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ちょとつ!@異世界にて  作者: 月蝕いくり
第四章~ギミックだらけの遠征試合~
53/112

第10話 バックステージの発見

2021/05/14大規模修正

 お忍びの者が多く訪れるということは、専用の談話室なども用意されている。

 この時期は氷室から涼しい風が入ってくるため、大変心地良い。

 部屋を抑えたのはカリスト嬢だ。

 田舎領主の家系と言われていても、きちんと貴族の知識を修めている。


「いやー! 久しぶりではしゃいじゃった!」


 楽しそうににこにこ笑顔なのはレオン嬢。

 柔らかなソファにカリスト嬢と共に腰掛けている。

 一方フォクシ嬢は柔らかすぎて居心地が悪いらしい。

 おまけに膝の上にお嬢様の頭が乗っかっている。

 レオン嬢は学園時代と同じようなお忍び姿、カリスト嬢は男装じみた姿。

 確かに領民の手伝いをするのであれば、ズボンの方が適している。

 一方姉弟子は王国のシャツに短パン姿、着物やらは部屋に置いてきている。

 お嬢様はホルターネックのインナーとスカート姿。


「……レオン、後で頬を張ってあげるから覚悟しなさい。」


 その言葉だけで空気中に無数の氷塊が生み出された。

 瞬きする時間程度で独自魔法を組み上げたらしい。

 ちょっとカリスト嬢の能力がおかしいことになっている。


「ご、ご、ごめんって! まさかエルさんのぼせるって思わなくて!」


 氷塊の切っ先は軒並みレオン嬢に向いている。

 即座に諸手を上げて降参ポーズを取った。

 あの後、積もる話が多すぎて気づいたらお嬢様の意識が飛んでいた。

 そういえば学園の共同浴場に入ったことはなかった。

 お嬢様の限界が読めなくても仕方がない。

 会話内容は立ち直った後のことや、お嬢様の状況について。

 情報の共有は大切だ。


「エルはたまに自分の事が見えなく――。」


「ルゼイア君?」


 降参ポーズを取っていたレオン嬢が底冷えする声で名を呼んだ。

 茶色の瞳が激怒モード、瞳孔が真ん丸に開いている。

 降参ポーズから既に握拳済み、飛びかかる準備までできていた。


「私、喋っていいって言ったかしら?」


 カリスト嬢の用いた魔法規模では魔王に有効打とならないのは百も承知。

 その一言を文言に追加で空間内を埋め尽くすほどの魔法回路が待機した。

 騎士科に所属していたが、魔法使いとしての才能は天才だろう。

 加えて全身から迸る般若の如き圧力が怖い。


「ごめんなさい。」


 方や心を折られた被害者。

 方や友人を害され、事情を知った同盟者。

 お嬢様に代わり、しっかり二人から頬を張られている。

 現在床の上で正座させられているのが魔王こと相方だ。

 ちなみに普段着のラフに着崩した王国服上下姿、着物と帯は部屋に置いてきてある。


「話に、夢中になりすぎてました、すみません。あとルゼイアのことはそろそろ許してあげて――。」


「駄目。」


「無理ね。」


 却下されたが、お嬢様の発言でようやく待機魔法が消える。

 二人がもう一度お嬢様たちに向き直った。

 相方本人も罪悪感的なものはある。

 素直に正座を続けるようだ。


「……お前の学友、変な奴らばっかりだな。」


 頭の上からフォクシ嬢の声が降ってきた。

 現在は扇子であおいでもらっている。


「そう言えばルナリィさんが、ツァーボ先生のクラスはおかしいって言ってたよー。」


「レオン、いい加減本題に入りなさい。」


「おっと。」


 湯船の中、中断した話題は三つ。

 お嬢様たちが目立たず使える広域攻撃を持たないこと。

 そのせいで道中の魔獣に肉弾戦メインで挑み、相当な消耗をさせられた。

 もう一つは向かおうとしていたベーラ領ベイル村の情報についてだ。

 最後の一つは女子トークなので横においておく。


「こいつの固定魔法がなけりゃ、ある程度オレは使えるんだけどな。」


「ぐう。」


 魔法を阻害する最大の要因。

 それがお嬢様の固定魔法だ。

 強力な阻害魔道具のお陰で規模はある程度抑え込める。

 一方広域への攻勢となれば、必要となる大いなる魔力は多い。

 お嬢様を戦力として数えなければ行使は可能だ。

 だがそれに慣れてしまえばこの先の行動に支障がでる。

 フォクシ嬢の仕事は国境越えまでなのだから。


「他に大規模って言ったら、刻印魔法だよねー? あ、魔道具じゃないほうね!」


「それって、東部丘陵地帯を作った大規模魔法みたいなものじゃない。」


 刻印の中でも、規模が小さく日常生活に使われるものは魔道具と呼ばれる。

 とは言え魔法の一種であることは確か。

 文言魔法に比べて使い方が限定的ではある。

 だが刻印の規模によっては文言魔法を遥かに量がする効果を生む。

 最大の違いは文言魔法が体内魔力で回路を組むのに対し、物質で回路を作ること。

 流し込む魔力は規模によるが、体内魔力(オド)大きな魔力(マナ)のどちらでも構わない。


「大体あれは設置型だろ? 動き回るオレらにゃ縁が無ぇ。魔法団長に相談案件かねえ。」


「そちらに関しては任せるわ。それより問題はベーラ領。本当何なのここの領主!」


 今までとは違った方向でカリスト嬢が嫌悪感を露わにした。

 他領地の家系だ、近くに来た際に挨拶に向かったらしい。

 お嬢様の予想通り、領主宅周辺は非常に環境が良かった。

 それまでの道中で散々な目に合い、汚れた姿を見て馬鹿にされたとか。


「その癖、露骨に視線を向けてくるのよね。顔とか体つきに。」


「流石のあたしも何回か目潰し仕掛けようかと思ったよー。まるで玩具を見るような目だったもん。」


 典型的な嫌な領主で女の敵。

 特に何も言われていないのに相方が身を縮めた。

 お嬢様は気にしていないが、被害者二名が許さない。

 さておきベーラ領の領主に関してはお嬢様も言いたいことは沢山ある。


「それで、ベイル村だっけ。あたしたちもカール君とフュースト君からこっそり聞いてるんだけど、ほんと情報出てこないんだよね。仕方ないから現地に向かおうとしたら――。」


