第一章:無属性(ゼロ)の旅路
乾燥して荒れた土地、その生命力を奪われた茶褐色の不毛な大地を、一人の少年が歩いていた。
その少年こそが、滅亡した小国ヴァルケンハインの唯一の生き残り、セレスだった。短く切り揃えられたアッシュグレーの髪は、属性の光に満ちた世界において、奇妙なほど彩度が低い。彼の目は、かつて設定されていた濃い青の色を宿しているが、その奥には、常に運命を睨みつけるような鋭い光が宿っていた。
彼の身に纏うのは、短めの丈のジャケット。その肩や裾には、滅亡したヴァルケンハインの紋章を簡略化した刺繍やエンボス加工が施されており、それは失われた王国の、最後の矜持を静かに主張していた。
この世界では「属性」がすべてを左右する。それこそ、個人の価値や世界の立ち位置は、その属性の種類と強さですべて決まるといっても過言ではない。高位の属性を持つ者は内郭で富を享受し、低位の属性を持つ者は外郭で労働に縛られる。
しかし、彼はこの世界の中でただ一人、根源的な属性を持たなかった。
無属性—————それは、この世界の法則から外れた異端者を意味し、あらゆる場所、あらゆる人間から忌み嫌われる存在。それが彼だった。
「……。あと14㎞。次の休息地までは、このペースで行くしかない、か」
彼は足元の土を踏みしめながら、低い声で距離を確認した。だからこそセレスは、自身の無属性を旧世界の遺物と自作の武器によって徹底的に隠し、偽りの力を纏って生きてきた。そして、このような理不尽な属性社会、そしてそれを作り上げた元凶を、この手で壊したかった。いつも、その破壊の衝動が彼の頭の中に燻っていた。
彼は心の底から笑うことができなかった。笑うことはあっても、それは表面的な虚飾であり、心の底ではいつも、世界という巨大な力に対して震えていた。すべてはこの属性による階級社会が原因だと彼は確信し、このような世界を作った者たちを呪うことがつくづくあった。
彼の周りには、地平線の彼方まで、どこまでも広い荒れ地が広がっている。それは、故郷を失い、属性の光を拒まれた自分の心の中を体現しているように見えたセレスは、深く、重いため息をこぼした。
思い返せば10年前。あの属性判定の日が、すべての始まりだった。
6歳。それは属性社会では一種の成人のようなものであり、その年になれば、世界最大の国であるアトリウム帝国が決めた属性の診断が義務となっている。当然セレスもそれを受けた。ただ一つほかの人たちと違ったことは……「診断機器が動かなくなった」ことだった。
彼の体に触れた瞬間、何千万もの属性を瞬時に判別するはずの巨大な機械が、けたたましい警告音と共に停止した。それは世界初のことであり、ほとんどの人が困惑し、そして恐怖した。
彼はすぐに国の最高研究機関に送られ、散々と実験材料にされ、属性の力を持たない、空っぽの器として診断されたのが……「無属性」という烙印だった。
気付けば日は半分沈み、空を赤色に染めていた。その色は、祖国が燃え落ちた時の炎の色をセレスに思い出させる。
セレスは真っ赤に染まった地面をただ、歩いていたが、ふと、その足を止めると、何もないはずの空間の一点に向かって、鋭い視線で睨みつけた。彼の瞳が微かに揺れる。無属性である彼の体質が、周囲の属性エネルギーの不自然な流れを無意識に察知していた。
その瞬間、セレスの目の前に、まるで高密度に圧縮された水のように、透明な大量の糸が、彼の体を切り裂こうとばかりに爆速で迫ってきた。
しかし、彼は落ち着いた表情を崩さなかった。彼は腰に携えていた「ゼロ・ディバイダー」を爆速で抜き去り、ちょうど小指が当たるところにあるボタンを電光石火で押した。
