三話 蓮のノート
仕方ない、とりあえず彼の生い立ちをでも聞いて共感してあげれば納得してくれるだろうし、うまく行けば成仏してくれたりするかもしれない。
いざとなれば未練を一緒に解決するとかすれば十中八九、成仏するだろう。
俺なりの知識に基づけばそれでどうにかなるはずだ。│(漫画や映画で仕入れた知識ではあるが。)│
とにかく一刻も早く成仏してもらい平穏な日々を取り戻さなければいけない。
どうするにしてもこんな所を誰かに見られでもしたら都合が悪い。蓮が他の人間にも見えるのかはわからないが、どちらにしても話しているのを見られたら問題だ。
見える場合は単純に幽霊騒ぎに発展するし、もし見えない場合には変な噂が流れかねない。
「演劇部はいつのかにかパントマイム部に変わったらしい。」といった誤解ならまだいいが「四組の羽鳥がさ、部室で一人きりでなんかぶつぶつ話してた。しかもツッコミ入れたり成仏しろとか言ったり…気持ち悪かった」などと個人名で「危ないやつ」と噂が流れてしまう。
あんな幽霊のせいで俺が変人扱いされてはかなわない、ため息をつきドアを閉めようとしてある事に気づいた。
ドアが五センチほど開いていたのだ。
ついでに言えばその隙間から部室の中を覗いている目が一つあった。
さらに言えば鍵を閉めるためドアに近づいた俺は、覗いているその目とばっちり目が合ってしまった。
動きが止まる。
一匹見つけたら百匹いると思え!でおなじみのあの害虫同様に幽霊もそうなのだろうか?もしそうなら今から幽霊用の殺虫剤を購入して来なければならない。
スーパーか?それとも神社で売ってるのだろうか?
隙間の目と合ったまま数秒間固まっていると、後ろから蓮が「おーい、どした?」とあっけらかんとした声で話しかけてくる。うるさい!幽霊その一。
とりあえず確認するため扉を開けようと手を伸ばす。その瞬間ドアがビシッ!と、閉められた。
いきなりだったためたじろいでしまったが、ふと考える。
ドアが閉まった=物に触れられている=生身の人間。
後ろの幽霊の理屈に合わせるとそういう事になるのだろうか?
頭の中で瞬間的に計算し、幽霊その二で無かったことに安心しながらも、すぐに「それはそれでまずい!」と思い直しドアを開ける。
ドアの外には誰もいなかった…ほうがよかった。視界の下隅には見慣れた頭。
おでこと長い黒髪。演劇部部長が少し気まずそうにしながらも俺を見ていた。
結花はひとつ咳をし、俺の横を通り抜け部室に入って行く。
「あの、結花さん」
「お疲れさま」
挨拶は大事だね、部としても幼なじみとしても。
「あ、ああ。お疲れさま。で、結花さん?」
「何?」
「どこから見てた?」
単刀直入に聞いてみたが結花は何も答えずに、部室の奥にある自分の席に鞄をおろす。
ちなみに斜め向かいには蓮が椅子に座り、興味深そうに結花を見ている。
まあ椅子にも触れられないだろうか「椅子に座ったように浮いている」が正しいのだろう。
結花は言葉を選んでいるのか少し考え、口を開いた。
「別に、自主練習は良い事だし部長としてもやる気のある副部長の姿勢は嬉しいわよ。それが一人で寸劇の練習で上段回し蹴りのガードの練習でも、ロッカーに向かって思い切り悲鳴を上げる発声練習でも、初対面の相手との自己紹介でいきなり偽名である事を指摘する練習でも何かしらの役に立つと思うわ。それに妄想の彼女に向かって「鍵閉めてくる」と言って部室の鍵を閉めて、思春期の男子特有の一人芝居ををしようとしたのも思春期なんだし仕方ないわ。幸い途中までしか見なかったし…」
そのまま結花は自主練習の大事さを話し続けてくれているが、俺の頭には何も入ってこなかった。
結花には基本的にすべてを見られていた。そして最後だけ変な勘違いをされている。
なんて説明すればいいのだろう?
