文化が異なることを失念していた。
この世界は他国のファッション雑誌が流通していない。
そのため他国の装束は基本的に伝聞でしか知るしか術はない。
お嬢様が着用しているのは、異世界と比べれば丈は長い。
とはいえお尻のラインを強調するホットパンツに分類される。
色もまずかった。
深青のそれは、スカートに近い色のため色白の肌がよく目立つ。
完全に同色ではないため、スカートとの境界線も非常にわかりやすい。
お嬢様が相方を気にしていたように、相方もお嬢様を気にしていたのだろう。
魔獣には関係ないが、相方には抜群の効果を及ぼしていた。
果たして王国民の目にはどれだけ過激に映ったことか。
「か、カイゼルだって、服装を正してくれません。」
「僕は育った常識の範疇だよ。」
相方の着崩した服からちらりと覗く鎖骨や胸板にどれだけ意識を引かれるか。
そんなお嬢様の主張は一蹴された。
相方のシャツの着崩し方は夏場の王国ではよく見られる。
羽織った小袖だって、レフス帝国の飛び地があるためそこそこ見る。
流石に片肌脱ぎと言う着方は無いが、そちらは露出面積を増していない。
そもそも本体の姿は全裸、いや違う、鱗が衣変わりだ。
危険な考えに及ぶところだった、根本的に種族が違う。
思い出せば、空帝竜の姿も翼といい尾といい、引き締まった雄々しい出で立ち。
貴族の技で顔が赤らむことは抑えたが、どの道やぶ蛇だった。
姿を問わず、お嬢様は相方に恋しているのだから。
結局これは言い訳では無い、話題の転換による逃げだ。
「僕はエルのことが、異性として好きだ。」
「わ、私もカイゼルのことが好きです。」
相思相愛であることは、今更確認するまでもない。
今回、互いの好きと言う感情が非常に重い。
一歩詰められ一歩下がり、繰り返しているうちに太い幹へ背中が当たる。
退路が断たれた、その意識の隙間をついて一息で距離が無くなる。
随分声がはっきり聞こえると思ったら、相方はマスクを外していた。
まとわり付く排煙は風で退けているため、視界も良好だ。
「他に言い残すことは?」
「……ごめんなさい。」
相方の感情に察しはついていた。
夢のせいで歳月の感覚が狂ったのが災いした。
戦うにしても、今回は木槍を用いた魔法で事足りたはずだ。
年頃の恋人が目の前で、過失とは言え際どい動きをしたらどうなるか。
成長期を迎えてからも、お嬢様が過激なスキンシップを行ってきたのも確か。
竜だ、魔王だ、相方だと言っても、彼だって健全な青少年なのだ。
素直に謝るお嬢様へ、大変深い溜息が帰ってきた。
「自覚が遅い。」
「んむっ!」
頬へ手が伸び、排煙用のマスクが剥ぎ取られた。
言葉を返す間もなく口を塞がれる。
血臭にまじり、動き回ったおかげで立ち上る相方の匂いが届いた。
堪らずぐわん、と思考が揺れる。
昨今強く自覚してきたが、お嬢様は相方の匂いに非常に弱い。
羞恥に体を離そうとするが、困ったことに本気で逃げる気になれない。
やんわりと黒銀と黄金絡み、混ざり合う。
「ふ……っ……。」
口づけは何度も交わしているが、貪られるようなそれは酔った時にされて以来。
お預けに我慢を重ねてきた相方だが、無限に耐えられるわけではない。
ぞぞ、と背中を這いずる心地よさにお嬢様の瞼が落ちる。
知らず細い指が相方の背中を引っ掻き、握り、力が抜けて引っかかる。
膝から力が抜けても、腰に回された腕が崩れ落ちることを許さない。
柔らかな体に相方の堅い体が押し付けられる。
「ぁ!」
唐突に下腹部の刻印が疼き、背筋を遡って頭を貫いた。
お嬢様自身上げたことのない艶めいた声が漏れる。
思わず開いた目には、湿った相方の舌先で薄く力の集まる翼の刻印が映った。
完全に発動はさせないが、それはお嬢様の刻印と連動している。
体の距離は変わっていない、すぐにでも口づけに戻れる距離だ。
つまり、どうあがいても逃げられない。
「謝るだけなら簡単だからね、エル。」
「ま、待って下さい……!」
ひく、と恐怖半分にお嬢様の喉が鳴る。
覚醒は体内魔力を圧縮し、戦闘力を上げるための手段だ。
そこに至らなければ、溢れる体内魔力を隅々までさらけ出したままだ。
まさか連動する刻印をこんな風に使えるとは思わなかった。
ずくずくとした鼓動の度に、体の芯へ耐え難い痺れが走る。
完全覚醒を試みても、相方によって抑え込まれる。
潤んだ碧の瞳が、燃える青の瞳に飲み込まれた。
「き、気をつけます、今度からちゃんと気をつけます! だから――。」
このあわせ技は耐えられる気がしない。
ストッパーである姉弟子は居ないし、ゼルド氏やミリィ嬢も宿待機だ。
おまけに二人とも戦いの火照りが残ったまま。
周囲に人気はなく、排煙や湿気は相方の力で退けられた範囲内。
唇を守る手段が無いことを除けば、マスクなしでも非常に快適だ。
止まれなくなる前に許しを請うたが、既に限界超えの宣言はされている。
「僕が満たされるまで、許してあげない。」
いつもの楽しそうな口調でも、困った口調でもない。
熱っぽくも冷たい処刑宣言と共に、絆を通して抑えていた感情が届く。
あまりの激流にお嬢様から一切の手札が消えた。
中途半端な覚醒で引きずり出された、より深い場所へ魔力が伸びる。
覚悟を決めるより先に、お嬢様の願望が絆を通して伝わってしまう。
残り半分の感情は期待だった。
「待っ――……。」
二回目は望み通り遠慮をしてもらえない。
熱い魔力のやり取りに体が跳ね、膝が笑い、息が弾んでぼうと思考が浮ついて――。
互いの中で熱を溶かしているため、零れる声がどちらのものか解らない。
金色なのか黒銀なのか、目の前で魔力が目まぐるしく溶け合う。
奥の部分が絡み合う一体感と充実感、止める自制心が残っていたのは奇跡だった。
制限は守れたが、お嬢様にも宿る情熱を改めて自覚させられた。
「……文化の違いなら、大目に見てください。……ばか。」
収まった後、乱れる息のさなかに弱々しく甘い声が訴える。
立てなくなったため、牙を回収する相方の腕に支えられていた。
芯から蕩かせられたのに、彼のほうは平然としている。
何せお嬢様の中にある知識の活用方法は、相方の方に分があるのだ。
責めるような口調だが、お嬢様の方も合意してしまった。
「お互い様だと思う。」
ゆえに返ってくる答えも決まっている。
満足できたのか、非常に落ち着いた声色に戻っているのも腹立たしい。
指揮棒で術を編む力も残っていなかった。
大蛇の死体を焼く仕事も、このまま任せる事になりそうだ。
せめてもの仕返しに腕を首に絡めて邪魔する。
初めての三ツ葉依頼は、少々問題があれど想像以上のお金になった。




