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第14話 プロ疑惑

僕はチェストの引き出しから5センチくらいの厚さの紙ファイルを取り出し、美香さんに差し出した。


「なにこれ?」


「綾乃さんの調査ファイルです。前に聡美さんに綾乃さんのことを話したら、色々調べてくれたんです。僕は別に過去に興味はないので読まないまま引き出しに入れておいたんですけど、きっとそこに前の旦那さんのことも書いてあるはずですよ。」


「すごいな、綾乃さん…。一郎だけじゃなくてその関係者までこんなに詳細に調べて…。ただのストーカーじゃなかったんだ。」美香さんはファイルをパラパラと斜め読みしながら、感嘆の声を上げている。


ちなみに秘密にしているが、あのチェストの引き出しには、聡美さんからもらった紅羽さんファイル、若葉さんファイル、麻梨香さんファイル、そして千尋さんファイルも秘蔵されている。

そしておそらく、聡美さんは、今まさに、美香さんファイルを鋭意製作中のはずだ…。


「へぇ~、最初の旦那さんは大学の同級生なんだ。すごいシュッとしてる~!」


美香さんが開いたページには、ちょうど綾乃さんの最初の旦那さんの写真が貼りつけてあった。SNSから切り取ったものだろうか。細面でイケてる大学生の見本みたいな旦那さんが、まだ若く、イケイケな大学生らしいファッションの綾乃さんの肩を抱いている。


「大学4年生の時に妊娠がわかって、卒業と同時に結婚だって。へぇ~、授かり婚なんだ~。ちょっとうらやましいな~。」


口元に笑みを浮かべながら読み進めていた美香さんの笑顔が急に凍り付いた。


「えっ…、最初の旦那さんが亡くなったのってお子さんが生まれる直前なの?交通事故で?」


「その話は聞いてます…高速道路で事故に巻き込まれたって…。」


「そうなんだ…。」


美香さんは口元に手を当てながら真剣な表情で読み進め、ページをめくったところで今度は目を見開いた。


「綾乃さん、最初の旦那さんが亡くなってから1年経たないうちに再婚してるの?しかもこんな人と?」


彼女が示したページには、綾乃さんの2番目の旦那さんが綾乃さんと並んで、ピースしながら映っている写真が貼ってあった。最初の旦那さんとは似ても似つかないふっくら型。

突き出した太鼓腹と荒れた肌がそれまでの不摂生な生活をうかがわせる。


「2番目の旦那さんは40代のサラリーマンって聞いてたけど、こんな感じだったんですね。へぇ~。」


「好みが変わり過ぎじゃない?いや、見た目で判断するのはよくないけどさ…。さすがに…えぇっ?」


さらにページをめくり美香さんが驚きの声をあげた。覗き込むとそこには見違えるように痩せたさっきの男性の写真があった。

肌は荒れたままだけど、すっかり別人のように痩せている。


「これおかしくない?いくらなんでも急に痩せすぎだって…。何かの病気じゃない?」


「ここに職場の人の話として、結婚してから見違えるようにエネルギッシュになって、仕事にも熱心に力を入れるようになったって書いてありますよ。しかもそれまでは仕事中でも四六時中お菓子を貪ってたのにそれもなくなったって。結婚してやる気が出て健康的になったってことじゃありませんか?」


「でも、結局、すぐに亡くなったんでしょ?いったいどうして…?」


聡美さんの報告書には、結婚してから10か月後、突然職場で倒れて、そのまま心不全で死亡したと書いてあった。直前まで過労死ラインを大幅に超える過重労働をしていて、労災認定されたらしい。


「結婚して家族を守るために仕事を頑張り過ぎちゃった…って感じですかね…?」


「う~ん、次の人はどうなのかしら?えっ?また死別してから1年経たずに再婚してるの?」


次の相手は婚活パーティーで知り合った50代のトラック運転手とある。

この人については得られる情報が少なかったのか、写真もなく職場の人の話も書かれていなかった。

だけど、ポツンと「50代トラック運転手、居眠り運転で自損事故。病院に運ばれたが死亡」というタイトルのネットニュースが貼られていた。ニュースの日付からすると、綾乃さんとの結婚から1年経っていない頃のようだ。


