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なんやかんやで契約した

 しと。俺はその知りうる限りのしとと言う単語を思い浮かべた。使途、司徒、死徒、使徒。この中で神と関係あるもの、それはただ一つだ。

 

 使徒。


 確か、神に教えを乞う十二人の弟子たちを指す言葉だ。目の前の小さい神様は何と言った? 俺に使徒になれと言った。つまりだ。俺を弟子にするという事か? そういう事だろう。なら答えは当然。


「断るに決まってんだろ」

「な……なんじゃと!?」

「断るって言ったんだ。当たり前だろ。何が悲しくてお前みたいなガキンチョの弟子にならなきゃなんねえんだ」


 何をやるのかは知らないが、どうせ碌でもない事なんだろう。だから断る。俺は自分で無理だと思うことはやらない。いつかは忘れたがそう決めたんだ。だからさっさと帰してもらおう。


「ほら。さっさと元の世界に帰してくれ」

「………帰ってどうするというのじゃ」


 は? 予想外の返答に、俺はそんな間抜けな声しか出せなかった。


「帰った所で、お前には何がある。将来、何か幸せがあると思うか。断言できるぞ。お前のような人類史上稀にみる出来損ないには何もないと」

「……お前に、そんなこと言われる筋合いはねえよ」

「いやある。何なら教えてやろうか。才能とは何かを」


 才能とは何か、だと。神は軽く息を吸うと続けた。


「才能とは即ち、どれだけ多くの神に祝福されるかということ。より多くの神に祝福されればされるほど、才能は大きくなる。お前の世界で言うと、ニュートンやアインシュタイン、それにレオナルド・ダヴィンチといった者共は五千を超える神々に祝福された」


 何だそりゃ。要するに、才能なんて神の気まぐれで決まるってわけじゃないか。


「そして、音無新。お前の誕生を祝福した神の数は――」


 神はゆっくりと、確かに告げた。『一』と。俺の誕生を祝福した神の数は一だと。さらに付け加えで、一人にしか祝福されなかった者は人類史上俺を合わせて五人だけだとも。


「……んだよそれ」


 俺はギリ、と歯を食いしばった。溢れ出る怒りのマグマを鎮めようと。自制心の限りを以て、塞き止めようとした。だが無理だった。その怒りは俺の自制心などと言うちっぽけなダムを軽々破ってしまった。


「あんたらの気まぐれで! 俺はあんな悔しい思いをしてきたってのか!?」


 神は口を閉ざした。それに俺の怒りはさらに増長した。歯止めが利かず、胸倉を掴んでしまっていた。瞬間、俺は何かとんでもない衝撃を喰らい、吹っ飛ばされた。

 神様の、焦ったような声が聞こえる。


「ば……馬鹿者! お前……やってしまったのう!」


 やってしまったって、なにをだよ。衝撃でクラクラするが何とか答える。だが、答えは返ってこない。


「おい、どうした……」


 言いかけて、止まった。目の前に、禍々しい気配を振りまく骸骨がいたからだ。ぼろぼろのコートを羽織っており、肩に俺と同じくらいの長さ(百七十三センチ)の鎌を掛けている。

 腰が抜けたのか、逃げようにも逃げれない。


「ゼウストユダノナノモトニ、ツミブカキザイニンヲダンザイスル」


 骸骨が鎌を振りかぶった。まさか、俺目掛けて振り下ろすのか。おい嘘だろ。


「アラタ。今一度問うぞ。妾の使徒にならぬか」

「は? お前、こんな時になにを……」

「良いから答えんか! 死にたくなければ応じろ!」


 死にたくなければって、まさか助かるのか。でも、どうする。それでいいのか?

 神様(そう言えばまだ名前教えてもらってないな)が今まで以上に怒鳴った。


「時間がない! 死にたいのかアラタ!」


 骸骨が鎌を振り下ろした。極限状態の俺は、咄嗟に答えた。


「わ、分かった! 俺はお前の使徒になる!」


 視界に一瞬火花が散った。それと同時に骸骨の鎌は寸でのところで止まっていた。もう少し遅ければ、俺の首は何処かへ飛んでしまっていたことだろう。嫌な汗がどっと出た。息が荒れている。あまりの恐怖に呼吸をするのを忘れていたらしい。

 骸骨が消えていく。蒸散するように、やがてどこかへ行ってしまった。


「全く。冷や冷やさせおって。まあ、契約は完了したから結果オーライと言うところじゃな」

「何処がだよ。それより契約ってなんだ。あとあの骸骨の事も教えろ」

「そうじゃな。ではまずあの骸骨からじゃが……あれは神界の断罪人、上級神死神じゃ。今出てきたのは分身体じゃがな」

「死神って……いや一応神なのか」


 物騒な神もいるもんだ。説明はまだ続く。


「死神の仕事は神界の罪を裁くこと、アラタの世界で言うところの警察じゃな」

「へえー、神界にも法律ってあんのか」

「初代最上級神、全ての世界を創造したと言われる『ゼウス』とその第一使徒、『ユダ』が創った物で全部で五つの条約がある。その一つに、使徒を例外とし如何なる者も神への暴力を振るった場合は即処刑とする、というものが存在する。お前は妾の胸倉を掴んだじゃろう。それが原因で奴が来たんじゃな」


