第221話:黎明の守護団
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これより第12章開始です。
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カガヤたちが駆け抜けてきた激動の日々が嘘のように、王都アウレリアの市井は穏やかな活気に満ちていた。
人々が享受するそのかりそめの平和の裏で、この惑星そのものが静かな終焉へと向κάτιという事実を知る者は、まだごく僅かしかいない。この未曾有の危機に対し、フォルトゥナ王国国王の呼びかけにより、事態を理解する各国から派遣された精鋭たち。その代表者が王城の一室に集結していた。惑星イニチュムの未来を左右する超国家連合の円卓会議が、今まさに始まろうとしていた。
集っているのは、各種族、各国家の長やその代理人たち。かつては互いに牽制し、あるいは敵対さえした者たちが、今は一つのテーブルを囲み、共通の未来を見据えている。張り詰めた空気の中にも、確かな連帯感が満ちていた。
「――静粛に。皆の総意、しかと受け止めた。これより、我らが世界の未来を切り拓くための大いなる一歩、大陸全土を対象とした本格調査団の設立を、超国家連合の名において、ここに宣言する!」
議長役を務めるフォルトゥナ王国国王の威厳に満ちた声が、室内に響き渡る。その言葉に、居並ぶ代表たちの間に安堵と新たな決意のどよめきが広がった。
この星を覆う「終焉の運命」。その正体を突き止め、抗うための、人類史上、いや、この星の生命史上、最も壮大な試み。その大きな一歩が、今、踏み出されたのだ。
国王が、穏やかながらも力強い視線を、ある一点に向ける。 「そして、この重要な調査団を率いる初代団長として、我々はカガヤ・コウ殿を推薦したい。異論のある方はおられるかな?」
その問いに、沈黙が応える。それは、完全な同意の証だった。ローディア騎士王国最強の騎士と互角に渡り合った武勇、忘れられた民を率いて自由交易都市シエルに一大拠点を築き上げた卓越した手腕、そして教会の異端審問さえも知略で乗り越えた交渉力。彼のこれまでの功績は、特定の国家や種族の枠に収まるものではなく、ここにいる誰もが認めるところであった。彼の存在なくして、この超国家連合の成立すら危うかっただろう。
促され、カガヤは静かに席を立った。一斉に注がれる期待と信頼の眼差しを、彼は一人一人と目を合わせるように、ゆっくりと受け止める。その隣では、セレスティアが聖女の微笑みを、クゼルファが誇らしげな表情を浮かべて、彼を見守っていた。
「微力ながら、この大役、謹んでお受けいたします」
カガヤの声は、決して大きくはない。しかし、その一言一句が、不思議なほど明瞭に、その場にいる全ての者の心に染み渡っていく。
「私は、しがない一商人に過ぎません。武器の扱いも、騎士道も、魔法の深淵も、ここにいらっしゃる皆様には到底及ばないでしょう」
彼は一度言葉を切り、ふっと笑みを浮かべた。それは、自嘲ではなく、絶対的な自負に裏打ちされた笑みだった。
「しかし、商人だからこそ、見つけられる『価値』があります。これまでの旅路で、私はそれを確信しました。炎の紋章が掲げた偽りの正義の裏に隠された真実。神殿の地下に眠っていた、この星の遥かなる過去の記録。それらは金銀財宝よりも、遥かに価値あるものでした。我々が対峙すべき『終焉の運命』の正体も、きっと同じです。それは単なる天災や未知の敵などではない。我々が忘れ去った歴史の中に、あるいは見過ごしてきた大地の上に、その答えは必ず眠っているはずです。その真実を掘り起こし、白日の下に晒し、選び分ける。それこそが、私の、商人のやり方です。この大陸に眠る未来という価値を見つけ出し、皆の未来へと繋げて行くことを、ここに誓います」
その力強い宣言に、万雷の拍手が湧き起こった。それは、カガヤという異色のリーダーに対する、心からの信頼と期待の現れだった。クゼルファとセレスティアは、隣で誰よりも頼もしそうに微笑んでいた。彼の言葉が、単なる綺麗事ではないことを、彼女たちは誰よりも知っているからだ。
会議は、新たな熱を帯びて進んでいく。
「して、団の名称だが、何か良き案はあるかな?」
各国の代表からいくつかの案が出される中、最終的に選ばれたのは、カガヤが静かに提示した名前だった。
「『黎明の守護団。…というのは、どうでしょう」
その名に込められた意味を、誰もが即座に理解した。これは、単なる探査団ではない。この世界を覆う暗雲に終止符を打ち、新たな夜明け、すなわち未来を守り抜くための、意志の集団。終焉の運命に抗う、最前線に立つ者たち。その名に、異を唱える者はいなかった。
具体的な戦略についても、議論は滞りなく進んだ。広大なアメイシア大陸を効率よく調査するため、大陸を東西に二分し、二つの部隊を同時に展開する。
「東方面の調査部隊は、ここにいる各国からの精鋭部隊で編成し、連携して進めていただきたい。比較的、文明圏の情報も多く、安全なルートも確保しやすいはずです」
カガヤの説明に、各国の代表が頷く。問題は、もう一方だった。
「……では、カガヤ殿は西へ?」
誰かの問いに、カガヤは迷いなく頷いた。
「はい。西大陸は、我々が持つ情報が極端に少ない未知の領域です。どのような危険が待ち受けているか、予測すらできません」
彼の言葉に、室内に緊張が走る。西大陸。それは、古代文明の遺跡が数多く眠ると噂される一方で、地図の空白地帯となっている危険地帯だ。
「だからこそ、我々が行きます。セレスティア、クゼルファ、セツナ、そしてミニモンテストゥス。少数精鋭ですが、最も危険な任務には、最も慣れた我々が赴くのが合理的でしょう」
それは、団長としての命令ではなく、一人の覚悟の表明だった。最も困難で、最も危険な道を、自ら先陣を切って進む。それが、カガヤ・コウという男の在り方だった。
彼の揺ぎない瞳を見て、もはや誰にも異論はなかった。
こうして、大陸の未来をその双肩に担う『黎明の守護団』が結成された。
東へ向かう希望の光と、西の未知へ挑む覚悟の光。 二つの光が、アメイシア大陸の夜明けを拓く長い旅路を始めようとしていた。
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