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第1章 断罪と追放 第1話 -最後の晩餐-

「クリスタベル・ノートンハイム、貴女は帝都アカデミアにて皇太子殿下に危害を加えようとした罪、および禁忌の黒魔術を使用した罪により、帝国最北端の孤島ヴァレンティア島への追放を言い渡す」


荘厳な大理石の玉座から、老皇帝アウグストゥスの冷たい声が響き渡った。

広間に集まった貴族たちからはどよめきが起こり、中には密かに喜色を浮かべる者もいる。この場にいる誰もが、クリスタベル・ノートンハイムという名前をよく知っていた。帝国随一の名門・ノートンハイム公爵家の一人娘。美しく、聡明で、強力な魔力を持ち、ただ一つ問題があるとすれば、それは傲慢すぎる性格だった。

「—しかし、それは違う!」

深紅のドレスに身を包んだクリスタベルは、白い肌に浮かぶ瑠璃色の瞳を怒りに燃やしながら叫んだ。彼女の長い銀髪が魔力を帯びて宙に舞い上がる。

「私が黒魔術を使ったなど、とんでもない濡れ衣です!皇太子に危害を加えようとしたなど、そのような気は毛頭—」

「黙りなさい、クリスタベル」

彼女の言葉を遮ったのは、彼女の父である当主のミカエル公爵だった。その声には怒りよりも深い失望が滲んでいた。彼の顔には一片の同情も見られなかった。

「お前の部屋から発見された禁書と黒魔術の道具、そして皇太子の寝室に仕掛けられていた呪いの人形。すべての証拠がお前を指している。我がノートンハイム家は、お前の行いに対して罰を受け入れる」

「父上…」

クリスタベルの声が震えた。最後の望みが消えていくのを感じた。

「お願いです、私の言うことを—」


「もう十分だ」

父は冷たく言い放った。

「おまえはもはや我が家の娘ではない」

クリスタベルは凍りついた。この言葉は家名剥奪を意味した。ノートンハイム家から追放され、かつての地位も名誉もすべて失うということだ。

皇太子テオドアは、クリスタベルをじっと見つめていたが、彼の翠の瞳には感情が読み取れなかった。彼は皇帝の右隣に座り、沈黙を保っていた。二年前、クリスタベルは皇太子のフィアンセ候補として紹介されたが、彼は別の令嬢を選んだ。それはアイリス・エスティン。帝国アカデミアで彼女と共に学んだ、金髪の温厚な美少女だ。

「愛しのクリスタベル」

その甘い声に広間の空気が凍りついた。アイリスが優雅に歩み出る。彼女のドレスはクリスタベルの深紅とは対照的な純白で、まるで天使のようだった。しかし、アイリスがクリスタベルに向けた笑みには、悪意が滲んでいた。

「どうしてそんなことをしたの?私たちは親友だったのに…」

その言葉に、クリスタベルは苦々しく笑った。

「親友?冗談はよしてよ、アイリス。あなたが私の部屋に禁書を隠したのも、皇太子の寝室に呪いの人形を仕掛けたのも、すべて知っているわ」


「まだそんな戯言を」

アイリスは悲しげに首を振った。

「みんな、見てください。罪を認めるどころか、まだ私を貶めようとしています」

「罪を着せられているのは私の方よ!」

クリスタベルは叫んだが、広間に集まった貴族たちの冷たい視線は変わらなかった。

皇帝は疲れた様子で手を振った。

「もう十分だ。明日の夜明けと共に、クリスタベル・ノートンハイムはヴァレンティア島へ向かう船に乗せられる。これ以上の議論は無用だ」

広間に満ちた空気が塩辛く冷たく感じられた。クリスタベルは膝から力が抜ける感覚を覚えつつも、最後の誇りを振り絞って顎を上げた。

「そうですね、皇帝陛下」

彼女は静かに言った。

「もう十分です。この帝国に未練はありません」

彼女の言葉に、広間に新たなどよめきが起こった。王族に対するそのような無礼な態度は、さらなる罰を招きかねなかった。しかしクリスタベルは、もはや何も失うものがなかった。

「連れて行きなさい」

皇帝は命じた。

二人の衛兵が彼女の両腕をつかみ、広間から引きずり出していく間も、クリスタベルはアイリスと皇太子を睨みつけていた。

「真実はいつか明らかになる」

彼女は言い放った。

「そして、その時あなたたちは後悔することになるわ」

扉が閉まる直前、彼女はアイリスの顔に浮かぶ勝ち誇った微笑みを見た。


監獄の一室で、クリスタベルは窓から見える満月を眺めていた。帝国アカデミアの塔も、父の豪華な屋敷も見えない。明日の夜明けには、彼女はすべてを失い、未知の孤島へと旅立つことになる。

「食事です」

看守が彼女の牢に小さなトレイを差し入れた。かつての令嬢の最後の晩餐は、固いパンと薄いスープだけだった。彼女は苦々しく笑った。二日前までは、王宮でのディナーパーティーに出席し、最高級の料理を口にしていたというのに。

彼女はトレイを手に取り、パンをちぎった。これが彼女の新しい人生の始まりだ。ヴァレンティア島とは、帝国最北端にある過酷な環境の島だと聞いている。そこへ送られた犯罪者や政治犯の多くは、一年と持たないという。

「私は違う」

彼女は固いパンを噛みながら誓った。

「私は生き残る。そして必ず戻ってきて、真実を明らかにする」

彼女の瑠璃色の瞳が月明かりに照らされ、決意の光を宿していた。

突然、牢の壁に違和感を覚えた。石の一部が微かに光り、そこから小さな紙片が現れた。魔法のメッセージだ。クリスタベルは素早く紙を手に取った。

「貴女の無実を信じています。船の甲板裏に隠れ家を用意しました。追放の途中で逃げるチャンスを。—L.M.」

「L.M.?」

クリスタベルは眉をひそめた。そのイニシャルに心当たりはなかった。しかし、今の彼女に味方はほとんどいない。このメッセージが罠でないとしたら、これが生き残るための唯一のチャンスかもしれない。

彼女はそっと紙を握りしめ、窓の外を見た。満月が雲に隠れていく・・・

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