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第24話:双つの巨鬼

お読みいただき、ありがとうございます。

しばらくの間は、朝・昼・夕の1日3回の更新を目指しています。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

※ タイトル変更しました。(旧タイトル:宇宙商人の英雄譚)

俺たちは、巨大な二体のオーガを聖樹の雫が群生する聖域から引き離すため、背後の森へと全力で疾走していた。背後から迫るオーガたちの咆哮が、木々を揺らし、大地を震わせる。その猛進は、もはや追跡というよりは、森そのものを破壊し尽くす巨大な天災のようだった。なぎ倒された木々が、俺たちの行く手を阻むように、次々と道を塞いでいく。


《マスター、聖樹の雫の群生地からは、1キロメートル以上離れることに成功しました。ここでの戦闘が、群生地に直接的な影響を与える可能性は低いと判断します》


アイが冷静に報告してくる。だが、俺は息を切らしながら問い返した。


「分かった! で、奴らの特徴は何か分かったか!? 有効な攻撃手段は!?」


《はい。対象の生態データをスキャンしました。彼らは非常に高い身体能力と、強靭な肉体、そして驚異的な魔力耐性を持っています。斥力スピアや斥力ブレードでは、表皮を貫通するのは困難です。また、額の角には、凝縮された魔素の反応が見られます。何らかのエネルギー攻撃を放ってくる可能性があります》


アイが脳内で冷静に分析結果を叩き込んでくる。俺は、走りながら振り返り、その巨体を視界に収めた。森の奥深く、陽の光も届かない薄暗い空間で、その巨躯は異様な存在感を放っていた。やはり、この場所で戦うしかないか。


「クゼルファ、さっき、あれのこと、オーガって言ってたな?」


俺の問いに、クゼルファは厳しい表情で頷いた。


「はい、カガヤ様。あれは恐らく、古文書に記されている大鬼(オーガ)です。ですが、私が知る伝承の中の大鬼(オーガ)よりもはるかに大きく、その身に宿す魔力も、禍々しい……。こんな個体は、見たことも聞いたこともありません……」


クゼルファの声は、冷静さを装いながらも、微かに震えていた。彼女が知るオーガより、さらに凶悪な存在。やはり、この森の魔獣は、通常個体よりも遥かに強力な「変異種」らしい。


〈アイ。ここでやる!奴らの隙を突く立ち回りを指示してくれ。最優先は、撃破だ!〉


《了解しました。戦闘シミュレーションを開始。最適行動を提案します》


「クゼルファ、援護を頼む!」


クゼルファは、俺の言葉に迷いなく頷き、大剣を構えた。意を決したその表情は、オーガを前にしても一切の怯えがない。その瞳には、戦士としての誇りと、俺への絶対的な信頼が宿っていた。


「はい!」


戦闘が始まった。オーガたちは、その巨体にもかかわらず、驚くべき速度で俺たちに迫ってきた。その攻撃は、巨大な体躯と膂力を活かした力押しが主だが、想像以上に素早い動きで木々をなぎ倒しながら襲いかかる。一撃一撃が、もはや暴力の塊だ。振り下ろされる拳は、森の木々を根元からへし折り、周囲に無数の破片を撒き散らす。その度に、近くにいた小型の魔獣たちが、悲鳴を上げて逃げ惑っていた。


《マスター、10時の方向に大きく回避! 続けて左側の個体の右脚を、斥力スピアで狙ってください!》


アイの指示が脳内に響く。俺は即座に反応し、地面を蹴って跳び退くと同時に、視線を定め、斥力スピアを放った。目に見えない力が、オーガの右脚を捉え、その体勢をわずかに崩す。


その一瞬の隙を、クゼルファは見逃さなかった。


「はあああっ!」


雄叫びと共に駆け出した彼女の大剣が、風を切り、オーガの太い脚を斬り裂く。岩のように硬い皮膚を、彼女の剣技と膂力がこじ開け、傷口から、濃い緑色の血液が噴き出した。


「グオオォォォォ!」


傷を負ったオーガが、怒りの咆哮を上げた。だが、その声はただの叫びではない。魔力が凝縮され、衝撃波として放たれる。次の瞬間、俺たちの体に強いプレッシャーがかかり、一瞬、金縛りにあったかのように体が硬直した。全身の細胞が、その圧倒的な魔力の圧力に悲鳴を上げているようだ。


