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【みじめ】スキルで異世界生存中  作者: 岩流佐令
第二章 獣人奴隷解放
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71匹目 イヌ、崩落中⑤

「ベルさん……おれの能力知ってますか?」


「? ハジメさん?」


 ハジメはベルへと問うた。強烈な膝枕を仕掛け中だった彼女は、唐突に話し掛けられてキョトンと目を開ける。その太ももの拘束も弱まりつつ。


 ビードたちがしばらくこなさそうなのを確認。結構な下階まで墜落したことは、見える天井のおびただしい瓦礫や崩落した空洞からもわかった。


 その鉄鉱石がわずかに「ビリッ……」と電流を孕んでいる。


 おそらくハジメは落下する際、自らの微かな雷術を駆使して電磁石的な要領で、天井の鉄鉱石へと引っ付いたのだろう。それで、衝撃を少しだけ緩和できたので、命拾いをした。


 バンジージャンプとまではいかないけれど。磁石で自分の身体を無意識に吊って、地面等岩石の直撃は免れた感じだ。


 本当にサバイバルな男である。ベルが「いつ死ぬかわからない」と懸念したのも、頷けよう。


「おれのスキル……【みじめ】って言うんですよ。自分より弱い奴に弱いんです。はは、笑っちゃいますよね?

 だから、スライムにだって勝てない。一生勝てない。それどころか、レベルが上がるたびに、どんどん弱くなっていく……」


「……ハジメさん」


「さっき、幼女に負けたんです。小さな女の子です。この鎖骨だって、その子に噛み砕かれた。

 滑稽でしょう? 大の男が、武器も何も持ってないレベル6の小さな子どもに殺されかけるんですよ? しかも、本当アホみたいな理由です。呪われてるとしか思えない、馬鹿げた設定……」


「……」


 ベルは黙って男の独白を傾聴している。太ももロックは解かれた。ただの、普通の膝枕に回帰している。


「……こんなこと、ベルさんに話すべきではないのだろうけれど」


 しっかり自覚しているハジメ。ベルの膝枕を受けながら、その仰向けの顔を右腕で覆う。彼女に表情を見られまい、と。


 自分より一回りも小さい少女に、おのれの弱みをさらけ出すなんて。ポツリポツリと、愚痴のような弱音を吐くなんて。


「おれは、昔からそうだったんです。どんどん弱くなっていくんです。退行していくんです……」


 自嘲だ。

 それに、ベルを巻き込んでいる。

 なんとも身勝手な男なのだろう?


 しかし、一度溢れた言葉は止まらない。ずっと泣きたかったのを堪えていた。その、涙腺が崩壊して、とめどなく溢れ出るように。


 情けない。やるせない。

 余り。除く。徐行。

 自らの名前さえも、運命に束縛されるように。

 お誂え向きの、なんの意味もない人生。


「幼稚園とか低学年のうちは『神童』とか呼ばれてて、足も速くて勉強もできて、周りから尊敬されていたんです」


「……」


 頷きすらしないベル。相槌など、もちろんのこと。


「それがいつの間にか孤立して、高学年くらいから同級生にも避けられて。プライドが変だったんです、おれ。でも両親からは期待されてて」


「……」


「有名中学に入学しました。そこからは学習に追いつけなくて、堕落して、墜落して、終わりです。両親からも見限られた感じで。高校はFランですよ、どうにかしてね」


 ハジメはビードの長台詞が移ったのであろうか?


