第18話 技術と魔法のタッグマッチ2
ふう、と少し乱れた息を整える。
竜の息の他にあれだけ走り回ったのだ。
立ち止まったことで疲労感に追いつかれたが、休むにはまだ早い。
鍵札の使い方は姉弟子が調べてくれた。
扉の中央に押し付け、経路接続。
その後、九十度回転させると内部の刻印に魔力が通る。
正規の解錠方法を行ったため、核となる回路に傷は付かない。
外から無理やり術式をはめ込むより、現物を使ったほうが影響は少ない。
「撃て、撃て、撃て、撃ち殺せ!!」
扉が開くと同時にヒステリックな男の声が響き、薄い弾幕が出迎える。
狙いも先程までと比べれば相当甘いため、ほとんどが外れていた。
篭手で体に当たるものだけ払いながら、こつりこつりと舵へと近づく。
外見は聞いている、喚いているのが研究省の長だ。
そのすぐ側では議会で見た州長、ゼーレヴァ氏も火槍を発砲している。
「誰だ、何が目的だ! くそ、バレーナがいれば……!」
そういえばゼーレヴァ氏は意識操作を受けていた。
偽装の影響もあり、近づくお嬢様を見てもその正体に気づいた様子はない。
ここで大暴れしようものなら、船の制御が失われる。
追い詰められて自棄になられては困る、必要なのは殲滅ではなく交渉だ。
意識を戦闘から切り替えれば、声を作ることくらいは造作もない。
癪ではあるがミズール嬢をイメージし、冷たく威圧感を与える声へ。
「火槍を収めなさい。あなた方の力は私に届きません。」
当然省長達がそんな言葉を信じるわけもなく発砲をやめない。
砲身に近づけば、礫を打ち出すだけと言えども当たりやすい。
だからほんの少し歩法を変え、タイミングを変えて避けた。
相手からすれば礫がすり抜けたような感覚に陥っただろう。
「ば、馬鹿な、この距離で――。」
大体当たると信じて狙いが甘すぎる。
射撃武器に頼りすぎたためか、相手を害する覚悟が足りない。
ぱしんと乾いた音を響かせ、省長の頬っ面を引っ叩いた。
体がずれないように、足を踏みつけることも忘れない。
返す手の甲で伸び切った顎を逆向けて打つ。
力を込めない一打で、かくんと膝が崩れた。
交渉相手は一人で充分、下手に多いと足元をすくわれる。
「火薬に違法薬物を混ぜ込んでありますね。それが連邦国で禁止されていることはご存知でしょう。」
火槍の弾道を見抜く動体視力は本人からしても異常の一言。
その目で見れば礫の初速は一般的なそれに比べて遥かに早い。
さらに筒の中で爆発させる火薬が付着しており、体内に残れば劇毒と化す。
これもフォクシ嬢達が調べてくれた兵器の一覧に載っていたものだ。
「非力な小娘が、知ったような口を――!」
激昂したゼーレヴァ氏が掴みかかってくる。
火槍が使えないのであれば、小柄な娘など力で制圧する。
なるほど多少の心得はあるのか、動きは悪くない。
確かに見た目で言えば華奢で頼りなさげに見えるし、実際はその通り。
この身体は工夫なしの力勝負にたいへん弱い。
「盲目的な力への信奉はいかがなものかと。」
ただし、それがどれほど愚かな判断か道中の連絡を聞けば解るはず。
真正面からの勝負を避け、指揮棒を手槍の形に変えて解放。
伸ばしてきた腕に合わせ、化石樹で覆った手槍を絡めて背中から落とす。
力が足りなければ道具や技で補えば良い、他の州はそうして発展した。
「がっ!」
「この船も砲も、世界の破壊を求めるあまり無駄な構造ばかり。他の州がどうやって栄えたのか学びなさい。」
勇者兵なるものを作るためだとしよう。
だが、生まれた魔王はどうするつもりだったのだろう。
世界が求めるのは成長の果てに成し遂げる停滞の修復。
最終的に穴が塞がればいいため、かかる時間の基準が違う。
自ら命を差し出したバレッタ氏の状況が特殊すぎたのだ。
お嬢様に関しては、もはや異常事態なので考えない方がいい。