「道中魔獣が沢山。地図には存在するけれど、実在するのかどうか怪しいわ。」


 ただの村一つ。

 魔獣の巣窟が側にあるというのなら、村人だけで凌ぎ切るのは難しい。

 昼夜問わず襲いかかってくるのならば相当な防壁が必要となる。

 領主邸から離れに離れたそんな場所に立派な建物があるとは考えられない。

 二人の出した推測は存在しない、もしくは既に全滅している、であった。


「それでも、墓荒らし(グレイヴン)の方がそこに誘導しようとしていたということは何かあるのでしょうね。」


 まさか魔獣被害を助けるためにお嬢様達を騙して向かわせるわけはなかろう。

 手懐けているのならともかく、獣は獣だ。

 お嬢様を傷つけるな、という趣旨に反する。

 ならば矢張り、まだ準備ができていないのだろう。


「……このまま進むとなると、広範囲に影響を及ぼす魔法が使えるようになりたいです。」


 明日には再びあの泥沼行軍が待っている。

 残念ながらレオン嬢もカリスト嬢も、一緒に行動することはできない。

 彼女らはそれぞれ領主の娘であり、地位に応じた行動が求められる。

 ここで顔を合わせたのだって、それを利用したぎりぎりの行為だ。


「エルさんは固定魔法で大いなる魔力が使えないからねー、大規模は……うーん。」


「刻印魔法なら大丈夫でしょうけれど、事前設置ができないものね。」


「そもそも一つの効果しか出せねぇ刻印じゃ、応用も利かねぇだろ?」


 課題は盛りだくさん。

 だが、ふとお嬢様は学園編入初日、馬車に揺られて見た物を思い出す。

 刻印魔法の中でも小規模なものが魔道具だ。

 そしてヴィオニカ連邦国では、複数効果を働かせる魔道具の開発に成功している。

 体内魔力を回路に全振りしているお嬢様だ。

 それでも魔力撹乱をしていれば大いなる魔力を吸収しない。

 あるいは先日贈られてきた多機能調理器具の魔道具。

 お嬢様の体内魔力を世界との契約に気付かれない程度盗んで物質化を行う術式。

 どちらも有する機能に上限があるが、大切なのはそれを介して魔法が発動する点。


「魔道具まで刻印魔法を落とし込んで……。」


 姉弟子がぎょっとした顔になる。

 そんな事を考えた者が居なかったわけではない。

 過去何度も研究されてきた。

 それでも実現には至らなかったことは、少しでも学があれば知っている。

 フォクシ嬢の膝の上でうんうん唸りだしたお嬢様。

 たまに理解し難い事をしでかすことを全員が知っていた。


「おいおい、地形まで変えるような目立つのはやめてくれ。」


「まだ出来ると決まったわけでもないですし、きちんと目立たない方で考えますよ!?」


 物体を用いる以上、立体化が容易であること。

 それは同時に任意の形にできないことを意味する。

 冒険者に限らず、場面場面で必要な魔法は変わってくる。

 攻撃、防御、回復、補助。

 それぞれ一系統ずつ仕込むにしても緻密すぎる回路が複数必要だ。

 出来上がったとしても相当な大きさになるだろう。

 おまけに使う間は体術のほうへ意識を割けない。

 広範囲に作用する魔道具を体内魔力で行使するには世界との契約が邪魔になる。

 あちらを立てればこちらが立たない。


「あ、エルさんが考え込んでる時の顔になってるー。」


「フォクシさん、同情するわ。」


「あの、カリストさん、レオンさん。私の事を一体何だと……。」


 思考途中だが、あまりの評価に思わず口を尖らせる。

 返事は即座に返ってきた。


「魔王にベタ惚れした勇者。」


「そのフレーズの時点でめまいがするわ、勇者と魔王の物語って大抵英雄譚よ?」


 やぶ蛇だった、折角冷えてきた顔が赤くなる。

