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【みじめ】スキルで異世界生存中  作者: 岩流佐令
第二章 獣人奴隷解放
72/80

67匹目 イヌ、崩落中

「風術──《微風(ブリーズ)》」


 マロナというイヌ耳獣人の見た目を説明していなかった。彼女は犬種で言うと、おそらく柴犬だろう。それもわりかし小さめの、豆柴くらい。


 体毛は黒。少し硬めなストレートの短髪も、その奴隷ピアスが付いているイヌ耳も、全て美しいような、光るような黒色である。


 顔は……そうだな、日本美人、といった感じだろうか? と言っても、平安時代のお歯黒云々みたいななりじゃなくて、もっと現代的にアレンジされた感じの、純正な美形だった。


 ザクロが異国っぽい流麗な美女だとすると、この子は和風で淡麗な少女。なんか分かりづらい例えしか出なくてすまんね。蛾眉細腰というのは中国の言葉だったか、しかし、柴犬のこの少女にはピッタリ当てはまる気がする。


 目元がキリッとしていて、小型犬なのに、体格も小さい女子なのに、今にも襲いかかってきそうな、狼のような殺意が、その眼差しには込められていた。


 で、その視線は今現在、ハジメに、絶賛向けられている。ギラギラとした目つき。ついでに、喉笛に噛みつかれたら一撃で砕かれそうな、凶暴な鋭い牙も剥かれたまま。


 少女はよくわからない技名みたいな言葉を呟いて、ハジメへと単身出撃した。


「うおッ!?」


 ハジメは瞬時に躱す。これでもギリギリだ。彼は今、ザクロからもらった雷術という半チート能力で、その動体視力を人間じゃないステータスまで上昇させている。


 それなのに、そのイヌ耳少女──マロナのアタックには、ほとんど体力気力の臨界地点で躱しきっているというのが、現状、戦闘状況だった。


「マロナ、僕の傑作品の一つさ。彼女は風術の才覚があってね。そいつが仔犬の頃、僕がとある奴隷商人から買い取ったモノだよ。よくある話さ、戦争孤児が裏社会の人間に強制隷属させられるってことは」


「『傑作品の一つ』……ね。そこは『最高傑作』くらい言ってやれよ。

 それにやっぱ、そういうクソみてえな社会構造が、この世界にもあるんだな、わかってたことだけど。

 つーか、強制隷属って、今お前がこの子にしていることなんじゃないのか? ……おっと!」


 ハジメはビードの会話に付き合いながら、マロナの攻撃を受け流している。


 男ビードは例の拷問椅子みたいな冷たい鉄の玉座に腰を下ろした体勢のまま、ニコニコとハジメへとお喋りに興じていた。イヌと人間、マロナとハジメの二人の戦闘を、さながらテレビのスポーツ試合を観戦するみたいに。


 ポップコーン片手に炭酸飲料でも飲みそうな勢いで、しかし純粋に、語り単品を楽しんでいるようだ。本当に、呆れるくらいに、お喋り好きな奴。

 今だってハジメとも、その観戦の感想でも言い合うかのように、ゆったりとリラックスしながら、清々しく舌を滑らせている。


 それに対して、マロナの戦闘の異様さよ。この子は、完全に場馴れしている。


 これまたザクロとの比較を用いることになるが、あのネコ耳美女が、自身の人生とその命がけの戦いの中で、生き抜く為に身に着けた戦闘スキル、その近接格闘とするならば。対モンスター用の、一撃必殺の『殺し』の為の動作とするならば。


 マロナ。この奴隷イヌ耳少女は、完璧に訓練された動きであった。軍隊で習うような、キレのある洗練されたそれ。対人間用の、相手を翻弄する、またはその体力を適宜コントロールする、『闘い』の為の、技の数々。


 ハジメの体力及び行動パターンは、もう全て、この子の手中に収められていると言っても過言ではなかった。


 的確に狙うパンチ。こちらが防ごうとする。と、いきなりその拳を引っ込めて、すぐさま足で払ってくる。そういった戦術が使える子だった。


 今までの敵(ザクロ、イノシシ等)もかなり強敵だったが、しかし脳筋というか、なんとなく次の攻撃が読める戦闘タイプだった。けれど、この少女は違う。知能ある敵と闘う為に、その戦闘形態を極めている。


 それに──


「そんな、人聞きの悪い。その子のピアスは僕が付けたものじゃないですよ? 元々、商品を購入した際、付いていたものです。

 まあ、取り外そうと思えば、取り外せるのですがね。でも、それが必要な理由も特にないですし、追加料金もかかりますし、本人の希望もそれほどありませんし。

 日常生活で困ったこともありませんでしたので、そのままにしておきました。

 まあ、慣れると存外可愛いものでしょう? デザイン性の良いピアスですしね。ネズミさんたちにも、付けてあげたんですよ。ふふっ」


「笑うな、クソッたれが。お前、そんな『可愛い』とかいう単なるアホみたいな理由で、あのネズ耳たちにピアスを付けたのか? 奴隷にしたのか?

