九話 放課後の出会い
蓮と蛍を残し部室に戻る。
携帯で時間を確認するとだいぶ遅くなってしまった事に気づいた。
もう結花は帰っているかもしれない、そう思いながら廊下を足早に歩いていると向かいから見知った顔が歩いてきた。
向こうも俺に気づいたのか手を振ってくる。
「羽鳥君じゃないかー元気?遅くまで部活なんて大変だねぇ。」
そう言いながら笑顔を見せたのはクラスメートの清瀬和泉だった。ちなみに一年の時も同じだ。
屈託が無く親しみやすい性格なのなのだが時折する風変わりな言動が目立ち、校内の隠れた有名人だ。
「和泉の方こそ遅くまでいたんだな?部活?」
そう聞くと「そうそう!」と言って、手に持ったキャンパスをこちらに見せてくる。美術部員の和泉は一年の時もこうやって俺に絵を見せてくれていた。
ただ、その絵というのが…何とも形容しがたい物で、今回の絵も例に漏れず凡人の俺には理解しがたい絵だった。
それはピカソだとかの印象派をさらにこねくり回したような絵で、何を描いたのか正直なところまったくわからない。
コメントに困ったため当たり障り無い言葉を探す。
「えっと…し、新作?」
そう聞くと和泉は笑顔のまま頷いて一番聞いてほしくない事を聞いてきた。
「どう?」
非常に抽象的な質問だ。「どう?」って…。何を言うべきかわからないが何かコメントをしないと。そう思ってじっくりとその絵を観察する。全体的に緑系の色なのに中央だけ水色が強い部分がある…。
「こ、校庭にある…ふ、噴水?」
一か八か、疑問系になりながらも言ってみる。和泉はというとポカンとした顔をしている。
しまった!呆れられている。和泉の性格上ショックで泣き出すなどの乙女チックな展開は無いのは一年の時の経験上わかってはいるがやはり相手は女の子。もう少し慎重にコメントすべきだった。
「さっすが羽鳥君!なるほどねーそう見えるのか。風景画ねぇ。」
としきりに感心したように頷いている。
「へっ?」と思わず間抜けな声を出すと和泉は、
「いやいやいや、お見それしました。実は何のモチーフでも無いのですよ、この絵。ただなんとなーくシュババッバと書いたのだけどそこに噴水を見ますか。もしかした私の名前にかかっていたり?無意識で自分自身の心をキャンバスに投影していたのかなぁ、そして羽鳥君はそれを見破ったのか。すごい!天才!」
何も考えずに発言したのに勝手に深読みをし、一人でテンションをあげている。
和泉は満足したようで「片づけがあるから、またね。」と言ってそのまま行こうとしたが、何か思い出したように振り返り、
「そうそう、この前旧校舎の演劇部の倉庫を片付けていたときに絵が一枚無くなってたの。」
いきなり何の話だろうと怪訝に思い続きを待つ。
「でも鍵もかかっていたし部員も先生も誰も心当たりが無いんだって。私はね、何か霊的なものを感じるのですよ。だから羽鳥君も旧校舎を歩く時は気をつけたほうがいいよぉ。」
すでに二名ほど幽霊と関わりを持っているとも言えずに苦笑じみた笑顔を返す。
「もし本当に幽霊だったらオカルト部の局長にでも教えてあげれば。」
そういうと和泉は少し驚いたような顔をし、
「普通に信じるんだねぇ。羽鳥君ってこういった話はまったく信じないと思った。でも確かに、あの局長さん面白いですしねぇ、今度行ってみようかな。」
そう言って和泉は行ってしまった。結花とは違う種類のマイペースぶりだなと思わず笑ってしまう。
だけど確かに和泉の言う通りだ。少し前の俺だったら元クラスメートが言っている他愛無い噂程度にしか思わなかっただろう。でも今は違う、廊下を歩きながら当分は旧校舎の美術部倉庫には近寄らないようにしようと心に決めた。
やっと部室に帰り着きドアを開けるとだいぶ遅くなったのに結花が部長席に座っていた。
シナリオらしきものを読んでいた結花が顔をあげる。
「おかえりなさい。メールもないし少し心配だったけど五体満足で帰ってこれたのね。」