 直接惚れたと言われるとむず痒い。

 二つの要素が混ざって恋愛譚になるお話など聞いたことがない。

 そんな常識破りだからこそ、今回もしでかすに違いないと思われている。

 学園では相当猫を被っていたはずなのに。


「ミズールさんからエルさんの過去を何度か聞いているわよ。随分と大人しくなったって。」


「うぐっ。」


 恐るべきは過去を知る幼馴染。

 ぐるっと二人から顔を背けたらフォクシ嬢に頭を叩かれる。

 膝の上で動いたのがまずかったらしい、びくっと跳ねていた。

 大変敏感なことを忘れていた。

 声を出さなかったのは意地だろう。


「あとはー、セラさんからも色々聞いてるからねー。程々に……あ、ルゼイア君巻き込むのなら全力でやっちゃっていいよ!」


 背中側では大変良い笑顔をされたのだろう。

 絆越しに相方が居心地悪そうにしている。

 暴露したときお嬢様に殴られるつもりだった。

 体調不良のせいで上手くいかなかった分、ここで罪を禊ぐようだ。


「で、ですから上手く行くかどうかもわかりませんし、考え始めたところですから!」


 一朝一夕で解答が出来上がるほど化け物ではない。

 とは言え不可能とは感じない。

 殆どの論文や資料は頭の中に入っている。

 あとは要所要所を思い出し、上手く体系として組み上げねばならない。

 刻印魔法で任意に魔法(きせき)を組むならば、グラウンド家のように滅茶苦茶さが必要だ。

 回路として仕込む物質を任意の形に都度を変えるとしよう。

 そうなると今度はその制御に魔力が居る。

 それ自体は調理器具と同じように、僅かな量で済むだろう。

 今度は内部構造が複雑になりすぎ、持ち運びが難しいほど大きくなる。

 おまけに黄金竜を顕現させた場合、どの道使い物にならない。

 あれは既に体内魔力ではなく、一つの魔法として完成しているからだ。

 一つ一つ問題点を潰せば次から次へと課題が現れる。

 いっそこだわらずに覚醒で戦ったほうが楽なくらい。


「それにしてもどうしてあんなに魔獣が増えたんだろうねー、ベーラ領。」


 お嬢様が思考に没頭しているので、レオン嬢達の会話を聞くのはフォクシ嬢。

 得られる情報は武器になる、ただでさえこの領地はわからないことが多い。


「散々戦ってきたが、あんなもん騎士団に救援要請が必要なレベルだったぜ。」


「そうなのよね。なのに問題ない、領内で対処できているの一点張り。」


 領主の顔を思い出したのか、カリスト嬢に再び嫌悪感が浮かんできた。

 少なくとも道中さんざん襲撃される状態は対処できているとは言えない。

 おそらくこの領主が主張する領内は、自分の屋敷周りだけのことなのだろう。


「でも、カール君が仄めかしたってことは、何かがあるのは間違いないわ。」


 それでいて、お嬢様に亡命先を考えさせる何かが。

 準備が終わる前にその何かを妨害するのがひとまずの目的。

 野暮用が終わればさっさと国境を渡ってヴィオニカ連邦国へ入ってお終いだ。

 今最も危険なのは国内に留まり続けること。

 お嬢様への悪評が固まれば、王室へ不信感が高まったところで何とでもなる。


「さーて、そんなわけで取りまとめましたはベーラ領の裏事情ー!」


 ばばーん!と両腕を広げてよくわからないポーズを取るレオン嬢。

 その効果音にふさわしくものすごく弾んで揺れる。

 掴んでいるのなら最初から話せよ、というフォクシ嬢の視線はスルーされた。

 なお後頭部をカリスト嬢に鷲掴みにされて冷や汗をかいている。


「ど、どうもヴィオニカ連邦国と取引してるみたいだよ。自分の領地の貸し出しみたいな感じ。」


「貸し出しぃ? ロウエルみたく切り売りしたわけじゃねえんだな。」