「くっ……、敗北を忘れ、大した威力もない軍備で何ができる!」
「それは周りの手を払う理由にはなりません。周囲を無視し、身の丈に合わぬ力へ手を伸ばした結果がこれです。」
宣言したところでひぅんと手槍を回し、穂先を喉に突きつける。
確かに、大きな力は抑止力になり得るだろう。
とは言えそれは制御できていればの話だ。
きちんと使い所を知っていれば手槍一本で事足りる。
状況に置いていかれた周囲へ、牽制を兼ねて警告を一度。
「王手。命が惜しければ武装の解除を命じなさい。」
交渉に武力を使わずに済むとは最初から思っていない。
それに行動としては令嬢らしからぬほうが都合がいい。
半ば強盗じみた言い分だが、下手に世界に対する負債を増やしたくない。
その影響を受けるのは他でもない自分の相方なのだから。
見上げようとする気配を察して、首を動かせぬよう穂先を強めに押し当てた。
視線を上げることは許さない、見られてしまうと後で相方に怒られる。
スカート内部を隠すため、黒銀を集めるのは恥ずかしいので止めて欲しい。
「ぶ、武器を捨てろ、捨てるんだ!」
操舵室内を見渡し、各々が火槍を捨てたことを確認する。
防衛に当たっていた荒事兼任の研究員たちは全滅させた。
純粋な研究員でしかない彼らに徹底抗戦の意志はない。
この先彼らには少々動いてもらう必要がある。
油断はしないが、ほんの少しだけ周囲に対する威圧を軽くした。
「結構。では次に、全動力を停止しなさい。」
「……な、に?」
だが、その内容は操舵者としてまず頷けないものだった。
補助浮力に使う浮島から離れているのだ。
今動力を落とせば、同時にこの船も落ちることになる。
「そ、そんなことをしたら、船が落ちて――。」
「し、州長! 動力室から別種の蒸気が流れ込んでいます! なんだこの出力は……!」
ちょうどバシリス嬢達による仕込みも終わったところらしい。
しっかり計器を確認しているところは、腐っても技術者か。
運び込んだ外付け炉と、限界まで積んできた携帯炉心を複数基。
点火に私用艇とフォクシ嬢の早馬を同期させれば、動力の切り替えが完了する。
異世界知識と王国の魔法、技術を合わせれば巨大船すら浮かせられる。
「馬鹿な……どうやって、いつの間に、ありえん……。」
「無駄が多いと言ったでしょう? もう一度言います。この船に積んである動力を、全て落としなさい。補助にもなりません。」
動力伝達のパイプをそのまま使ってしまえば、道中の刻印で空白が生まれる。
そのため最初に術式を破壊する特殊な蒸気を流し込み、その後きちんと再利用。
本格的に炉心を交換するためには、無駄な空白を生む動力は邪魔なだけ。
止めたところで本格的に動力が変わるだけ、船は沈まない。
空飛ぶ巨大建造物なんてロマンがありそうなのに、構造がお粗末だ。
「……焦がれなければよかったのに。」
独り言は放心した州長の耳には届かない。
周囲では既存の動力停止向けて操作に集中している。
船員の動きから、個々の持つ技術力は想像以上に高い。
彼らは決して無能なわけではない。
そうであれば、使ってはならない技術や組み合わせを発見できたはずがない
ただ不運にも、それがもたらす結果に囚われてしまった。
彼らが絶対的な力に憧れてしまった原因に察しはついていた。
議会の場に出た折、集めた視線の中に秘められた感情の数々。
その背には恐怖と羨望が注がれる、大戦では国の矛が力を奮ったことだろう。
我を失うほど強い憧憬は一種の呪いなのかもしれない。
* * *
船の構造は動力島を中心にいくつかの区画に分けられている。
つまりこの場所が削岩で揺れたとしても、他の区画にはほとんど伝わらない。
とはいえ真っ向からの力技、そのままならば気づかれていただろ。
「確かにこいつぁ早ぇけど、無茶苦茶考えるな。あのオジョーサマは……おっと。」
高速回転する障壁刻印、削り取られて落下する岩を一斬、二斬。