銃の機構全体が青白い光を放つと同時に、銃身が金属音を立てて展開・変形する。次の瞬間には、全ての糸が純粋な運動エネルギーと旧世界の特殊合金の刃によって真っ二つに割れ、乾いた音と共に霧散した。彼の両手には、既に二つの短剣が握られていた。
静寂の中、拍手の音が響く。その音は、属性の力を使わず、技術のみで攻撃を防いだセレスへの、皮肉めいた称賛だった。
「やっぱり不意打ちは効きそうにないみたいだね」
何もない場所から、彼の周囲の環境と対照的な、白いスーツに身を包んだ女が優雅に拍手をしながら現れた。彼女の存在自体が、属性社会の華美で傲慢な象徴のように見えた。
セレスが振り向きざまに、もういちど迫ってきた見えない属性の糸を短剣で破壊する。
パリンッと、空間に乾いた音がした。
「……。貴様、その華美な装束と、その属性の質。アトリウムの評議会から派遣された者か」
「どうも初めまして。私はアトリウム評議会所属のギリセ。よろしく、セレス・ヴァルケンハイン王子♪」女は、彼の名をわざとらしく強調した。
「お前は俺の身分を知っているようだな。何度倒しても懲りないアトリウムから、懲罰のために派遣されたのか?」
「いいえ、ただ単に何度派遣しても部下たちが、属性なき異端者に倒されちゃうからさ。上の許可を得て、試しに特級執行官として一戦交えようかなと」ギリセは首を振って、軽薄な笑みを浮かべた。
「そうか。なら、生きて帰す気はない」
セレスは短剣を再び銃の形に戻して、冷徹な表情で構えた。彼の周りの空気は、属性の光を吸収し始めるような静けさを増した。
「あっそう。それなら遠慮しないからね♪さあ、無属性の分際で、世界の理から外れた君がどれほど耐えられるのかな?」
夕暮れの赤色と、二人の対極的な影が、荒れ地の地面に長く伸びて沈もうとしていた。
セレスが「ゼロ・ディバイダー」を構え、ギリセが挑発的な笑みを浮かべる。夕暮れの中に二人の影が沈みゆく中、互いににらみ合う膠着した状態がしばらく続いた。先にその静寂を壊したのは、白いスーツに身を包んだギリセ**だった。
彼女は突然、何もない空間に向かって優雅に手を振った。その動きに合わせて、周囲の空気中の微細な粒子が急速に収束し、セレスの周りを複数の透明な糸が、幾重にも張り巡らされるように囲み始めた。
「……!」
セレスは突然の攻撃に驚きながらも、その透明な糸の「力線の流れ」を瞬時に見抜いた。彼は構えていた銃を右手の親指一つで素早く回転させ、右側にある数本の糸を銃身で叩き割り、僅かな隙間を作り出した。
その隙間めがけて、彼は純粋な運動エネルギーを圧縮した光弾、「運動エネルギー弾」を連続して数発発射した。
しかし、運動エネルギー弾はギリセ本人には届かない。彼女の目の前には、空気の揺らぎのような透明な壁が出現しており、弾はそれを叩いた。ヒビこそ入ったものの、壁は破られることなく、攻撃は完全に防がれてしまった。
「そういえば、私の属性をあんたに言ってなかったわね」
そういって彼女は両手を広げ、さらに多数の糸をセレスに向けて複雑に発射した。その糸は、周囲の光を屈折させながら、セレスの逃げ道を完全に塞ごうとする。
「私の名前はギリセ。世にも珍しい特級属性『硝子属性』よ!」
硝子属性—————ガラスを自由自在に作り出し、操れる。その形は自由に変えられるため、空間中の水分や塵を利用して硬質な強化ガラスを生成したり、光さえ通さない緻密な防御壁を作り出したりする。そして、最も厄介なのは、細くして見えない透明な糸のようにすれば、敵を千切ることだって容易にできる、その圧倒的な鋭利さと予測不可能な軌道だ。
「……ちっ」