 王国の領地を他国へ譲渡するのであれば、その旨を王室へ打診する必要がある。

 その後貴族院と共に審議が行われ、可決の後初めて譲渡が成立する。

 当然その収入は国庫に入る、領主には一文も渡されない。

 領地の貸し出しとなるとそれに近いが、決定的に違うところがある。


「……今からあの領主の所行って問い詰めてくるわ。レオン、証拠は揃ってるんでしょうね。」


「割れる割れる割れる! カリストさん、指食い込んでるから! 落ち着いて!」


 正式な手順を踏んだ報道は一切ない。

 つまり明らかな越権行為であり、国家反逆行為に含まれる。

 カリスト嬢の声が強張ったとしても仕方がない。

 随分体調の良くなったお嬢様がようやく体を起こして。


「私も殴りに行きますね。」


 カリスト嬢に賛同する。

 道中の怠慢といい、学友二名に向けた視線といい許せない。

 よくお母様の目を欺けたものだ。

 契約と制約の隙を付く悪知恵に長けているのだろうか。


「エル、目的を見失わない。今の僕たちじゃ暴力に訴えてそれで終わりだよ。」


 それこそ魔王の所業だ。

 魔王に指摘された激高女子二名は少し思考を落ち着かせる。

 ようやく膝が空いたフォクシ嬢は座り慣れない柔らかなソファから退却。

 この場が個室で助かった、危ない会話をしていても聞くものは居ない。

 帝国の知恵ある聖獣が聞いていたとしても、王国での出来事だ。

 徹底的に我関せずを貫くことだろう。


「カリストさんも落ち着いてね! あたしの頭蓋が砕ける前に!」


「……忘れていたわ。」


 こほん、と気まずげに咳払いをしてレオン嬢の頭部が解放された。

 お嬢様も改めて話を聞くため、居住まいを正す。

 ぴしりと背筋を伸ばし、碧瞳が真っ直ぐ向けて表情を引き締める。

 それがどれだけ凶悪な存在感を放つか自覚していない。


「……う、うん。ええと領地の貸し出しをしているんだけど、どうも何か実験してるみたいでねー。」


 目の前に座る年下のお嬢様から放たれる圧力に押され気味ながら説明してくれる。

 わざわざ他国の領地を借りるのは国内ではできないような実験をしているため。

 その危険性があるため、ベーラ領には多額の金銭が譲渡されている。

 随分昔からこの取引は行われているらしい。

 ロウエルへの道を整備しなかったのは隠蔽のため、つまり五十年は行われている。


「実験、実験ねえ……。最初に遭遇した追手のやつら、見たことねぇ魔道具持ってたな。明らかにエルシィ対策だろ。」


「あ、偽名だね。音が何か可愛いよねエルシィさん! ……おっと。フォクシさんご明察。実験内容はまさにそれだよ。」


 お嬢様の真面目な表情と、横に控える学友の冷たい視線を受けて即座に説明へ戻る。

 とは言えそんなにも前からお嬢様対策をしていたとは考えられない。

 生まれてからまだ十三年、それに間違いはないはずだ。


「レオン、それだとエルシィさんが産まれる前から対策を講じていたように聞こえるわ。宮廷魔法団長でもあるまいし。」


 お母様の印象は、少なくとも貴族全員の共通認識らしい。

 一方駄目になった姿をよく知る三名は内心微妙な表情だ。

 貴族時代の練習のお陰で表立って顔には現れない。


「そうだねえー。だから本命は、その魔道具のほう。とはいえそれも副産物に過ぎないみたいだよ。」


「……魔力の停滞。」


 実地訓練の場に残されていた、ヴィオニカ連邦国由来の魔道具。

 故意に停滞を起こして人に益するものはない。

 それこそ魔災を起こしたいのならば――、お嬢様は眉を顰めた。


「裏では色々確執があると聞いていますが、まさか王国内で魔災を引き起こそうと?」


