第1話 加速気味のネクストライフ
2021/05/25大規模修正
ベーラ領は何の話題にも上がらない田舎領地だ。
むしろ悪評が広がっていないことが不思議なくらい。
国境近くだと言うのに、義務とされる定期整備がされていない。
魔獣や魔物に対する対策だっておざなりだ。
人の往来が少なければ話に上がらないのはたしかだ。
だが、実際に足を踏み入れればあまりの怠慢に不自然さを感じる。
当たり前だった、墓荒らしが率先して情報操作を行っているのだから。
こんなものを公表できるわけがない。
「……なんですか、これは。」
怒りを通り越した声からは感情が消える。
フォクシ嬢は眉をしかめ、ゼルド氏はガントレット越しに拳を握りしめている。
相方は――お嬢様と同じ平坦な感情だ。
ベイル村に到着する前から予想はしていた。
レオン嬢からある程度の話も聞いていた。
その二つだけで簡単に考えつく最悪だ。
ベーラ領の領土は、停滞魔道具の実験場として貸し出されていた。
「領主は、クズだな。」
端的に表す姉弟子。
村は滅んでいた、それだけならまだ救いがあった。
現在もなおこの場所では膨大な停滞が生み出され続けている。
それが意味することは、村人が皆魔物と化したということだ。
存在を塗り替えられ、書き換えられ、ただ憎しみのまま動く化け物に。
一体一体に含まれる規模は中規模程度、魔災の一歩手前。
金のために守るべき領民を犠牲にするとは、怠慢の域を超えている。
「……ああなっては、どうしようもない。」
「村の外へ広がる前に全員を殺し直して、魔道具を止めるしかねえ。くそったれ!」
現実を口にするのはゼルド氏とフォクシ嬢。
地獄絵図。魔物たちが村から外に出ないのは、別途停滞の結界が張られているためだ。
しかも相方がそうするように、表面上は魔力が流れている。
何とも凝った演出だ、怒髪天を衝いたお嬢様が一呼吸のうちに黄金の竜へと変わる。
躊躇も疼きも、突き抜けた感情の前に無視される。
「……望みは薄いけれど、生存者探しもしないとね。起動してから日は浅い。」
停滞を知り尽くす魔王だからこそ解る情報だ。
世界に空いた穴の縁から、生まれた時期の逆算。
引きずられるように禍々しい黒銀の竜へ変貌しながら希望を口にする。
「分かれて対処すんぞ。ゼルド、お前はあんまりオレから離れんな。手綱を操るのが厄介になる。」
「心得た。」
分担を口にした瞬間にお嬢様は飛び出した。
フードが外れ、黄金の髪が停滞の中に晒される。
村の入口にある断絶を飛び越え、手槍を振りかぶった。
びゅうんと風切り音を立て、真正面に居た少年四人だったものを潰す。
即座に黄金の体内魔力が停滞を塗り替え、空白を埋める。
生者から変質したせいか、怨嗟の声が意味を持つ。
断末魔の悲鳴が響き渡る。
その勢いのまま体を捻って震脚。
足元に埋められていた魔道具を破壊する。
伝わる力を腕へと通し、無表情のまま女性だったものの頭を穿ち抜く。
「それじゃあ僕も行こう。気に入らない、同格が生まれる可能性は潰さなきゃ。」
空帝竜の魔力体と分かれながら、刀身を一閃。
視界には大量の空白が映っている。
それに応じて刃を走らせれば、より大きな停滞目掛けて魔力が流れ込む。
閉所であれば使えなかったが、村の中ならば開けている。
ずり、と空間事複数体の魔物を切り捨て、魔道具に使われていた魔力を停滞させる。
『全く同感だね。おや、流石にモルグも来てるみたいだ。』
『何、近くを通りかかったものでな。手前とてこれは見過ごせん。』
『君の性分からして、絶対僕らが来る前からここに掛かりっきりだったよね。』
