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神様は意外と小さかったりする

 神様なんていない。いつからかそう思っていた。

 幼いながらにも、俺には才能というものが微塵もないという事を理解していた。だから努力した。他の人の数十倍努力して、遊ぶ時間も作らず勉強に没頭した。どんなに周りから異端の眼で見られようと努力した。負け犬にはなりたくなかったから。

 それなのに、俺は凡人レベルにすらなれなかった。あれだけ頑張ったというのに、俗に凡人と呼ばれる奴らは碌な努力もせず、血のにじむような努力をした俺より上のレベルの高校に楽々受かって行った。出来損ないの俺が一時間かけて覚えることを、奴ら凡人は三十分で覚え、忘れもしない神童と呼ばれたあの天才は一瞬で覚えてしまう。


 不公平だ。


 そう思い始めたのはいつだったか。何はともあれ、一度捻くれてしまったクズは立ち直れなかった。努力を放棄し、闘争心もなくなってしまった出来損ないの転落はジェットコースターのように早い。俺は見る見るうちに落ちぶれ、社会の底辺街道を順調に走り抜けようとしていた。


 だから神なんていないと思っていた。もしもそんな存在がいるのだとしたら、何故こんな不平等を認めているのだ、と。

 それなのに、だというのに。


「何で俺の目の前に……神様がいるんだよぉぉぉぉぉぉ!!」


 そう。俺は確かに神なんていないと思っていた。思って『いた』のだ。ほんの数分前、いつものようにため息を吐きながら登校している途中、突然訳の分からない光に呑みこまれるまでは。

 だが、今俺の目の前に居るのは十中八九、神様と言う奴だ。纏っているオーラが、人間のそれとはまったく違う。人間ごときがどんなに足掻いても勝てない。そう確信させる何かを放っている。

 しかし、問題はそこではない。真の問題はこの神様の容姿にある。

 小さいのだ。目測百三十センチ、もない。小学生、いや幼稚園児と言われても違和感はないほどに幼い。

 更にとんでもないほどの美少女ときた。大和撫子という言葉をそのまま幼くしたような、街で見かければ老若男女が思わず二度見してしまうほどの魅力を兼ね備えている。

 そんな小さな女神は、かわいらしく微笑むと初めて口を開いた。


「大分動揺しとるようじゃの。まあ、無理もなかろう。さて、人間。名は音無おとなしあらた……じゃったな。ではアラタよ。何か質問したいことはあるか? 特別に答えてやるぞ」


 子供特有の高い声だ。というか滅茶苦茶生意気だな。とにかく、今真っ先に知るべきこと。それを質問する。


「聞きたいことは山ほどあるけど、まずはこれに答えてもらう。あんた……いやあなたは神様なんですか」

「それを一番に聞くか。まあ、結論から言うとYESじゃ。妾はお主らが俗に神と呼ぶ存在の一人」

「一人ってことはつまり、言い換えれば神は何人もいるって事……ですか」

「その通りじゃ。お前のいた場所では、八百万の神々なんて言葉があるじゃろう。さすがにそこまでの数はおらんが、この『神界』にはいつ何時も常に一万ぴったりの神が存在しておる」


 シンカイ? 訳の分からん言葉が出て来たな。そのことは次に聞くとして、この少女はどうやら本当に神様らしい。それなら俺の――音無おとなしあらたの名を知っていても不思議ではない。

 俺は次の質問を投げ掛けた。


「シンカイってのはなんですか」

「お前の知る文字だと、神の世界と書く。後は読んで字の如し。神界とは文字通り一万の神々が住まう場所の総称。無論、この場所も例には漏れん。本来、人間ごときが立ち寄れる場所ではない。ついでに言っておくが、敬語は使わんでも良いぞ。かたっ苦しいのはちと苦手じゃからな」


 ああそうですか。俺も何でこんな小っちゃいのに敬語使わなくちゃならんのか疑問を持ち始めていたところだ。さて、気を取り直して、


「最後の質問だ。何故、俺はそんな御大層な場所に居るんだ」


 一瞬の静寂。直後放たれた言葉は、俺の十七年の人生史上、最も馬鹿げており意味不明で予測不能なものだった。


「簡単じゃ。妾の『使徒』になってくれんか? アラタよ」

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