暴走しちゃった
随分久しぶりに感じるアラタsideです。
俺を前に警戒する、長身の二人組。こちらも同じように、そいつらに注意を向けながら数時間前、あの部屋でミコトから聞いた情報を整理していた。
第一に、今の俺の超人の如き身体能力の正体。ミコト曰く、それは俺に与えた『加護』という物らしい。祝福と何が違うのか、と聞いてみるとこう答えてくれた。
「祝福が何千と集まり巨大な才を与えるのに対し、加護はそれ一つで、何千の加護に値する才を与えることが出来る。ただし、各神々の管理する全ての世界で、存命中の一人のみにしか与えることが出来んがな。また、どのような方面にも好きなように才を与えることができ、お前の場合、身体能力に一点特化させておいた。あの世界の住人は、身体能力がアホ程劣っておるからのう」
長ったらしいが、要は俺に特別な力で物凄いパワーを授けてくださった、ということだ。言うなれば、祝福の超上位互換、といった感じだ。そして、加護にはもう二つほど、特別な効果があるらしい。
それは『神の呪い』と『神通力』。神の呪い、とは加護を授かることで発症する何らかの能力のこと。もう一つの神通力とは、全部で六つある神の力のこと。
俺の場合は、神の呪いで両眼に何かの力を宿してしまった。ミコトが言うに、心の眼、真の眼、神の眼の三つの能力が目覚めるらしい。
と、ここまではいい。
問題は、この力はあくまで呪いであり、当然、デメリットがあるということ。
それは己の何かを失う事。何かは分からないが、呪いを受けた者は力を得る代償として何かを失う。それは肉体という事もあるし、感情という事もある。
では、俺はこの能力を得て何を失ったのか。幸運なのか不幸なのか、俺にはそれがすぐに分かった。
記憶。
俺は幼少時(五歳~十一歳くらいまで)の記憶をすっぽり失くしてしまった。それが俺の呪い。まあ、これは大したことじゃない。小学六年生以外の小学生時代の記憶がないので、足し算、引き算、掛け算、割り算などの常識問題を習った記憶がないが、知識としては有しているからだ。
次に、神通力。これは天眼、天耳、他心、宿命、神足、漏尽の六つの通からなる力で、呪いとは違いデメリットはない。もっとも、今の俺にはどんな離れた場所の音でも聞き取れるという、天耳通しか使えない。ちなみに、ミコトと話せていたのもこれのおかげで、ミコトの位が上がり、俺がもっと強くなれば他の神通力も使えるようになるらしい。
「……ま、復習はこんなところでいいか」
呟き、今まで以上に、前後に注意をくばる。前方の細いやつが話しかけてくる。
「なんかよくわかんねえけど……てめえ何もんだ?」
「……人間だよ」
「ざけんじゃねえよ。急に現れて急にぶち切れやがって……おまけにその赤い右目。単刀直入に聞くぜ」
棍棒を片手に持ち、こちらに向けてくる。
「おめえ……使徒か?」
「ご名答だ。やはりお前も、神側の人間か」
「ヒハッ! な~んだ。同族かよ」
後ろからの声だ。ほとんど同じ声、同じテンションで同じ口調なので、紛らわしいことこの上ない。いや、そんなことより、『同族』といったか? 今度は前の細い方が口を開く。
「ここまでくりゃあ、隠す必要もねえよな。教えてやらあ。俺は……上級神ヴリドラの第七使徒ネス」
続くように後ろから。
「同じく、第八使徒ダズだ。よろしくな~、最下級神ミコトの第一使徒音無新クン。噂はかねがね聞いてるぜ。激レア必至の落ちこぼれくん」
次いで、前後からの笑い声。単純に馬鹿にするだけの、俺が一番嫌いなタイプの笑い方だ。
だめだ。
怒りが抑えられなくなる。どうも俺は自分の思っている以上に、あの記憶を嫌っているらしい。それだけでも爆発寸前だというのに、こいつらは何と言った。
上級神ヴリドラ。
ついさっき、殺すと誓った神の名だ。これで我慢しろという方が無理だろう。怒りは殺意に変わり、殺意が意思に変わる。そして意思が、言葉に変わる。
「……殺すぞ。お前ら」
「あ~ん? 手前みたいなのが、俺等をやれると思うか?」
「逆に、やれないと思うか?」
右目に猛烈な痛みが走った。なんとなくだが、分かる。心眼の力が、強くなろうとしている。怒りを開放しろ、ということだろう。
戦闘態勢に入る。ケンカなんてやったこともないが、関係あるか。今は、神の呪いと己の怒りを信じる他ない。
「行くぞコラぁ!!」
「上等だザコが!!」
前へ猛進する。駆ける、というより飛ぶと言った感じで。その勢いをそのまま拳へ乗せ――放つ。音速を超えた拳から発せられるソニックブームがそこらじゅうを抉る。
ネスは棍棒を前に構え、受け止める。構わず、今度は左で仕掛ける。次は右、さらに左で。
「砕けろ……!!」
「ぐうっ!」
何度も何度も、拳を突き続ける。間隔を段々狭めていき、さらに続ける。
ピシリ、とひびが入る音が聞こえた。行ける、そう思った時だった。右から邪魔が入った。ダズだ。向かってくる槍を後ろにステップして、避ける。
「野郎……予想以上だぜ」
「ああ。加護の力ってのを、少々見くびっていたようだ」
黙れ。喋るな。お前らの一挙一動、全てにイラついてくる。どうしようもなく、腹が立つ。怒りで我を失いそうになる。頭が真っ白になってくる。
殺人衝動が……俺の体を這い登ってくる。
まずい。
俺って、なんだったっけ?
「アァアァァァ……グウゥ」
「なあ……ダズよ」
「なんだ~相棒」
「これは……やばいよなあ」
「ああ。完全に、呪いに喰われてやがる……」
「ガアアアアァアアァアァァァァァァァ!!」