知恵ある聖獣となったカイゼルは、羽ばたきがそのまま魔力の奔流となる。
空白に向けて流し込むことで弱体化は見込めるが、魔道具への影響が及ぼせない。
それはモルグ氏も同じことだ。
手槍状の魔力で魔物となった村人を留めたが、肝心の魔道具が止められない。
穴を埋めた所でしばらくすれば停滞に晒され、魔物に戻って動き出す。
だからそれは生者に任せるしかなかった。
「お久しぶりです、モルグさん。魔道具の配置は――、村の周囲全体と、内部に点在。内部で領民を魔物にし、周囲の断絶で閉じ込めている。相違なく?」
こんな時だからこそ解析に手は抜けない。
先んじて内部に点在する魔道具を破壊し、魔物を殺す必要がある。
それからでなければ周囲の魔道具を壊せない。
おそらく遭遇してきた魔物たちは、村を取り巻く停滞によって変質したものだ。
魔力を視界で捕らえる事ができれば構造がよく分かる。
世界という絵画のそこかしこに穴が空いている。
その穴の中心に件の魔道具があるはずだ、非常に見つけやすい。
『いかにも。手前は止めることしかできなかった、来てくれて助かった。』
「この魔物は何と呼ぶべきなんだろうね。種別的には屍人に近いけれど。」
「元になっているのは、死人ではなく生きていた人です。」
無表情からお嬢様の目尻が上がってゆく。
踏み込み、少女だったものの頭を貫き、老人だったものの脚を蹴り砕く。
憎しみに駆られるまま群がってくる魔物の群れ。
お嬢様が身を屈め、相方がひゅいんと刈り取る。
その隙に石突きで地中に埋められた魔道具を破壊。
次の位置まで相方と共に槍のように駆け抜ける。
『生存者が居ないようならモルグ、あちらへいってあげてほしいな。こちらは戦力過多だ』
『ふむ、あちらの魔力行使手伝いか。今の手前が得意とすることだ。』
白色の体内魔力が反対方向で広がっている。
お嬢様が側から離れれば広域に作用する魔法も行使は可能だ。
だが、世界から切り離された空間では限りがある。
『それにしても、一体何を見せたかったんだろうね。魔物をけしかけたらエルを無傷で捕らえる事もできないだろうに。』
相方の声。
つまり墓荒らしたちが見せたかったのはこの風景ではないと言うことだ。
この惨劇以上に一体何を披露し、連邦国行きを留めたかったのか。
「もう知ったことじゃないです!」
これでは連邦国側で殴る相手を増やすだけだ。
相方の剣が襲ってきた男性だった魔物を焼き尽くす。
お嬢様の一打が竜の息であるように、相方の一閃も竜の息。
範囲を刀身に限定しているが、その威力は対魔物にしても過剰なほど。
「……ふっ!」
ずぐ、とお嬢様が地面を踏みしめる。
放射状に罅が広がり、百歩の先まで放たれる竜の息。
溜めがなければこの範囲が現界だが、複数個の魔道具をまとめて過負荷で破壊する。
人の姿を強く残したままの魔物化など想像もしたくない。
村の中にある停滞は、大小込みでゆうに百を超えそうだ。
果たしてこんな状況で生存者など居るのだろうか。
――望みを捨てそうになった刹那、おかしな絵が見える。
綻びかけた空白の中に揺らぐのは、誰かの体内魔力。
「左手奥、断絶ぎりぎりの民家です!」
「引っ張り出してくる。他に居なさそうならフォクシさんと合流だ。」
『じゃあ、その間エルのフォローは僕がしておこう。』
『向かう暇もないな。あちらへは魔力の五割を流そう。』
お嬢様の黄金は魔物に取って明確な憎悪の対象だ。
ゆえにひきつけ役は買って出る。
魔力体ではあるが、二人も仲間が居るのは心強い。
* * *
お嬢様が一番槍に突っ込んだ後、フォクシ嬢とゼルド氏は別方向へ向かう。
外側の断絶は破壊するのは後回しだ。
