第14話 絶体絶命ケーニッヒ
2021/05/01大規模修正&追加
「それでだ、オレが聞いていて良いものなのかね?」
ごくごく自然に相方との二人の空間を作り上げた二人。
対して、姉弟子が呆れた視線を送る。
身構える構えるあまり忘れていた。
「弄る手間がないのなら。それに、フォクシさんはシルヴィさんを止めてくれたからね。」
ルゼイアは困った笑みのまま頷いた。
そもそもお嬢様を国外へ逃がすのがフォクシ嬢の仕事だ。
隠し通せないのならば、持っている情報は正確な方が良い。
相方もセラの授業を受けているし、実際痛い目にあった。
重要性は身をもって理解させられている。
「魔王の恩返しとか、喜劇にしか聞こえねえよ。」
「僕もそう思うよ。全くこれだから世界っていうのは。」
「……カイゼル。」
「おっと。」
話がそれて行くため、低い声で嗜める。
んん、と咳払いで仕切り直し。
あらためて青い視線がひたりとお嬢様の碧と絡み合う。
「まず僕は、空帝竜という存在に包まれてる。これはスフォルさんや祖龍のじじいがやってくれた封印術のお陰だね。」
「カイゼル、呼び方。」
眼尻を上げたお嬢様から注意が飛ぶ。
今まできちんと呼んできたのだ。
正体が判明した途端に呼び方を変えることは許さない。
リンド叔父様はお嬢様とて散々遊んでもらった身内だ。
お父様に関して言えばルゼイアから見ても父親らしい。
流石に蔑称で呼ぶことはない。
「……スフォルさんとリンドさんが、魔王である僕を産まれる前に空帝竜の形に封じた。エル、君を守る手札にするためだ。」
「言っておきますけど、私貴方の事を手札だなんて思ったことはありません。」
言い直してくれたので表情は元に戻る。
手札と言う表現が大変気に食わなかったので否定する。
相方が少し嬉しそうな顔浮かべる。
それにしても発現の内容が滅茶苦茶な規模だ。
現にフォクシ嬢が手で顔を覆っている。
「お前の親父さん馬鹿だな? 馬鹿なんだな?」
「ちなみに、術式自体の草案はフリグさんだよ。」
「揃って親馬鹿らしいなそういえば!」
奇遇ですね、身内のことながら私もそう思いました。
口には出さないが、お嬢様の内心はフォクシ嬢に読まれる。
姉弟子はがっくんと見てきた中で最大級に肩を落とした。
これ以上突っ込みを入れても無意味と判断したようだ。
新しい魔力撹乱の魔道具をあっさり作れるわけだ。
お母様はお嬢様が産まれる前から停滞の解析を済ませていた。
二人の様子を見なかったことにして、相方は説明を続ける。
「本来知性と憎しみだけの魔王に、相方という繋がりを通して色々な感情が流れ込んできた。」
竜人と相方の竜は絆で結ばれる。
それは意志だけでなく感情のやり取りも含まれる。
ゆえに二つをもってようやく一人前。
本来魔王は喜怒哀楽と言う感情を持たない。
有するのは奇跡の代償とした憎の一つのみ。
そんな存在にとって、お嬢様から流れ込む未知の感情は眩しすぎた。
お転婆がすぎるため、一瞬一瞬でくるくると代わる考え、思い、感情。
それだけならまだ変質には足りない。
追加でやってくるのがお嬢様の中にある複数名の記憶だ。
お嬢様の体験を彼らの記憶と思考でシミュレートし、その結果まで流れ込む。
意識を切り替えたり、状況に応じて最適を選ぶのはお嬢様自身の能力。
物心ついた頃からずっとそうだ、二次性徴からの実感は副産物に過ぎない。
たまに失敗して混線し、情緒不安定になることは確か。