「交通事故ですか…。不運ですね。」


「本当に事故かしら?他の人は…?」


他の人のページも読んだけど、大きな流れは似たようなものだった。


いずれも綾乃さんが前の夫と死別してから1年経たないうちに再婚し、1年経たないうちに死別している。

相手は30代の公務員、それから40代のサラリーマン

死因はそれぞれ違ったけど、心不全とか脳卒中といった病気のようだ。

職場に原因があったようで、いずれも労災認定を受けている。


「やっぱり…おかしくない?こんなに次々と結婚した相手がすぐに死ぬことってある?」


「でも、みんな病死とか交通事故みたいですよ…。しかも労災認定を受けてますから、働き過ぎとかが重なった偶然じゃないですか?」


「もしかして…毒を盛ってたとか?」


美香さんはテーブルの上の料理を見つめ、ハッとした表情になり、口元を押さえた。


「ハハッ、いやそんなことないですって。僕はここ1年くらいずっと綾乃さんの料理を食べ続けてますけど、むしろ体調が良くなって元気いっぱいですよ。」


美香さんが心配そうだったので、あえて僕のお皿にコールドチキンとサラダを取って微笑みながら口に入れた。


「塩分とか脂質過多の料理で心不全とか脳卒中を誘発したとか…。」


「そんな1年くらいで病気になりませんって。それに2番目の旦那さんとか、むしろ綾乃さんとの結婚後にシュッとして健康そうになってるじゃないですか。」


「でも…絶対におかしいと思うんだよね…。」


「そんなことないですって。もし相手が資産家とかだったら遺産狙いとかあるかもしれないですけど、みんなサラリーマンとか、公務員とかお金なさそうな人ばっかじゃないですか。結婚して1年ぐらいで亡くなられたら、その後困るのは綾乃さんの方ですよ。」


「あっ、あれだ!!」美香さんは何かに気づいたかのようにポンと手を打ち、それから僕の顔を真剣な眼差しで見つめた。


「さっき、綾乃さんの紹介で生命保険に入ったって言ってたよね。それって、保険金の受取人は誰になってるの?」


「ああ、綾乃さんのお子さんにしてます。僕は親にも縁を切られてて適当な人がいないんで、とりあえず名前を借りてるってだけですけど。」


「それだって!きっと生命保険金狙いだ!それで一郎を殺して、保険金を受け取るつもりなんだ…。」


「ははっ、それはないですよ。だって保険ったって…。」


「いや、それに違いない!だって辻褄が合わないよ!いくら一郎がお姉様にやけにモテるって言っても、お子さんもいる人なんだよ。それなのに不特定多数と関係をもってフラフラしている一郎にこんなに尽くすなんて絶対におかしい!きっと、一郎が6番目の犠牲者に選ばれたんだ…。」


「美香さん、ちょっと冷静に…。」


何か思い込んでしまったようで、わなわなと身を震わせ始めた美香さんをなだめようと肩に手を置いたけど、さっと払いのけられてしまった。


「一郎…。すぐに綾乃さんと話がしたい。綾乃さんに連絡して。早く手を引かせないと一郎が危ない。」


「大丈夫ですから。僕がタイミングを見てちゃんと話して関係を清算しますから。」


「なにそんな悠長なこと言っとるんじゃ!命が危ないんじゃけぇ!早く連絡せい!一郎は私が守るんじゃ!」美香さんは力強く断言すると、真剣な眼差しで僕の目を射抜いた。


あ~あ、美香さん完全に誤解して思い込んじゃってる。


これは…もはや僕が説得するのは難しいかな。


もうこうなったら直接話してもらうしかないとあきらめて、僕はスマホを手に取り、綾乃さんにメールを送った…。


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