幽霊だなんて言ってもただの照れ隠しにしか思われなさそうだ。
色々と考えている間も、結花の講義は続いている。フォローしてくれているのかもしれないがやっぱり頭には入って来ない。
「真、俺の紹介してくれ、俺!志仁木 蓮。見えてないみたいだけど、演劇部OBだし。この子は部長?とりあえず俺の事を…。」
どうやって弁解しようか考えているのに、両方から話しかけられ上手く考えがまとまらない。
「俺、俺の紹介して!」
「だからね、脚本を一人で読む時には…」
はやく考えないと。
「この部長さん小さいのになんかしっかりしてるなー…」
「そういえば寸劇の練習用とかには…」
「うるせええええ!!」
思わず叫んでしまい、しまったと思った時にはすでに遅く、沈黙が演劇部室を支配していた。目の前には精一杯フォローしていたのに、いきなり切れられたと思って一気に不機嫌になった演劇部部長と、怒る事無いじゃーんとふてくされている幽霊がいた。
テーブルをはさみ部長席に結花、その向かいに俺、そして何故かちゃっかり結花の隣に移動した蓮という形で座る事になった。
怒ったのは結花にではなく幽霊に対してで、この幽霊と言うのは…と言いたい事は色々とある。だがまずは、
「ごめんなさい」
「……」
不服そうに黙ってこちらを見る結花。かたや蓮の方は、
「ホントだよ、まぁ気にしてないけど。わかってくれればさ」
とすんなり許してくれたが蓮に謝罪したつもりはまったく無かったので嬉しくも何ともない。てかお願いだから黙っていてくれ。
「少し長くなるけど、まず一から説明させてもらうな。いいか?」
結花はこちらの様子を少し見て、
「…いいわよ」 と弁解のチャンスを聞き入れていくれた。寛大な部長兼幼なじみに感謝だ。
だけど一応付け加えておく。
「これから語る物語はノンフィクションで、登場する人物・団体・事件などはすべて実在するので、決して春の陽気に脳がやられたわけでは無い。それを踏まえて聞いてもらえるとありがたい」
そう前置きをしたうえで、とりあえず先ほどの蓮との遭遇からの顛末を一通り話した。
蓮が幽霊だったと話した際、若干結花の眉が動いたが結花は何も言わなかった。
とりあえず最後まで話しを終えて結花の反応を待つ。
「わかったわ」
拍子抜けしてしまうようなあっさりとした、意外な反応だ、というかもし自分が逆の立場だったなら絶対に信じられない内容だ。
「えっと…信じてくれるの?」
そう聞くと結花は、
「だって、一人で練習していたのならわざわざそんな嘘いう必要ないでしょ。それに…」
結花が少しだけ言葉につまり俺の顔をじっと見つめてくる。その顔が少し赤いように見える。
なんだろう?いきなりそんな顔で見られると幼なじみながら少しドキッとしてしまう。
「そ、それに?」
「それに…さっきからすごっく寒気がするの。部室入った時はそこまで感じなかったけど真の話しを聞き始めたらなおさら」
うん、さすがだ! 確かに俺が話している間、暇を持て余した蓮が結花の周りをフラフラ飛んだいたのは事実だ。
同じ過ちを犯さぬよう完全に無視をしていたが、こちらから見ているとあきらかに幽霊に取り憑かれた女子高生に見えた事は言わないでおこう。
「それで?その幽霊さんは今どこにいるの?」
結花には見えないので当たり前の質問だ。
「今は…目の前にいる」
「目の前?机の上?」
「いや、机の…中?」
今、蓮は俺と結花の目の前の机の中にいた。
下半身は机に隠れて見えず、上半身だけ机から出ている状態だ。完全にその状況を遊んでいる。
なんとなく状況がわかったのか結花は、
「まあいいわ。とりあえず邪魔だからどいてもらって」
見えていないのに邪魔扱いをした。幼なじみながらその肝の据わりように驚かされる。
邪魔扱いされた当の本人は結構ショックを受けたらしく、俺が言う前に机から出て俺の隣に飛んできた。 俺の目線で何となく蓮の動きを把握したらしく、結花が口を開く。
「それでおおよその事がわかった所で、いくつか質問があるのだけど。真は霊感って今まであったの?そんな話し聞いた事なかったけど」
そう言われ、ふと自分の過去を振り返る。霊感? 確かに今までは幽霊や心霊現象なんて見た事も体験した事もない。