だが複数の意識を並列処理できる時点で常識外だ。
そんな膨大な情報量に曝され続け、魔王という存在は変質し、感情を得る。
「あの、その説明だと私、とんでもない暴れん坊ということに……。」
「ミズールさんと庭師を泣かせたことは何回? 一緒に厨房に忍び込んでつまみ食いしたことは? 風邪だっていうのに走り回って倒れたのは両手で足りるかい?」
「聞こえません!」
「お袋から聞いてた通りか……。」
お嬢様、すっと頭を抱えて現実逃避。
姉弟子からの引いた視線が突き刺さる。
一緒に育ってきた仲だ、暴れっぷりは全て覚えられている。
随分と様々な系列の技や知識を有していると思っていた。
矢張り一人のものではなかった。
「――まあ、このあたりはどうでもいい話なんだ。」
充分どうでもよくない話だ、過去の悪行を暴露された。
お嬢様の沽券に関わるが、相方の話は終わっていない。
これ以上に重要な事があるというのならば耳を塞いでいられない。
「大事なのは、僕が君と同格であるということ。」
「魔王に並ぶと言えば、大いなる魔力に愛されるものか、添えてあった物語にも乗ってた、勇者って呼ばれるやつだな。」
「そうだね。だからそもそも僕でないと同格として成り立たなかった。スフォルさんはお粗末なでっち上げのせいでフリグさんに凄く絞られてたけど。」
騎士団を動かした話は嘘だった。
物語の中で魔王を討伐するものは勇者だ。
大仰な呼び方ではあるが、上位存在から選ばれた者だとかではない。
物語においては数多の困難を乗り越え、時に折られても立ち上がる者。
最後には魔王という最大規模の魔物を前にしても折られない勇気を得る者。
その実態はフォクシ嬢の説明の通り大いなる魔力に愛されるもの。
世界が壊れた箇所の修正を行うために生み出した自浄作用の化身だ。
おかしな固定魔法が成立しても合点がいく。
お嬢様の血筋のせいだけではなかった。
ただそう言われても全くピンとこない。
何せこの魔王とは生まれたときから一緒だ。
共に育ち、弟、あるいは異性として見てしまった相手。
討伐どうのこうのと世界から求められようが拒否する。
「お陰で僕は、目論見通りエルのことを守ろうという気持ちが沸いた。ただ、その……。」
言い淀み、視線がさまよう。
その様子だけ見れば年相応の少年にしか見えない。
様々な感情を得た今、最早停滞を扱える人にしか映らない。
恐らく此処から先が話の核心。
相方が最も伝えたかった部分。
「僕の血が、一時的にエルの中に入った辺りから。」
恐らくは誘拐された一件。
拘束術からお嬢様を守るため、カイゼルが間に割って入った。
その時にわずかながら飛び散った血が飛び込んでいる。
「魔物の血は停滞を帯びている。存在そのものが停滞だ。だから、あの時のエルを歪めないために無理やり吸い出させてもらった。」
「ぐむっ……!」
唇を奪われたときのことだろう。
今でこそ体内に汲み上げた魔法によって停滞は即時打ち消される。
ただ回路が出来上がったばかりのあの時は暴走していた。
僅かな異物であれ、後々どんな影響を及ぼしていたかわからない。
あの時すうっと頭が冷えたのは、体の内に落ちた憎しみを吸い上げられたから。
流石に唇を隠すなんて行動は取らない。
羞恥心が無いと言えば嘘になる、何せ聞き手がいるのだから。
「接吻くらいはすませてるってことかね。」
心を読む狐人はこれだから!