《マスター、魔力による咆哮です! 精神に直接干渉してきます! ……マスター、もう一体が来ます! 結界を展開してください!》


アイの声に我に返り、もう一体のオーガに視線を向けると、ヤツが振りかぶった右腕から、圧縮された魔力の塊が、衝撃波となって飛んできていた。


「クゼルファ、伏せろ!」


俺は咄嗟に斥力フィールドの結界を張り、衝撃波を防ぐ。

ドンッ、と、まるで不可視の壁に巨大な鉄槌が叩きつけられたような鈍い音が響き、激しい衝撃が全身を襲う。結界越しにも、骨が軋むような痛みが走った。クゼルファは、俺の声に反応して身を低くしたが、その表情は苦痛に歪んでいる。


「くっ……!」


彼女の脇腹から、鮮血が滲んでいるのが見えた。衝撃波で吹き飛んだ、鋭い木の破片でも当たったか……。彼女の白い肌を赤く染める血を見て、俺の胸に、焦りが湧いた。


「クゼルファ! 大丈夫か!?」


俺が叫ぶと、彼女は歯を食いしばり、力強く頷いた。

「はい、大丈夫です! この程度……! それよりも、奴らを!」


その気迫に、俺は頼もしさすら感じた。だが、このままではジリ貧だ。俺もクゼルファも、消耗は激しい。


〈アイ、奴らの弱点! 何かあるだろ! このままでは、こっちがもたない!〉


《分析を再開します。…………、マスター。 彼らの体内に、魔素を生成・制御する、複数の小型制御ノードが存在します。そこを破壊できれば、あるいは無力化できるかもしれません》


「複数のノードを、一つずつか……? いや、それじゃキリがない。アイ、それらのノードを統括するような、中枢部はないのか?」


《……肯定。再計算します。……マスター、発見しました。体内に分散するノード群を統括する『中央制御ユニット』が、首の付け根……人体の急所で言う『天柱』に集中しています。そこが、最も装甲が薄く、内部への衝撃が届きやすい。ここを破壊すれば、全ての機能を停止させられる可能性が極めて高いです》


「中央制御ユニット……天柱、か」


「分かった。クゼルファ! 俺が前に出る。援護を、頼む!」


彼女は俺の言葉に素早く反応し、力強く頷いた。その目に迷いはない。


「はい!」


俺は、オーガの一体が大きく振りかぶった瞬間を狙い、斥力フィールドをその足元に集中させた。アイの精密な制御の下、斥力フィールドが地面に含まれる水分と土の粒子に干渉し、その分子間結合を一時的に弱める。さらに、微細な高周波振動を加えることで、固い大地は瞬時にその構造を失い、流動性を持つ泥の沼へと変貌した。


オーガの足元の地面が、まるで底なしの沼のようにその巨体を捕らえ、足を取られたオーガは前のめりによろめき、その巨体を支えきれずに体勢を崩した。


その隙に、クゼルファが地を這うように滑り込み、一気に間合いを詰めた。彼女の大剣が、オーガの強靭な皮膚に食い込む。


《マスター、今です! クゼルファの剣を足場に、跳躍して首の付け根を狙ってください!》


アイの指示に、俺は迷わず飛び上がった。オーガに突き刺さったクゼルファの剣を足場に、その勢いのまま高く舞い上がる。自分でも驚くような跳躍力で高く跳んだ俺からは、オーガの首の付け根が、丸見えになった。俺は、意識を腕の触媒ブレスレットに集中させ、渾身の力を込めて、一点に放つ。


「くらええぇぇぇぇ!」


俺の拳がオーガの首筋に触れるか触れないかの瞬間、凝縮された斥力の衝撃波が触媒から撃ち出され、オーガの急所を内側から破壊した。岩のような皮膚が砕け散り、肉が引き裂かれる音が響き渡る。断末魔の咆哮を上げ、オーガの巨体が大きく傾いだ。その深紅の瞳から、光が失われていく。


そして、轟音と共に、それは地面に倒れ伏した。


地面に降り立った俺は、荒い息を整える。残るは一体。しかし、全身が痛み、すでに疲労困憊だ。クゼルファも、脇腹の傷が深いのか、かなり消耗しているようだった。僅かでも良い。体力を回復させる時間が欲しい。


しかし、勿論そんなことが許される状況ではない。もう一体のオーガが、倒れた仲間の周りを威嚇するように彷徨きながら、血走った目で、俺たちを睨みつけていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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