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第191話:賢者の知恵、禁書の在処

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

激しい光の渦から、俺の意識はゆっくりと現実世界へと引き戻された。最後に感じたのは、セレスティアの、力強い決意の光。そして、俺の精神を情報の奔流から守り、現実へと送り返してくれたガーディアンの、巨大で、しかしどこか温かい意志だった。


「……はっ……!」


俺は、隠れ家の地下室の床の上で、大きく息を吸い込んだ。全身を、経験したことのないほどの疲労感が包み込んでいる。まるで、数日間眠らずに、複雑な計算式を解き続けていたかのようだ。


「カガヤ様!」


俺の意識が覚醒したのを察知し、セツナとクゼルファが駆け寄ってくる。その表情には、隠しきれない安堵の色が浮かんでいた。


「……ああ。大丈夫だ。普段より頭を随分使った感じだけどな」


俺は、壁に手をつきながら、ゆっくりと立ち上がった。体調に問題はない。だが、ガーディアンとの接続は、俺の精神に想像以上の負荷をかけていたようだ。


「セレスティアは、動いてくれる。だが、彼女が王都に到着するまで、残された時間は多くない。俺たちも、動くぞ」


俺の言葉に、二人は力強く頷いた。



その数日後。天空都市ソラリスでは、聖女セレスティアが、王都へ向かうための旅支度を整えていた。彼女の神託は教会内に大きな波紋を呼び、原典派からの激しい反発を受けながらも、教皇は「神託の真偽を確かめる」という大義名分の下に、王都への調査団の派遣を決定した。


「セレスティアよ。……本当に、行くのだな?」


出発の朝、教皇は、父のような、慈愛に満ちた瞳で彼女に問いかけた。


「はい、聖下。これは、私が為すべき戦いです」


セレスティアの瞳には、もはや迷いはなかった。


「……よかろう。だが、決して無理はするな。お前の身は、お前一人のものではないのだからな」


教皇はそう言うと、静かに手を挙げた。その合図と共に、神殿の奥から、純白の鎧に身を包んだ十数名の騎士たちが姿を現す。彼らは、教皇直属の精鋭、聖殿騎士団の中でも、特に信仰篤く、探究派に近い者たちだった。


「彼らを、お前の護衛につける。表向きは、調査団の護衛だがな。……よいか、セレスティア。生きて、必ずここへ戻るのだぞ」


「はい、聖下。……必ず」


セレスティアは、深々と一礼すると、仲間たちが待つ王都へと、その一歩を踏み出した。



同じ頃、王都アウレリア。俺たちは、次なる一手として、王立大図書館の賢者、ハイエルフのリリアンナに助力を求めることを決めていた。王都の地下で起きている魔素の異常活性化。その謎を解く鍵は、この星の歴史を知り尽くした、彼女の知識の中にあるはずだ。


問題は、どうやって彼女と接触するか、だった。図書館も、当然、第一王子派の監視下にある。


「……私が案内しましょう」


作戦会議の席で、セツナが静かな決意を込めて言った。


「確か、王城と図書館を繋ぐ秘密の通路があっったはずです。そこを使えば、誰にも気づかれずに、彼女の書斎へとたどり着けます」


「危険はないのか?」


俺の問いに、彼女は、初めて、悪戯っぽく微笑んで見せた。


「カガヤ様。影にとって、闇の中は、光の中よりも安全な場所です」


その夜、俺とセツナは、再び王城の地下水路を通り、図書館の深奥へと潜入した。クゼルファには、万が一に備え、隠れ家の守りを頼んである。


リリアンナの書斎は、相変わらず、無数の書物と、古紙の匂いに満ちていた。ランプの灯りの下で、彼女は、俺たちの突然の来訪にも驚くことなく、静かに本から顔を上げた。そのエメラルド色の瞳は、全てを見通しているかのようだ。


「……やはり、来ましたか、カガヤ殿。あなたたちが、このまま黙っているはずがないと、信じていましたよ」


俺は、彼女に、ゼノン王子から聞いた王都の現状と、ソラリスで得た情報を、包み隠さず話した。惑星に迫る終焉の危機、そして、王都の地下で起きている、魔素の異常活性化について。


俺の話を聞き終えたリリアンナは、しばらくの間、その長い指でこめかみを揉んでいたが、やがて、その瞳に、研究者としての強い好奇心の光を宿した。


「……なるほど。話は、全て繋がりました。第一王子たちが探しているのは、あなたたちが以前発見した、あの地下遺跡ではないのかもしれません。王都の地下には、古文書にのみ記された、全く別の……もう一つの、隠された遺跡が存在する可能性があるのです」


「もう一つ、だと……?」


リリアンナは、書庫の奥から、一枚の巨大な羊皮紙を取り出してきた。それは、この世界の創世神話が、古代エルフの言葉で綴られた、極めて古い地脈図だった。


「この地脈図によれば、王都アウレリアの真下には、二つの巨大なエーテロンの源流が存在します。一つは、あなたたちが以前に発見した、第一文明期の遺跡。ですが、もう一つ……さらに深く、そして巨大なエネルギーの源が、この図には記されている」


彼女は、図の中心、王都を示す場所を、指でなぞった。


「そして、この古文書にはこうも記されています。『王都は、知の心臓なり。その脈動は、大地の血管を通じて、星の四肢へと至る』と」


「……どういう、意味だ?」


「王都の地下に眠る、その隠された遺跡こそが、大陸中に散ばばる全ての遺跡を繋ぐ、『情報の中枢ライブラリ』である、ということです。第一王子たちが探しているのは、おそらく、その中にある、禁断の情報……」


リリアンナは、別の、黒い装丁の古文書を、埃の中から取り出した。その表紙には、星の民が使っていたとされる、幾何学的な紋様が刻まれている。


「この古文書は、星の民が遺した、この世界の根源的な『理』に関する記述を集めたものです。その最終ページに、こうあります。『全ての事象を統べる鍵は、始まりの場所に眠る』と……。彼らが探しているのは、この『鍵』……すなわち、この惑星の気象、地殻、生命……その全てを司る世界の理そのものを書き換え、制御するための情報。……いわば、『禁書』とでも呼ぶべきものでしょう」


その言葉に、俺は、科学者としての魂が根源から揺さぶられるような感覚を覚えた。第一王子と、その背後にいる者たちの、真の目的。それは、単なる王位継承ではない。この星の物理法則そのものを手中に収め、神にでもなろうというのか。


「……リリアンナ。その『禁書』の在処は、分かるか?」


俺の問いに、彼女は、静かに首を横に振った。


「いいえ。ですが、それを手に入れるためには、鍵が必要だと、この古文書には記されています。古代エルフの血脈にある者の思念……」


彼女は、俺の目を真っ直ぐに見つめた。


「……聖女の、祈りです」

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

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