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転生悪役令嬢、スキル『真実の眼』で婚約者の浮気を完全論破!

作者: 紅月リリカ

今日も転生チートものにしてしまいました。今回は前世由来ではなく、転生時に付与されたスキルという設定です。嘘つきたちが真っ青になって慌てふためく様子を、どうぞお楽しみください。

「エリザベス、君はいつもリリアンをいじめている。そんな性格の悪い女性とは結婚できない」


王立学園の中庭に響く、レオン王子の冷たい声。陽光が差し込む美しい庭園で、貴族の子弟たちが息を呑んで見守る中、エリザベス・ノーフォーク公爵令嬢は静かに立っていた。


金色の髪を風になびかせ、深い青い瞳で王子を見つめる彼女の表情は、意外にも動揺していない。むしろ、どこか諦めにも似た静けさを湛えていた。


「やはり悪役令嬢の本性が出ましたね」

「王子殿下がお気の毒です」

「あの方はいつもリリアンさんに意地悪を…」


周囲から飛び交う非難の声。そして王子の隣で涙を流す、栗色の髪の少女——リリアン・ホワイト。平民出身でありながら、その優しい心で多くの人に愛される、まさに乙女ゲームのヒロインそのものの少女だった。


『またこのパターンか』


エリザベスは内心で苦笑する。これで何度目だろう。リリアンが何かトラブルに巻き込まれるたび、なぜか彼女が犯人扱いされる。証拠もないのに、ただ「悪役令嬢だから」という理由だけで。


「エリザベス様、何か言い訳はありますか?」


王子の問いかけに、エリザベスは小さくため息をついた。どうせ何を言っても無駄だと分かっている。この世界の人々にとって、彼女は最初から「悪役」なのだから。


そう、この世界は——彼女が前世でプレイしていた乙女ゲーム『恋する王子様』の世界だったのだから。


* * *


『なぜ私がこんな目に…』


エリザベスの心の中で、記憶が蘇る。


前世の彼女は、平凡な会社員だった。残業続きの毎日に疲れ果て、唯一の癒しが乙女ゲームだった。『恋する王子様』は特にお気に入りで、何度もプレイした作品だ。


そのゲームの悪役令嬢・エリザベス・ノーフォークに転生したと気づいたのは、5歳の誕生日のことだった。


『絶対に悪役令嬢の運命は避けよう』


そう決意した彼女は、この3年間、必死に努力してきた。勉強に励み、使用人に優しく接し、慈善活動にも参加した。リリアンとも友好的に接しようと何度も試みた。


しかし、結果は惨憺たるものだった。


どれだけ善行を積んでも、なぜか周囲の人々は彼女を「演技をしている」「腹黒い」と評価する。そして何より理不尽だったのは、リリアン自身の態度だった。


表向きは清楚で優しいリリアンだが、人目のないところでは全く違う顔を見せる。エリザベスに対する嫌がらせ、陰湿な罠の数々。そして巧妙に仕組まれた濡れ衣の連続。


『なぜ誰も気づかないの?』


エリザベスの心の叫びは、しかし誰にも届かなかった。この世界の人々にとって、リリアンは「善」であり、エリザベスは「悪」。その前提は絶対に覆らないかのようだった。


転機が訪れたのは、15歳の誕生日だった。


突然、世界の見え方が変わった。人々の表情の奥に隠された感情が見え、言葉の裏にある本音が聞こえ、過去の出来事の痕跡までもが目に映るようになった。


『真実の眼』——エリザベスが名付けたその能力は、この世界の全ての嘘を暴く力だった。


そしてその力で見えた真実は、あまりにも残酷だった。


リリアンと王子レオンの密会。二人が交わす、エリザベスを陥れるための相談。王子がリリアンに渡した、本来なら婚約者であるエリザベスに贈るべきだった母后の形見のブローチ。


