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ちょとつ!@異世界にて  作者: 月蝕いくり
第八章~アウェイ・ホーム~
109/112

第3話 フェイスターンのきっかけに

 遠くまで細かく見える瞳が、きゅうんと縦に伸びます。

 世界が遅くなり、果てまで見通すような錯覚。

 前世の一人がたどり着いた極致。

 ですが、負担が酷いのでこの体では長続きましせん。

 この状態が続く間に距離と範囲の目算開始。

 障害物の強度から逆算して注ぎ込む魔力量を決定。


「すぅ――。」


 そこでタイムリミット、ぎりぎりですが間に合いました。

 世界が私に追いついく瞬間、いつものように強く踏み込みます。

 私は魔法を直接使えませんが、唯一らしいのがこの一打(ドラゴンブレス)


「――(ふん)っ!」


 気合は咆哮にも似た轟音でかき消されます。

 眼前から幅はライン引きが収まるぎりぎりに。

 道を剥がして、梢を払うために高さはマイナス1から10メートル。

 奥行きは宣言通り50キロ、ただそこで止めるのは難しいので上へ捻じ曲げます。

 上から見れば、黄金の光が森を切り裂くように映ったことでしょう。


「うおっ――!」


「……これほどか!」


 全力全開(ドラゴンブレス)の余波は、地表へ嵐を生み出します。

 ハルトさんは毎日走り回っていたお陰で踏ん張り直して耐えました。

 一方で事務仕事と各所への調整に忙殺されていたカールさんは……。

 こうなると解っていたようで、しっかり身を伏せていました。


「ふうぅ……。」


 帝国風の袖口が暴れる中で残心。

 目の前にはぽっかりと見晴らしの良い空間ができました。

 ごっそりと体内から魔力(じぶん)が消える虚脱感。

 失った魔力は即座に世界から供給されるので、命の危険はありません。

 腕にそれだけの力を流したので、芯の方がじぃんと痛みますけど我慢我慢。

 先程の一打はただの整地、私の仕事はこれからです。


「では、ハルトさんは私の警護を、カールさんは引き続き調整をお願いします。」


 今怖いのは、この誰かに状態を狙われること。

 結局読めないのは人の悪意ですから。

 おばけ荷台に手をかけて、よいしょとテコの原理で浮きあげました。

 がらがらと石が落ち、その上にもう少し細かい石が落ちる。

 上手く層が出来るように加工されていますね、セラの仕事は完璧です。

 急いで一歩を踏み出しますが、全力の影響は下半身(どだい)にも出ていました。


「……これしきのことで、僕は気圧されないからな。」


 フォールンベルトに張り合うのはいいですけど、今はきちんと仕事をして下さい。

 表情こそ平静を取り繕っていますが、べっとりと背中を濡らす汗が気持ち悪い。

 腕にかかる重みも辛いため、補助として固定魔法を再起動。

 これは本来魂に焼き付いた癖にあわせるための魔力体を作る術式。

 体に馴染んだ今となっては、純粋に地力を高めるのに役立ちます。

 とにかく力に特化したものを複数体、並列起動しました。


「厳しいとは思うがハルト、定期的に彼女の様子を見て、水を飲ませてやってくれ。」


 見せつけられた力に張り合うハルトさんに対してカールさんは冷静です。

 と言うか、ファウベルト領(うち)墓荒らし(グレイヴン)に挟まれて配慮に慣れたのでしょう。

 内面の消耗をあっさりと見破られました。

 ……それにしても無茶振りをします、ハルトさんには荷が重いでしょうに。

 自分で言うのも何ですが、背中やバッスルからうっかり肌が見えてしまうので。


「……先程の余波を考えると、侍女を連れてくることはできなくてね。」


 確かに鍛えていなければ、伏せたとしても吹き飛ばされたでしょう。

 また胃薬を飲みましたね、その節は大変ご迷惑をおかけしています。

 領地が安定するまで、もうしばらく頼らせてください。


「水? って、置いていくな!」


 怪訝そうな声を上げられたときには、私との距離はそこそこ開いています。

 返事も何もなく勝手に進んでいたので、ハルトさんも焦ったことでしょう。

 けれど仕方ありません、想定以上に私の体は脆いようで。

 周りの音がどこか遠く聞こえていたり、目の前が少しぼやけていたり。

 削った存在(まりょく)が残す悪影響は、もうしばらく続くでしょう。

 早い話、一切余裕がありません。


「……ああ、くそ。そういうことか!」


 学園次代の私を知っているため、生じた違和感から答えにたどり着く。

 悔しそうな声を上げましたが、こればかりはカールさんの方が一日の長。

