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第198話:未来への羅針盤

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

王都に平穏が戻り、ゼノンが新たな王太子として正式に指名されてから、俺たちの日常は、以前とは比べ物にならないほど目まぐるしく、そして充実したものとなっていた。


王家から提供された、王城からほど近い貴族街の一角にある屋敷は、今や俺たちの作戦司令部として、昼夜を問わず活気に満ちている。


その日、屋敷の作戦司令室――かつては貴族の書斎であったであろうその部屋には、この星の未来を担う、異色のメンバーが集結していた。


司令塔である俺、カガヤ。俺の最初の相棒であり、パーティの剣となるクゼルファ。諜報と分析の要であるセツナ。そして、聖女として、この星の声を聞く力を持つセレスティア。俺たち四人に加え、王立大図書館の賢者、リリアンナが、アドバイザーとして議論に参加してくれている。


テーブルの中央には、俺がアイの支援で作り上げた、大陸全土の巨大な地脈図が、立体ホログラムとして浮かび上がっていた。青く美しい光の川が、複雑なネットワークを形成し、この惑星の生命線を可視化している。


「――やはり、私の仮説は間違っていなかったようです」


リリアンナが、そのエメラルド色の瞳を輝かせながら、地脈図の上に浮かぶ、いくつかの赤い光点を指し示した。


「『星の民』の遺跡は、いずれも、この地脈の力が最も強く、そして安定している場所に建造されています。まるで、この星のツボを的確に押さえるかのように。そして、その流れを追っていくと……奇妙なことに、全ての流れが、ある一点へと収束していくのが分かります」


彼女が指し示したのは、大陸の北西。フォルトゥナ王国の国境線を越え、魔の森のさらに北方に広がる、広大な未開の地だった。


「ここは……」


クゼルファが、訝しげに眉をひそめる。


「北方諸部族連合『ガリア』。……フォルトゥナ王国とは、長年対立関係にある、蛮族たちの土地、ですわね」


その言葉に、リリアンナは静かに頷いた。


「ええ。彼らは、独自のトーテム信仰を持ち、自然との共存を重んじる、誇り高き戦士の民です。ですが、その気質故に、我々のような定住民とは相容れず、資源を巡る小競り合いが絶えません。外交ルートも、事実上、存在しないに等しい。……遺跡の探索地としては、最悪の場所と言えるでしょう」


リリアンナの冷静な分析に、作戦司令室は重い沈黙に包まれた。だが、彼女は続けた。


「ですが、希望もあります。地脈の流れが収束しているのは、ガリアの中心部ではない。彼らの領土の、南端。……魔の森を、抜けたすぐ先です。彼らの聖域さえ侵さなければ、あるいは、接触を避けられるやもしれません」


「……魔の森、か」


俺の口から、思わず、懐かしい響きが漏れた。俺が、この世界に降り立った、始まりの場所。そして、俺の本当の相棒が、今も静かに眠る場所。


アルカディア号。そして、アイ。この旅は、彼女たちと再会するための、絶好の機会でもあった。


「……決まりだな」


俺は、仲間たちの顔を見回した。


「最初の目的地は、北方諸部族連合ガリア。魔の森を抜け、そこに眠る遺跡の調査を行う」


俺の宣言に、誰も異論を唱える者はいなかった。


その日の午後、俺は王太子となったゼノンに報告のため、王城を訪れていた。


俺たちの最初の目的地がガリアだと告げると、さすがの彼も驚きを隠せないようだった。

「ガリア、だと……?正気か、カガヤ殿。あそこは、言葉も満足に通じない蛮族の土地だ。下手をすれば、遺跡にたどり着く前に、彼らとの無用な争いに巻き込まれかねん」

「考えた上でのリスクです、殿下」


俺は冷静に答える。


「全てのデータが、そこを指し示している。それに、魔の森を抜けるルートならば、奴らの集落を避けられる可能性も高い。何より、私個人としても、あの森には少しばかり『忘れ物』がありますので……」


俺の言葉の真意を察したのか、ゼノンは深いため息をつくと、やがて、王太子としての力強い笑みを浮かべた。


「……分かった。君の判断を信じよう。ならば、こちらも全力で支援させてもらう。王家の宝物庫にある最高の装備と、十分な資金を用意させよう。ガリアの地ではただの紙切れかもしれんが、万が一の時のために、王家の紋章が入った身分証もな」


「感謝いたします、殿下」


その日からの約一週間、俺たちの屋敷は、さながら戦を前にした砦のように、活気に満ちていた。

王太子となったゼノンは約束通り、俺たちの活動を全面的に支援してくれた。


王家の宝物庫からは、ミスリル銀で編まれた鎖帷子や、魔力を通しやすい特殊な金属でできた武具など、最高級の野営道具の数々が届けられた。食料については、王家からの提供もあったが、俺たちがシエルで開発した栄養価も味も遥かに優れた特製のレーションを準備した。


クゼルファは、届けられた王家伝来の美しい装飾が施された剣を一瞥すると、興味深そうに手に取ってはみたものの、すぐにそれを置き、自らの背丈ほどもある、使い慣れた愛剣を手に取って手入れを始めた。彼女にとって最高の武器とは、その価値や希少性ではなく、自らの血と汗が染み込んだこの一振りをおいて他にないのだ。


セツナは、王都の闇に潜り、ガリアに関するあらゆる噂や情報を収集し、夜な夜な俺とその情報を共有する。


セレスティアは、これまでの聖女としての立場から一歩踏み出し、リリアンナの指導の元、薬草の知識や、簡易的な治癒魔法の実践訓練に励んでいた。 リリアンナもまた、宮廷魔術師たちを総動員し、ガリアに関するあらゆる文献を収集し、俺たちに知識を授けてくれた。


そして、出発の日の朝。俺たちは、屋敷の門の前で、リリアンナと最後の打ち合わせを行っていた。


「……残念ですが、私は王都を離れるわけにはいきません。古代文献の解読と、国王陛下への報告が、私の仕事ですからね」


彼女は、そう言うと、悪戯っぽく微笑んだ。


「ですが、私の知識は、いつでもあなたたちと共にあります。……健闘を、祈りますよ。若き探究者たち」


「ああ。あなたも、無理はしないでください」


俺たちは、互いに固い握手を交わした。


朝日が、王都の街並みを黄金色に染め上げる。俺たち四人は、それぞれの愛馬に跨り、一度だけ、屋敷を振り返った。そして、迷いなく、西門へと馬首を巡らせた。


最初の目的地は、ヴェリディア辺境伯領。俺は、馬上で、遥か北の空を見上げた。


かつて俺が見上げていた星空は、ただの探求の対象でしかなかった。だが、今は違う。この星で出会った仲間たちの笑顔が、無数の星々の輝きよりも、俺にとっては遥かに尊い。彼らの未来を守る。その、あまりにも単純で、しかし絶対的な目的が、俺を未知なる旅へと突き動かしていた。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

これにて第10章、完結となります。

幕間を挟み、第11章へと物語は続きます。

引き続き、お楽しみいただければ幸いです。


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