ホラーだけど笑える話1 すいません、親父がぶっ倒れたんで葬式あげてくれませんか?
そろそろだとは思ってたんだ。
だけど、正月に死ぬやつがあるかって。
「とりあえず、葬式あげてもらわんと。」
「いやいや、こんな正月に葬式だなんて滅相もない。
誰も葬式になんて来ないだろうよ。」
「まあな、俺も正月でゆっくりしてる時に葬式なんて行きたいとは思わんな。」
「とりあえず、火葬場に持って行って、密葬っていうことで。」
「そうだな。うちには坊さんにやる金もろくにないしな。」
こうして親父は火葬場にだけ持っていかれ、葬式は家族だけで、あげてやった。
「これでまた、おふくろと二人になっちまったな。」
「まあ、あの人も弱りきっちまってたから・・・
よく生きた方だよ。」
葬儀も速やかに行われ、親父のいない正月を
おふくろと二人でしみじみと過ごした。
そして、親父が使っていた部屋を片付けることにした。
「正月だし、大掃除がてら家をきれいにして、新しい年を迎えようかね。」
二人は、家じゅうをきれいにした。
親父が使っていたものも、使えないものがほとんどだったので
思いきって処分してしまった。
「おふくろ、この木も捨ててしまっていいかね?」
「木なんてどこに生えてるんよ?」
「親父の部屋に飾ってあったわ。」
盆栽のようだが少し違う。
こんな季節だが、小さな植木ばちに力強く立っている。
「あらこれ、あの人が大事に育てていた気がするわ。
何でも、大切に世話すればきれいな花が咲くんだって。」
「そうか。じゃあ、裏庭にでも植えてやるか。」
その木は裏庭に植えられ、親父の名前の書いた立て札が立てられた。
こうして、おふくろと二人の生活が始まろうとしていた。
しかしその夜、恐ろしい夢を見た。
あまりよく覚えてはいなかったが、裏庭に植えた木にロープを巻き付け、
そこで、おふくろが首を吊っていた。
朝起きると額に大量の汗をかいていた。
「おふくろ、やっぱりあの木は処分したほうがいい。」
「何で、いきなりそんなことを言うんだい?」
俺は夢のことを話した。
「なんだい、そんなことかい。
たかが夢だし、よく見てごらん。首なんか吊れるような高さじゃないよ。」
確かに、そうだ。
しかし、その夢を見てからあの木からただならぬものを感じていた。
次の朝。
俺はおふくろが起きないうちに一人でその木を切ってしまおうとした。
ノコギリを手にしたその時、後ろから声が聞こえてきた。
「・・・切るな!・・やめてくれ・・・!」
とても低い声だった。
次の瞬間、後ろから腕を何者かに掴まれた。
「やめろ!」
そう言った時にはもう遅かった。
自分が持っていたノコギリで脇腹を切り刻まれた。
「うっ・・・」
胸からあふれるよう出る血を手で押さえながら居間に戻ると、おふくろも頭から血を流して倒れていた―。
正月休みも開けた。
久しぶりに居酒屋へ行った。
「親父さん、元気だったかい?」
「ああ、一度殺されかけたがね。」
「なんだよそりゃ。おふくろさんと息子さんはどうしてる?」
「あいつらなら、埋めてやったよ・・・」
家の裏庭の木には、真っ赤な花が2輪花開いていた―。
葬式はちゃんとあげてください。
By 寺の坊主