 ですので負い目を感じないでほしいです。

 腕っぷしを認めている学友が警戒に回ってくれるからできるんです。


「……鍛錬の、一種です。」


 ふっ、と体内にこもった熱を呼気に乗せて吐きながらフォローを入れました。

 冗談めかしておけば、少しでも余裕があると見せておけば――。


「そうか、オレも引く方に回れば――。」


 オフモードに変わってしまいました。

 私にそんなセンスはなかったようです。

 あるいは声に余裕がなさすぎたのかもしれません、失敗です。

 ぐぬぬ、本気で考え込んでいるようですので、もう一度無理やり声を。


「ご自身の仕事に集中してください。」


 こんな無茶苦茶するだなんて、墓荒らしでも想像していないでしょう。

 けれど、ひどく消耗していれば衝動的に行動を起こすかもしれません。

 不測の事態からカイゼルを(・・・・・)守るためにも、きちんと警護してもらわないと。


『明日にはそちらにつく。けど、やっぱり今から無理にでも――。』


『駄目です。』


 私の状態を読んで、絆越しにカイゼルの意志が伝わりますが、即刻却下。

 確かに彼が側に居てくれれば嬉しいし、疲れなんて吹き飛ぶでしょう。

 でもそのために世界を捻じ曲げてさせては、彼と対等だとは言えません。

 私、これ以上あなたの停滞を広げたくありませんから。


『でも、今のエルの状態は――。』


 知らないとでも思いましたか。

 人の望みによって生み出された大穴。

 それを防ぐには、集められた力の拡散だけでは足りません。

 バレッタさんの対応は最善でしたが、その場しのぎでした。

 だから、すぐに開きそうになる空白をあなたが請け負った。

 言い訳するので、気づいていることは教えてあげません。


『……私、汗まみれなんですから。察して下さい。』


 ちょっとだけ拗ねた思考も乗せておきます。

 生まれてからずっと一緒にいた相方ですから、簡単に見抜かれます。

 全部が嘘というわけじゃないので、無理やり納得してくれるでしょう。

 そんなやり取りの間にもがらがら、じゃらじゃらと道の下地が引かれます。

 轟音に驚いた領民と顔を合わせるのに時間はかかりませんでした。


「あれは……新領主? いや、何だ……、これ……。」


 覚醒で姿形が変わっていても、体内魔力の質はそのままです。

 むしろ高圧縮されているので、間違えようがありません。

 絶句した彼らの視線は、私が引いている巨大な荷車に向きます。

 大量の石を積んでいることは後ろを見ればすぐに解りますから。

 大きさといい積載物といい、人が引くようなものじゃないですよね!


「今日中には、道を引き終えますので、もうしばらく待ってください。」


 今までの道よりも広めに作っていますので、いつものような歩幅では危険です。

 む、ドン引きしなくてもいいじゃないですか。

 貴族が、領主が肉体労働に従事するなんて想像できないのは解ります。

 こんなもの、世界の負債を押し付けられたカイゼルに比べれば遥かに軽い。

 相方である私に引けない道理はないのです。


『それとこれとは話が違うよ!? 僕はそういうふうにできているけど、エルは違うんだから!』


『もう。大丈夫ですから、きちんと明日、会いにきてください。』


 また世界を歪めようとする。

 別に処刑場へ向かっているわけでもないのに。

 心配してくれるのはとても嬉しいけれど、それは駄目です。

 あ、でもこうしている間はカイゼルの意識を独占できますね。

 ……これはこれで役得かもしれません。


「……領民は下がらせた。もう少し人目が無くなったら水を飲んでもらうからな。」


 はっ。

 少し絆に意識を向けている間にハルトさんが仕事を済ませていました。

 ちょっと仮面が剥がれかけたせいで、心配そうな視線です。

 おかしくなったわけじゃないですから安心して下さい。


「こほん。お願いします。……近づけますか?」


 私の両手は荷車で手一杯、水筒を傾ける余裕はありません。

 必然的に飲ませてもらうことになりますけど。

 体を冷やすためあちこち開けてますので、刺激が強いでしょう。


「……努力はする!」


 葛藤の末なんとか声を絞り出してくれました。

 異性に対する免疫、そろそろ鍛えておいて下さい。

 私が水びたしになって困るのはハルトさんですから。


『何かあったら、カールも処すからね。』


『胃薬を常備するくらい働いてくれてますから、多少のことは許してあげましょう!?』


 八つ当たりでカールさんも巻き込まれました!