肉体戦と純粋な技術を信条とするセレスにとって、これは非常に厄介な敵だった。遠距離攻撃として発射した運動エネルギー弾は、彼女が瞬時に作り出す強化ガラスの壁によって防がれる。逆に、彼が高速で近づき、近接戦に持ち込もうとしたとしても、彼女が張り巡らせたガラスの糸によって、次の瞬間には肉体を千切られてしまうだろう。
「さあ、動いたらどう? 無属性くん。君の得意な近接戦闘は、私の『透明な檻』の中では無意味よ」
ギリセの口元に冷酷な笑みが浮かぶ。セレスは銃を剣に変形させる間合いすら与えられず、透明な糸が張られた檻の中で、一瞬の判断を迫られていた。
セレスは、自身の肉体戦と非属性武器の優位性が、ギリセの遠距離防御属性によって完全に封じられていることを理解した。このままではジリ貧だ。そこで彼は、完全に常識外れの作戦に変更した。
彼は、敵のど真ん中に突っ込んでいくことにしたのだ。
なんと無謀な思考だと誰もが思うだろう。しかし、彼には、この無属性である自分にしか実行できない、緻密な計算と『ゼロ・ディバイダー』の機構を利用した確固たる考えがあった。
次の瞬間、セレスは張り巡らされたガラスの檻を突き破って、残像を引きずりながらギリセの目の前まで肉薄していた。その速度は、音速に迫るほどだ。
「なっ……!」
さすがにこの異様な機動は、特級執行官であるギリセにとっても予想外だったらしい。彼女のクールな表情に初めて動揺の色が走った。
ギリセは瞬時に属性エネルギーを集中させ、分厚い強化ガラスの壁を目の前に出現させた。同時に、彼女はセレスがいた場所に向かって、まるで散弾銃のように無数の鋭利なガラスの破片を叩き込んだ。
セレスがいた場所では、ガラスの破片が砂嵐のように四方八方に飛び散り、地面を抉る。しかし、その頃には彼は既に一撃を加えることなく、驚異的な速度で後方の荒れ地に再び身を潜めていた。
「速い……どうして、属性の光を一切持たないあなたが、そこまでの高次元な移動ができるの……?」
ギリセが苛立ちを隠せない様子で問い詰める。セレスは口元に微かな笑みを浮かべ、「この銃の弾だよ」と答えた。
その直後、ダンッという爆発的な音と共に、セレスは再び音速に近い速度で加速し、一瞬にして彼女の横側へ移動した。彼は『ゼロ・ディバイダー』から発射する運動エネルギー弾の爆発的な推進力を、移動のブーストとして利用していたのだ。これは、属性の干渉を受けない、彼の武器と体質だからこそ可能な「超加速」だった。
「くっ!」
ギリセは、セレスの予測不能な高速移動に対し、咄嗟に波状に連なる強化ガラスの壁を側面に出現させて防いだ。そして、そのまま彼女は手を振りかざして攻勢に転じる。
「もういいわ。地味に傷つけて降伏するまで待とうと思ったけど……手段を択ばざるを得ないようね」
彼女が手を振るたびに、周囲の空間からまるで雨のように、複数のガラスの糸がセレスを拘束しようと伸びる。セレスは、それを二挺の銃身に変形させた短剣で、音速の剣戟をもって叩き割る。パリン、パリンと、連続した乾いた破壊音が響き渡った。
その直後、セレスの周囲を取り囲むように、分厚く、透明度の高い巨大なガラスの壁が八枚、間隔を空けて発生した。それらは、獲物を押しつぶすかのように内側へ向かってセレスに迫りくる。
彼は、その分厚い壁の隙間を縫うように、一気に跳躍し、難なく壁の檻の頂上を乗り越えた。しかし、その直後のことだった。
「うわっ!」
乗り越えた先には、ギリセが跳躍の軌道を読んで事前に生成しておいた、巨大な分厚いガラスの塊が、セレスの上に自然落下で覆いかぶさった。重い塊はセレスを巻き込み、荒れた地面に叩きつけられる。
バリン!