睨んでおいたが、それより先に視線をずらされている。
武器になる表情でも見られなければ効果がない。
「それから途端に過保護になるものだから……。」
相方の事を気にかけ続け、早く声が聞きたいと距離を詰めた件だろう。
お嬢様の思考や思いを何度も投げかけて、語りかけた。
この時点で気が付かないほど、お嬢様は鈍くない。
すうっと顔を青ざめさせ、震える唇で確認作業。
「あの……、もしかして、私の感情とか、感覚とか……。」
「……はい、全部伝わってきました。」
居住まいを正す相方。
この先の展開は予想が付いたのだろう。
そして予想通りの行動。
一瞬で距離を詰めたお嬢様が全力で大地を踏みしめ、肘からの体当たり。
「ふぶっ。」
ただし現在絶対安静を言い渡された身だ。
威力を乗せることも力を伝えきることもできなかった。
ぼふっと相方の胸板に頭から突っ込んだ。
魔力撹乱と意識の同期も取れていないので純然な体の動きでしかない。
踏み込んだ瞬間に力尽きる。
ぐらんと目の前と頭の中が回る感覚の後、意識が一瞬ぶつりと途切れた。
崩れ落ちる前に抱きとめられる。
「馬ッ鹿かお前、絶対安静つっただろ。」
不運にも、すぐに意識を取り戻した。
フォクシ嬢の呆れ声が聞こえた。
音が遠く聞こえるが、このまま気を失えればどれほど楽か。
相方の方から歩み寄りを許してしまったため、彼から経験が流れ込む。
夜会の折、テラスで踊ったこと。
至近距離から眩しいばかりの笑顔と熱に火照った顔、少し含めた香の甘さ。
抱きしめたくなった。
模擬戦での打ち合い。
意図せずとも息を合わせて動き、遊び回っていたことを思い出す。
ずっと続けたかった。
その癖普段の座学時間。
近くにいれば見るからに視線が泳ぎ、落ち着き無く耳が動いていたこと。
隠そうとしているところが大変愛らしかった。
――唇を重ねたこと。
理由なんてなく、思うままにあの柔らかさを堪能したかった。
この辺りはぎりぎり致命傷手前。
お嬢様の口からろくに吸い込んでいない息が絞り出される。
「くふっ……。」
たてがみの手入れと言って、惜しげもなく無垢な白肌を押し付けてきた。
毎晩欠かさず甘えて抱きつかれ、至近距離から無防備な寝顔を見てきた。
素知らぬ振りをしていたが、衣擦れの音に喉から溢れる色めいた声を聞いていた。
絆が成立した瞬間、竜人としては喜ばしいことだ。
だが乙女心からすれば、それは斬首に処されても止むない暴挙の数々。
遡れば前々から、相方はお嬢様のことを異性として見ていた。
入浴を嫌がっていたのは、絆が通ったお嬢様へのダメージを減らそうとしたため。
体を大きくしたのは寝床を狭くして寝所を分け、ショックを減らそうとしたため。
いずれもお嬢様によって却下されている。
随分と長い間相方に生殺しのまま、待てをさせていた。
いっそ意識を失ったままなら良かったのにと思わずにはいられない。
致命傷を通り過ぎてオーバーキルだ。
「……いっそころしてください。」
碧瞳からハイライトが消えた。
恥ずか死なんて生ぬるい。
別の意味で心を折られ、力を失うお嬢様。
何があの勢いで告白なんて許しませんだ。
すっ飛ばした行動をしてきたのはお嬢様のほうだ。
「絶対に嫌だ。」
力強い言葉で断られる。
停滞の力を魔力に擬態しているのは、お嬢様の立場を思ってのこと。
新聞の内容から目を逸らしたのは、自覚があったから。
裏切りではなく自白めいた行動だったわけだ。
堰を切ったように熱い感情が流れ込む。
収めてください、ごめんなさい私が悪かったです!
