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七話 学校の怪談


一段落したとこで仙道が全員にコーヒーを淹れてくれた。

演劇部には置いてないが部活によっては電気ポットや食器など持ち込んでいる生徒もいる。オカルト部もそうらしく、夕暮れの部室にコーヒーの香りが溢れた。


演劇部 部長、演劇部 副部長、演劇部 幽霊、オカルト部 局長、オカルト部 部員。

肩書きも性格も違う人間が集まった空間に落ち着いた空気が流れる。まったりとした空気だ。

俺も呑みたいと蓮が駄々をこねるかと思ったが何も言わなかった。もしかしたら飲食が出来ないためそこらへんはどうでも良いのだろうか。

ひとしきりまったりしたところで、今までほとんど黙っていた結花が口を開いた。

「この学校では他に幽霊騒ぎとか、そんな事って今まであったの?」

前置きも何もない、ただ聞きたいことを聞いた。結花らしい。

いきなり質問されたせいか局長が少し気圧されたような顔をしながらも口を開く。

「あぁ、俺は…見たことはないがな。時々話しは聞くぞ。」

「どんな?」

結花のコミュニケーションが不足した会話についていけないのか再度、局長が言葉につまる。

あの異常なテンションは見る影もない…と思っていると、

「なぜ教えなければいけない?!部員でもない人間にそう簡単に教える訳にはいかないなぁ!まぁ部員になるというのなら話しが別だがな!そもそもその蓮というのもいるかどうかも怪しいしなーーダハハハッ!」

あの面倒くさいテンションが再来した。だが今回の相手は結花だ。

どうなるのだろうか…とりあえず見守る事にする。

結花は少し黙り局長の顔をじっと見ている。そこで更に局長が攻撃の手を強める。

「まぁ証拠でも見せてもらえれば別だけどなぁ。人魂でもラップ現象でもなんでもいいぞー。まぁ俺は冷静な人間だからな、そう簡単には驚かないがな!」

完璧に調子に乗っている。そして喋りながら先ほど俺に書かせようとしたファイルを抱え込んだ。誰が見ても情報はそのファイルに書いてあるのがわかる。

こんな変人相手なら結花も手こずるかもしれない。そう思っていると結花が沈黙を破った。

「蓮。」

そう呼びかけて蓮のノートを手に持ち高く上げる。

それだけで何となく結花の行動の意味がわかった。蓮も同じだったようで結花の手からノートを受け取り、軽く天井のあたりを旋回してみせる。 論より証拠、というわけだ。

仙道が「あぁぁ。」と小さな声で驚きの声をあげる。では肝心の局長はと言えば…。

「ポポポポポポ、ポルターガイストか…」

まったくもって冷静さの欠片もない。

「そんな…こんな非科学的な事…あってたまるか。」

ぼそっとオカルト心霊超状現象研究部 局長としてはあるまじき言葉が漏れた。

「蓮。」

再び結花が手を挙げると蓮がノートを結花の手に戻す。

どうでもいいが蓮が日に日に結花のペットのようになっているのが気にかかる。

「どう?」

いまだ間抜けな顔をしている局長にむけて結花が言う。

少しの沈黙の後、妙な笑い声がもれてきた。声の主は…局長だ。

「フフフ…ハハハッハハ!遂に俺も不思議体験者の仲間入りだーーー!」

とても満足そうなのでいいのだろう。仙道は局長を無視しコーヒーのおかわりに回っている。悪意はないのだろうが端から見ると一番冷たい反応に見える。


「よし、わかった!信じよう!いや、むしろ協力させてもらおう。」

元気を取り戻してしまった局長はそう言い、抱え込んでいたファイルを机に置いた。

やっぱりな、と思っていると結花が質問の続きを始める。

「それで?今までの幽霊騒ぎは?」

「うむ、昔から色々と報告があるし、それにいわゆる七不思議のような話しもある。まぁ勘違いやいたずらも多いがな!もちろん俺はいたずらなんてすぐ見抜け…」

「時間は有限、手っ取り早く教えて。」

色々と話したいらしい局長を完全に無視して先を促す結花。先程、俺が話の途中で喋ったときは怒ったくせに今度は何も言ってこない。

もしかしたら結花は最強なのではないだろうか?そんな気さえしてくる。

局長は何か言いたそうにしながらも大人しく部活記録を開く。

「新しい記録と古い記録はどっちがいい?」

なんとも普通のテンションで普通の事を聞いている。局長らしくない。

「新しい記録。」

結花は普通以下のテンションで普通以下の返答だ。結花らしい。

それを聞き局長がページをめくる手を止めファイルをこちら側に向けてくれる。

ファイルには場所や報告時期と回数、現象などが事細かに書いてある。読もうとすると局長の声が聞こえてきた。

「場所は旧校舎の演劇部室、報告されたのは3月の後半。誰もいないはずの部室から奇声や歌声が聞こえてくるという報告があった。それと部室の中を確認した生徒会の連中が、窓も開いてないのに突風が吹いたと言っていた。声を聞いた生徒のほとんど放課後で、声は男の声だったという話だ。最近やたら報告が多いのはこの件だが…。」