塊は地面に落ちて派手な音を立てて粉々に砕け散った。辺りには破片が飛び散り、一瞬の静寂が訪れる。
「……終わりね。どれだけ異端でも、物理法則には逆らえないわ」
ギリセは、その勝利を確信したように冷たく微笑んだ。
だが、その勝利宣言は、数瞬後には無残に打ち砕かれた。
粉々に砕け散ったガラスの塊の下から、セレスの姿はなかった。あるのは、彼の身体が埋まっていたはずの地面が、わずかに熱を帯びているという異様な痕跡だけだ。
「まさか……」
ギリセが背後にいる気配を察知した瞬間、セレスの「ゼロ・ディバイダー」の青白い光が、彼女の顔の真横を通過した。彼は落下する巨大な塊にわざと巻き込まれながら、着弾寸前に再び弾丸を発射し、その爆発的な推進力で地面に水平移動して、破片の下から脱出していたのだ。
ガラスの破片が砂のように全身を覆い、ジャケットは無数の切り傷を負っていたが、その傷のほとんどは浅い。彼の属性耐性の体質が、破片に込められた属性エネルギーの付加を無効化し、ただの物理的なガラスの破片に変えていたからだ。
セレスの眼前には、回避に専念したギリセの白いスーツ姿が、彼の焦燥感を煽るように立ちはだかっていた。
「残念だったな、ギリセ。俺の行動原理は『属性』という『理』から外れている。だからこそ、君の属性前提の予測は通用しない」
セレスは、両手の銃を音速で短剣モード(ディバイダー)に切り替えた。純粋な旧世界の特殊合金の刃が、夕闇の光を反射して青白く光る。
「くそっ! やはり生かしておけなかった……!」
ギリセは怒りに顔を歪めると、セレスとの間に高さ五メートルにもなる巨大なガラスの壁を瞬時に生成し、防御を固めた。さらに、その壁の背後から、無数の矢のような鋭利なガラスの結晶を、弾幕のように発射し始める。
セレスは、この弾幕を真正面から突破するしかなかった。彼は再び、運動エネルギー弾による超加速を多用し、ジグザグの軌道を描きながら弾幕をかいくぐる。そのたびに、彼の皮膚は避けきれなかったガラスの破片によって微細に切り裂かれ、鮮血が飛び散る。
彼の目的は、防御壁を突破し、属性術者であるギリセの肉体に直接、非属性の刃を叩き込むこと。
「属性に頼りすぎるあまり、自身の肉体の防御を怠る……それがお前たち、アトリウムの傲慢さだ!」
セレスは、巨大なガラスの壁の一点に、全運動エネルギーを集中させたゼロ・ディバイダーの短剣を突き込んだ。属性を一切含まない純粋な物理的な力は、ギリセが生成した強化ガラスの緻密な結合を、一瞬にして打ち破った。
ガシャンッ!という爆音と共に壁は内側へ砕け散り、セレスは破片の雨の中を飛び込んだ。
「まさか……この防御壁を物理的に……!」
勝利を確信していたはずのギリセの顔に、初めて明確な恐怖が浮かんだ。彼女は咄嗟に身を引こうとしたが、セレスの超加速は彼女の反応速度を凌駕していた。
セレスは、彼女の白いスーツの腹部に、ゼロ・ディバイダーの刃を深く突き刺した。属性の防御力に依存していたギリセにとって、これは致命的な一撃だった。
セレスの刃がギリセの肉体を貫いた瞬間、周囲の空間を支配していた硝子属性のエネルギーが一瞬で霧散した。張り巡らされていた透明な糸は消え、弾幕も動きを止めて地面に落ちる。
「ぐっ……アトリウムの…特級執行官である、この私が……属性なき異端者に……」
ギリセは口から血を流しながら、信じられないという表情でセレスを睨みつけた。セレスは、彼女の目を冷酷に見つめ返し、刃をねじ込んだ。
「俺は異端ではない。お前たちが作った理から外れた、ただの復讐者だ」
