表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
247/280

幕間11-2:王都集結

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

カガヤたちがガリアの地で、この星の根源に関わる死闘を繰り広げていた頃。

惑星イニチュムの中心、フォルトゥナ王国の王都アウレリアは、大陸全土を巻き込む、かつてない規模の一大事業に揺れていた。


王宮の執務室。国王イファル-ム三世は、山と積まれた各国の代表からの書簡を前に、深くため息をついた。

「……ゼノンよ。やはり、一筋縄ではいかんな」

「はい、父上。ですが、ここまで漕ぎ着けただけでも奇跡的かと」


傍らに立つ王太子ゼノンは、疲労の色を隠せないながらも、その瞳に確かな手応えを宿していた。


カガヤ・コウ。

一人の異邦人がもたらした「遺跡」の真実と、来るべき「終焉」の危機。その衝撃的な情報は、当初、各国に大きな混乱と疑念をもたらした。だが、フォルトゥナ王国の王位継承の儀における彼の活躍、そして何より、神殿都市ソラリスの聖女セレスティアからの正式な支持表明が、各国の頑なな姿勢を少しずつ溶かしていったのだ。


イファル-ム三世とゼノンは、カガヤが団長に就任する予定の「超国家連合探査団」の編成のため、大陸諸国への働きかけに奔走していた。


『我らが聖殿騎士団も、聖女様のご意志とあらば』

――聖地ウル、神殿都市ソラリスからは、マザーの覚醒を神託と受け取った教皇が、純白の鎧に身を包んだ精鋭「聖殿騎士団」の派遣を決定した。


『カガヤ殿には大きな借りがある。このシエル、利の匂いがする話は見逃せんのでな』

――自由交易都市「シエル」からは、評議会がカガヤへの「投資」として、歴戦の傭兵たちで構成された「鉄血傭兵団」の参加を承認した。


さらには、山岳王国グライフェンの「鷲獅子騎士団」、ヴォル=ガラン連合王国の獣人戦士団など、かつては決して交わることのなかったであろう国々が、それぞれの思惑を胸に、この未曾有の探査団への参加を表明しつつあった。


そして、その中でも、最も早く、そして最も強力な支援を約束したのが、ローディア騎士王国だった。



ローディア騎士王国の王城、その一室。

騎士団総長ギデオンは、窓の外に広がる訓練場の光景を眺めながら、背後に立つ一人の男に、静かに語りかけた。


「――というわけだ、アルフォンス。此度の超国家連合探査団、我がローディア騎士団の代表として、お前に行ってもらいたい」


その言葉に、「灼熱フレイム」の異名を持つ騎士、アルフォンスは、驚愕に目を見開いた。

「……総長、ご冗談を。なぜ、私なのですか。このローディアには、私などよりも、遥かに経験豊富で、有能な騎士たちがいるはず。それに、このような大陸規模の大任、総長自らが行かれるべきでは……!」


「私が国を長く離れるわけにはいかん。それはお前も分かっていよう」

ギデオンは、振り返ることなく、静かに言った。

「それに、これは私個人の判断ではない。カガヤ殿からも、そして王太子ゼノン殿からも、お前を名指しでの要請があったのだ」


「カガヤ殿が……私を……?」 アルフォンスは、言葉を失った。聖覧武闘会での、あの圧倒的な敗北。自分の未熟さを、慢心を、完膚なきまでに叩き潰された記憶が、脳裏に蘇る。


「……無理です。私には、その資格はない。あの方の隣に立ち、共に戦うなど……今の私では、足手まといになるだけです」


彼の声は、自信のなさからか、か細く震えていた。灼熱とまで謳われた男の、脆い一面だった。 その、あまりにも弱気な返答に、ギデオンは、初めてゆっくりと振り返った。その瞳には、上官としての厳しさではなく、一人の師として、弟子の成長を願う、温かい光が宿っていた。


「……アルフォンスよ。お前は、まだ分かっておらぬのか」


ギデオンは、彼の肩に、無骨だが力強い手を置いた。


「カガヤ殿がお前を指名したのは、お前の今の強さではない。お前が持つ、無限の『可能性』に賭けたのだ。彼との戦いで、己の未熟さを知り、それでも尚、立ち上がろうとする、その魂の熱さに、だ」


