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第五話:蛮族の黒い波

第五話:蛮族の黒い波


「ウォーグ!!」


突然、地を揺るがすような咆哮が、南方の森の奥から響き渡った。それは、単なる獣の叫びではなかった。血と破壊への、純粋な渇望に満ちた、おぞましい響きだった。私は剣を持つ手を止め、父やトーマスと共に南方を振り向いた。次の瞬間、森の端から黒い波がなだれ込んできた。


オーク、ゴブリン、ホブゴブリン、そして背にウォーグを乗せた騎兵たち。彼らの全身は古傷と泥、そして粗末ながらも血生臭い装甲に覆われている。目は血走り、狂気と破壊の光が宿っていた。血牙部族連合。辺境の深部に追いやられていた蛮族たちが、突如として牙を剥いたのだ。その数は、私たち辺境の領民が想像もできなかったほど、膨大だった。


村中が叫声と悲鳴に包まれた。けたたましい防衛の鐘が鳴り響く。父の号令で、わずかばかりの兵士や私兵、そして勇気を振り絞った志願した領民が慌ただしく武器を取る。グリムは鍛冶場から飛び出し、重い戦鎚を構えた。セレスティアルは領主館の庭で、慌ただしく簡易な防御魔法陣を地面に描き始めた。しかし、敵の数は圧倒的だった。丘の向こうからも、谷間からも、次々と血牙の戦士たちが現れる。それはまるで、大地そのものが裂け、悪夢が湧き出したかのようだった。オークの唸り声、ゴブリンの甲高い奇声、ウォーグの低いうなり声、そして無機質なホブゴブリンの号令。あらゆるおぞましい音が混ざり合い、耳をつんざいた。空気は一瞬で血と恐怖の匂いに変わった。


炎が上がった。ゴブリンたちが油の入った瓶を投げつけ、火矢を放つ。乾燥した茅葺きの家屋は瞬時に燃え上がった。立ち上る黒煙が、青い空を不気味に染める。逃げ惑う民衆。剣を抜き、応戦しようとする兵士たちは、オークの怪力やウォーグの素早い動きに翻弄される。彼らは規律も戦術もなく、ただ数を頼みに暴力の限りを尽くした。略奪、破壊、そして殺戮。聖シルヴァーノス帝国の残滓である辺境の平穏は、たった数分で血と炎に塗り替えられていった。子供たちの悲鳴が、耳から離れない。


戦場の中心には、ひときわ巨大な影があった。赤銅色の肌、湾曲した角、そして灼熱のような赤い瞳。オーク・ウォーチーフ、シヴァ・ブレイズホーン。奴は巨大な戦斧を肩に担ぎ、ゆっくりと進んでくる。彼の巨大な戦斧が振り下ろされるたび、人間は鎧ごと両断されるか、地面に叩きつけられて骨を砕かれた。彼の周囲に集まるオークたちは、まるで邪悪なオーラに包まれたかのように狂暴さを増している。足元にはシャドウのような影がまとわりつき、恐怖を増幅させているかのようだ。「人間どもめ、貴様らの脆い秩序など、この血牙が食い破ってくれるわ!」シヴァの咆哮が響き渡る。奴らの目的は略奪だけではない。人間文明の破壊そのものを愉しんでいるかのように見えた。シャーマンたちが戦場の端で不気味な呪文を詠唱し、暗黒のエネルギーが渦巻くのを見た。彼らは骨や血を撒き散らし、歪んだ歌を歌っていた。邪神への祈りか。その力は、味方の傷を癒すどころか、敵の力を歪め、恐怖を撒き散らし、倒れた者の魂を弄んでいた。空からは、不自然に黒ずんだ雨が降り始めた。それは、この地に邪悪な力が満ち始めた印だと直感した。


私は、父や他の者たちと共に、迫りくる敵に立ち向かっていた。家庭に伝わる古い短剣を握り締め、必死に剣を振るう。短剣はオークやゴブリンに触れると、かすかに聖なる光を放ち、奴らの動きを鈍らせるように感じた。それは確かに、私の血に流れるかすかな力と呼応しているようだった。しかし、どれだけ倒しても、次の瞬間にはさらに多くの敵が押し寄せてくる。絶望が、燃え盛る炎と血の臭いと共に、私たちの喉元を締めつけた。これは防衛ではない。一方的な、非情な蹂躙だった。

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