 本来魔法行使による停滞が起こる場所は指定できない。

 世界の何処かが止まり、そして自浄作用によって再び流れる。

 だがあの魔道具を使えば、好きな場所の魔力を止めることが可能だ。

 嫌な推論は、レオン嬢が首を振ることで否定された。


「ううん、王国への対策であったことは間違いないんだけど。主目的は、魔力の視界を持つ者から逃れるため。」


「お母様対策ですか……。」


 家族故に知っている。

 お母様の魔力感知能力は人の域を軽く超えていた。

 お嬢様は相方の分見が音を届けてくれていたが、お母様の場合は更に異質。

 それとなく魔力を引き寄せ、何気なく遠くを見て、遠くを聞き、遠くを知る。

 意図した隠し事など容易に暴かれ、隠れたとしても見つかっている。

 後ろめたい相手からすれば恐怖以外の何者でもないだろう。

 だからこそ世界の流れから寸断された空間を作ろうとした。


「ですが、世界に突然不自然な場所が生まれてはすぐにバレる気もします。」


「そこなんだよねー。どうも対策が甘いっていうか、適当な感じがする。停滞の起こりそうな場所で使うにしても、わざわざ王国を実験場に選んじゃうとか。」


 お母様に実験内容を見せつけているようにしか思えない。

 本来放置すべきではない案件だが、お母様達を縛り付ける契約は思いの外強い。

 能力は国の防衛や発展に使えるものの、一方戒める事ができない。

 それは他の家の役目だ。

 フォールンベルト家が担うような些事ではない。


「なんつーか……、連邦国にも居るんじゃね―か? ならず者の集団(グレイヴン)。」


「王国からあちらに居着いた元貴族とかも居るからねー、無いとは言えないよー。」


 少々頭が痛い事実だ。

 連邦国がどれだけ影響を受けているかはわからない。

 少なくとも実験を行っている州は繋がりがあると考えておくべきだろう。

 しかし、その繋がりだけでは亡命を思い留まらせるには至らない。


「それで、レオン。どの州が技術提供しているのかまで掴んでいるの?」


「爵位はあたしの方が上なのに、完全に呼び捨てで定着してる!? 少し前まで落ち着いたらさん付けに戻ってくれたのに! あっ、フェイル州です。」


 こきり、とカリスト嬢が指を慣らした瞬間に報告。

 相変わらず仲は良さそうだが、一体この二人に何があったのだろうか。

 随分とやり取りのテンポが軽快になっている。

 あまり詮索しすぎて矛先を向けられるのも御免だ。

 復活したレオン嬢と再会できただけ良しとしよう。


「フェイル州、フェイル州……。」


 流石に拠点は王国内。

 姉弟子は国外にはあまり関わりがない。

 どういった州なのか思い出すのに時間がかかっている。


「真っ先に王国との交渉テーブルに賛同した州ですね。確か浮遊岩地帯にあるため、飛行船操作のため魔法技術を強く求めていたところです。」


「ついでに言うなら真銀の産出量も中々のものだっけ。魔道具の研究も盛んで、かなり潤ってる。なるほど、ロウエルに道を引かなくてもお金が入るわけだ。最悪だね。」


「妹と弟に負けたぁ!」


 これでも貴族教育を受けてきたお嬢様とその相方だ。

 しっかりセラに叩き込まれている。

 頭を抱えて叫ぶ姉弟子には悪いが、冒険者家業では先輩なのでここは譲って欲しい。


「……フォクシさんも随分変わり者なのね。」


 学友に対する変なやつ発言はしっかり覚えられていたらしい。

 ざっくりとカリスト嬢が切り捨てた。

 この時お嬢様の内心に浮かんだ異世界の言葉がある。

 類は友を呼ぶ、深く考えないほうが吉かもしれない。

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