「私の……魂の熱さ……」


「そうだ。お前は、確かにまだ未熟だ。だが、その心に宿す炎は、誰よりも熱く、そして純粋だ。今回の旅は、お前にとって、またとない試練となるだろう。数多の強者たちと肩を並べ、未知の脅威と対峙し、そして何より、カガヤ・コウという、規格外の男の背中を見続けることになる。それは、お前の騎士としての、そして一人の男としての器を、大きく広げるはずだ」


ギデオンの、力強い言葉が、アルフォンスの心の奥底に眠っていた、小さな誇りの炎を、再び燃え上がらせていく。


「……私は、あなたのようには、なれません」

「なる必要などない。お前は、お前の道を行けばいい。そして、このローディアの誰よりも、強く、気高き騎士となれ。……行け、アルフォンス。これは、総長として、そして、お前の師としての、命令だ」


ギデオンは、そう言うと、悪戯っぽく笑った。

「それに、だ。此度の探査団、大陸中の猛者が集う。他国の騎士たちに、ローディアの『灼熱』が聞いて呆れる、などと言わせるなよ。我が騎士団の誇り、お前に託したぞ」


その、思いがけない言葉に、アルフォンスの顔が、カッと赤く染まった。

「……!はっ……!承知、いたしました!」


彼は、迷いを振り切るように、力強く敬礼すると、部屋を飛び出していった。その背中には、もはや以前のような弱気な影はなく、新たな決意に満ちた、若き騎士の姿があった。



数週間後。王都アウレリアの王城前広場は、異様な熱気に包まれていた。

山岳王国グライフェンが誇る、グリフォンを駆る「鷲獅子騎士団」。その翼は天を覆い、鋭い眼光が王都を見下ろしている。

神殿都市ソラリスから派遣された、白亜の鎧に身を包んだ「聖殿騎士団」。その一糸乱れぬ隊列は、彼らの揺るぎない信仰心を示していた。

自由交易都市シエルからは、歴戦の強者たちの集まりである「鉄血傭兵団」。統一性のない武具が、逆に彼らの百戦錬磨の経験を物語っている。


大陸各地から、それぞれの旗を掲げた精鋭たちが、続々と集結していた。


その、壮観な光景の中を、一団の騎馬隊が、土煙を上げて駆け込んでくる。真紅の鎧に、獅子の紋章。ローディア騎士団だ。


「……すまない!遅参した!」


馬から飛び降りたアルフォンスが、出迎えたゼノン王子に深々と頭を下げる。彼の率いる部隊は、国内の調整に手間取り、他の騎士団よりも、到着が遅れてしまっていた。


ゼノンが、その労をねぎらおうと口を開いた、まさにその時だった。


彼らの目の前、王城の正門前の空間が、まるで陽炎のように、ぐにゃりと歪んだ。次の瞬間、その空間が、内側から弾けるように、まばゆい光を放ち始めたのだ。


「――敵襲かッ!全員、構えろ!」


アルフォンスの絶叫が響き渡る。彼が率いるローディア騎士団の精鋭たちが、即座に臨戦態勢を取る。抜かれた剣の切っ先が、一斉に、光の中心へと向けられた。集結していた各国の騎士団の間にも、激しい緊張が走る。


光が収まった時、そこに現れたのは――。

およそ、この場には似つかわしくない、一台の、何の変哲もない、旅の馬車だった。


その馬車の前に、騎士たちの中から、アルフォンスが歩み寄る。


「……カガヤ、殿……?なぜ、あなたが、このような場所から……?」


アルフォンス。彼の、困惑に満ちた声が響く。


そんななから、カガヤはゆっくりと馬車から降りると、天を仰いで深いため息をついたのであった。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

次回、第12章スタートです。

「☆☆☆☆☆」からの評価やブックマークをしていただけると、今後の創作の大きな励みになります。

感想やレビューも、心からお待ちしています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