顔が青ざめたり赤くなったりと忙しい。
蛇足ながら早馬に関する話題で彼が不機嫌になった理由も判明した。
乗るのならば自分の背中があるだろう、という嫉妬だ。
「悪ぃがオレもお前を無事に逃がすこと依頼されてんだ、勝手に死のうとすんな。」
二人から窘められた。
抱きとめられたまま、最早お嬢様に交戦の意志はない。
目の前がぐらぐら揺れっぱなしで離されたら崩れ落ちる。
「続けていいかな?」
「……最悪オレがあとで思い出して伝えてやるよ。」
この妹弟子は、何度周りを振り回せば気が済むのだろう。
セラから聞いていた以上に自由に振る舞ってくれる。
聞いてはいるのだろうが、念の為保険をかけておく。
フォクシ嬢としてもこの情報は無視し続けるわけにはいかない。
困った顔と口調のまま、相方の説明は続く。
「竜のままじゃあ並べない。並べないならエルを守れない。だから竜人になった。」
明言されて見えていなかったトラウマにようやく気がついた。
最後の一歩を踏み出させなかったため、相方は相方になったのだ。
気づかれないように世界を変質させた。
上手く学友の中に潜り込むこともできた。
模擬戦訓練を経て、その力量をお嬢様へ示す。
その結果、有事の際に守りを任せられるほどの信頼を手に入れた。
危うくレオン嬢に気づかれるところだったが力技で阻止。
それだけ停滞を振るいながら、魔王は存在を相方へ固定している。
全てはお嬢様の存在を変質させまいと望む我儘から。
竜人、世界に愛される者、どちらの要素も欠けさせるつもりはない。
彼に取って最大の想定外が、覚醒だった。
「エルの覚醒は、相方の僕にも影響するみたいだ。勝手に停滞が動いて似たような状態になる。」
「……だから昨日、ああなったんですね。」
相方が眉を寄せる。
お嬢様、何とか途切れそうな意識を繋ぐ。
表面に魔力を通わせることで、停滞を用いた覚醒であっても擬態は可能。
お互い本音を引きずり出されるとは思わなかった。
正体を口走る前に意識を刈って貰えたのは幸いだ。
そう思った矢先、立ち直ったレオン嬢からの仕返しで正体が判明。
彼女達からすれば、頬面の一つでも張られる事を期待したのだろう。
お嬢様の状態がこれでなければ間違いなく果たされていた。
全くままならないが、これも可能性として聞いていた想定内。
「ところで、どうして僕の刻印場所は――。」
覚醒において必要となるのは肉体に浮かぶ魔力刻印だ。
シルヴィ嬢の場合は左膝、お嬢様の場合下腹部。
「舌なんだろう。」
ふっとお嬢様の思考が固まった。
疑問形ではない、お嬢様の諸々は暴かれている。
その中には魂に刻まれた様々な知識や経験も存在する。
そろりと見上げれば、赤く湿った舌に浮かぶ黒銀の双翼が飛び込んできた。
妙な背徳感と色香がある、同じ十三歳のはずなのに。
……相方まで巻き込んでくれましたね、魂の記憶!
「ちょっと意識を切り替えるまで時間をください。」
頭を抱えてうずくまりたいがそうもいかない。
そろそろラッティ氏が馬の世話を終えて戻ってくる。
出立の時間が近づいてきている以上、また幌の中へ戻らねばならない。
「依頼主にゃオレから適当にいっておくけどな。また密着移動だぞ。ルゼイア、そろそろ準備しとけ。」
「はぐっ!?」
そのための切り替えだと言うのに追撃がきた。
状況は待ってくれない、作った覚えの無いスイッチが入っている。
早速意識の混線が起こった。
「それじゃあ、そろそろ戻ろうか。」
相方は話しきってスッキリした顔をしている。
秘密を抱えたまま、というのは肩身が狭かったのだろう。
当然のようにお姫様抱っこされて、幌の中へ連れ戻される。
歩法も鍛え方もお嬢様の知識を踏襲している、大変に安定が良い。
結局呻きながらも体の怠さには耐えきれず、再び相方の膝の上に収まる。
もうこうなったらやけくそだ。
その銀の髪を目一杯撫でて紛らわせてもらおう。
* * *
夏場ともなれば幌の中は相当蒸す。
窓を空けると言っても限界がある。
積み上げられている商品は殆どが腐らない工芸品。
開けている空間が少ないため、風通しはとても悪い。
「……暑いです。」
「我慢我慢。」
ぱたり、ぱたりと剣を扇子の形にして仰いでくれる相方。
実に多様性に優れた魔道具だ。
それにぐったりくっついたままのお嬢様。
出立前のドタバタは環境の辛さで薄らいだ。
嬉しいけれど嬉しくない。
「クリムゾンヴェールに付いたら、氷菓でも見繕ってやるかね。」