『真実の眼』は全てを映し出していた。自分がどれほど理不尽な扱いを受けてきたかを、そしてこの断罪すらも仕組まれた芝居だったことを。


『もういい』


エリザベスの心に、静かな決意が宿る。これ以上、この茶番に付き合う必要はない。真実を隠し通すことも、もうやめよう。


「王子殿下」


エリザベスの声に、周囲がざわめきを静めた。


「では、真実をお聞かせください」


その瞬間、エリザベスの瞳が金色に輝いた。


* * *


「っ!?」


レオン王子が息を呑む。エリザベスの瞳から放たれる金色の光に、周囲の人々も驚愕の声を上げた。


「まず、リリアン・ホワイトさん」


エリザベスの視線がリリアンに向けられる。その瞳には、もはや迷いはなかった。


「あなたは平民出身ではありませんね。本名はリリアン・グレイ。5年前に爵位を剥奪されたグレイ男爵家の末娘です」


「そ、そんな…!」


リリアンの顔が青ざめる。しかし、エリザベスは容赦なく続けた。


「偽の身分証明書は、商人のマーカス・ブラウンから5000ゴールドで購入。証人として買収されたのは、下町の酒場の店主ジョンと、洗濯屋のメアリー。証拠の書類は、あなたの寮の部屋のベッドの下、床板の隙間に隠されています」


「ば、馬鹿な…! そんなこと知るはずが…!」


リリアンの演技が崩れ始める。しかし、エリザベスの『真実の眼』は更なる真実を映し出していた。


「そして王子殿下」


今度はレオンに向き直る。王子の顔には明らかな動揺が浮かんでいた。


「3日前の夜、東の離れでリリアンさんと密会されましたね。時刻は夜の10時から12時まで。その際、母后様の形見である青いサファイアのブローチを彼女に渡された」


「何を根拠に…!」


「根拠ですか? では、王子殿下の上着の左袖に付着している、リリアンさんの部屋特有のラベンダーとローズの香水の匂いはいかがでしょう? そのブレンドは特注品で、王都でも彼女しか使用していません」


レオンが慌てて自分の袖を確認する。確かに、かすかに香水の匂いが残っていた。


「さらに申し上げますと」


エリザベスの声が、氷のように冷たくなる。


「2週間前、お二人は私を陥れるための計画を立てていらっしゃいましたね。『エリザベスを完全に社交界から追放するため、決定的な証拠を捏造する』と。そのための今日の断罪劇です」


「嘘だ! 証拠があるのか!」


レオンが叫ぶが、エリザベスは淡々と続ける。


「証拠でしたら、リリアンさんの部屋の机の引き出しの奥に隠された手紙を確認されてはいかがでしょう。あなたの直筆で『計画通り進めよう。エリザベスが完全に孤立したら、正式に婚約破棄を発表する』と書かれた手紙が」


周囲が完全に静まり返る。貴族たちは、この異常な状況に言葉を失っていた。


「そして」


エリザベスの瞳が、さらに強く輝く。


「リリアンさん、あなたは今『この女、どうして全て知っているの?』と心の中で舌打ちしていますね。表面では泣いているふりをしながら」


「ひっ!」


リリアンが本格的に青ざめる。まさに、エリザベスの指摘通りの感情を抱いていたからだ。


「私の能力は『真実の眼』。全ての嘘、隠された真実、過去の行動の痕跡を見通す力です。そして今、王室魔術師の方々がこちらに向かっていらっしゃいます。私の能力を正式に鑑定するために」


実際に、遠くから王室の紋章を付けた馬車が近づいてくるのが見えた。まるで全てを予見していたかのようなタイミングだった。


「さあ、王子殿下、リリアンさん。まだ『根拠がない』とおっしゃいますか?」


* * *


30分後、王立学園の校長室は騒然としていた。


王室魔術師による正式な鑑定の結果、エリザベスの『真実の眼』は本物だと証明された。そして彼女が指摘した証拠品の数々も、全て発見されたのだ。


リリアンの部屋からは偽の身分証明書と王子直筆の密謀の手紙が、王子の私室からは母后の形見のブローチが見つかった。買収された証人たちも、王室近衛騎士の尋問で全てを白状した。