そこまで言って俺と結花を見る。 まぁ言わんとすることはわかります。

「それがこの蓮の事ね。」

結花が口を開き、それに局長がうなずく。局長もわかった上で話したのだろう。

「だがな、ひとつだけ疑問がある。」

局長はポケットから一枚の紙を取り出した。奇妙な模様が描かれているカードのような紙だ。また出てきた。そう思った俺の顔を見て局長は、

「どうやら見覚えがあるみたいだな。」

とその紙を俺の前に置く。

「これってこの部室のドアに貼ってあったり、裏側にいっぱい貼ってあったりしてるやつですよね?」

目の前にあった紙を手にし、局長に言う、

「そうだ、これはさっきまで部室のドアに貼ってあったものだ。なぜか俺が来たときに剥がれていたがな。」

おかしい、さっき入るときは貼ってあったはずだ…。

そこまで考えてドアを開けたときにドアが何かに引っかかった事を思い出した。

もしかして、ドアを開けた拍子に剥がれたのだろうか?。

「それで?この紙は何?」

気がつくと俺の前にあった紙を結花が手に取り、観察しながら局長にたずねた。

「その紙は『ゲート』っていう、まぁお札みたいなものだ。何年か前の部員が作ったらしくてな、それを貼ると結界のような物ができて霊をブロックできるらしい。まぁ俺は幽霊も見えないから実際に効果があるのかはわからないがな。」

なんとも胡散臭い話だと思う。だが心当たりはあった。

「昔から幽霊騒ぎなどあった教室にこのゲートを貼りに行くのも活動の一つでな、旧校舎の演劇部室にも報告があった直後にゲートは貼りに行った。だがその幽霊がここにいる。もとから効果がなかった、という事も考えられるが…心当たりはないか?」

まじめな雰囲気で局長がしゃべっている間、俺は知らなかったとはいえ自分が蓮を校内に解き放った犯人だと確信していた。こうなったら観念するしかない。

「確かにあの日、ドアに変な紙が貼ってあった。」

「それで?」

局長がじっと見つめてくる。まるで犯人を尋問するかのような視線だ。

「…剥がした。」

妙な沈黙が流れる。

「何でまた…剥がした?」

とりあえず、といった感じで局長が聞いてくる。

何でだろう?こうなるとわかっていたら絶対に剥がさなかったのに。

特別な理由も思いつかず仕方なく、

「なんとなく…。貼ってあったから…。」

と悪戯をとがめられた子供のような理由を口にする。再び妙な沈黙が流れる。なんだかとてつもなく恥ずかしい。

「この部室に入るときも剥がしたのか?」

尋問は続く、

「いや、その時は紙に気づきはしたけど剥がさなかった。ただ開けるときに何か引っかかったから…その時に剥がれたかも。」

「うーん。」とうなり声を局長があげるので、

「ちなみに補足だけど、蓮は今日までここには入れなかったらしい。あと旧演劇部室からも俺が行くまで出られなかったみたいだし。」

そう言うと結花が、

「その補足が一番重要な事ね。」

と呟いた。確かに言われてみればそうだ。

「このゲートっていう紙、確かに効果があるみたいね。」

結花がそう言うと局長はゲートを手に取り、

「確かに、効果あったんだなぁ。」

と感心した口ぶりで言っている。どうやらゲートを剥がしたことはうやむやになったようなので良しとしよう。


ゲートの話で蓮の行動が制限されていた理由や、何年前かのオカルト心霊超状現象研究部 部員が大発明をしていた事がわかった。

とりあえずはその話も落ち着き、もとの「最近学校内であった怪現象」の話に戻った。

再び局長がファイルをめくり、俺と結花の前に置いた。

どうやら蓮より少し前にあった報告のようだ。


場所 旧校舎一年三組の教室

報告 三月初旬

時間 放課後

現象 人の形をした光を見た

概要 図書委員の生徒が放課後、旧校舎に行った際に教室の中で何かが光っているのを見た。室内を見てみるが誰もおらず、光も消えていた。夜に見回りをしていた用務員も奇妙な光を見たという報告もある。


