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ちょとつ!@異世界にて  作者: 月蝕いくり
第〇章~序章前のテーマソング~
6/112

第6話 閑話テーマソングの演奏者2

2021/03/10追加

『ようやく来おったか。』


 フェルベラント王国北部。

 そこは険しい山々によってこの国内で唯一陸路が開拓されていない場所だ。

 立ち寄るものもほぼ居ないだろう山中に声が響く。

 全くうるさいことこの上ない。


『老いぼれに教えてもらうことなんてない、僕は忙しいんだ。』


 苛立ちを隠そうともせず、空色の瞳が眼前の強者を睨みつける。

 今の時点ではどうしてもこの存在に敵わないだろう。

 だがそれに屈して己の在り方を変えることは許さない。


『くはは、孵ったばかりの小僧が言いよるわ。絆は争えんな。』


 体格差にして実に数千倍を遥かに超える。

 若者の前に居るのはそんな老体だ。

 だがこの老体、歳月による衰えとは全くの無縁。

 その身に熟成された力、魔力は膨大だ。

 若者のことなど、気づかぬうちに潰してしまってもおかしくない。

 だが、それがどうした。

 片割れから引き剥がされた不快感を隠す気はない。


『忙しいというのはあれじゃろ。片割れの側に居たいという我儘じゃろう。』


『何が悪い? 僕は彼女の側に居られればそれでいい。それ以外の世界はどうなろうと知ったことじゃあない。』


『だから若いというのじゃよ。』


 巨体が楽しそうに息を吐けば、それだけで周囲の木々がざわめく。

 自身のたてがみが揺らされたことに不快気な表情を隠すこともしない。

 そもそも、あと数年もすれば自身とて相応の力量を身につける。

 世界はそういうふうにできている。


『お主、側に侍るだけで守れると思っておるのか。その姿で。』


『今は無理だろうけれど、お前になんの関係がある? 時が立てば彼女をあらゆるものから守ってみせる。』


 からかうような口調に対して噛み付くように言った。

 指摘されずとも解っている。

 今の姿でできる事といえば、普段の心労を癒やすために甘えることくらい。

 有事となれば出来ることはない。

 せいぜいがこの身を盾にすることだけだ。

 成長すれば障害を排することもできるだろうが、時間と言うものが邪魔になる。

 全く対等であるはずが聞いて呆れる、腹立たしい。


『おや、言葉に迷いが聞こえるぞ?』


『……くそじじい。』


『その口調、相方が聞いたらどう思うかのう? 礼儀作法は共に受けておるとか。お主の行動が、変わろうとしている片割れの品位を損なわねば良いが。』


 的確に痛いところを突いてくる。

 事実を弾き返すだけの力を得るには若すぎた。

 だからせめて言葉だけは棘々しく。


『……僕の扱う力は、そもそもお前たちとは本質が違う。何かを教えられるなど自惚れだろう。』


『ふっはっはっはっは! 老骨とあまり侮るな。たとえ我らの本質からはずれようとも、知らぬ訳でなし。如何用にも方法はある。』


 そもそも、と巨体は続ける。

 若造との会話が楽しくて仕方が無いとばかりに、巨大な尾が崖を叩く。

 突然の振動に驚いたように鳥たちが空へと逃げる。

 些細なことだ、山の一部が動いただけだと言うのに。


『どのようにしてわしらがのお主をその形にしたと思うておる。……今のままでは足りぬと、お主も思っておるところじゃろう?』


『…………。』


 不貞腐れた沈黙は肯定と受け取られる。

 話半分程度にだが、聞く気にはなった。

 力は欲しい、それも早急にだ。

 だが貸しを作るなどごめんだ。


『聞かぬならば、勝手に語るまでよ。わしが教えるのは、お主の本質と我らの本質の類似。そこからどのように派生をさせてゆくかは、お主自身が考えよ。』


 行うのは助言のみ。

 そうすれば一方的に施しを受けたことにはならない。

 心中の葛藤をあっさりと見破ってくる。

 これが年の功か、苛立たしい。

 伸びでもするように、ゆるりと山の一角(・・・・)がその身を起こした。

 天を覆い隠さんばかりの翼が広げられる。

 ああ嫌になる嫌になる。

 こんな、普段は何もせずにじっと山になっている老体にあしらわれるなど。


『いいのかい。後で後悔してもしらないよ。』


『許可は得ておるし、そもそもお主にはできぬだろう。片割れが大切なのだろう?』


 事実だ。

 だからこそ言い返さない。

 大切だからこそ、本来あるべき形を歪めようと決めたのだ。

 それが今の彼の在り方だ。

 その邪魔となるのなら、こんな世界は変えてやる。


『……この先千年たっても、あんたのことは好きになれそうにも無いよ、祖竜のじじい。』


『好かれようとも思っておらぬわ、空帝竜のこわっぱが。』


 双方にあるのは、家族としての関係ではない。

 利害関係の一致に過ぎず、そこに互いを慮る感情は存在しない。

 だからこそ、この関係が続く限りは進んで道を違えることは無いだろう。

 それがひどく不快だった。

第〇章、ここまでとなります。

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