これが結界の役割をしていることは姉弟子も解ったからだ。
村に入った途端、生者の魔力に反応し、魔物が一斉に駆け寄ってくる。
「胸くそ悪くなる光景だな――。」
ぬるりと距離はゼロからマイナスへ。
魔物であれ、感情があるのならばその隙間を化かして振るうのがフォクシ嬢の太刀。
背後に回ったときには、腕のしなりと腰の捻りを使い見た目以上の距離を斬った後。
遅れて白銀の髪が揺れ、薄い黄金色の耳が動いて次の相手の位置を確認。
「ぬうん!」
ゼルド氏は左右に手にした盾で魔物を叩き潰す。
その姿勢のまま蔓を扱い地中に埋められた魔道具を破壊。
元四ツ葉冒険者で傭兵だ、地獄絵図には慣れている。
その上今の操り手は万能の教え子だ。
動きは随分と良くなっているのだが――。
「数が……多い!」
「下がれゼルド。そこで、爆ぜやがれ!」
二人には竜の息のような技は無い。
幸いにも一部魔力の流れは正常だ。
停滞を縫うように魔法の行使はできる。
とは言え、断絶された内部の魔力は限られている。
フォクシ嬢の略式詠唱によって魂に紐付いた回路を起動。
ゼルド氏の眼前で集まりつつあった魔物を吹き飛ばした。
その間にゼルド氏が更に蔓を多く伸ばして地中を這わせ、次々に元凶を破壊。
「よう馬鹿、あとどれくらいその技使えるよ? オレの見立てでは一、二回ってとこだが。」
「……如何にも。この辺りのものは破壊できたが、まだ多い。封じられている分が使えればあるいは――。」
このままでは体力が消費されてゆく未来しか見えない。
フォクシ嬢には余裕があるが、ゼルド氏は一行の中で最も弱い。
足手まといになるくらいならば、最悪の手を切ることも考える。
「あ? こんな所で危険物を放り出せってか?」
「何かあれば殺して貰って構わん、その覚悟はできている。」
「流石傭兵、安い命だなおい!」
そう言いながら、フォクシ嬢は手綱を通して封印の解除を行使。
後々妹弟子たちと合流するにしても余力は多いほうがいい。
ならばここは望み通りゼルド氏に暴れてもらおう。
かしゅ、と軽い音がしてガントレットが展開する。
その下から現れた手が即座に変質した。
「……はあ?」
「ぐ……が、あああ!!」
間の抜けたフォクシ嬢の声は無視される。
封印が解かれた途端、ゼルド氏は盾を捨てて魔物目掛けて殴りかかった。
ごしゅ、と熊のようになった手が魔物の頭を叩き潰し、胸を抉る。
それどころか理性が消し飛んだように食らいつき、肉を噛みちぎる。
人の顎力ではまず不可能だ。
そもそも停滞を即時浄化できるのはお嬢様のような一部の特殊な魔法持ちだけ。
体内に取り込むのは愚行としか言いようがない。
にもかかわらず彼は魔物になる兆候もないまま次の魔物へ襲いかかる。
「……くそ、本当に厄介なもん押し付けやがったなエルシィのダチ!」
一拍遅れてフォクシ嬢はゼルド氏の状況を理解した。
増大した魔力に惹きつけられて、更に魔物が群がってくる。
生み出されたのは蔓のような細いものではない、縄、あるいは触腕のように太い。
幸い当初の目的はきちんと覚えているようだ。
地中ではなく地上から地面を穿ち、埋められた魔道具を狙う。
余力を残しておこうと思ったがその暇はなさそうだ。
「あ、ァ、ああア゛ァ!!」
喉が潰れそうな咆哮。
それは世界の敵へ向ける逆の怨嗟だ。
魔物を招く体内魔力は、ゼルド氏のものではない。
あれは小さな魔力にして大いなる魔力だ。
だからこそ停滞があればそれを潰し、世界をあるべき姿へ戻そうとする。
「あの馬鹿、聖獣憑きだったのかよ!」
聖獣に関する知識はあまり広まっていない。
知恵ある聖獣ならともかく、聖獣憑きはその呼び方すら知られていない。
