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第21話 一郎の豹変

「今週も千尋さんは来ないのか…。早く言って欲しかったな。」


日曜日の朝、スマホを確認すると千尋さんからメッセージが入っていた。

もう一通、美香さんから『やっとワルプルギス終わった~。明日は楽しむぞ~』という能天気なメッセージが入っていた。

自撮り写真まで送ってきている。

美香さんのメッセはもちろん既読スルーした。


「千尋さんも、仕事が順調そうだな~。『わかりました。頑張ってください』っと」千尋さんには丁寧にメッセを返す。


結局、千尋さんが集客した年上女性に僕が色恋営業するというマーケティングは僕が大学4年生の夏に終わった。


最初こそうまく行ってたけど、関係者が増えるにつれて、関係者とのトラブルも増えた。ついには僕の実家に乗り込む関係者まで現れるようになった。


怒った親から電話で詰問されて、「そんなだらしない生活をするために東京の大学にやったわけじゃない!!生活を改めないんだったら勘当して学費も仕送りも止める」と言われたが、そのまま無視してたら、本当に学費も仕送りも止められた。


千尋さんに相談したら、代わりに学費を払ってくれて、大学の近くにマンションを買ってくれて生活の面倒も見てくれたので痛くもかゆくもなかった。


それでも僕自身も、うすうす気づいていた。こんなことを続けていると大変なことになると。


だから、大学4年生の頃、普通に就職活動をして内定をもらったことを機に、マルチの方を控えたいと千尋さんに相談したら、拍子抜けするくらいあっさり受け入れられた。


千尋さんは、その頃には強固な販売ネットワークの中核となる幹部を丸ごと引き抜いて、独立して独自の会社を設立していた。

そこからは黙っていても優秀な関係者の働きで組織は拡大できるし、むしろ僕がこれ以上関係者を増やす方が組織崩壊のリスクがあると考えたらしい。


ただ、その後も千尋さんとの関係は続いているし、千尋さんが買ったマンションにも住み続けている。

ごくたまに気が向いた時には、千尋さんの会社のセミナーにこっそり参加して、関係者候補を物色することも続けていた…。



「う~っ、苦しい…。もう誰でもいいから声を掛けようかな…。」


日曜日、美香さんから色欲を吸い取ってもらえなくなってから4日目。早くも僕は限界が来ていた。


ここ何年も、2日以上空けて誰とも関係を結ばなかった日はない。

そんな自堕落な日々は、僕の色欲を増大させ、それを我慢する力を弱めてしまったらしい。


ネトフリで動画を見たり、マンガを読んだり、目を閉じ座禅を組んだり、全力で意識を逸らそうとしたけど、もう効果がなくなってきた。


時間は…まだ正午。

明日の朝一番に美香さんが来てくれるとしても、まだ20時間くらいある。長すぎる。もうダメ。限界だ…。


窓から外を見ると、聡美さんが相変わらず定位置から僕のマンションを見上げている。


よしっ!決めた。聡美さんを呼び込もう!


約束を破ることになって美香さんには悪いけど、4日も放って置いた彼女が悪いんだ!


玄関でサンダルを履きかけた時、ちょうどインターフォンが鳴った。


扉を開けると、そこには…美香さん!?


インターフォンを押してすぐに扉が開いたことに驚いたのか、少しのけぞってキョトンとしている。


「どうして…?今日は京都で観光してくるはずじゃ…?」


「そのつもりだったんだけど、聡美さんから、一郎が土日に家に籠って一歩も出て来ないって連絡があって…。メッセにも応答がないし、もしかして体調を崩して寝込んでいるんじゃないかって心配になって。大丈夫?」


全然大丈夫じゃないよ!美香さんのせいで禁断症状で手が震えたくらいだよ!!

思わずそう文句を言いたくなったけど言葉が出て来ない。

かわりに玄関先で美香さんを抱きしめて、そのまま部屋の中に連れ込んだ。


「ちょ、ちょっとどうしたのよ?」


「色欲が溜まり過ぎて…、辛い。ずっと我慢してた。」


「ああ、そうなんだ。約束守ってえらいえらい。すぐに吸い取ってあげるからね。」


美香さんは僕の頭をポンポンと軽くたたくと、そのまま首の後ろに腕を回し、唇を重ねた。舌を絡めて強く吸い付く。


いつもの色欲を吸い取る動作だ。


僕は、美香さんの舌の動きに応えながら安堵した。


よかった。これで苦しみから解放される。また冷静に戻れる。


しかし、いつもより長い時間唇を重ねた後、美香さんは唐突に顔を離した。


「ウグッ…えっ?ちょっと、量が多すぎる…。どういうこと?これじゃあ吸い取り切れない。」美香さんは口元を押さえてうつむいている。


「待ってください!まだ全然ですよ。欲求不満で気が狂いそうです。早く残りも吸い取ってくださいよ!!」


「ごめん…無理…。私の方に限界が来ちゃったみたい。残りは明日の朝でいいかな?」


口元を押さえながら上目遣いで弱々し気な視線を向ける姿を見て、僕はカッと頭に血が昇るのを感じた!


