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第231話:詩から読み解く真実

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

ヴァナディースの民の歓喜に満ちた祝宴から一夜明け、オアシスには穏やかな日常が戻りつつあった。しかし、俺たちパーティは『黎明の守護者団』として、聖域の最深部で新たな、そしてあまりにも巨大な問題と向き合っていた。


穏やかな光を取り戻した大精霊サハリエルと、ライラの残滓を介してサハリエル様との意思疎通をより綿密にしてくれるセレスティア、そして、この星の成り立ちを知るモンテストゥス。そこに、俺とセツナ、クゼルファが加わり、緊迫した作戦会議が続けられていた。


「……つまり、だ」


俺は、目の前の難題を整理するように、ゆっくりと口を開いた。


「サハリエル様が本来の力を取り戻し、この星の生態系を完全に調律するためには、数万年前に時空の歪みに消えたっていう『依り代』の精霊獣を見つけ出し、この世界に連れ戻す必要があるってことだよな。もしそれができなければ、サハリエル様の存在も、いずれ消滅しちまうかもしれない……。そういうことか?」


「……うむ。その通りだ、カガヤ」


モンテストゥスの重々しい声が、静かな聖域に響いた。


「依り代を失った大精霊は、エーテルの奔流の中に浮かぶ小舟に等しい。今はかのプラントを止めたことで一時的に安定しているが、あの大精霊の存在こそが『終焉』に対する防波堤の一つ。彼女が消えれば、それだけこの世界の終わりが早まることになるだろう」


「なんてこと……」


クゼルファが、息を呑む。


問題は山積みだ。数万年前に、それも「時空の歪み」に消えたなんざ、普通に考えりゃ、宇宙のどこを探しても見つかるわけがない。


「サハリエル様」


俺は、黄金色に輝くエーテル体に向き直った。


「何か、手がかりは? その依り代が、今どこにあるのか。どんな小さなイメージでもいい」


サハリエルの光が、セレスティアを介して、俺たちの意識に流れ込んでくる。それは、言葉ではなく、極めて詩的で、断片的なイメージだった。


―――暗闇。 ―――だが、完全な無ではない。 ―――無数の星々が、まるで閉じ込められたかのように、身動きもせずに瞬いている。 ―――そこは、時の流れさえも歪んだ、空の果て。 ―――『星の牢獄』。


「……星の牢獄、か…」


俺は、その詩的なフレーズを反芻する。あまりにも曖昧すぎて、手がかりと呼べるものじゃない。


「カガヤ様、今のイメージは一体……?」


俺がサハリエルと直接やり取りしていることに気づかないクゼルファが、不安げに尋ねてくる。


「サハリエル様は、『空の果てにある、星の牢獄』に、その依り代がいる、と示唆してくれた。だが……」


「星の牢獄? なんですの、それ……」


クゼルファは、案の定、意味が分からないというように首を傾げた。


「アイ、ガーディアン、マザー、モンテストゥス。今受信したイメージデータと、全データベースを照合してくれ。『星の牢獄』『時空の歪み』『数万年前の大災厄』。関連する全ての記録を洗い出すんだ」


俺の号令一下、四体の超AIが、即座に並列思考を開始する。


《……マスター。ガーディアン及びマザーのデータベースをスキャンしました。しかし、両AIが起動したのは、大災厄より遥か後の時代です。該当する事象に関する直接的な記録は、存在しません》


アイからの報告は、予想通りだった。マザーもガーディアンも、この星の古代史に関しては、モンテストゥスには及ばない。


「我が記憶にも、『星の牢獄』という直接的な言葉は存在しない」


モンテストゥスが、苦々しげに続ける。


「大災厄は、我々『星の民』の計画さえも頓挫させた、予測不可能なカタストロフだった。記録の多くが、その際の時空の歪みによって欠損している」


万事休すか……。

いや、まだだ。まだ、使えるカードが残っている。


「……アイ。地殻プラントの記録ログに、アクセスできるか?」


《地殻プラント……ですか? あのような旧式の、それも高度な知性を持たないシステムにアクセスしても良い結果を得られるとは思えませんが……》


アイが、わずかに意外そうな反応を示す。


「そうだ。あれは、星の民がこの星を創生した、まさにその時に設置された最古の遺物の一つだ。高度なAIは積んでなくとも、設置されてから今この瞬間までの、膨大な『観測ログ』を記録し続けているはずだ。俺たちがサハリエルを救うためにアクセスした時、その存在は確認している」