一通り読んで顔を上げる。確かにかなり高い確立で幽霊か何かのようだ。

「これはここ二ヶ月で報告されている中では演劇部幽霊の次に新しい報告だ。二週間前にも仙道の同級生が聞いたらしい。」

仙道はいきなり話しを振られたが驚く様子もなくしゃべり始めた。

「同じクラスの方なのですが、先日部活の最中に用があって旧校舎に行ったらしいのですが、その教室の前を通った時に中で、人の形をした光が動いているのが見えたと言っていました。誰かいるのかと思い教室の中を見たようなのですが誰もいなかったようです。先生方に言ったらしいのですが誰かのいたずらじゃないかと言われただけで…。」

その続きを局長が話し出す。

「まぁ、その友達も気味悪がっているらしくてな、事情を知った仙道がその子の代わりにウチに相談に来たわけだ。その子のためにも本当に幽霊だったのかいたずらなのか調べてほしいとな。」

専門知識がまったくない俺がそこまで聞いて分った事は、仙道が友達思いでとてもいい子なんだという事くらいだ。自分でも分っているが本題とまったく関係は無い。

「本題と関係ないけど。」

ふと結花が口を開いた。一瞬、心を読まれたのかと思ってしまったが、結花がその先を続けた。

「なんでその相談をしてきた仙道さんが部員としているの?」

それを聞き仙道がニコッと笑い答える。

「なんでもその怪現象を調べるにも部員がすごく足りないらしく、私が入部すれば調べる人員も確保できるとの事でしたので。入部させていただきました。」

局長を見てみる。非常に目が泳いでいるのは気のせいじゃないのだろう。とりあえず言及してみる。

「そうやって…無理やり部員として入部させたんですね。調べもしてないのに。」

仙道の純粋さを利用した、悪徳商売のような手口だ。

「な、なんと人聞きの悪い。ちゃんと調べているぞ、ちゃんと……。」

局長はそう言うが、恐ろしく説得力がない。

「それにあれだ、まだ仙道は仮入部だ!だから大丈夫だ!」

なにが大丈夫なのかまったくわからない。そんな思いでさらに局長を見つめると、

「か、勘違いするなよ、別に脅迫したわけじゃないぞ。」

とさらに言ってくる。それを聞き本人は、

「そうですね。私も部活動というのは興味があったので。それに珍しいものばかりでとても楽しいですよ。」

柔らかい笑みで言う。

それを聞き局長も安心したのか「ほれ見ろ。」という顔をしている。

正直なとこ一刻も早く辞めたほうがいい気もするが、「楽しい」と笑顔で言う彼女に言えるわけもなく、ただ変な方向に感化されないよう祈るしかない。

話が一段落もしたところで結花がかしこまった様子で口を開く、

「とりあえず、色々と協力してくれてありがとう。これからも色々と教えてもらえると助かるんだけど…。」

珍しく結花が言葉を濁す。

普段であれば協力してもらえると確信した口ぶりで話すような性格なのに珍しい。

もしかしたら結花も内心、局長の妙な性格にどう接すればいいのかわからないのかもしれない。

局長は結花から視線を向けられ、

「もちろんだ!お隣同士、助け合い精神で行くのは当たり前だ。そいつもちゃんと幽霊の事調べたらうちに報告書をだしてくれるだろうし。」

「そいつ」と言いながら俺を見る局長。まったくの初耳だったため思わず、

「なっ!聞いてないぞ、報告書なん…。」

「もちろん、教えてもらったお礼もあるし、きっちり提出するわ。」

俺の抗議をさえぎり結花が笑顔で局長に返す。どうやら当人の意思は関係無いらしい。

まぁここで結花に反抗したところで、有無を言わさぬ笑顔で黙殺されるのは目に見えている。

それに俺も局長に少しは感謝している。お礼はしたいと思ったし、報告書を書くくらいなら書いてもよかった。

「了解。きちんと報告させていただきます。」

それに報告書とはいえ、自分で書いた物を色々な人に見てもらえるなら執筆の力を見てもらえる事でもある。

結花と局長は満足そうに。仙道はニコッとした笑顔を向けてくれる。そして後ろの方では蓮が、

「おおーなんか楽しくなってきたねぇ。」

と言葉のとおり楽しそうに言っている。

なごやかなお開きのムードの中、局長が本日の締めをする。

「おおし、じゃあ第一回オカルト心霊超状現象研究演劇部の打ち合わせ終了!各自解散!!」

夕暮れの部室に清々しく声が響いた。





「でも別に合併した訳じゃないからそのやたら長々しい名前に演劇部を入れないで、不本意だわ。」

爽やかな締めのムードの後にも結花の冷たく鋭いツッコミは冴えていた。

局長が何か言おうとするも再び結花から「不本意だわ」と出たので局長は素直に謝るしかないようだった。

さすが結花。俺も局長の言葉は気になっていたのですっきりした。

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