原理としては魔力塊である聖獣が別種の生命体に留まり、肉体を変質させたもの。
少しでも空白が存在すればそれを嗅ぎつけ、宿主を操って襲いかかる。
そのため本人の望まぬうちに荒事の世界へ巻き込まれる。
フォクシ嬢とて見るのは初めて、即座に解らなかったとしても仕方がない。
振り回されるゼルド氏の腕をかい潜り、魔物の胴を切り捨てた。
「……くそ、聞いてたじゃねえか、お袋に笑われる!」
かつて彼が戦い途中意識を失ったのは、聖獣が宿主の体内魔力を食ったからだ。
体内魔力は世界の魔力に対して微々たる量。
無理な魔法の使わせ方をしていてはすぐに枯渇する。
だが、聖獣にはその判断能力がない。
魂と魔力は強く紐付いている、失われれば魂が削られる。
だからこそ早めに再封印をする必要があるのだが、戦いながら手綱の操作は難しい。
手間取っている間にもゼルド氏は聖獣に体内魔力を使われる。
「フォクシさん、生存者一名確保しました……ゼルドさん?」
良いタイミングでお嬢様たちが合流。
その中、血煙の真っ只中で別人のように大暴れしているゼルド氏を見て眉を寄せた。
お嬢様の相方は草臥れた王国服を身に着けた青年を抱えている。
日に焼けた肌をしているが、髪は真っ白に染まっていた。
これだけの惨状の中で生き延びていたのだ、色素が消えたって不思議ではない。
『聖獣憑きとは珍しい。しかも随分定着しているな。』
「フォクシさん、封印を急いだほうがいい。このままじゃあいつ、自分を食い殺すよ。」
「急かすな、今やってるっての! つーか誰だよその知恵ある聖獣!」
お嬢様たちが加わり、やっと手綱を掴み直して封印を施す。
ゼルド氏の手が人のものに戻り、がしゅんとガントレットが聖獣を閉じ込める。
同時に力尽きたようにゼルド氏が崩れ落ちた。
随分な量を食いつぶされたらしい。
『モルグと言う。先程から貴殿らに魔力を供給させてもらっていた、エルエル嬢の元同級生だ。彼以外の生存者は居ない。あの時の一打、今一度打てば事足りよう。』
「ほんっと変な同級生しかいねえな!」
軽く自己紹介を終えた所でお嬢様に対する竜の息が要求される。
確かに範囲が広すぎる。
破壊した魔道具も全体の六割程度。
おまけに外周のものは全て残っている。
「それじゃあ、あのときのように守ろうか。」
『フォクシさんはそこで倒れたゼルドと、生存者の方をお願いするよ。』
『こちらは手前らでなんとかする。』
「ぜってーここの領主! ぶん殴る!」
迫ってくる魔物はまだまだ居る。
封印が施されたことでより目立つお嬢様が標的となった。
ならば簡単だ、モルグ氏は慣れ親しんだ手槍を作り出し、ひたすら投げて牽制する。
カイゼルは魔力の風を循環させ、これ以上の停滞を生み出させない。
ルゼイアは断絶の剣戟を以って魔物からの怨嗟の刃を尽く飲み込み尽くす。
「すぅ――。」
構えは自然体に。
呼気を整える度に黄金の魔力が一周り、二周りと広がる。
ゆらりと黄金の尾が揺れ、金の翼が大きく広げられた。
周囲の空白をお嬢様という存在が書き換えていく。
白い角から届く音は魔力と気の流れ。
竜の顎は半歩と共に突き出された。
翼で空気を打ち、尾と脚で地面を叩く。
背と足元から黄金の渦が螺旋を描き、肩で融合して腕へと駆け抜ける。
「ふっ!」
今回は収束させる必要がない。
お嬢様の位置を起点により遠く、より広くに眩い黄金が埋め尽くした。
物理空間にまで及ぶ衝撃波が結わえていた髪を解き、荒々しく揺れる鬣と化す。
「流石に届き過ぎるのは不味いよね。」
黒銀の魔力が過剰な余波を抑え込み、無駄な破壊を抑え込んでくれた。
広がっていた空白は、全てお嬢様の色彩に上書きされる。