《……なるほど……。確かに、あのプラントは、大災厄の瞬間も、この星の地殻変動を記録し続けていたはず……》


「モンテストゥス。お前の『古の記憶』と、プラントの『無機的な記録』。その二つを照合すれば、何か見えてくるかもしれない」


《……面白い。人間の発想、というやつか。良かろう、試してみる価値はある》


二つの異なる知性が、俺の提案を受け入れた。 ここからは、俺の出番はない。超AIたちの独壇場だ。


《解析、開始します》


アイ、マザー、ガーディアン、そしてモンテストゥス。四体の超AIが、一つの目的に向かって、その膨大な演算能力を統合する。


地殻プラントが数万年にわたって記録してきた、単調な地殻振動のデータ。その、ノイズの海の中から、あの大災厄の日の、異常な時空振動パターンを特定する。

そして、そのパターンを、モンテストゥスが持つ欠損した記憶(レコード)と照合し、失われたピースを当てはめていく。


俺の脳内には、常人なら一瞬で意識を失うほどの膨大な情報が、流れ込んでは再構築されていく。それは、まさに神々の領域のパズルだった。


どれほどの時間が流れただろうか。

セツナもクゼルファも、ただ息を詰めて、目を閉じて思考に沈む俺の姿を見守っている。


やがて、閉じていた俺のまぶたの裏で、一つの答えが、鮮やかな光として結ばれた。


《……マスター。……見つけました》


アイの、静かな、しかし確信に満ちた声が響いた。


《マスター。サハリエル様のイメージ……『星の牢獄』の正体を特定しました。大災厄の際、暴走した時空エネルギーが、この惑星の特定の海域を切り取り、閉鎖したことによって偶発的に発生した、『隔離時空フィールド』です》


「隔離時空フィールド……」


《はい。そこは、通常の空間とは位相がずれ、時間の流れさえも異なる、いわば世界の袋小路。外部からの干渉を一切受け付けないため、サハリエル様は『牢獄』と表現されたのでしょう。そして、失われた精霊獣は……そのフィールド内に、今も『保存』されている可能性が極めて高い、と結論します》


AIたちが導き出した答えは、希望であると同時に、絶望でもあった。


「……座標は?」


《特定済みです。これより、マスターの網膜に投影します》


俺の視界に、この世界のアメイシア大陸とその周辺海域を示した地図と、大陸から遠く離れた外洋に示された一点の座標が映し出される。


「……よし。場所は分かった」

俺は、ゆっくりと目を開けた。


「どうでしたの、カガヤ様!?」

待ちわびていたクゼルファが、勢い込んで尋ねてくる。


俺は、仲間たちの顔を見渡し、静かに告げた。


「ああ。アイたちのおかげで、サハリエル様の言う『星の牢獄』の場所は突き止められた。……どうやら、この大陸の遥か沖合、海底深くに存在する『亜空間』らしい」


「海底深くの……亜空間……」


セツナが、小さくその言葉を繰り返す。


俺は、気を引き締めるように一つ息を吐いた。


「さて、場所は分かった。だが、本当の問題はここからだ」


俺は仲間たちの顔を見渡した。アルカディア・ノヴァ……俺の船は、元は星間航行艦であるアルカディア号だ。宇宙空間の真空には耐えられる設計だが、数千メートルの深海に潜った時の、あの凄まじい水圧に耐えられる保証はどこにもない。


「次の問題は……まず、俺たちの船、アルカディア・ノヴァを、超深海の高圧環境に耐えられるよう、『深海潜航仕様』に完璧に整備し直すこと。そして、その上で……」


俺は、特定された座標を睨みつけながら、この旅の新たな、そして最大の難問を突きつけた。


「どうやって、あの『星の牢獄』の扉をこじ開けるか、だな」

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

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