無表情のままだが結花なりの冗談だったのだろう。そうでなければ怖すぎる。
「ただいま。何だか普通の女の子だったよ、心配しすぎたみたいだ。」
そう言いながら結花のほうに歩いていくと結花は俺の後ろを少しだけ確認してから、
「蓮はどうしたの?」
と聞いてきた。もっともな疑問だ。
「その女の子、蛍って言う子なんだけどさ。一人で寂しそうだったし置いてきた。」
そう説明すると結花はそれだけで納得したのか「そう。」と言い、持っていたノートを机に置いた。その表紙を見て思わず「うわっ…。」と言ってしまう。
蓮のノートだった。
「この前は簡単にしか読まなかったけどやっぱり面白いわよ、コレ。」
その言葉に先日の記憶がよみがえる。結花の口から出た「おもしろい」はやはり貴重だし、今になって聞いても少しショックだ。俺の心中を知ってか知らずか、結花は「まぁ基本的にくだらなくて、どうしようもない話だけど。」と付け足した。
「とりあえず帰りましょう。」
そう言って結花が鞄を持って立ち上がると部室をさっさと出て行ってしまった。
待っててくれたんじゃないの?そう思ったものの結花の姿はもう見えない。
慌てて鞄を取ると結花の後を追った。
「それで、その蛍っていう子はどんな子だったの?」
なんとか結花に追いつき、少し歩いたところでふと結花が聞いてきた。
どんな子?どんな子だっただろう?思いつく限りに言ってみる。
「背が小さかった。」
「それと?」
「髪が長かった。」
「それと?」
「寝て…た。」
「それと?」
「あとは…。」
考えてみるがまったく出てこない。そんな俺の様子を察したのか結花はため息を小さくつき。
「要するに外見以外はまったくわかっていないのね。」
「いや…そういう…わけじゃ…途中までは聞いたんだけど…。」
「わかってないのね。」
有無を言わさぬ声で結花が言ってくる。
「そう…だね。現状は。」
質問をして書き出しなどはしてあったが何だか怒られているような気分になり、それも言うタイミングをのがしてしまった。
そんな俺の様子を見ながら結花は少しあきれた顔をしながらも、
「わかった。明日は私も一緒に行くわ。」
微笑んでそう言った。
その顔を見ると明日には綺麗さっぱり解決してしまうかもしれない、そう思えてしまう不思議な安心感があった。
翌日の放課後、旧校舎の一年三組の教室に結花と二人で向かう。
新校舎から旧校舎に行くにつれ徐々にすれ違う生徒が少なくなり旧校舎への渡り廊下を渡りきる頃には周りには誰もいなくなっていた。
まだ明るい時間ではあるがそれこそ幽霊が出そうな静けさだなと思う。
教室の扉を開けるとまっさきに聞こえてきたのは蓮の奇声だった。
「結花さぁぁん!」
飼い主を見つけた犬のごとく蓮がこちらに飛んでくる。そんな蓮を「はい、よしよし。」と軽くあしらいながら結花は教室の中に入っていく。もうペットと飼い主にしか見えない。
昨日と同じ場所、黒板の前に蛍は座っていた。また新しい訪問者が来たからか警戒しているように見える。
結花は真っ直ぐに蛍の前まで行くとしゃがみこんだ。
「初めまして。私は冴樹結花、演劇部の部長をしているわ。私も色々と協力したいと思って、蛍ちゃんっていうのよね?そう呼んでいい?」
そうやってふわりと微笑む。
蛍の警戒心が無くなったのは顔を見てわかった。蛍は結花の問いかけに少しもじもじとしながらも、
「ち、ちゃん付けは…こ、子供っぽいので…蛍って呼んでください。」
昨日俺に言った事と同じ事を、顔を赤くしながら言っている。背伸びしたがる小学生のようだ。
それを聞き、結花は笑顔のままうなずいた。
「わかったわ。蛍、よろしくね。」
結花の普段の様子から子供(と言っても蛍は同じ高校生のはずだが)と接するのは苦手そうだと勝手に思っていたが、どうやら大きな間違いだったらしい。始めにしゃがんで目線を合わせて喋るなど子供(くどいようだが蛍は高校生のはずだが)を相手にするのも慣れているように思えた。