「経験上では、初めてかな」
それを聞き結花は少し考え、口を開く。
「もしかすると、昨日の旧校舎。あそこで何かあったんじゃないの?」
「確かに昨日行ったとき…」
そこで忘れかけていた事を思い出した。妙な脚本を読んでいた時に聞こえた「何だと!!」という声だ。
もしやと思い蓮の方を見る。
誰もいないはずの旧演劇部の部室で聞こえた声、あの声の主がこいつの可能性は高い、てか絶対そんな気がする。
その内容を結花に話すと結花も俺と同じ事を考えたらしく、
「それなら、本人に聞いた方が早そうね。」
と事の真相を本人から聞く事を提案した。 蓮も話を聞いていたので、やっと自分が喋れるという事が嬉しいのか、結花が言い終わる頃には立ち上がり「まかせとけ」と言わんばかりの顔をした。
とりあえず覚えていることを蓮に一通り話してもらう事にした。
結花の質問を俺が蓮に伝え、その返答を俺が結花に話すという形式で、結花は部室のパソコンにその内容を打ち込んでいく。
本人曰く「こんな珍しい事はラノベやアニメの世界でしか起こらないから、記録しておくべきよ」という事らしい。
今日は非現実的な事ばかりあって驚いてばかりだったが、冷静な結花の姿にも驚かされた。
蓮は一ヶ月程前にあの旧校舎の部室で目を覚まし、ずっとあそこにいたらしい。
というのも一ヶ月間いろいろと出ようと試みたが、ドアを開ける事はおろか、壁をすり抜ける事もできなかったらしい。
だが、不幸にも昨日、その部室に訪れたのが…俺だった。
蓮もどうにかコンタクトを取ろうとしたが声も届かないし、触ることもできないためうまくいかなかった。
どうしたものかと思っていると蓮が書いたノートを俺が読み始めたらしい。 自分の脚本が読まれているので反応を楽しみにしていた矢先、その読者から開始数ページで想像だにしない侮辱の言葉が発せられたため「何だと!!」と思わず怒鳴ったという。
その後、急に俺が出て行き、その後には開けっ放しになったドアがあった。
試しに出てみると今まで出られなかった部室から出られるようになっていた。
「これはラッキー」という事で侮辱された報復に俺を新校舎の部室で待ち構えていたらしい。その結果、先程の大立ち回りが繰り広げられる事になったわけだ。
「でもたった一言、脚本が悪く言われただけであんな怒るなんて。気持ちはわかるけど大人げないよな」
口は災いの元とはよく言う。
「おおし、さっきはうやむやになっちまったがケリつけようか!」
何気なく言ったつもりだったが蓮の怒りを再燃させてしまったらしい。漫画に出てくる悪党のような台詞を口にしながら、蓮がこちらに向かってくる。 殴られないのはわかるがやっぱり怖い。蓮もわかってはいるのだろうが、どうにか俺に一撃を加えようとあらゆる打撃技を繰り出していく。
のれんに腕押し、拳は空を切る。
そんな取り込み中のなか、結花が口を開く。
「真。」
「な、何?」
「脚本を悪く言うのはよくないわ」
「すいません。今、取り込み中です」
結花は俺の動きと言葉で状況を察したらしいがそれだけ言い、パソコンに向き合い先ほどの蓮の話しのまとめを始めたらしい。
こちらはというとまだ蓮の攻撃の手は止まる気配がない。
少しするとまたもや結花が口を開いた。
「真。」
「今度は何?」
「さっきの話しだけど、旧校舎の部室の鍵、閉めてないでしょ?」
「ほっんと、すいません。今、取り込み中です」
まったくもって止める気はないと見た。
そんな事をしていると蓮の攻撃ペースだんだんと落ちてきた。さすがに無駄だとあきらめたのだろう。少し息があがっているところをみると一応幽霊も疲れるらしい。
俺も当たらないとわかっていても眼前に迫る拳や脚を無視する事もできず、反射的に避けてしまうため疲れてきたところだったので助かった。
攻撃が止まり、蓮は先ほどいたテーブルに戻っていく。
「あぁーー、疲れたぁ。汗かいちゃったよ」
そう言いながら蓮は机の上にあったノートを手に取り、うちわ代わりにしている。
本当に幽霊らしくないなと苦笑してしまうが、確かに暑い。
俺も一冊手に取り脚本で顔をあおぐ。
「これ少しかび臭いな」
昨日、旧部室から持ってきた物だからだろう。
「はは、確かに」
