何が本当ですの? 貴方の家に嫁ぐ際の条件を改めてご確認させて頂きます。
マリアディナ・パレスト伯爵令嬢は、いらついていた。
今日も、婚約者のアレスト・ファイル伯爵令息に、デリア・トトル伯爵令嬢が付き纏っているのだ。
黒髪碧眼のアレストは背が高くて美男だ。
いくらアレスト様が美しいからって、彼は私の婚約者よ。それなのにデリアはどういう事?
アレストは最初は迷惑そうにしていたが、デリアが来ると最近、嬉しそうに相手をするようになった。
貴族が誰でも行く王立学園。
デリアと腕を組みながら、廊下を歩いているアレストの前に歩いて行って、マリアディナは叫んだ。
「私があまり美人じゃないからって、貴方の婚約者は私よ。それなのに、何でデリアと仲良くしているのかしら?」
デリアはべったりと大きな胸をアレストに擦り付けながら、
「私達は愛し合っているの。だから、アレスト様は私と仲良くしてくれているのよ。どう?アレスト様を譲ってくれないかしら。貴方より私の方が美しいわ」
確かにその通りである。茶の髪に青い瞳のマリアディナと比べてデリアの方が金の髪に青い瞳で派手な美人なのだ。
アレストに聞いてみた。
「貴方、何でデリアと仲良くしているの?説明願えないかしら」
アレストは、
「だって、デリアの方が沢山、役に立ってくれるだろう?私は君の事を愛しているから、苦労をさせたくないんだ。デリアはさぞかし沢山の子を産んでくれるだろう。そうだな少なくとも10人は欲しいな。それから伯爵家では朝は早いんだ。伯爵夫人となると、朝4時に起きて、使用人皆に号令をかけて、一日の教訓を一時間演説しなければならない。母上はいつもやっている。ただ、母上は私しか子が出来なくてね。孫は10人は欲しいと言っているんだ。君は細いじゃないか。マリアディナ。それに比べてデリアは沢山子を産んでくれそうだ。夜は夜で、一番最後まで起きて仕事をしているのが母上だ。寝る時間なんて少ししかないよ。伯爵夫人の仕事は大変なんだ。だから、君とは婚約を解消してデリアと婚約を結ぼうと思っている」
「えええ?そんなに大変なの?知らなかったわ。婚約を結ぶ時に言って下さらないと」
「そうだな。それは我が家の落ち度だと思っている。という事で。デリア。沢山の子を産んでおくれ。それから我が伯爵家は節約が第一だ。夜会なんてもってのほか、領民の為に節約に節約を重ねて、過ごさねばならない。その覚悟を持って、私と新たな婚約を頼むよ」
デリアは真っ青な顔をして。
「私は贅沢をしたいのよ。貴方がとても美しくて、素敵だから近づいたのに。子を10人?節約に節約?朝は4時?夜は一番遅く?耐えられないわ。ごめんなさい。マリアディナ。私、譲ります。この人を」
マリアディナはカチンときた。
「譲りますって、元々私の婚約者よ。それなのに譲りますですって???」
「ええ、本当に悪かったわ。私は金持ちと結婚したいの。贅沢をしたいのよ。何よ
顔だけの男なんてごめんだわ」
そう言って、デリアは慌てたように去っていった。
アレストはマリアディナに、
「ああ、デリアが逃げていってしまった。沢山、子を産んでくれそうだったのにな」
そう言ってぺろりと舌を出して、
「って冗談だよ。別に10人も子を望んでいないし、朝4時に起きろとも、節約をしろとも強制しない。あまりにもあの女がしつこかったから嘘を言ったまでだ。それでも婚約解消する?」
マリアディナはアレストの前に立って、
「では、貴方の家に嫁ぐ際の条件を改めてご確認させて頂きますわ。そうですわね。貴方のご両親も含めて」
「いやだから、子が10人とか、嘘だから。嘘っ」
「では何が本当ですの?」