「小型の送風機ならあまり値は張らないと思います。効果も微妙ですけど!」
青空の下、向こうからやってくる行商に後ろを追い抜いていく旅人。
いずれもお嬢様達からは辛うじて見えるが、あちらから覗くにはいささか難しい。
そのように配置してくれてある、案外ラッティ氏も気遣いが上手い。
手持ち無沙汰に銀の髪を撫でれば、金の髪を撫で返される。
窓から覗く空は突き抜けるほど青く、たまに視界に入る雲もすぐに流れてゆく。
降雨による涼は期待できそうにない。
ラッティ氏からの追求は特になかった。
ヒゲが動いていたところから、踏み込むのは危険と判断したのだろう。
お陰でお嬢様たちは説明に時間を取られず助かった。
「一応、クリムゾンクレイの入口近くで出店を行うつもりですので移動に関してはご安心を! そこから先へはついていけませんが!」
ラッティ氏は現在商業科の試験中だ。
行動範囲はある程度決められている。
此処からは王都中心に円を描くように南下して、帰路につくらしい。
ラディ商会自体はわりと大きな都市には存在している。
つまりクリムゾンクレイの中にも関係者は居るということだ。
「エルがあの状態だからな、この速度で進めるのは充分ありがてぇ。アンカーも早めに打ち直したいしな。」
拠点であれば情報の集まり具合もまた違う。
かつてのヴィオニカ連邦国との最前線。
それ故に魔法による強化が施された堅固な壁に囲まれた砦街。
現在はヴィオニカ連邦国との交易路として活気に満ちた街だ。
ただ城壁が邪魔で拡張ができない。
そのため外へ広がった街がラッティ氏の目的地クリムゾンヴェール。
「クリムゾンクレイ支店でうちが主に扱っているのは魔道具です、是非ともご購入のほど見当くださいませ! フォクシさんの保冷箱は、うちで買われたものですね!」
「目利きはしっかりしてやがる。お前さんは一人でも充分やっていけるタイプの商人になりそうだ。」
実際模擬戦での腕前はお嬢様と相方を除いて上位に位置する。
流石にミズール嬢やハルト氏には劣るものの、騎士科卒業権利を有している。
その戦い方は道具の強い所、弱い所を見抜いての動き。
視線が解りやすいのが問題だが、そこに気をつければ野盗相手なら身を守れる。
「えっへっへ、実は売上に関しては規定額を超えまして。あとはどれだけ伝手を得られるかです!」
「……あとは大ドジ踏まないようにするだけか。」
「なぜそれを!?」
商売の手腕は言わず物がな。
求めるものを高価なものから徐々に落として見せ、高いものを安く感じさせる。
ラッティ氏の最大の欠点は、たまに狙っていることがわかりやすくなりすぎる点。
側に置かれている指輪カタログなんてその典型例だ。
自由を奪われ、誰かに侍るなんてことから逃げるために自分を磨こうとしたのに。
……絶対に買いませんからね。
『そうだ、伝えなきゃいけないことがあるんだ。』
竜人と竜に結ばれる絆は、言葉以上に思いを含む。
とは言えその匙加減は任意だし、距離によって減衰する。
常に筒抜けたり叩きつけられるわけではない。
この能力を以って竜人は連携を取り、一人前とみなされる。
カタログに視線をやったタイミングで伝えてられ、びくっと背中が跳ねた。
本来竜であるべき相方は、現在自分と同じ竜人だ。
その変化はリンド叔父様が行っている、不思議ではない。
心構えは大切だ、あるいはそれを覚悟とも呼ぶ。
急いで深呼吸、衝撃に備える。
『好きだ、エル。』
何の飾り気もなく、他の感情が混ざり込む余地もない。
心構えをしていても、打ち込まれる覚悟を決めていても。
言葉ではなく絆を通すからなおのこと深くに浸透してくる。
むず痒くて恥ずかしくて、全ての守りを簡単にぶち抜いてお嬢様の芯へ届く。
熱い、ものすごく熱い。
向けられた想いか自分の体か、どちらが熱いのか解らない。
後付の記憶や体験にすがる余裕はない。
そもそも、それらは異性のものだ。
探したって見当たらない。
「……せめて、収まってからにしてください。ばか。」
体中が怠い、お腹の奥がムカムカする。
暑いし、汗は滲んできているし、辛くて辛くてたまらない。
だから絆を通して返事はしてあげない。
ギリギリ聞こえるくらいの小声で文句を言って頭を押し付ける。
弟だった相方は、お嬢様に並び立つ権利を勝ち取った。
それからさらに二日後、ようやく白亜の壁が見えてきた。
第三章の基本改稿はここまでとなります。
絶体絶命(お嬢様が)