笑いながら蓮が言う、そっちもカビ臭かったらしい。まるで喧嘩が終わった不良同士が河原で仰向けになり「お前、なかなかやるな。」「お前もな」ハハハッ…。といった具合の爽やかさだ。
これで蓮の怒りも治まったかもしれない。などと考えていると、ふと視線を感じる。
結花のほうを見ると、パソコンを打つ手を止めこちらを凝視している。
非常に真剣な表情で睨んでいるようにさえ見える。
まずい、脚本をうちわ代わりにしているのを怒られそうだ。結花は演劇大好き人間のため、こういった行動を嫌うのだ。
怒られる前に急いで脚本を置き、結花から発せられそうな言葉を先に言う。
「蓮、脚本はうちわじゃない、読む物だぞ」
とあたかも自分は初めからわかっていたよという顔をし、蓮からノートを取り上げた…? 違和感に気づき結花を見ると真剣な面持ちのままコクンと結花がうなづいた。
蓮に視線を戻す。本人はまだ暑いらしく「なんだよもぉ」と不満そうな顔をしている。
本人は気づいていなかった。物に触れられないはずなのに自分がノートを持っていたことを。
とりあえず確認するため取り上げたノートをもう一度、蓮に渡してみる。 蓮は「何?」という顔をしノートを受け取る。やはり手に持っている。
「蓮、それ。さわれてるよな?」
さらに確認。
蓮はそれを聞き、ノートを持ちかえしたりページをめくったりして「おおー確かに」と言っている。こちらの驚きは伝わっていないのか、非常にのんきそうだ。
「そういえば確かにさっきもこれだけは読めたしな、大発見だ。」
そういえば…部室ではじめて蓮を見たとき何か読んでいた気がする。
試しに他の本やノートも手渡してみるが、そのノート以外は触れないらしく、蓮の手をすりぬけすべて床に落ちていった。 何であのノートだけ?当然の疑問を抱えながら床に落ちてしまったノート等を拾っていると結花の声が聞こえてきた。
「じゃあ、そのノートなら真の事、殴れるわね。」
はい!そこ余計な提案しない!
振り返るととても嬉しそうな蓮、すでにノートは殴りやすく&攻撃力をあげるために筒状に丸めて持っている。 あぁ…これは、殴られるな。危険を察知し、さっき以上に本気で逃げる事にする。
蓮もさっき以上の勢いで追い回してくる。結花はその光景を見てポツリと言う。
「すごい、ノートが空飛んでる。ポルターガイストみたい!」
すいません、とりあえず助けてください。 その後、狭い部室の中で追いかけられながら、数発殴られたものの結花が 「そのノート、シナリオなんでしょ?そんな使い方するとすぐダメになるわよ。」 という一言で蓮は止まった。ホント、殴られる前に言ってほしい。
ようやく追いかけられる事から開放されて席につき、肩で息をしているととなりに蓮が来た。
一目見て力を使い果たしたとわかるほどの疲れ方だ。
「なんで、そんな、疲れて、るんだよ?」
息があがっているせいで言葉が途切れる。
「いぃやぁぁ、お、俺、文化祭系ぃだし。」
いやいや、文化祭系か体育会系とかの問題ではない。
先ほども思ったが体が少し透けていて空中に浮かんでいる事と、体や物がすり抜ける以外は普通の人間に見える。
まぁその時点で「普通」は、はるか遠くに行ってしまっているが。
息を整えながらそんな事を考えている、結花が俺と蓮の横に来ていた。
机の上のノートをじっと見て口を開いた。
「どうやら、これが何らかのきっかけになったみたいね。」
それには俺も同感だった。手をのばし、さっきまで自分の頭を叩くために使われていたノートを手に取る。
表紙に見覚えがあった。その時点で嫌な予感がし、冒頭に目を通してその予感は確信に変わった。やっぱり、このノートがきっかけ…というか諸悪の根源だ。 そのノートは昨日、俺が旧部室で読んでみて思わず口走ってしまう程つまらなかったものだ。
先ほどの話しからすると、蓮が使っていたノートなのだろう。
もしかしたら、このノートを読んだせいで蓮の声が聞こえたり姿が見えるようになってしまったのかもしれない。
となるとこれ以上面倒な事になる前に隠すなり、お寺に持って行くなりしたほうがいいな…。そんな考えを巡らせているとある事に気づいた。
先ほどまで持っていたはずのノートが…無い。