覚醒を併用しているため、より根源に近い竜の息。
その威力は村に埋められた魔道具の内部回路すら焼き切る。
残心、握拳。
竜の顎は閉じられる。
「こりゃあ……、確かに普段使いはできねーな。」
最早呆れを通り越した声でフォクシ嬢が呟いた。
広域に対する攻撃ついでに周辺の地形を消し飛ばす、過剰火力もいいところだ。
黄金に染め上げられた世界には、何の建物も残っていない。
『これは驚いた、あの時以上だ。』
「……ですが、今回は何方も。」
魔物になってすぐならば、モルグ氏のような事例もあったかもしれない。
けれど既に変異してから日数が立っている。
おまけにこの場所は閉鎖空間ではない、魔力溜まりは作られない。
「一人でも助けられただけ奇跡だと思うぜ? あの有様で何日耐えたんだこいつ。」
慰めではなく事実だろう。
魔物の群れの中で一人だけ、運良く停滞の魔道具の隙間に隠れられていた。
墓荒らしが何を目論んでいたかは掴めないが、お嬢様の心に油を注いだだけだ。
打つべき相手は魔物ではなかった。
「ルゼイア。」
「本来の姿に戻るのは随分懐かしい気がするね。」
お嬢様の要望を受けて、魔王はその姿を本来のものへ戻す。
覚醒状態から更に鱗が広がり、首が伸び、顔の形状が変わってゆく。
空帝竜の実体は、全長にして二十メートルほど。
変わらないのは瞳と鬣の色。
成長したからか、顔つきは随分と精悍になっている。
「少しだけ、訪れたことを知らせてきます。待っていてください。」
『カリストさん達に領主邸の方向を聞いておいてよかったよ。』
「おい、あんま目立とうと――。」
姉弟子の言葉でもこればかりは聞けない。
王国の元貴族として、民として、そして何より個人的に。
許せるはずがない、してはいけない一線を何の躊躇もなく超えたのだ。
身をかがめてくれた相方の背へ飛び乗る。
「待っていてください。」
抑揚の消えた声を受け、姉弟子が黙り込む。
金の瞳は怒りのあまり暗く冷え切り、底が見通せない。
墓荒らし達はこれ以上の何かを見せようとしていた。
間に合わなくて助かった、今なら軽いノックで済ませられる。
『軽く挨拶をするだけだよ、数分もあれば戻るさ。』
安心させるように相方が告げ、一気に蒼天へ駆け上がる。
みるみるうちに大地の緑から離れ、広がるのは蒼天と白い雲。
眼下を見れば、標的の確認は容易だった。
想像通り、無駄に豪華で無駄に快適そうな作りの屋敷だ。
自分たちの使う道だけは整備している。
それらの維持のため、ベイル村は皆殺しにされた。
拳は握ったまま、きゅう、と瞳孔が縦に伸びる。
体内魔力位置の把握、建物内部構造の把握、停滞の魔道具による誤魔化しを把握。
距離の概算完了、そこから打つための力を逆算、軌道の確保は終わっている。
この国に後悔を残さないためにも、手早く終わらせよう。
「この――。」
気合以外の声など無駄なだけだ。
それでも叫ばずにはいられない。
この高度なら聞きとがめられることもないだろう。
思い切り広げた翼で風を打ち、返ってきた力を再び腕へまとめ上げる。
大地ではないので踏みしめることはできないが、充分だ。
「外道!!」
キュン、と甲高い音が響き渡り一条の光線が放たれる。
二度目の竜の息は極限まで収束させたもの。
金色の光線はあやまたず、領主邸の一角を貫いた。
射線上にとらえていた魔道具も、文字通り蒸発させる。
人死には出さないよう気をつけた。
領主の耳が少し焼ききれたくらいだろう。
最終的に領主邸のはるか後方へ着弾、轟音と衝撃波が空気を揺さぶった。
騒ぎが起きたが、後のことなど知ったことではない。