その時、ギリセの肉体が不自然な光を帯び始めた。彼女は血を流しながらも、最後の属性エネルギーを、自身の肉体の周囲に透明な硝子の殻として生成し始めたのだ。それは、属性術者特有の最後の防衛手段、緊急脱出用の「結晶の棺」だった。
「覚えておきなさい、ヴァルケンハインの亡霊……! お前は、アトリウムの追跡から、永遠に逃れられない!」
ギリセは憎悪に満ちた言葉を吐き捨てると、その硝子の棺ごと、粉々になって砕け散った。それは、彼女の肉体が完全に破壊されたのではなく、硝子属性が持つ「空間転移」を伴う緊急脱出機能だった。致命傷を負いながらも、その場から逃亡したのだ。
セレスは、その砕け散った硝子の破片が舞い落ちる中、ただ静かに佇んでいた。腹部から流れる血と、破片による全身の無数の切り傷の痛みが、彼の意識を鈍らせる。
「……逃げられた、か」
憎きアトリウムの執行官に一矢報いたにもかかわらず、彼の心は満たされていなかった。
彼は荒れ地の地面に倒れ込み、満身創痍の体を夜の冷気へと晒した。
深い傷と疲労の中、セレスの意識は激しく揺れ動いた。夜空には星が瞬いていたが、その星々が、彼にはまるで祖国を滅ぼした炎の破片のように見えた。
——あの夜、城が崩壊した夜だ。
父である国王から、遺物の籠手を強く握らされた時の、硬質な感触が蘇る。玉座の間は既に瓦礫が散乱し、天井からは炎の粉が舞い落ちていた。
父は、自分自身の体にも属性の光を宿していたにもかかわらず、敵の特異属性の前に抵抗する術を持たなかった。父の体から属性の光が吸い取られ、彼の体がまるで干からびるように萎んでいく姿を、セレスは地下通路の入り口から目撃していた。
『……生き延びろ、セレス。この国の真の務めは、属性ではなく、旧世界の知識を守り抜くことだった。お前は……属性に汚されていない、唯一の王位継承者だ』
あの時、父が差し出した籠手は、王冠よりも重かった。それは、「無属性」であることの証明であり、「王冠を持たない王」としての過酷な運命を継承する証だった。
セレスは、崩壊した城の裏門から這い出た時、故郷の全てが「虚飾の淵」の力によって、跡形もなく消え去っているのを見た。無力感、屈辱、そして自分だけが生き残ったことへの罪悪感。
「守れなかった……誰も、守れなかった……!」
彼は、燃え落ちる故郷の炎の前で、激しく地面を殴りつけた。彼の無属性の体には、属性の力に対する憎悪と、世界を変えるという狂気的な誓いだけが、深く刻み込まれた。
セレスはハッと意識を現実に引き戻した。冷たい夜風が、ガラスの破片が刺さった全身の傷口に沁みる。
彼は震える手で、服の裏地に隠していた応急処置用の遺物を取り出し、最も深い腹部の傷に貼り付けた。血は止まったが、消耗した体力と精神力は、一晩の休息では回復しないだろう。
彼は、自分の命を狙ってきた執行官を撃退し、また一歩、復讐という道を進んだ。しかし、それは同時に、アトリウムという巨大な敵に自身の存在を改めて知らせたことを意味する。
「……ギリセ。お前は、俺の復讐の本当の獲物ではない」
彼は、父を殺した張本人、「虚飾の淵」のゼノン・クロムウェルを思い浮かべた。ギリセは、その障壁に過ぎない。
東の空が、夜の闇を押し破るように、ゆっくりと淡い金色に染まり始めた。それは、属性の光ではない、ただの自然な夜明けの色だった。
セレスは、その夜明けの光を浴びながら、痛みで軋む体に鞭打って立ち上がった。彼の視線は、遠く、属性社会の中心地であるアトリウム帝国の方向を向いていた。
復讐の旅は、まだ始まったばかりだ。
彼はかすかに見えるアトリウム帝国をきつくにらみながらも次の目的地である「ハイムズ」へ足を進めた。




