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第187話:王都からの凶報

お読みいただき、ありがとうございます

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

仲間たちとの誓いを交わした翌日から、「交易商会ミライ」は新たな目的に向かって、力強くその歯車を回し始めた。俺たちの当面の目標は二つ。一つは、来るべき遺跡探査の旅に備え、この商会を盤石の兵站拠点へと育て上げること。そしてもう一つが、最初の目的地を定めるための、徹底的な情報収集だ。


会議室の巨大な立体地図の前で、俺たちは連日、作戦会議を重ねた。


「アイ、ガーディアンから得た情報を基に、大陸各地の遺跡候補地の、地質データとエーテロン(魔素)のパターンを再分析しろ。特に、アルカディア号の修復に繋がりそうな、特異なエネルギー反応を持つ場所をリストアップするんだ」


《了解しました、マスター。大陸全土の広域スキャンデータを再構築し、優先順位付けを行います》


「クゼルファは、冒険者ギルドの情報網を使い、各地の遺跡に関する伝承や噂話を集めてくれ。どんな些細な情報でもいい。子供の与太話にこそ、真実が隠されている場合もある」


「承知いたしました。ヴェリディアのギルドにも、旧知の伝手を頼ってみましょう」


「セツナは、商会が持つ裏の情報網を駆-駆使して、邪神教、特に『岩の紋章』の動向を探れ。奴らもまた、遺跡を狙っているはずだ。奴らの動きを追えば、遺跡の場所にたどり-

けるかもしれん」


「御意に」


仲間たちは、それぞれの役割を完璧に理解し、シエルという情報の坩堝の中を、縦横無尽に駆け巡った。工房は、単なる生産拠点から、この星の謎を解き明かすための、情報戦略司令部へとその姿を変えつつあった。


穏やかな、しかし確かな手応えのある日々。このまま、着実に準備を進め、いずれ始まる壮大な旅へと船出できる。俺も、仲間たちも、誰もがそう信じていた。


その、あまりにも脆い希望が打ち砕かれたのは、それから一週間後の、よく晴れた日の午後だった。


鉄血傭兵団のジン団長が、珍しく険しい表情で、工房を訪れた。その手には、王家の紋章が押された、一通の羊皮紙の書簡が握られている。


「カガヤ殿。王都の、第二王子ゼノン殿下からの、緊急の報せだ」


その言葉に、執務室の空気が一瞬で張り詰める。俺は、ジンから書簡を受け取ると、静かにその封を切った。セツナとクゼルファも、固唾を飲んで俺の手元を見つめている。


羊皮紙に綴られていたのは、俺たちの想像を遥かに超える、王都の激変を告げる、あまりにも衝撃的な内容だった。


「……なんだ、これは……」


書簡を読み終えた俺の口から、乾いた声が漏れた。


ゼノン王子からの手紙によれば、王都アウレリアで、事実上のクーデターが発生したという。病床にある国王イファルム三世の容態が急激に悪化し、意識不明の重体に陥った。その機に乗じる形で、第一王子ライオスが、教会原典派の全面的な支持を取り付け、摂政として王国の全権を掌握したのだ。


『兄上は、父上の病状悪化を好機と捉え、我ら改革派の排斥に乗り出した。彼らは、私が異端者の嫌疑が掛けられた君を庇護し、教会の秩序を乱したとして、私から王位継承権を剥奪し、反逆者として断罪しようと画策している』


手紙を持つ俺の手が、怒りに微かに震えた。


『さらに、彼らの矛先は、ソラリスにいる聖女セレスティア様にも向けられている。彼女が君と繋がり、異端の思想に染まったとして、聖女の座から引きずり下ろし、教会内の修道院に幽閉しようとする動きが活発化している。教皇聖下も、原典派の強硬な圧力の前に、身動きが取れない状況だ』


「そんな……!セレスティア様が……!」


クゼルファが、悲痛な声を上げる。だが、凶報は、それだけでは終わらなかった。


『そして、最も不可解なのが、この王都で観測されている、魔力の異常な乱れだ。数日前から、王城の地下を中心に、これまで観測されたことのない、極めて不安定で強力なエネルギーの波が、間欠泉のように噴き出している。まるで、地下で何かが目覚めようとしているかのように……』


俺は、その一文を読んだ瞬間、背筋を氷のような悪寒が走り抜けた。


「アイ!王都の地下遺跡、あの『情報の中枢』の、現在のエネルギー状態を、スティンガーを通じて再スキャンしろ!急げ!」


《了解!……マスター、これは……!》


アイの声が、珍しく、明確な驚愕に揺らいでいた。


《王都地下遺跡のエーテロン反応が、異常活性化しています。通常時の三百倍以上のエネルギーが、炉心から放出されている模様。これは、外部からの強制的なエネルギー注入がなければ、説明のつかない現象です!》


「第一王子たちが、何かしたのか……!」


「ですが、カガヤ様」


セツナが、冷静に、しかし厳しい表情で口を挟む。


「彼らに、あの遺跡を再起動させるほどの知識や技術があるとは思えません。王都の一件以来、遺跡への道は、第二王子殿下によって固く封鎖されているはずです」


「そうだ。奴らだけでは不可能だ。だが、もし、奴らの背後に、古代の『理』を知る、別の何かがいるとしたら……?」


俺の脳裏に、断片的な情報が繋がり、一つの恐るべき仮説が形作られていく。第一王子の権力欲、教会原典派の狂信、そして、古代遺跡の異常活性化。これら全てを操る、見えざる「第四の勢力」。


「……まさか、『岩の紋章』か……?」


俺の呟きに、セツナとクゼルファが息を呑む。


「奴らなら、あり得る。第一王子の『秩序を守りたい』という純粋な願いを利用し、遺跡の力を暴走させ、王都に混乱を引き起こす。そして、その混乱の責任を全てゼノン王子と俺に押し付け、自らは『王国を救う守護者』として、漁夫の利を得る……」


それは、科学ミステリーの謎解きのように、全てのピースが、完璧に一つの絵図へと収束していく感覚だった。


「このままでは、王都が危ない。ゼノン王子も、そして、いずれ王都へ戻るであろうセレスティアも……」


俺は、テーブルの上に広げられた大陸地図を睨みつけた。点在する、赤い光点。俺たちが目指すべきだった、希望の道標。だが、その全てが、今は色褪せて見えた。


「目的地を変更する」


俺は、静かに、しかし、揺るぎない決意を込めて、宣言した。


「最初の目的地は、遺跡じゃない。仲間が待つ、王都アウレリアだ」


予定よりも、遥かに早い船出。それは、希望に満ちた探究の旅ではなく、友を救い、巨大な陰謀に立ち向かうための、過酷な戦いの始まりだった。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

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