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第219話:真の救世主様

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

星の心が、数万年の眠りから目覚めた。


モンテストゥスの中枢、セントラルコアが完全に再起動したことで、この異次元空間そのものが、祝福するかのように、穏やかな光に満たされていく。


『来訪者よ。汝らの勇気と知性が、この宇宙の理を覆し、新たな可能性を紡ぎ出した。心から、感謝する』


モンテストゥスの声が朗々と響き渡った。その声には、以前の機械的な響きはなく、どこか温かく、そして生命力に満ちたものに感じられた。


「礼を言うのは、俺たちの方だ。あなたたちがいなければ、俺たちはとっくに、この混沌の宇宙(うみ)に飲み込まれていた」


俺は、キャプテンシートから立ち上がると、ブリッジのクルーたち――クゼルファ、セツナ、そして、穏やかな微笑みを浮かべるセレスティアを見回した。誰もが、死闘を乗り越えた安堵と、そして、成し遂げたことの大きさへの、静かな興奮に満ちている。


『では、汝らを元の場所へと送り届けよう。この星の未来を、そして、我が子供たちを、頼んだぞ』


モンテストゥスがそう言うと、ブリッジのウィンドウの外、何もないはずの空間が輝き始めた。


モンテストゥスの中枢から次元を超えて送られてきた力が、この異次元に干渉し、まばゆい光となって顕現したのだ。だが、それは以前のような、時空を無理やりこじ開けるような暴力的なものではなかった。まるで、宇宙そのものが歌うように、調和の取れた光の波紋がアルカディア・ノヴァを優しく包み込んでいく。


「アイ。状況は?」


『はい、マスター。船外に、極めて安定したワームホールが形成されていきます。これは……我々の知る、どの理論よりも美しい……』


珍しくアイの感嘆に満ちた声がその現象の異次元ぶりを物語っていた。


俺たちは、多少の緊張を持ちつつも、その奇跡の瞬間を待った。


やがて、光が最高潮に達したかと思うと、俺たちの身体を、ほんの僅かな浮遊感が包み込む。そして、次の瞬間、ブリッジのウィンドウの外に広がっていたのは、見慣れた、しかし、以前とは比べ物にならないほど、生命力に満ち溢れた、ガリアの大地だった。


『……帰還を確認。時空座標、惑星イニチュム、ガリア地方、嘆きの洞窟上空。誤差、ゼロ』


アイの冷静な報告に、俺たちは、ようやく安堵の息をついた。


窓の外に広がるのは、見渡す限りの緑の大地。俺たちがこの地を訪れた時、そこは生命を拒絶するかのような、灰色の荒野だった。だが、今はどうだ。雪解け水が川となって大地を潤し、そのほとりには、色とりどりの花々が咲き乱れている。空はどこまでも青く澄み渡り、温かい太陽の光が、その全てを祝福するかのように、きらきらと照らし出していた。


「あぁ……」


クゼルファが、その奇跡的な光景に、感嘆の声を漏らす。


俺は、アルカディア・ノヴァをゆっくりと降下させ、脈動の民の集落へと向かった。集落の上空に、白銀の船体が姿を現すと、地上の人々から、どよめきが湧き上がった。


アルカディア号の威容を目の当たりにした彼らは、初め、その異質な姿に驚き、天に向かって指さし、口々に驚嘆の声を上げていた。だが、やがて幾人かが、その場に武器を投げ捨ててひざまずきだす。最後には、集落の民の誰もが、救世主の到来を祝うかのように、天に祈りを捧げ始めた。その瞳に宿るのは、もはや俺たちへの敵意や疑念ではなかった。神そのものを見るかのような、純粋な畏敬と、感謝の光だった。


巨大な魔獣の骨で組まれた門の前に、アルカディア・ノヴァを静かに着陸させる。ハッチが開くと、俺たちの前には、エダ長老と、カイをはじめとする、脈動の民の戦士たちが、深々と頭を垂れてひざまずいていた。


「おお……!精霊獣様が遣わされた、真の救世主様……!この御恩は、未来永劫、忘れはしませぬ!今までの数々のご無礼。平にご容赦くだされ。」


エダ長老の、涙に濡れた声が、ガリアの澄み切った空に響き渡る。


その時、アルカディア・ノヴァの隣の空間が、再び淡く光り始めた。光の中から現れたのは、小岩くらいの大きさの、甲羅に複雑な幾何学模様が刻まれた美しい亀だった。


「モンテストゥス……?」


俺の呟きに、その亀は、ゆっくりと頷いた。

『そうだ、来訪者よ。この姿ならば、汝らと共に旅をしても、この地の生態系を乱すことはあるまい』


見上げるほどの山脈だと思っていた存在が、今は、俺たちの目の前に、愛らしい姿でいる。そのあまりのギャップに俺たちはただ、呆気にとられるしかなかった。


『我は、汝らと共に、この星の未来を見届けよう。そして、我が失われた同胞たちの、手がかりを探そう』


ミニモンテストゥスは、そう言うと、セレスティアの方へと向き直り、親愛の情を込めてその頭を優しく彼女の足元に擦り寄せた。


ガリアの地に、数万年ぶりに、真の春が訪れた。 それは、長きにわたるガリアの戦いに終止符を告げると共に、この星の新たな謎解きが始まったことを示していた。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

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