「子は君が産める範囲でいい。朝は4時に起きる必要はないよ。母上は起きているけどね。母上は特別、朝は燃えるんだ。まぁ、朝は6時でいいかな。それから、節約は、あまり贅沢をしなければ。社交は大事だし、王宮の夜会は社交の場だし。ドレスとかもそれなりの恰好をしないと、伯爵家として恥ずかしいから。私はちゃんと常識を弁えているよ」
「それなら良いですわ」
必死で説明するアレストの青い瞳を見上げた。
そして近づいて耳元で囁いた。
「あまりにも酷い扱いをするなら、変…辺境騎士団へ通報しますわ。彼らは屑の美男をさらうのが好きですから」
アレストは慌てて、
「変…辺境騎士団っ。あれは噂だろう?単なる噂。私は黒髪碧眼だし、顔は少しはいいとは思うけど、奴らは王子とか公爵令息とかが好みで、金髪碧眼が特に好きだというぞ」
「あら、残念。美しい顔は十分、彼らの好みだと思いますわ」
「ともかく、実在するなら、通報だけは勘弁してくれ」
アレストの顔を正面から見つめて、
「でも、私は悲しかったの。貴方がデリアと仲良くしているのを見るのは」
「あっちが勝手に話しかけてきたんだ。追い払おうとしてもしつこくて。だから絡みつくままにして、嘘をガンと言って追い払おうと思っていた」
「そうね。今回の貴方の嘘で彼女は去ったわ。だから許してあげます。浮気でなかったのなら」
「浮気じゃない。愛しているのは君だけだ。マリアディナ」
嬉しかった。だから、アレストの事を許してあげようと思った。
デリアは懲りもせず、王太子に近づいて、婚約者である公爵令嬢の怒りを買い、学園を退学することになった。
将来の王太子妃に睨まれたのだ。二度と社交界で見かける事はないだろう。
後日、アレストの母であるファイル伯爵夫人に謝られた。
「息子がとんでもない事を言ったみたいね。貴方の身体は細いけれども、わたくしも細いのよ。でもアレストを産んだわ。朝は4時に起きているのはわたくしの癖で、貴方に強要はしないわ。貴方は貴方の出来る範囲でやってくれればいいのよ。貴方が嫁に来てくれる日を楽しみにしているわ」
そう言われてほっとした。
数年後、アレストと結婚後、可愛い息子にも恵まれて幸せに暮らしているマリアディナ。
夜会でデリアと再会した。
社交界に戻っては来られないだろうと言われていたデリア。
それが派手な赤いドレスを着て、マリアディナの前に立ったのだ。
「私、ギドル大公閣下の後妻になったの。あら、貴方、なんて素敵なドレスを着ているの。節約節約で夜会になんて来られないんじゃなかったの?」
と、言われたので。
「このドレスはアレスト様が作ってくれたのですわ。伯爵家として恥ずかしくないように。グリーンがキラキラしていて綺麗でしょう。このエメラルドの首飾りと耳飾りもアレスト様が」
アレストが背後からやって来て、マリアディナの手を取りながら、
「我が妻に何か?久しぶりだね。デリアだったか?」
「今はギデル大公夫人よ。貴方の所へ嫁いで可哀そうなマリアディナ」
マリアディナは微笑んで、
「可愛い息子もいて、今、私、幸せよ」
アレストも額にキスを落としてくれて、
「私はマリアディナを大切にしているよ。ああ、そういえば、ギデル大公の何人目の妻?確か5人目?飽きられないといいね」
デリアは真っ赤な顔をして、
「飽きられないわ。私は美しいですもの」
背を翻して、去って行った。
しかし、デリアの姿は次にマリアディアがアレストと夜会に出席した一月後には見かけなくなった。
病になって療養しているらしい。
ギデル大公はあまりいい噂を聞かない大公だ。
だが、デリアがどうなろうともう関係ない。
マリアディナは愛しいアレストとの幸せを満喫するのであった。
マリアディナは結婚生活の中で常々、アレストに、
「私には嘘は無しよ。嘘をついたら‥‥‥」
「君には本当の事しか言わないよ。愛しているよ。マリアディナ」
そう言わせて幸せそうに微笑んでいたと言われている。