「リリアン・グレイ、身分詐称と陰謀の罪により、王立学園からの追放および実家の残存財産没収を言い渡す」


国王の勅令が読み上げられる。


「レオン・アストリア王子、婚約者への背信行為および陰謀への加担により、王位継承権の一時停止を言い渡す」


レオンが崩れ落ちる。リリアンは既に泣き崩れ、もはや演技すらできない状態だった。


「そして、エリザベス・ノーフォーク公爵令嬢」


国王の声が、今度は穏やかになる。


「長い間の不当な扱いを、王室として正式に謝罪いたします。そして、真実を見抜く貴重な能力をお持ちの貴女に、王室顧問官の地位を提示いたします」


周囲の貴族たちが、慌てて頭を下げ始める。これまでエリザベスを非難していた人々が、今度は平伏して謝罪を口にする。


『結果的には勝ったけれど…』


エリザベスは複雑な気持ちでその光景を眺めていた。確かにざまあみろと言いたい気持ちもあったが、それ以上に疲れを感じていた。


『もうこんな場所にはいたくない』


そう思った時、扉がノックされた。


「失礼いたします。隣国ヴァレリア王国の第二王子、アレクサンダー・ヴァレリアです」


入ってきたのは、深い緑色の髪と優しい灰色の瞳を持つ青年だった。彼はまっすぐにエリザベスの前に歩み寄る。


「エリザベス・ノーフォーク公爵令嬢。貴女の『真実の眼』の能力について、事前に報告を受けておりました」


「事前に?」


「ええ。実は1週間前から、外交使節として滞在していたのです。そして貴女が受けている不当な扱いも、全て知っています」


アレクサンダーの表情に、嘘はなかった。『真実の眼』がそれを保証している。


「もしよろしければ、我が国で新たな人生を始めませんか? 貴女の瞳に映る真実を、私は恐れません」


その言葉に込められた真摯な想いを、エリザベスは確かに感じ取った。この人は本当に、自分自身を見てくれている。


「…はい」


エリザベスは初めて、心からの笑顔を浮かべた。


* * *


3か月後、ヴァレリア王国の湖畔にある美しい別荘で、エリザベスは穏やかな日々を過ごしていた。


王室顧問官として、『真実の眼』を使った不正の摘発や外交問題の解決に携わる充実した毎日。そして何より、アレクサンダーとの純粋な恋愛関係。


政治的な思惑もなく、打算もなく、ただ彼女自身を愛してくれる人を得た喜びは、何物にも代えがたかった。


「エリザベス、夕日が綺麗ですね」


湖を見つめるアレクサンダーの隣で、エリザベスは静かに微笑む。


「ええ、とても」


彼女の『真実の眼』には、アレクサンダーの純粋な愛情がはっきりと映っていた。嘘偽りのない、真実の愛が。


『もう悪役令嬢じゃない。誰かに陥れられることもない』


風に髪をなびかせながら、エリザベスは心の中でそっと呟く。


そして夕日に照らされた湖面を見つめながら、彼女は静かに言葉を紡いだ。


「嘘で塗り固められた世界にさよならを。今度は真実だけで築いた愛で、本当の物語を始めましょう」


その言葉は、風に乗って湖の向こうへと運ばれていく。もう二度と、偽りの世界に戻ることはない。


エリザベス・ノーフォークの新しい人生が、今、始まったのだった。


-----


*エピローグ*


半年後、レオン王子は王位継承権を正式に剥奪され、辺境の小さな領地で不遇の日々を送っていた。リリアンは行方をくらまし、今も消息不明である。


一方、エリザベスとアレクサンダーの婚約が正式に発表され、両国の友好の象徴として盛大に祝福された。


『真実の眼』を持つ未来の王妃として、エリザベスは多くの人々から敬愛を集めている。もう誰も彼女を「悪役令嬢」とは呼ばない。


真実を見抜く瞳を持つ、正義と愛の守護者として。

最後までお読みいただきありがとうございました。誰にも理解されない辛さから、ついに真実を暴く瞬間まで、彼女の心の動きを大切に描けたでしょうか。書き終わらなくてエピローグ付けてしまいました。感想などいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
リリアンに形見のブローチを渡したはずなのに、王子の私室から形見のブローチが発見されている。 王子の私室から発見されたなら罪の証しにはならなくなります。王子の所有物が私室にあるのは当たり前。 エリザベス…
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