「ふざけんなっ!こんなんで明日の朝まで我慢しろって?毎日色欲を吸い取ってくれるって話だろ?約束が違うぞ!!」


「ごめん…。でももう限界だから。これ以上吸い取ると私が壊れちゃうし…。」

温厚だった僕が突然怒りを露わにしたことに戸惑ったのか、身をすくめて少し震え始めた。


「そんなん知ったことか!わかった。じゃあそれならいい!」

僕は彼女の腕をつかみ、強引に寝室まで引っ張り込んだ。


「ちょっと、痛いよ…。やめて…。どうするつもりなの?」


「お前のその体で僕が色欲を受け止めてもらう!!僕が満足するまで!!」

彼女の顔色がサッと変わり、僕の手を振りほどいた。


「ダメ、絶対ダメ!!サキュバスの資格持ってないから、それやったら違法になって会社をクビになっちゃう…。」


「そんなん黙っとけばわかんないだろ!」


「ダメだから…お願い。半日だけ待って。それまでに何とか回復して、残りの色欲も吸い取ってあげるから…。」


「へぇ~。いいんだそんなこと言って。」


ニヤリと唇を歪めながら、意地悪そうな口調で語りかけると、美香さんはハッと顔を上げた。


「本城さんが言ってたよね。僕が、今ここで色欲の対価を求めたら債務不履行になるって。それで美香さんは会社をクビになって煉獄行きになるんじゃなかった…?」


僕の言葉に美香さんの表情が固まってしまった。だけど、瞳だけはせわしなく揺れている。


今だ!僕は動揺に乗じてすばやく美香さんの腕を掴み、上着を脱がした。


「ダメだって…。」


口では拒否しているけど、抵抗の力が弱い。これならいける。


そのままブラウスのボタンを1つずつ外すと、美香さんの白い鎖骨が見えた。


「ダメ…やめて…。」


美香さんは僕の胸を押して体を離そうとしたけど、まだ力が弱い。僕は美香さんを抱きしめ、それからスカートの中に手を入れた…。その時だった。


「ムグッ‥‥!」


突然、美香さんは僕の顔を掴み、唇を吸った。さっきよりもずっと激しく、そして長く…。


そうして美香さんの唇や舌に応えていると、さっきまで頭を覆っていた黒い霧が徐々に晴れてくる感覚があった。胸に突き上げるような焦燥感も薄くなり、その代わりに安心するような、何か達成したような感覚が広がって行った。


「ウグッ…。グェッ…。」


美香さんは唇を離し、それから床に崩れ落ち、四つん這いになりながら、えずき始めた。


「ご、ごめんなさい…美香さん…。」


すっかり興奮が収まり、冷静になった僕は気づいた。美香さんは色欲が暴走して豹変した僕を元に戻すために、無理をして色欲吸い取ってくれたのだ。


慌ててしゃがみこみ、床で四つん這いになり苦しそうな美香さんの背中をさする。その時だった。


「そこで何をしているのかしら…?」


頭の上から不機嫌そうな声が降って来た。聞き覚えのある声…これは…。


「どうしてここに?」


顔を上げた僕の目には、ダイニングの入口で、腰に手を当てて仁王立ちしている千尋さんの姿が飛び込んで来た。


「質問に質問で返さないで!私が聞いてるの!その女は誰?新しい関係者かしら?」


千尋さんはサングラスを外し、僕の顔を鋭い視線で射抜いた。


「ち、違うんです。この人は悪魔で、僕と契約してて、心配して見に来てくれて…。」


「あくまで何だって?言っとくけど、さっき部屋に入って来た時、一郎がその女のスカートに手を入れて、激しくキスしているとこまでは見てたからね。新しい関係者でしょ?このマンションには入れるなって言っておいたわよね!!しかもそんなに床を汚して!!」


前方には怒りを露わにした千尋さん、そして後ろには、えずきながらダイニングまで這い出て来て、床に胃液のようなものを吐いている美香さんがいる。前門の虎後門の狼。


このピンチ、どうやって逃げ出そう…。


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