 この状況を作った本人に苛立ちを覚える気持ちはわかります。

 でもごめんなさい、どうも私って面倒くさい性格のようです。

 カイゼルのそういう感情、ちょっと嬉しく感じてしまいました。


 * * *


 全くどうしてこうなったんだろう。

 ミズールさんの事は解る、エルの挑発に乗ってしまったからだ。

 その件に関しては相方として僕側としても大変申し訳無い。


「お嬢様、緊張するのはわかりますがいつものように表情を柔らかく!」


「違います。セツラ、わたしは待機しているよう言伝たあなたがついてきた事に不服を覚えているのです。」


 ミズールさんは眉間を指で抑えて、これで七度目のため息かな。

 エルの事が心配だったから、宝飾店へ逃げ込む予定だったのに。

 どこかで聞きつけたセツラさんがミズールさんを引っ張ってきて今に至る。

 ミズールさんは引き止めてくれたんだけど。


「わたくしめはミズールお嬢様お付きの侍女ですもの! 婚約指輪(・・・・)となれば今後着付けにも関わります!」


『お嬢様溺愛の恐ろしさはあなたも知っていたはずよ。考えが甘いわ、カイゼル。』


 はい、そうでした。

 ズーラからの視線と指摘が非常に刺さり、目が泳ぐ。

 エルが関わった時のセラさんを始め、侍女の皆さんの行動力たるや。

 そりゃあより良い囮役のためにも、買うつもりだったけどさ。

 お陰でお互い貴族の礼服を着て出かける羽目になりました!

 エルが嫌がるのも解る気がする、首元は苦しいしすごく動きづらい。


「……わたしの婚約指輪ではなく、エルエル様との結婚指輪が目的でしょう?」


 所詮彼女とは政略婚約、一時的に身を守るためのものに過ぎない。

 だからまあ、そう考えるほうが自然だよね。

 契約と制約だって、そのために頑張って捻じ曲げたんだけど。

 とはいえ囮役をするぶんには、僕という餌は大きい方がいい。


「うん。ええと、遅くなったけど、婚約指輪も買うよ?」


「まあ、まあまあまあ! ほら間違っておりませんでしたでしょう!?」


 反応は三者三様だ。

 セツラさんは口元を手で隠してるけどにやけ気味。

 ミズールさんは絶句の後、囮役の意図を察して眉間にしわ寄せ。

 ズーラは……痛い痛い、その視線だけで魔物消せそうなくらい痛い。

 この野郎自体を厄介な方に傾ける発言しやがって、ですね解ります。

 僕は食いつける隙を晒し続けなきゃ駄目なんだって!


『……メインは勿論エルの指輪だからね!』


『けほんっ。わ、解ってます! 楽しみにしてますので、ちゃんと選んで下さいね!』


 巨大な荷車を引いているのに、注意がこちらに傾いたので伝えておく。

 誤魔化そうと咳払いしてるけど、魔力に敏い僕が気づかないわけがない。

 集中力が途切れてしまえば、固定魔法の効果が薄まるんだから。

 小さな体で無茶をして、だから世界の認識を騙して向かうって言ってるのに。

 それは許さないとしっかり釘を刺されてしまった。

 危なっかしくて意識の八割は持っていかれる……そこで喜ばないで!