バシリス嬢の私用艇すぐ真下に移動した一機の早馬先端部分。
ボヤくのは動力室制圧組の護衛役としてついてきたフォクシ嬢だ。
「ま、ちゃあんと支払ってくれたんだ。仕事はするさ。おい馬鹿、このまま高度上昇。舵動かすくらいはできるだろ。」
『俺は免許を持っていないのだが……。』
「あ? ちゃんと出力それ以上あがらねーようにしてあるんだ。気にせず水平にしときゃいいんだよ。」
お嬢様に雇われる際報酬として提示された早馬。
頭が痛くなるほど詳細を説明された特注品は、ほぼ望み通りの出来だ。
主力の魔力炉一基と補助の蒸気炉二基は、稼働によって直列並列切り替えが可能。
各々に搭乗スペースがあり、簡単な通信や個別運転も行える。
他細々とした要望全て聞いてもらったが、その辺りは割愛する。
総額にして考えれば、六ツ葉をして手が届かないワンオフ機だ。
今回は主力機の舵をゼルド氏が握っており、フォクシ嬢は甲板に出ている。
「……っと。あれもデカすぎるな。」
主な仕事は、削岩によって生じた岩を細かくすること。
多少のならば化石樹や菌糸が受け止めるが、大きすぎるとそうも行かない。
いくつか建物や人が犠牲になるかもしれないが、スラムでは今更だ。
届かないはずの場所から飛ぶ斬撃がまた一筋、二筋。
六ツ葉を超えれば、そこからは人外レベルの領域。
『もうすぐ底が抜けそうだ。あとは僕がしておくから、フォクシさんも早馬の中へ。』
「おう、次は護衛か。まったく、姉弟子使いが荒いな。」
ふさりと耳が動き、削岩の音に変化が表れたことはフォクシ嬢も聞こえていた。
防風の障壁が展開されているものの、このまま突入しては振り落とされる。
即座に甲板からハッチを開けて中へ滑り込んだ。
「ぬわぁ!」
「聞いてただろ、舵返――ひゃんっ! 脚掴むな馬鹿!」
「す、すまな――ぐほっ!? そう言うなら足を出すな足を!」
そのおまけで席の外へ蹴飛ばされるゼルド氏。
体勢を維持するため、何かに手を伸ばすのは人の性。
六ツ葉の反射神経で即座に追撃を仕掛けられ、うめき声が上がる。
『……二人とも、バシリスさん達のことは任せたよ。』
操舵室はそれほど広くない、無理やり場所を譲ればどうしたってぶつかる。
二人してどったんばったん暴れるが、早馬のブレは殆どない。
この辺りの調整はバシリス嬢の技術力の賜物だが――。
やはり当たりが強いなぁと思いはしたが、読まれないよう頑張った。
* * *
巨大な船には巨大な動力が求められる。
バシリス嬢の私用艇が抜いた先は、その例にもれず異常な広さを誇っていた。
この場所だけで一般的な飛行船と同じ大きさはあるだろう。
当然私用艇もすっぽりと収まってしまう。
彼女が立つのはその動力炉の真正面、全ての配管制御を司る制御盤の前。
「蒸気生成、加圧、減圧、冷却、予備管、制御。全部ひっくるめれば、こうなりますわよね。」
巨大化の大きな要因は大体それのせいだ。
炉心を囲む冷却管や蒸気を通すパイプの配置は非常に効率が悪い。
それを補うため、滅茶苦茶な刻印を刻んでいるのだからなお見苦しい。
「うまいことアイツが暴れてくれたみてーだな、警備は手薄……つーか全然居ねえ。」
「フォクシさん、平静を装ってますけれど着物裾が乱れてますわ。お仕事に支障は?」
「……気にすんな、もう落ち着いた。」
おまけにゼルド氏のあちこちに靴底マークが付けられている。
大体自分の早馬にテンションが上がって何かやらかしたのだろう。
初めて手に入れた者によくあるため、バシリス嬢には見慣れた光景だ。
「では、護衛はおまかせしますわ。壱班と弐班は外装の取り外し、及び接続管の設置、参班は補助動力と機材の準備はじめ!」
「っしゃあ、腕の見せ所だ!」
「誰が一番に片付けるか競争しようぜ!」
穿孔に用いた障壁は防壁に戻したが、彼女たちは純粋な技術者。
