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第240話:深淵への出航

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

俺たち『黎明の守護者団』の中核からもたらされた二つの「奇跡」――西の「大精霊救出」と、東の「犠牲ゼロでの遺跡攻略」。

そして、その中心にいるカガヤ・コウという男が、「異なる(ことわり)」と「神代の精霊獣」を使役する存在であるという事実。


その情報は、国王と重鎮たちという、ごく一握りの上層部に留められたにもかかわらず、王都本部の空気を目に見えて変えていった。


「おお……カガヤ団長……!」


翌日、俺が本部の司令室に顔を出すと、昨日まで「驚愕」と「戸惑い」の目で俺を見ていたエルネストや参謀たちが、今や明らかに「畏敬」と「過剰な期待」の入り混じった、熱っぽい視線を向けてきた。


「団長、昨夜はよくお休みになれましたかな?」


「して、本日はどのような『神託』を……いえ、ご指示をいただけますかな?」


「……神託ねえ」


俺は内心で深く、深〜くため息をついた。面倒くさいこと、この上ない。

彼らにとって「神の御使い」という解釈は、俺という理解不能な存在を自分たちの世界観の中に安全に位置づけるための、唯一の答えだったのだろう。

だがその結果、俺の一挙手一投足に、もっともらしい「神聖な意味」を見出そうとし始めている。


「合理的な『協力体制』が欲しかっただけなんだがな……」


隣のクゼルファも、この異様な空気に少し居心地が悪そうだった。

彼女は俺の正体を知っているだけに、「全然違います!」と言いたげな顔で、唇を尖らせている。


「カガヤ様、この空気……」


「ああ、最悪だ。仕事にならん」


俺は、そんな王都の喧騒と期待から、物理的に距離を置くことを即座に決めた。


「アルフォンス隊長」


会議室の隅で、いまだに自分の常識と現実との折り合いをつけようと地図を睨んでいた彼に声をかける。


「……! なんだ、カガヤ団長」


「あんたには悪いが、しばらく王都で、俺の『団長代理』として本部の指揮を執ってもらう」


「なっ……!? 俺を……代理に? 君は、どうするのだ」


「俺は俺の仕事をする。……深海に潜るための『船』の準備だ。王都の政治的なやり取りは、あんたの方がよっぽど得意だろ? 騎士様」


俺がそう言ってニヤリと笑うと、アルフォンスは一瞬何かを言いかけたが、やがて複雑な表情のまま静かに頷いた。


「……承知した。東部隊の再編任務と並行して、本部の指揮も、このアルフォンスが一時、預かろう」


彼にとっても、俺という規格外の存在から離れ、自分の土俵で現実的な任務に集中する時間が必要だったのだろう。


「よし、商談成立だ。……じゃあ、王都(ここ)は任せたぞ、団長代理」


俺はエルネストたちの「え、団長、どちらへ!?」という声を完全に無視し、仲間たちと共にその場からモンテストゥスへ転移した。


俺たちが転移したのはガリアの地。

モンテストゥスの記憶に導かれてたどり着いた、あの古代の遺跡――その地下深くに隠された、俺の「本当の城」、アルカディア・ノヴァが眠る秘密のドックだった。


王都の喧騒とは無縁の、ひんやりとした静寂が俺たちを迎える。

そこには、あの優雅で流麗なフォルムを持つアルカディア・ノヴァが、静かにその身を横たえていた。


「……さて。ここからが、俺の本業だ」


俺は東大陸で確保した、あの青黒く輝く鉱石(レアメタル)のコンテナをドックの管制室へと運び込んだ。


「アイ。素材は揃った。これよりアルカディア・ノヴァ、深海潜航仕様――コードネーム『ポセイドン』への大改修を開始する」


《了解しました、マスター。オート・マニピュレーター起動。レアメタル『X-912』の精錬プロセスに入ります》


ドックのあちこちで、休眠していたアームやレーザー加工機が一斉に目覚める。

確保したレアメタルが高熱のプラズマによって精錬され、既存の船体装甲と融合していく。

俺の脳内には、アイがシミュレートした、水圧数千メートルにも耐えうる完璧な耐圧殻の設計図が展開されていた。


船体フレームは強化され、優雅だった船首には、深海の闇を切り裂くための高出力ソナーと、亜空間の歪みを観測する多次元センサーが組み込まれていく。

この作業には、数日を要した。


その間、俺たちは再び王都本部――アルフォンスの執務室へ、今度はこっそりと戻り、最後の情報収集にあたっていた。


「……ダメです、カガヤ様」


王立書庫の最深部にあった古文書の山から顔を上げたクゼルファが、ため息混じりに首を振る。


「海に関する伝承は山ほどありますが……カガヤ様が示された座標は、『大渦巻の先』『世界の終わりの深淵』などと書かれているだけで、そこに行った者の記録は一切ありません」


「俺の方もだ」


海洋ギルドから最も古い海図を借り受けていた俺も、肩をすくめる。


「海流図は、ある一定のラインから、すべて『未知』として白紙になっている。さすがに、魔法があるこの世界の人間にとっても、あの海域はよっぽど縁遠い『禁断の領域』のようだな」


「……ですが」


セレスティアが、俺たちの集めた“無知の証”を前に、静かに微笑んだ。


「サハリエル様は、そこにご自身の依り代がいると、確かに示されました。伝承になくとも、道は必ずあります」


彼女の言う通りだ。

しかし、情報は未だゼロ。

すべては、俺たちの――そしてアルカディア・ノヴァの性能を信じた、未知の領域へのダイブとなる。


決意を新たにしたその時、俺の脳内に、アイからの待ちわびた通信が入った。


《マスター。アルカディア・ノヴァ、改修完了。深海潜航仕様『ポセイドン』、全システム・グリーン。いつでも出航可能です》


「……来たか」


俺たちはアルフォンスに「王都のことは引き続き頼む」とだけ短い伝言を残し、三度、ガリアの遺跡へと跳んだ。


ドックにいたのは、もはやあの優美な「船」ではなかった。

青黒いレアメタルによって形成された分厚い追加装甲に全身を覆われ、船体各所には強大な水圧をいなすための可変式バランサーが取り付けられている。

それは、優雅な鳥ではなく、深海の圧力をねじ伏せる、重厚な「鎧魚」とでも言うべき武骨な姿へと変貌していた。


俺たちは、アルカディア・ノヴァ――深海潜航仕様『ポセイドン』のコックピットへと乗り込んだ。

メインスクリーンには、目標座標の三次元マップが映し出される。そこは、大陸棚から一気に落ち込む、漆黒の深海だった。


「クゼルファ、セツナ、セレスティア。シートベルトはいいな? モンテストゥスも、衝撃に備えろ」


「はい!」


「承知!」


「ええ、コウ」


俺は操縦桿を握り、船の全システムを起動させた。


「アルカディア・ノヴァ、深海潜航仕様『ポセイドン』発進準備。ガリアの地下水脈を通り、目標・深海座標XXX――『星の牢獄』だ」


スクリーンに映る真っ暗な深淵を見据え、俺は小さく息を吐いた。


「行くぞ。……『星の牢獄』への扉をこじ開けに、な」


アルカディア・ノヴァが、ガリアの遺跡の地下水脈から音もなく、しかし力強く、漆黒の深海へと向かって進み始めた。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

これにて第12章、完結となります。

幕間を挟み、第13章へと物語は続きます。

引き続き、お楽しみいただければ幸いです。


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