「ほらお嬢様、ここで表情を綻ばせるのです! 毎朝ぬいぐるみに向けるよう――。」


「セツラ!」


 えっ、なにそれ意外……いや僕は何も聞いていない、聞こえませんでした。

 こちらに割いてる意識は二割だから、そういう事があっても不思議じゃない。

 ズーラと対等なだけあって、ミズールさんも視線だけで魔物を消せそうだ。

 もちろんここで踏み込むような自殺願望なんて僕にはない。

 三者揃って気まずくなった空気の中、セツラさんだけにっこにこしてる。


『ミズールさん、そこは昔と変わっていないんですね。』


『その補足、今は聞きたくなかったなぁ……。ほらエル、水筒準備してもらってるよ。』


 うちに泊まる時は寝床を譲ってたから、僕が知らないのも当然か。

 対等、同格だからこそ踏み込んではならない場所がある。

 どうもエルのそういった場所に格納されていた情報らしい。


「それでしたら数種類持ってきましょうか、ルゼイアさん。」


 ファウベルト領にいたもう一人の学友。

 無事に卒業したラッティは、今や数少ないファウベルト領馴染みの商人。

 仕入れに王都へ戻ったついでに傘下の宝飾店に顔を出していた。

 商機と言うことで、揉み手しながら満面の笑みを浮かべている。


「……ああ、うん。もう少し種類お願いしようかな、ラッティ。」


 彼の商会はセラさんの息がかかっているから、だいたいのことは知っている。

 それに騎士科もしっかり卒業しているから、自衛の能力は充分だ。

 だからこの店を逃げ場に選んで飛び込んだんだけど。

 逃げ場に選ばれたことも察して、そこそこ時間を稼いでくれる。

 でも今は逃げ場になっていないから早く済ませたいかな。


「婚約指輪となると、矢張りこれくらい目立つほうが。」


 持ってこられるのはどれもこれも細やかな装飾が施されたものばかり。

 アピールは僕たちではなくセツラさんへ。

 誰が落としやすいのか心得てるなあ。

 ……気を逸らしておいてくれるのはちょっと助かる。


「まあ、装飾の美しさだけではいけませんわ。意匠は竜翼花でなければ。」


「でしたら! 多少お値段は張りますがこちらの――。」


 着付けを担当するのはセツラさんだから、要求するのもしかたない。

 竜翼花はその名の通り、竜翼のような花弁を持つ薔薇のような花だ。

 この王国は竜人の助けで作られた国だから、人気筋の一つ。

 それにしても無理やり高いものを忍ばせるのは相変わらずだ。

 婚約指輪は華美なものが定番らしいので、並ぶのも派手なものばかり。


「さ、流石に多くなってきたね……。」


 これだけ光り物が並ぶと、値札の数字も相まってかなり疲れる。

 確かにこういうものが大好きな竜は多いんだけどさ。

 目も眩む輝きの中から、二割の意識で選ぶのは結構辛い。

 でもエルが危なっかしくて意識をこれ以上回せない。


「ラッティさん、調子に乗りすぎでは?」


 見かねたミズールさんがラッティを窘めてくれた。

 セツラさん、そこでドヤ顔されても困るんだけど。

 うん、ズーラは安定して情けないって視線で刺してくるね。

 早めに選びたいのは山々だけど、ラッティは中々目玉商品を出さない。

 時間稼ぎはもういいんだって。


「……あ、婚約指輪はこれにするね。」


 やっと目に止まったのは竜翼花の意匠、中央に紫水晶の指輪。

 華美な装飾や大きな宝石の中だから、控えめな印象は否めない。

 でも、単品ならフォールンベルトが購入する婚約指輪としても合格だ。


「あら、ルゼイエ様。お嬢様にはもう少し凝った装飾のものの方が――。」


 精密さは群を抜いてるけど、セツラさんのお眼鏡には叶わなかった。

 周りの華々しさのせいで、埋もれてしまうから仕方ない。

 でもこれ、ミズールさんが一番反応したものだからね。

 さっさと話を進めてしまおう。


「そうかな。これくらいのほうがミズールさんの魅力を引き出せそうじゃない?」


「まあまあ! そこまで仰っしゃられるなら、見惚れさせてみせましょう!」


「……ルゼイア様?」


 フォールンベルト、ローズベルト家特攻の最終手段。

 愛娘を話に上げれば相手の時間を奪えるその場しのぎ。

 竜人は膨大な体内魔力のお陰で、その気になれば仕草に魔力を乗せられる。

 その応用が翼や竜の息なんだけれど。

 ミズールさんの保有する魔力量は、世界の後押しこそ無いけどエル並だ。

 つまり、底冷えするような声と視線に乗った魔力がすごく痛い。

 この後指輪に合わせてあれこれ着せ替えさせられるだろうから。

 恩を仇で返された気分になるのは解る。


「あ、あとはそこの指輪を。」


 でも少なくとも今日、今日一日さえ乗り切れば!

 エルの指輪は即断即決、台座に金の散らばる碧玉が乗ったもの。

 本当はもう少し地味なものの方が好みなのは知ってる。

 だからこれはもう少しお洒落してもらいたい僕の願望だ。


「はい、毎度どうも! 他はいいのですか? 念のためあと数点購入してもひえっ。」


「サイズはどちらもそのままで大丈夫だからね。」


 笑みは時として最強の拒絶になる。

 婚約指輪に結婚指輪は僕のぶんも合わせて二個だ。

 僕はエルみたく優待券を忍ばせていない。

 それに経費で落とすほど、不誠実になるつもりもない。

 お陰で溜め込んでいたお金が全部消し飛ぶんだけど。

 それよりカール、タオルを準備しておかないとかありえないよ?

