最終話
今回で最後。そう、もう一度心の中で呟いて起き上がった。聞き飽きた着メロが流れる。
「もしもし、もしもし!」
『え?あ、はい・・・。』
電話を掛けてきたのは、彼の母だった。話を聞くと、彼の持病が昨日の夜中に悪化して、入院中との事。今は調子がいいので、見舞いに来て欲しいと言われた。
今までにない、変化が起きた。少しの変化なのに私は喜んで彼の病室に向かった。
『コンコン。』
ノックの変わりに、手を狐にして遊んでみる。
浮かれている今の私に羞恥心はなかった。
「何やってるの。ほら、入って来なよ。」
彼は少し笑いながら言う。こんなに安心したのは久しぶりかもしれない。
『で、大丈夫なの?』
「当たり前だよ。ちょっと悪化しただけだし。すぐ退院できるよ。」
『そっかそっか。はい、これお土産。』
「何この果物の量。」
『いいじゃん。安かったんだから。』
バナナ、リンゴ、ブドウ、桃。他にも色々詰まっている籠を渡した。
「普通お見舞いの品を安さで決める?ちょっと酷いよ。」
彼は苦笑いしながらも受け取ってくれる。
こんな病院の個室なら彼が死ぬ確率は少なくなるため、私は安心しきっていた。
すると、彼は顔を引きつらせた。
『どうしたの?』
「あのさ、お手洗い行きたいんだけど・・・」
『やだよ。』
入院中、彼の移動手段は車椅子になる。なんか、うまく立てなくなるらしい。だからお手洗いにも1人じゃ行けない。
「お願いだからさ。」
『そんなに?さっきまでお母さんいたんじゃないの?』
「2時間前に帰った。早く早く!」
『はいはい。』
いざ男子トイレの前まで行ったものの、さすがに私も女だから入りづらい。しかし、彼のためにと思い、我慢して入っていった。
そう、さっきまでそんなバカみたいに穏やかな日常だったはず。なのに何故彼は血だらけなのか。何故私の手は赤いのか。何故私が赤く染まった果物ナイフを持っているのか。鏡に映った私は、彼の血を浴びていた。
彼を殺したのは、私。
その結論にたどり着くと、私の頭の中に記憶が流れ込んできた。
1つ目は、トラックの運転手にお金を払っている私。
2つ目は、工事現場のおじさんにお金を払っている私。
3つ目は、フードを被った男を脅している私。
4つ目は、彼の飲むコーヒーに薬を入れている私。
覚えられないくらい、次々と入ってくる。
『そっか。彼を殺そうとしていたのは神様じゃなくて私だったんだ。』
病院の屋上へ駆け上がる。柵を越え、建物のギリギリで足を止めた。
『私が死ねば、もう時間は巻き戻らないよね。悪夢は終わるんだよね。
全部、全部私のせい。ごめんなさい、ごめんなさい。』
そう呟いて、前に倒れこんだ。
落ちる際に、クルクル回る私の身体。世界が一望できた様で楽しかった。
私の中に残っていた最後の一粒を目から落として、地面にぶつかるのを覚悟して目を瞑った。
死ぬ直前、誰かの笑い声が聞こえた気がした。
事件調査記録。
8月15日。
場所:未来病院
****
*****の恋人。
4階の男子用トイレにて*****に果物ナイフで腹部を刺され、大量出血にて死亡。
*****
****の恋人。
4階の男子用トイレにて****を刺した後、未来病院の屋上から飛び降り自殺。
*****は二重人格である。
警察は*****のもう1つの人格の暴走だと視ている。
関係者の名前は、何らかの理由で出来た赤黒い染みにより読めなくなっている。




