『砦の三騎士』
『帝国雑文物語録』より引用す。
此はかのアルネット・シーシアが、帝国より西なるザラ王国へと旅する道すがら、道連れの仲間らに対し、アルネットが最初期より共にありしアサシン、心臓穿ちのヴェルが語りし小咄として伝えられしものの一つなり。
されば、この類の小咄が数多伝わりしことより察するに、心臓穿ちのヴェルは語り部としての才に恵まれ、彼女の知性は甚だ高かりしやと推察せられ、斯く主張する史家も存す。
されど、アルネット・シーシアは聖女として世に広く知られ、口碑に残りし人物なるが故に、斯の小咄もまた、その光輝ある旅路の一片として後世に伝えられしものなり。
『砦の三騎士』
ある国境近き砦に、互いに睦まじからぬ三人の騎士、防衛の任に就きありき。されどこの三人は一つの嗜みを共にせり。それは時に都より遣わされし新参の騎士を相手に、戯れを仕掛くることなり。彼らは新たに遣わされし騎士に対し、斯様な戯れを施して鬱憤を晴らし居たり。
赤い騎士:「ん?なんだ?この臭いは!」
青い騎士:「たしかに臭い!酷い臭いだ!」
緑の騎士:「これは屁だ!屁の臭いだ!」
三人:「お前が屁をしたな!!なんでこんな場所で屁をするんだ!?」
と、新参の騎士に斯様な言い掛かりを付けて楽しめり。
斯様な仕打ちを屡々受けし故に、四人目の新しき騎士が来たりしと雖も、砦に長く留まること、これまで無かりき。
ある時、国境の彼方より敵国、大軍を率いて来襲せり。三人の騎士は日頃相睦まじからざりしも、斯様な時には巧みに団結し、屡々敵を退け居たり。
されど今回は敵の数あまりに多かりしかば、都より新参の騎士、軍勢を率いて砦に援軍として来たるに至れり。
故に砦の三騎士は、常の戯れを此の新参の騎士に施さんとしたり。
櫓の上にて、四人の騎士、遠くに陣を布く敵の大軍を眺め居たる時なり。
常の如く三人の騎士は連携し、新参に戯れを仕掛けたり。
赤い騎士:「ん?なんだ?この臭いは!」
青い騎士:「たしかに臭い!酷い臭いだ!」
緑の騎士:「これは屁だ!屁の臭いだ!」
三人:「お前が屁をしたな!!なんでこんな場所で屁をするんだ!?」
と、三人の騎士は新参の騎士に詰め寄れり。
然るに新参の騎士、「我は屁を放ちたるにあらず!」と強く宣えり。
「ではこの臭いはなんだ!?」と、三人、調子に乗じて一層強く新参の騎士に詰め寄りしに、新参の騎士、堂々と言ひ放ちぬ。
「それは私が敵の大軍を見て非常に驚き、たった今、見事にうんこを漏らしたからです!」
終