結花の自己紹介を終えたところで、昨日中断していた話を再開する。
昨日の時点で黒板には質問内容と答えを書き出してある。
その内容を確認しながら、足りない部分は結花が質問していく。
俺は相変わらず書記係として黒板にその内容を書き足していく。
蛍も蓮と同じで記憶が曖昧な部分も少なくなかったが、蓮に比べればだいぶ多くの事を覚えていたし知っていた。
・名前は蛍
・目覚めたのは三ヶ月前
・生前は宮坂高校の生徒だった
・死因は高校二年の始業式の日、通学途中に事故
・年齢は事故にあったときが十六歳
・生前の記憶はあり(家族や、友人の記憶など)
幼く見えていたがどうやら同じ年だったらしい。確かに初対面なのに同年代の人に「ちゃん」付けされるのは、ニュアンスにもよるが子ども扱いされているように感じるかもしれない。実際に俺は年下だと思って接していた事は言わないでおく。
結花は書き出された内容を見ながら何か考え事をしているようだ。その隣で蓮も結花の顔をチラチラと見ながら「うーーん、なるほど。」と唸っているがあれは考えている「フリ」だろう。
「それにしても蛍はすごいな、蓮より覚えている事がだいぶ多い。なぁ、連。」
それを聞くと蓮がこちらを向き頷きながら答える。
「確かに。昨日話していた時も思ったけどすごい記憶力だよ。」
少し皮肉を込めて言ったつもりだが本人はまったく気づいていない。
「いぇ…。それほどでも、なぃです…。」
そして蛍は照れている。なんだか俺だけ捻くれた性格しているみたいだ。
「そういえば蛍、苗字は思い出せないの?」
蓮がそうたずねると蛍は少し首を傾げ、
「た、確かに、覚えて…ないです。」
申し訳なさそうに頭をさげる。
「あぁ大丈夫。こいつは苗字どころか名前も怪しいから。」
「えっ…。でも…昨日は志仁木…蓮さんって。」
「それ、偽名。」
そう聞いて驚きの表情を浮かべている蛍。案の定、蓮は食って掛かってくる。
「だーかーらー。名前は本名だから。多分。それに苗字あったほうが色々と便利でしょ。」
「便利?例えば?」
「知り合ったばかりの頃とか名前でいきなり呼ばないでしょ。仲良くなる前は苗字に君付けとかするし。便利!」
幽霊のお前がこれからどれだけ新しい人間関係を構築するつもりかは知らないが、結局俺のときも「蓮って呼べ」と強要していた事を本人は気づいていない。
これ以上つっぱねても泥沼化する可能性は高いので「まぁ、便利かもな。」とだけ言い、話を合わせる。
「じゃあ蛍の苗字もあったほうが良いよね。」
蓮が蛍の顔を覗き込んでそう聞いた。何だか嫌な予感がする。
見るからに気が弱そうな蛍は蓮からの問いかけにワタワタしながらも、
「い、良い…んでしょうか?」
本人は疑問に思っているようだが、そんな些細な事に蓮が気づくわけが無い。
「よーーし。それじゃあみんなで蛍の苗字を考えよう。」
なんだか蓮だけが楽しそうなコーナーが始まった。
「一応確認なんだけど。それはどうやって決定するんだ。勝手に決めちゃ蛍もかわいそうだろ。」
蓮が暴走して珍妙な苗字を付ける前に釘を刺しておく。
「えぇ、どうしよ…。」と言いながら連が考えている。
今考えてると言うことは「みんなで」とか言いながら面白そうな苗字を勝手に付ける気でいたのかもしれない。釘を刺しておいて良かった。
「じゃあさ、思いついたのを蛍に聞いてもらって「これだ。」って思うのを選んでもらうのは?」
確かにそれなら公平だし蛍も納得するだろう。それに同意すると蓮は声高に叫ぶ。
「じゃあ俺と真、どっちが良い苗字を付けられるか勝負だ。」
こいつは勝負事とか好きなんだな、と思いながら蛍のほうを見る。
蛍は俺の視線に気づいたが少し困ったような顔で小首を傾げるだけだった。
「伊香ってのはどう?」
蓮が声を高らかに言う。これで何度目だろう?