 あの時か。そして、使徒を例外とするってことは逆に言えば、使徒になれさえすれば罪が取り消されるってことだ。つまり、契約が成立したってのはそのことを指している。


「あれ? でも待てよ。なんで使徒の暴力は許されんだ?」

「……それは秘密じゃ」

「秘密? なんでだよ」


 そう聞くと、神様は笑みを消し言った。


「神の誕生。そのことと深く関わりあっておるからの」


 その時、若干気温が下がった気がした。これは彼女の忠告。これ以上は踏み込むな、という警告だ。仕方が無いので、他の質問をする。


「神様。気になることあんだけど、聞いていい」

「答えられる範囲でならの」

「俺を祝福した、たった一人の神様って誰なんだ」


 これは聞いておきたいと思っていた。それと、できればお礼もしたいと思っている。だから是非とも教えてほしいのだが、神様は固まって教えてくれない。


「どうした」

「……じゃ」

「なんて言った」

「……妾がその祝福したたった一人の神だと言ったんじゃ!!」


 理解するまで数秒かかった。そして言った。


「なんじゃそりゃあああぁぁぁぁ!!」


 叫んだ。清々しい程に叫んだ。某太陽にほえた刑事のように叫んだ。え、なに? この子が俺を祝福してくれたの。たった一人だけ。


「ふざけんなよ。何でもっと祝福してくれなかったんだよ。友達とかいねえのかよ」

「ふざけるなはこっちのセリフじゃ。その事件のせいで妾は皆から嫌がらせをされ、当時八人いた使徒を失い最下級神まで落とされたのぞ。どう責任とってくれるのじゃ。馬鹿者が」


 何だそりゃ。責任も何も俺は被害者だろ。無能として生まれ、悔しい思いをして生きてきて、挙句の果てにこんな子供の使徒にされたんだぞ。


「はあ~。話を戻すけどさ。何で俺を呼んだの。もっといい人がいるだろ」

「妾の今の力じゃ、お前レベルの者しか呼べなかったのじゃ。……とにかく! お主は責任とってさっさと残りの十一人の使徒を集めい!」  

「集めろって言ってもどうやってだよ。それに、俺になんもメリットなくねーか」

「メリットならあるぞ」


 え? あるの。どうにも胡散臭いが、取りあえず続きを促す。神様はない胸を張って揚々と話し始めた。


「使徒の強さはその神の位を示すからな。つまりお前が強い使徒を集めれば、集めるほど、妾の位は上がる」

「お前にしかメリットないじゃねえか」

「まあ聞け。もしもそうやって妾を最上級神までの仕上げてくれれば、お前の人生をやり直させてやるぞ」

「そんなこと……可能なのか?」

「当たり前じゃ。ついでに言っとくが、最上級神の祝福はそれ以下の神、三千柱分と同じぐらいだ」


 要約すると、強い使徒を集めて最上級神に成り上がらせてくれれば、俺を天才にして人生やり直させてやるということ。

 正直言って、悪い話じゃない。

 俺は確かに出来損ないだが、それはあくまで勉強に関することだけだ。運動能力なら、平均レベルくらいにはある。手段によっては、出来るかもしれない。


「使徒は……どうやって集めるんだ」

「やってくれるか! よし、では説明するぞ。まず神と言う存在はそれぞれ十二の世界を所持している。アラタにはその世界全てを回ってもらって、これだ! とおもう強者を各世界で一人だけ勧誘してほしい」

「分かった。最初はどんな世界に行くんだ」


 神様は指をパチンと鳴らした。すると、何もない空間に突然扉が出現した。これを通って行けと言うのだろう。

 上等だ。

 俺は扉の前に歩み寄って、ドアノブに手を掛けた。


「最後に一つ、いいか」

「まだあるのか。何じゃ?」

「いや、名前教えてもらってないと思ってよ。さすがに神様じゃああれだしな」

「そういえばそうじゃったの。妾の名は《ミコト》。呼称は何でもよいぞ」


 ミコトか。ま、普通に呼び捨てでもいいか。様とかつけても嫌がるだろうし。


「じゃあ、行ってくるか」


 俺は扉を押し開けた。白い光に満ちており、先がどんなところかを示すヒントなどはなにもない。

 軽く深呼吸してみる。

 よし、落ち着いた。俺はゆっくりと光の中へと身を委ねた。

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