攻撃の術は持ち込んでおらず、戦闘能力は絶無に近い。
そのため、きちんと護衛をしてくれればそれで良い。
未だに周囲から魔力を吸い上げては散らされているが、それもここまで。
世界を壊す技術は技術ある者は未来を負うと対立する。
「モルドモ、まずは砲塔制御の動力管を見つけなさい。わたくしは蒸気の調整を致します。」
連邦国の技術を引っ張るマギク州。
その中でも機械姫と揶揄されるバシリス嬢についてこれる船員達だ。
各々が競争を兼ねて割り当てられた仕事に取り掛かった。
動力が動いている状態でパイプを弄ることは、一歩間違えれば大惨事。
そのため作業している箇所の動力経路を変更する必要がある。
言うだけなら簡単だが、この規模で速度も求められると熟練工でも根を上げる。
「……ほんっとイロモノだよな。」
だというのに、目を輝かせながら素早く的確な操作を行うのだから恐ろしい。
彼女の腕を信じている船員達は動力の外付けに一切の躊躇もない。
瞬く間に巨大な炉心の周囲に追加管が取り付けられ、動力経路が変わっていく。
「お嬢様、砲塔制御は動力供給がJの43番から67番と103番。移動がNの――。」
「ふっ……遅いですわねモルドモ、もう止めました。参班の動力連結に合流なさい。」
砲塔制圧は砲撃を逸らしているバレッタ氏の負担をなくすための最優先作業。
これで巨大な空白を作り、ステラムを破壊する危険性はなくなった。
彼女の手元で何が行われているのか、王国出身の二人にはさっぱり解らない。
努力する天才の潜在能力が想像できないところにある事だけは解る。
「それはエルシィ嬢にも言えるな。まさか警備の全てを引き付けるとは……。」
『最近思い切り体を動かせなくて、鬱憤が溜まってたみたいでね。』
相方も手伝うとは言え、たった二人で広い空間を動き回る七人を護衛。
作業のための機材一式も傷つけられてはならないという条件付きだ。
気を張っていたゼルド氏は一気に肩から力がぬけた。
普段であれば活を入れるフォクシ嬢も何も言わない。
つまり、誰も近づいてくる様子がないということだ。
事前の調べでは、研究員含めて投入戦力は百を超えていたはずだ。
一体どれだけ暴れればすべての戦力を投入させられるのか。
「こっちは問題なさそうだが、外はどうなってんだ?」
『ミリィさんを先導にフィアさんとベルドラドが上手く立ち回って、関係した闇組織の一部を捕獲してる。』
「あとは飛んでいった早馬の行き先はレオン待ちか。」
目視はできたものの、しっかり魔力で追われないよう阻害効果が施されていた。
現在ラヴィテス氏の速度を借りてレオン嬢が追跡している。
墓荒らしはお嬢様が学園に入った頃から因縁がある。
折角姿を見せたのだ、行き先や動向は掴んでおきたい。
「よし、完了ですわ。フォクシさん、早馬の動力お借りしますわね! 流石にわたくしの船だけでは点火動力が足りません!」
「何もわからんうちに終わってやがる。その辺は任せた。結局オレらは立ってただけだし。ああ、きちんと警戒は続けるさ。」
第三者がタイミングを合わせられるほど簡単ではない。
返事と同時にぺたんと耳を伏せた。
直列接続した動力の一斉点火から各炉心の並列起動、動力切り替え。
耳の良い彼女は、その爆音によって引き起こされる頭痛を散々味わっている。
「ゼルドさんはこちらへ。管内の術式を破壊するため、初動蒸気に腕の聖獣を流す刻印を預かってきてますの。フォクシさん、手綱はお願いしますわ。」
「はあ!? 初耳だぞ!?」
「ああ、結局その対策を使わざるを得ないか。」
巨大な船全域に渡らせるためには、勇者並の魔力が必要だ。
だが、二人ともそれぞれの仕事にかかりきりで合流は適わない。
最終手段として用いるのが、彼に宿った世界の魔力。
しばしばガントレットに抑えられているため、開放時の爆発力は充分だ。