先ほどから蓮が発するものを黒板に書いてはいるが、どれも思いつきレベルで蛍がジャッジする前に俺のほうで却下しているものがほとんどだ。
「えっと…。なんで?」
一応確認する。
「これはねー。英語読みにす…。」
「ホタルイカ。駄洒落ね。」
先ほどまでずっと黙っていた結花がいきなり口を開いた。
結花の言葉に蛍が英語で自己紹介している姿を想像してみる。
(マ、マイ…ネェーム、イ、イズ…ホ、ホタル…イカ…)
なんてシュールなんだろう、そしてくだらなすぎる。
「却下。」
そう一蹴して黒板に書いた「伊香」の文字を縦線で消す。
「えぇ、またぁ。」
不満そうに蓮が口を尖らせる。
先程から蓮が提案したものを改めて見てみるが真面目に考えた気がしない、受け狙いのものがほとんどだ。
「ちなみに、さっき出た蛍シュワルツ・ネッガーだけど…間違いよ。」
さっき蓮が「ミドルネームとか格好良くない?」と完璧に思いつきで言ったシュワちゃんのパクリだ。
「正式にはアーノルド・シュワルツェネッガー。シュワルツェはミドルネームじゃないわ。そして本名はアルノルト・アロイス・シュヴァルツェネッガー。アメリカ出身じゃなくてオーストリア出身よ。」
出た!ユカペディアだ!思わず心の中でつぶやいてしまった。
いったいどこでそんな知識を仕入れるのだろうか?そう思う事を結花は時々口にするので、俺は勝手にユカペディアと名づけている。
「すごい!さすが結花さん!物知りすぎる!おばあちゃんの知恵袋も真っ青だね!」
蓮が声をあげ蛍も驚いた顔で結花を見ている。確かにすごいが蓮のコメントがひっかかる。さすがに結花もツッコむかもしれない。
「それで蛍は苗字があったほうがいいの?」
ツッコミどころか周りのリアクションには一切触れずに結花が蛍の顔を見る。
「あ、あの…。お気持ちは嬉しいのですが…べ、別に無くても…困りません。」
「そう、じゃあ今のままで蛍だけで良いわね。本題に入りましょう。」
先程の俺と蓮のやり取りをばっさりと切り捨てて進行していく。
蓮はもちろん、俺も何も言えない。というか何であんな不毛なやり取りをしていたのか今となると自分でも不思議だ。
「実はね、私たち蛍に聞きたいことがあってこの場所に来たの。」
「き、聞きたい事…ですか?」
結花の言葉を聞いて蛍が首を傾げる。
「さっき蛍に苗字を付けようとしていた蓮がいるでしょ?最近この学校で目を覚ましたのだけど記憶喪失で覚えていることが全然なくて。それでね…。」
結花が少しだけ言葉を詰まらせる。
「蛍にこんな事を聞くのも変なのだけど、蓮は…成仏したいらしいの。もし蛍が何か知っていれば教えてもらおうと思って。」
それを聞くと蛍は少しだけ驚いたように蓮の顔を見た。
「れ、連さんも…消えたいって…思いますか?」
その言葉に引っかかりを覚えた。「蓮さんも」という事はどういう事だろう。
結花も同じ部分に気づいたのだろう、
「蓮も。ってどういう事?」
と蛍にたずねた。
「実は…私、少し前に同じきょ、境遇の人に会いました。」
同じ境遇という事は…蓮や蛍と同じ、幽霊という事を指しているのだろう。
「その人から何か聞いたりした?成仏する方法とか、他の幽霊についてとか?」
蓮が身を乗り出してたずねた。いつに無く真剣な表情だ。