 ハルトは気づいてないけどエルが汗を気にし始めてるじゃないか。


『私、察してくださいって伝えましたよね!?』


『うわ、ごめん!』


 なんて思ったら、大音量の悲鳴が飛び込んできた。

 エルがハルトに対して、汗程度を気にするはずがない。

 考えれば解ることなのに、残りの意識も向けておけばよかった。

 いやでもこれ以上向けると囮役に支障がでるし。

 そうなるとエルの側に向かえなくなるから、ああもう!


「そういえば数日内にフェイル州からの賠償船がファウベルト領へ到着するそうです。」


 中途半端な葛藤をミズールさんは許さなかった。

 あるいは先程の仕返しなのかもしれない。

 強引に意識の一部をミズールさんへ戻した。

 ファウベルト領主の番として対応する必要がある。


「割符の組み込みが終わったのかな。案外早いね。」


 意識の切り替えは、何もエルの特権じゃない。

 相方たる僕だってある程度は行える。

 しでかして頭を抱える僕は心の内にしまっておいた。


「設置地点について、ファウベルト領主から言伝られていると伺ってますが?」


「ああ、うん。最初の頃に使っていた資材置き場跡の予定だね。領内と西側街道の合流地点だから。シアンフローに連絡が飛んでるはずだよ。」


 幸いにもセツラさんの意識はミズールさんのイメージに向いている。

 エルの件で張り合って口を挟む心配はなさそうだ。

 ファウベルト領内にあの巨大な船を置く場所なんて作っていられない。

 だから区画に分けて単独飛行させ、資材置き場に使っていた場所を再利用。

 最初に届くのは、エルが乗り込んだ搬入口と制御室の区画だね。

 随分内部をメチャクチャにしてたはずなんだけど。


「ボクも聞いてますよ、空路の要にするんだとか。道の整備も進んでいますし、領内へ物資の大量輸送を依頼する都合上、ちょうど良い場所ですね!」


 ラッティは領内で物流を担当してくれている。

 それにかかわる情報は優先的に伝えている。

 何なら設置場所の相談時、アドバイザーもしてくれた。


「宝飾品のカタログを入れられても困るんだけど。」


 何気なくカタログ入れないでくれないかな。

 僕の懐は指輪の購入で空になったし。

 ファウベルト領は宝飾品より生活物資が必要なんだから。


「ふふん、ルゼイアさんは解っていませんね! 人の出入りが多いところに置いてもらえれば宣伝出来るじゃないですか! エルエルさんから許可はもらってませんけど!」


「伝えておけってことかな!?」


 確かに設置後は商会を誘致する予定はあるけど。

 それより先んじてビラ配りとは、さすが商人だなあ。

 王国内の主な空路は飛龍と小型の飛行船、どちらも資材運搬がメインだ。

 観光目的とするには連邦国に比べて技術が進んでいない。

 そもそもファウベルト領で見るところと言えば帝国飛び地のロウエルくらい。


『……宣伝でしたら、歓迎です。どうせですし、設置地点を中心に、商業都市を作るのも――。』


『その辺りを考えるのはカールに任せて、エルは今のことに集中してね!?』


 今度はこっちから悲鳴が上がる。

 捻じ曲げるなというのなら、そちらに集中してほしい。

 世界から補填された存在はまだ体に定着してないんだから!

 そんな状況で固定魔法で魔力を巡らせてるからなお馴染まない。

 絆ごしのやり取りで意識をずらせば、肉体の運用に支障をきたす。

 世界が死なせやしないけど、大切な人が苦しむ様子は見たくない。


「この意匠でしたら、あとはあのドレスとこのドレス……、あちらのドレスも合います。お嬢様、戻り次第何着か着付けをいたしましょう! そしてルゼイエ様にお披露目しましょう!」


「なるほど、こうなることを見越してたんですね。セラさんから伝言です! 明日の出立準備は向こうで済ませておくそうです!」


「……。」


 さすがセラさん、容赦がない。

 自分の発言に対する責任を持て、というのは貴族の基本だ。

 背中はミズールさんとズーラの視線で滅多刺し。

 本格的に空白(まおう)の存在を埋めるのは勘弁願いたい。

 その日のうちに代償を支払うことになるとは思わなかった。

今回は昔の書き方スタイルです。

多分、こんな感じだった……はず。


誤字報告ありがとうございます!

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