 ちょくちょくベルの沈黙で区切ってはいるが、しかしこれは長い。自分語りが過ぎる。男のよくある過去自慢だろう。今回は悲劇口調だが。


「だから、おれはみじめなんです。本当、お誂え向きのネーミングセンスですよ。弱い奴にすら勝てない。どんどん弱くなる。

 二十五歳独身、一端のヒキニート、社会の底辺、クズ、穀潰し、ヒモ野郎、ダメ人間、無能、おれは……むぐ!?」


「……」


 ハジメが噎せたのは他でもなく、ベルが彼の口内へとその繊手を突っ込んだからであり。


「!? 〜〜、〜〜〜〜!?」


「……」


 ネズ耳少女はほとんど拳を入れる勢いで、男ハジメの腐った唇を塞ぎ、黙らせた。


 そして本人も黙っている。表情の無い顔で、ただただ静かに口に手を突っ込んで静止している。


 ──それが怖い。


「……」


「……」


「……?」


「…………」


 繰り広げられるのは、無言のやり取り。屈んでハジメの目を見るだけの獣人少女。それを見上げ、動作の意味を、その意図を必死に瞳で問いかけるハジメ。


 思考は不足される酸素によって遮断される。


 口が塞がれてても鼻呼吸すればいいだろう? そういう意見もある。


 が、これは精神的な意味でも呼吸困難に陥る事態であり。


 急速な展開に、脳みそまで急速に加速しなければならないハジメの体機能は、しかし酸素の需要と供給のバランスが崩れ去って、半分意識が吹っ飛びかけている。


 沈黙させるには、しかし苛烈な一撃。


 ベル少女から放たれたのは、そんな泣く子も黙る必殺の鉄槌だった。


 その拳で口内を蹂躙されるハジメ。気絶カウンターは『7』に回ろうと、待ち遠しく準備をしている。


「ハジメさん……」


 と、ここでベル少女の一言。

 気絶しかけるハジメへと無造作に投げつけられる。


()()()()()()()()()()?」


「……!」


 くりっ、と可愛らしげに傾けられた細い首。連動し揺れ動く、流れるような銀髪。


 ほのかに漂う、ベル少女の花のような甘やかな匂い。こちらの鼻腔を容赦なく抉るように突いてくる。


「ぷはっ」


 ようやく離れたベルの鉄槌。解放されしハジメの口内。


 ベル少女オリジナル即席猿轡は、少女の拳の形をして、自虐プレイ敢行中のハジメへと襲いかかったわけだ。


 そして効能通り黙ったハジメ。もう何も言えなくなる。少し震えているのはどうして? 身体中の震えがおさまらない……。


 見る──優しい目つきのネズ耳少女。


 まるで、さっきまでの窒息しそうなやり取りさえ無かったかのように。


「ハジメさんはみじめなんかじゃないですよ?」


 再び、少女のふわりとした鈴のような音色の柔らかい音声。それは決して有無を言わせない太ももロックに挟まれている状況ではなく。


 ……ではない。と、思いたい。

 ちょっとこめかみが痛い気もするけど……。

 あと、今度は顎を押さえられている気がするけれど。


 そのさっきハジメの口腔内にぶっこんでいた拳で、付着した唾液ごと唇を上から蓋している気がするけれど。


 口が開かないように、顎含めロックしている気がするけれど。

 やっぱ、再び太ももで頭部をロックしている気がするけれど。


 発言権すら認めないような雰囲気を醸し出しているというか、むしろそのポーズ? 構図? まんまなのだけれど。


 ……気の所為?


「あたしはハジメさんの過去なんて知りません。それに共感できる人間的素地もありません。というかそのつもりもありません」


「……」


 ハジメは静かに傾聴している。というか、黙ることしかできない。まるで、それ以外の選択肢を与えられていないように。事実そのものなように。


「でも、あたしは今のハジメさんでいいと思います。どんな過去があろうと、その延長線上に今のハジメさんがあるのならば、その過去さえ確かに存在することを、あたしは望みます」


「……」


 どこかで聞いたことのあるような台詞。

 どこにでもあるような台詞。

 ……けれど。


「だって、あたしは、今のハジメさんのことが……」


「……!」


 ベルが屈む。元々小さい、子供みたいな体躯だ。成人男性の頭部一個分で、それを挟むだけで、太ももと胸が満員御礼になるような。


 ベルの手に付着したハジメの唾液はとっくに乾いている。新たに追加された、彼の呼吸の水蒸気を除いては。


 およそ九日振り、現実世界ではちょうど二ヶ月振りくらい? の伏線回収。もうとっくに忘れかけていた。作風もかなり変わっている。これからも大いに変動するだろう。


 見つめ合う男女二匹。

 その微笑ましい女性側一方的な沈黙風景を、しかし割いて破るのは──



 ■



「おや、ここにいたのですか」


「「!?」」


 振り向くベルとハジメ。その先に。


「マロナ。ようやく獲物にたどり着きましたよ。それと、もう一匹増えたようです。駆除してください」


「ヴルルルルルルゥ……」


 ──ビード。と、イヌ耳幼女マロナ。

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