横を見ると結花がノートを手にとり中身を確認している最中だった。
止めるとか、危ないとかの次元ではなかった。
刑事ドラマなどに出てくるラストシーンで、やっと見つけた時限爆弾の中にある赤と青のコードのどちらを切るか悩んでいたら横から両方切られたような、そんな心境だった。
100パーセントではないだろうが、ほぼ爆発してしまう。
結花の事だから一通りノートには目を通すのだろうだろう、だが顔を上げるとそこには見えてなかった蓮がいる。幽霊だ。さすがの結花も驚き言うだろう。
「つまらないシナリオね。」
そう、つまらないシナリオ…って、ええぇっ? 顔を上げると結花がノートを閉じて感想を言うべき相手に向かって感想をのべたところだった。目は、まっすぐに蓮に向けられている。
蓮も「つまらない」と言われたにも関わらず、結花の気迫に押されているのか反論もできずに黙っている。
俺はどうにか口を開き、一番聞きたい事を口にする。
「もしかして、見えてる?蓮の事。」
その問いに結花は当たり前のように、
「見えてるわよ、これ読めばそうなるだろうとは思ったし。どんな姿なのか、興味あったから。」
そんな…触ったら見えるようになってしまうと感づいてながら、わざわざ触るなんて。俺は絶句してしまう。
「それに、こんな面白そうな事、めったに無いしね。時間は有限よ、おもしろそうなら首をつっこまなきゃ。」
俺の心配など知る由もない口ぶりで言う。
元凶である幽霊はというと「まじでー?!やったあ!これでみんなで話せるねぇ。」と能天気な様子で喜んでいる。人を巻き込んでおきながらここまで喜べるなんて罪の意識はないのだろうか?
そんな蓮を無視し、結花は再びノートを読みなおしているようだ。
「つまらない内容だけど、所々に面白いアイディアもあるわね。」
ボソッと結花が言う。
おもしろい?俺は耳を疑った。もしかしたらそれが今日の出来事で、一番驚いた事かもしれない。
今まで結花にシナリオをを見てもらってきたが、そう言ってもらえた事はなかった。
蓮は「さっすがーやっぱりわかる?」などと言って更に有頂天になっている。
いつか「おもしろい」と結花に言わせてやると思っていただけに、こんなパッと出てきた幽霊に先を越されるなんて…。ショックだ。
「まぁ全体的にヒドい内容なのに変わりはないわ。正直ありふれた展開の物も多いし、作品としては三流かしらね。」
結花の毒がいつものように炸裂する。
普段ならば自分に向けられている物が今日は蓮に向けられている。蓮もいきなりの毒に先ほどまでのテンションは無く「さ、三流…」と小声で呟いている。相当なショックだったようだ。
蓮に先を越されたというショックは吹き飛び、思わず笑いそうになるが形だけでも励ましてやるかと思い蓮に向かって口を開く。
「ま、まぁ気にするなよ、プフっ」
「言っておくけど、真のシナリオも同じくらいにヒドい内容で三流よ。」
ヒドい内容。三流。昨日ノートを読んだ時は少なくとも自分の方がマシだと思っていただけにショックが大きい。同じレベルだなんて。 落ち込んでいる副部長と幽霊に対し部長が続ける。
「取りあえず今日は遅くなったし、明日また話しましょう。」
タイミング良く、校舎のチャイムが鳴り響いた。
帰り道。
幼馴染だからというのもあり、結花とはいまだに時間が合えば一緒に帰っている。
子供の頃から並んで歩いていた道。
夕暮れに染まった穏やかな時間は先ほどとの喧騒とは無縁に思える。
「なんだか今日は散々な一日だったな。」
隣を歩く結花に話しかける。
「本当に幽霊なのね、彼。」
結花が確かめるように聞いてくる。
「うん、俺も信じられなかったけど…幽霊だね。」
そう答えると結花は少しだけ間をあけ、
「真はどうするの?彼の話を聞いて。」
と聞いてきた。
「うーん。成仏してくれるならその方がいいと思う。蓮にとっても、もちろん俺にとっても。そのためにも蓮の話をちゃんと聞いて何か手がかりを掴まないと。」
「成仏…したいのかしら?」
結花がポツリと言うがそれは俺に対しての質問ではなっかたようで、
「とりあえず、彼の話し。聞いてあげましょう。」
結花が顔を上げ、優しげに言う。そんな顔で言われたら嫌だなんて言えるわけがない。