蛍は蓮の姿を頭から足の先まで見てから口を開いた。
「はい、少しだけ、聞きました…。で、でも、蓮さんは…まだ大丈夫だと思います。」
「大丈夫ってのはどういう事?」
その言葉が気になり聞き返す。
「はい、その人が…教えてくれたのですが…私たちは、自然に消えてしまうか…何か、きっかけがあって…消える…そういう仕組みだと言っていました。」
「きっかけ…。」
小さくつぶやいた結花の声が聞こえた。
「それで…然にき、消えてしまうのは、人それぞれ時間が違っていて…。蓮さんは…まだ、大丈夫です。」
また同じ事を言ったなと思った。根拠は何も言わないのに。
「さっきも大丈夫って言っていたけど、何か見分ける方法があるの?」
やはり結花も気になっていたらしい。
「はい。自然にき、消える場合。……体が、少しずつ透けていくって。その人の…体も透けて、いて…。もうすぐ…消えるって…言ってました。」
蛍があえて言わなかった理由がわかった。「その人」が言った事が本当であればまったく透けていない蓮はまだ大丈夫なのだろう。だがそれと同時に透け始めている蛍に残されている時間は少ないという事になる。
「その人とはそれから会えていないの?」
結花の言葉に蛍は少しだけ寂しそうな顔をし首を振った。
「も、もう会えないので…。」
先程の蛍の話でなんとなく、その言葉の意味が分った。
「わ、私も…。もうすぐ…消えちゃうと思います。」
その蛍の言葉に少しの間、教室内が沈黙した。その沈黙を破ったのは蓮だった。
「蛍。さっき自然に消えるのときっかけで消えるのがあるって言ってたけどさ、どっちがいいものなの?」
先程自分が消えると言ったばかりの子に対してなんて質問しているんだ?そう思って蓮を止めようとする俺を結花が手で制した。
蓮の問いかけに蛍は少し困ったように考え「わかりません…。」とだけ答えた。
「そっかー。じゃあさ、さっき言っていたその人は自然に消えちゃったの?時間が来て?」
蓮がさらに聞くと再び蛍が首を振った。
「その人は…ぎりぎりで、探し物が…見つかりました。」
「探し物?それが蛍が聞いたっていう「きっかけ」だったの?」
「はい…。多分、そうです…。」
「その人、喜んでた?」
蓮の問いかけに蛍は控えめな笑顔になり、
「は、はい…。とっても、嬉しそうで…。見ていて…少し…羨ましかった…です。」
笑顔は喋り終わる頃には消え、寂しそうな顔になっていた。
「じゃあさ、このまま自然に消えちゃうよりは蛍も「きっかけ」探そうよ!俺も自然に消えるよりは納得して消えたいし。」
蓮があっけらかんとした声で言って蛍に笑いかける。
ただ無神経な質問なのかと思っていたが、蓮の軽快な言葉で少しずつ進むべき道が見え始めた気がした。
「で、でも…私はもうすぐ…消えちゃいます…。」
肩を落とした蛍の前に結花がしゃがみ声をかける。
「蛍、辛いかもしれないけどその人の事詳しく聞いてもいい?蛍の「きっかけ」が見つかる手がかりになるかもしれないから。」
「…わ、わかりました。」
なおも表情が硬い蛍に結花が笑いかける。
「大丈夫、その人もギリギリで見つかったんでしょ?私たちも協力するから。」
「ありがとう…ございます。」
そう言って蛍は頷き少しだけ笑顔になった。