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第93話:守護者の誓い

お読みいただき、ありがとうございます。

朝・昼・夕の1日3回の更新を目指しています。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

神聖なるはずの法廷が血に染まった、あの大審問室襲撃事件から一週間が過ぎた。


あの混沌とした一日が嘘のように、王都は表面上の平穏を取り戻していた。俺は悔悟の塔から解放され、教会が用意した客室でセレスティアと共に過ごす時間が増えていた。


「つまり、あなたの言う『理術』とは、この世界のあらゆる物質や現象に内在する『法則』を観測し、それを再現、あるいは応用する技術、ということなのですね」


陽光が差し込む静かな図書室で、セレスティアが熱心に問いかけてくる。その碧色の瞳は、知的好奇心に満ちてキラキラと輝いていた。


「まあ、大雑把に言えばそんなところだ。君の『奇跡』も、俺から見れば、まだ誰も知らない法則に基づいた、極めて高度なエネルギー操作現象に過ぎない」


「ふふっ、コウの理屈は、時々とても夢がないですわね」


「事実を述べているだけだ、セレスティア」


俺はそう言って、彼女の悪戯っぽい笑みに微笑みで返した。聖女様、カガヤ様と呼び合っていたのが、つい数日前のこととは思えないほど、自然に互いの名前が口をついて出る。この濃密な一週間は、俺たちの間の壁をすっかり溶かしてしまったらしい。いつの間にか、俺たちは互いに名前で呼び合う仲になっていた。


あれから一週間。その間、俺たちは様々なことを語り合った。俺の理について、教会の在り方について、神について。そして、彼女が視たという神託『星より来たりし異端者こそが、汝を苦しみから解き放つ鍵である』についても。


その中で俺は、自分の身の上に起こったことを、正直に話した。自分がこの星の人間ではないこと。遥か彼方の星系から、事故でこの惑星に不時着した、ただの宇宙商人に過ぎない、と。


驚くべきことに、セレスティアは、その途方もない事実を、意外なほどすんなりと受け入れたのだ。彼女が見た「神託」が、俺という存在の特異性を、すでに彼女に示していたからだろう。


「セレスティア様、コウ様。そろそろお時間です」


俺たちの議論を遮るように、セレスティアの従者である修道女が、恭しく声を掛けた。


「あら、もうそんな時間?今日はコウの大事な晴れ舞台ですものね」


「俺だけじゃない。セレスティアもだろう?」


俺たちは顔を見合わせ、穏やかに微笑んだ。


教会の前には、王家の紋章を刻んだ壮麗な馬車が停まっていた。今日は、俺が正式に聖女セレスティアの守護者となる任命式典が執り行われる日だ。


本来、聖女の守護者ともなれば、それは聖地ウルに座す教皇聖下がその任を与えるのが筋である。しかし、サルディウスの失態と、何より聖女本人が強く望んだことで、教皇は特例として、聖女個人による任命を認めた。探究派の長である教皇のことだ。俺という存在を聖女、ひいては教会に繋ぎ止めておきたいという、政治的な思惑もあっての特例だろう。



王城の大広間は、目映いばかりの光と、人々の熱気に満ちていた。高い天井から吊るされた巨大なシャンデリアが、磨き上げられた大理石の床を照らし出し、壁に掛けられたタペストリーには、フォルトゥナ王国の栄光の歴史が色鮮やかに織り込まれている。


この国の有力な貴族、教会の大司教、高位神官、各ギルドの長。きらびやかな衣装に身を包んだ権力者たちが、固唾を飲んで式典の始まりを待っていた。フォルトゥナ王家は、あくまで立会人という立場だ。


やがて、ファンファーレが鳴り響き、広間の巨大な扉が開かれる。全ての視線が、そこに立つ俺とセレスティアに注がれた。


俺たちは、ゆっくりと、広間の中央に敷かれた真紅の絨毯の上を進んでいく。向けられる視線には、好奇、期待、嫉妬、そして警戒、様々な感情が渦巻いていた。


玉座の前まで進み出ると、セレスティアが俺に向き直った。彼女は、純白の儀式用の法衣をまとい、その姿は神々しいまでに美しい。だが、その瞳は、ただ真っ直ぐに、俺だけを見つめていた。


彼女は、用意された任命の言葉ではなく、自らの言葉で語り始めた。


「コウ。あなたは、暗闇の中にいたわたくしに、理という名の光を示してくれました。あなたは、わたくしがただの『器』ではなく、一人の人間であることを教えてくれました」


その声は、広大な広間の隅々にまで、凛として響き渡る。


「これより、わたくしはあなたと共に、この世界の真実を探究する道を歩み始めます。故に、神と、ここに集いし全ての証人の前で、あなたを、わたくしの唯一の『守護者』として任命します」


彼女は、祭壇に置かれていた一振りの剣を手に取ると、その柄を俺に差し出した。白銀に輝く、美しい装飾の施された長剣。それは、聖女を守る者だけに与えられる、名誉の証だ。


俺は、その剣を恭しく受け取り、彼女の前に跪いた。


「この剣に誓いましょう。あなたの盾となり、あなたの剣となり、あなたの進む道を、俺の持つ全ての理で照らし出すことを」


俺がそう誓いを述べた瞬間、広間は割れんばかりの拍手に包まれた。


その拍手の中心で、俺は立ち上がり、セレスティアと向き合う。彼女は、満面の、花が咲くような笑みを浮かべていた。


だが、俺は、心からこの状況を喜んでいるわけではなかった。


これで終わるはずがない。この式典は、新たな戦いの始まりを告げるゴングに過ぎない。王家、教会、公爵家、そして「炎の紋章」…俺を取り巻く盤上の駒は、まだ何も解決していない。


しかし、今は、この瞬間だけは、目の前の少女の笑顔を、そしてこの国の民が寄せる期待を、素直に受け止めよう。


俺には、この惑星ほしで得た、守るべき大切な絆があるのだから。


「行こうか、セレスティア」


「はい、コウ」


俺たちは、鳴り止まぬ拍手の中、手を取り合って、光の中を歩き出した。


異端者と呼ばれた宇宙商人が、聖女の守護者として、この世界の理を探究する旅が、今、始まる。


― 第4章 完 ―

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

少し短めですが、これにて第4章完結です。

いつものように、幕間を挟んだ後、第5章へと物語は続きます。


「☆☆☆☆☆」からの評価やブックマークをしていただけると、今後の創作の大きな励みになります。

感想やレビューも、心からお待ちしています!

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