全ての蒸気は再び炉心へ戻るため、存在を食われることもない。
「……ぜってぇ断ると思ってオレには言わなかったな!?」
早馬を手に入れて、少しはしゃぎすぎていたらしい。
相手に害意がなかったとは言え、この流れを読めなかったとは。
解放の権限を持つのは、手綱を握るフォクシ嬢。
ゼルド氏が掠め取った程度の権限では足しにもならない。
「その分早馬に全ての要求を乗せましたでしょう? 頭痛薬は持ってきていますので我慢してくださいまし!」
「ちきしょう確かに報酬前払いされてらぁ!」
伊達にあの母親にしごかれ、六ツ葉まで上り詰めていない。
打ち合わせが必要な事柄でも、多少の無茶ならその場で対応できてしまう。
だがそのためには、否応なく爆音間違いなしの近くに寄る必要がある。
折角の防衛が無駄になり、恨みがましい悲鳴があがった。
* * *
崩れた議場の上。
今まで周囲から魔力を吸い上げていた砲塔が沈黙した。
つつがなく制圧が終わったということだろう。
「やっと、終わる。」
発射されるたびに還元の術式で迎撃した透明がつぶやいた。
希望を抱いたが故に勇者に選ばれ、絶望に叩き落された。
燻った憎しみは八つ当たりに使われ、もはや灰しか残っていない。
それでも、それでもなお彼は折れることを許されなかった。
「随分遅くなったよ、スフェラ、みんな。」
もしあの時、自分も同じように死んでいたら。
――他の誰かが彼女に手をかけていただろう、許せない。
もしあの時、彼女の願いを無視していたら。
――彼女は自分自身を永遠に責め続けただろう、耐えられない。
もしあの時、何らかの奇跡が起こったのなら。
――この世界に、そんなものを望むつもりはない。
脳裏に浮かぶもしもの話、そのどれもが今に帰結する。
「……やっと、終われる。」
唯一残っていた感情に突き動かされてここまで来れた。
膝を折ることを許さぬ世界に引きずられながら。
魔力をして希薄過ぎる透明な存在感。
その手に握る火砲を模した弩へ、望む矢が装填される。
天然勇者は領民としての自分と約束してくれた。
貴族の言う事を信じるつもりはないが、不思議と彼女を信じている。
『それじゃあ約束だ、連れて行くよ。』
魔王が魔力に乗って声と力を届けてくる。
船の主導権は奪えたようだ。
彼がここにいる理由はもうない。
「頼んだよ。さすがに、少し疲れた。」
お嬢様が暴れた結果、搬入口から動力室に至るまで人が絨毯のように広がっていた。
彼らが身につけているのは体内魔力隠しの空白を用いた鎧だ。
その能力も、魔王によって砕かれているため容易に個人の判別がつく。
行うことは単純だ。
覚えている体内魔力を頼りに、最低でもあの場所にいた二人は撃つ。
飛行船に乗っていた面々も、覚えている限り撃つ。
最後にこの実験を指揮していた研究省長は決して逃さない。
『君にとって待つのは苦痛だったろうけど、下準備に結構手間がかかるんだ。』
「そういえば僕も、こんなことがあるかもと言われて州章覚えさせられたね。用心深いというか、それが貴族の世界では普通なのかな。」
いかに罪を犯したと言え、州の重鎮を暗殺すれば騒ぎは必至。
議会で州長が明確に切り捨て発言をしたとは言え、限度がある。
そのために、裏取引に関係する組織の面々を確保した。
暗殺特化の組織も参加しているため、偽装の準備は整っている。
嘆願されたとは言え、他国で随分好き勝手していた。
『そうだね。だからまあ、手が開くのなら余生ついでに手伝って欲しい。』
「……気が向いたら。」
今後のことなんてこれっぽっちも考えていなかった。
何にせよ、することは変わらない。
罪には罰を、行動には復讐を。
船内に勤めていた研究員のうち省長含めたおよそ二十名。
闇組織によって殺害された報は、小さな見出しにしかならなかった。
GWのロスタイムということでがんばりましたぱーとつー