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第185話:星々の真実、仲間たちの誓い

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

翌朝、「交易商会ミライ」の工房は、昨夜の祝宴の熱気が嘘だったかのように、いつも通りの勤勉な活気に満ちていた。二日酔いをものともせず、ギド率いる忘れられた民たちは製造ラインを動かし、レオは少し眠そうな目をこすりながらも、孤児たちに配達の指示を飛ばしている。その光景を眺めながら、俺は改めて、この場所に根付いた日常の尊さを噛み締めていた。本当に、帰ってきたんだな、と。


一日中、俺は工房の運営に関する報告を受け、クゼルファに新しい設備を案内し、仲間たちとの再会を祝う穏やかな時間を過ごした。だが、俺の心の奥底には、昨夜先延ばしにした、重い決意が静かに鎮座していた。


夜になり、工房の仕事が終わりを告げ、仲間たちがそれぞれの私室で寛ぎ始めた頃。俺は、主要メンバーであるセツナ、クゼルファ、リコ、レオ、そしてギドを、改装されたばかりの会議室に集めた。昼間の喧騒とは打って変わって、部屋にはランプの灯りが静かに揺らめき、緊張した空気が漂っている。


俺が口を開くまで、誰も言葉を発しなかった。皆、俺がこれから語ることが、昨夜の祝宴の続きなどではない、もっと重要で、そしておそらくは厳しい話であることを、直感的に理解しているのだ。


俺は、テーブルを囲む仲間たちの顔を一人一人、ゆっくりと見回した。そして、静かに語り始めた。


「今日は、みんなに話しておかなければならないことがある。俺が、ソラリスで何を見て、何を知ったのか。そして……俺が、一体何者なのかについて」


その言葉に、部屋の空気がさらに張り詰める。


俺は、全てを話した。


神殿都市ソラリスが、古代の超技術によって維持される天空都市であること。二十年に一度の「星迎えの儀」が、実はこの惑星全体の環境を管理する超巨大AI『マザー』を再起動させるための、メンテナンス・プロトコルに過ぎなかったこと。そして、その『マザー』が、長年の沈黙を破って俺たちに告げた、恐るべき警告を。


「……『マザー』は、俺たちに一つのビジョンを見せた。この惑星イニチュムが、原因不明の『不協和音』によって、ゆっくりと、しかし確実に、その生命力を失い、「終焉」に向かっているという未来を」


「終焉」という言葉の重みが、部屋にいる全員の肩にのしかかる。リコとレオは、子供らしい顔から血の気を失い、ただ呆然と俺を見つめている。ギドは、その屈強な腕を組み、厳しい表情で眉間に深い皺を刻んだ。


「そして、その危機を回避する唯一の方法は、大陸中に散らばる『星の民』の遺跡を巡り、失われた古代の力を呼び覚ますことだ、と。『マザー』はそう告げた」


そこまで話した俺は、一度、言葉を切った。そして、この告白で最も重い、最後の真実を、仲間たちに告げた。


「俺が、なぜその『マザー』と対話できたのか。なぜ、この世界の誰も知らない『理術』を使えるのか。……その理由を、今、話す時が来たんだと思う」


俺は、椅子から立ち上がると、仲間たちの前に立った。


「俺は、この世界の人間じゃない。遥か遠い、君たちが夜空に見上げる星々の、そのさらに向こうにある、別の世界から来た……異邦人なんだ」


長い、長い沈黙が、部屋を支配した。ランプの炎が、ぱちり、と小さな音を立てた。誰もが、俺のあまりにも壮大な告白に、言葉を失い、思考が停止しているかのようだった。


最初にその沈黙を破ったのは、クゼルファだった。


「……やはり、そうでしたか」


彼女は驚いてはいなかった。むしろ、ずっと抱いていたパズルの、最後のピースがはまったかのような、深い納得の色を帯びていた。


「ヴェリディアでお会いした時から、ずっと感じておりました。あなたは、私たちとは違う(ことわり)の元に生きておられる、と。ですが、それがどうしたというのですか?」


彼女は、俺の目を真っ直ぐに見つめ返した。


「あなたがどこから来たのであれ、あなたが、私の命を救ってくださった恩人であることに、変わりはありません。そして、あなたがこの世界を救うために戦おうとしておられるのなら、私もまた、あなたの剣として、その隣で戦うまでです」


その、あまりにも力強く、揺るぎない言葉が、他の仲間たちの心にも火をつけた。


「そうだぜ! カガヤが他の世界の人間だろうが何だろうが、関係ねえよ!」


リコが、勝ち気な笑みを浮かべて叫んだ。


「あたしたちを、この地獄みたいなスラムから救ってくれたのは、他の誰でもない、カガヤなんだからさ!あたしたちにとっては、カガヤこそが、この世界で一番頼りになる『仲間』だよ!」


「カガヤ様。我ら忘れられた民は、あなたの理に、我ら一族の未来を託すと決めました。その誓いに、偽りはありません。あなたが星の民であろうと、我らの主あることに、変わりはありません」


ギドもまた、その屈強な体を折り曲げ、深く頭を下げた。


そして、最後にセツナが、静かに口を開いた。


「カガヤ様。あなたがどこから来たのか、など、私にとっては些細な問題です」


彼女は、立ち上がると、俺の前に立った。その涼やかな瞳には、絶対的な信頼と、そして、これまで見せたことのないほどの、温かい光が宿っていた。


「重要なのは、あなたが今、ここにいるということ。そして、私たちと共に、未来を創ろうとしてくださっているということ。……それだけで、十分です。私たちは、あなたの剣であり、盾であり、そして、あなたの『家族』です。どこまでも、お供いたします」


仲間たちの、温かく、そして力強い言葉に、俺は、ただ、胸が熱くなるのを感じていた。孤独だったはずの俺の周りには、いつの間にか、これほどまでに信頼できる仲間たちが集まっていた。


「……ありがとう、みんな」


俺がようやく絞り出したその声は、少しだけ、震えていたかもしれない。


こうして、俺たちは、再び一つの家族として、この星の運命という、あまりにも巨大な敵に立ち向かう決意を、新たにした。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

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