 ベルを……あの子も、奴隷にしたのか!?」


 ハジメは激昂して、観客のビードへと突っ込む。

 が、その主人には指一本触れさせないマロナの俊敏が、ハジメの策略を完膚なきまでに、打ち砕く。


 ──それに、ハジメにビードと会話する余力すら残すように、マロナはその力をコントロールしているようであった。


 あくまでも、主人の趣向は邪魔しない。己は影の配役として、その命令を実行するのみ。つまり、ハジメの体力を、ビードと会話できる範囲にとどめつつ、残しつつ、しかし着実に減らしていく動きだった。


 ご主人様ビードをパーフェクトに護衛しつつ。

 ハジメへと仕掛ける打撃によって、じわりじわりとその体力を削っていく。


 ハジメは持てる力全てを、余すことなく、そのイヌを倒すことに使った。なんなら、殺すかもしれない、否、確実にその命をとる勢いで。


 しかし、ハジメが本気を出すたびに、彼女の動きも呼応するように、激化した。スピードが速く。パワーが強く。


 今ハジメに一番得策と思われたのは、全力を出さないこと。出すと、向こうもそれを見極め、こちらの力に合わせてくる。


 だから、今はどうすることもできなかった。どこかで彼女の不意を突き、一撃で仕留めるしかない。それまでは、まだ弱い力で防ぎ切り、体力を温存しておく。

 まあ、こうなると必然、敵の体力も一切削ぐことは出来ないのだけれど。


 幸い、敵の方も、こちらをすぐには始末しないらしい。お喋りタイム続行だ。

 しかし、次のご主人様の発言で、少女マロナはさらにパワーアップすることになる。


「ふーむ。私的な趣味嗜好に口出しされるのは、あまりいい気がするものではありませんね。勉強になりました、不快になりました。

 ではお礼に、もう一段階、地獄をお見せしましょう。マロナ、『フェーズ(スリー)』です。彼と同じくらいにしてあげてください」


「……風術──《暴風(ストーム)》」


 再び謎の呪文じみた言葉を吐きつつ了承したらしき少女は、さらにその動きを加速させた。

 もう、ハジメの身体が受け止めるどころか、目で追うので精一杯なレベルに。


 力をもう一段階解放したようなマロナ。いや、一段階どころか、二段階、三段階も上がった気がする。


 死に物狂いで、その風を纏った強烈なパンチを電撃で相殺しつつ、これのどこが『同じくらい』なんだ、とハジメは思った。


 さっきから彼女とは至近距離で、戦闘は継続している。イヌは、ずっと懐入りっぱなしだ。

 ハジメが、距離を置かんと後ろへ回避すると、それに合わせて跳躍マロナ。

 逆に、こっちから反撃すると、同じ距離を保ちつつ、退く。


 まるで、人間に懐いたイヌみたいに、長年連れ添ったパートナーとシンクロするみたいに、ハジメとのステップを合わせている。

 永遠にこんな調子なのではないか、自分の攻撃は全て躱され、こちらのダメージだけ蓄積するのではないか、と思うと、気力すら消滅しそうになる。


 が、それこそ相手の思うツボだろう。このイヌの戦闘スタイルは、長期戦。それは今までの手合わせじみた格闘で、確実に、着実にわかったこと。

 まあ、ハジメの方は、そんな近接格闘の心得などないが。普通にスレスレで素人モーションで受け流したり、無様に回避したりしているだけだが。


「ふっざけんな。お前のその変態趣味で、どれだけの人が犠牲になったんだよ。どれだけの人生が、奪われたって言うんだよ。

 そういうクソみてえな妄想はな、自分一人でやるからいいんだよ。

 わかったら、というかわからなくてもさっさとその腐りきった脳味噌に叩き込んで、てめえ勝手に一人で部屋でセンズリでもこいてろ、馬鹿ッ」


「ハッハッハ、これは手痛い。無論そちらの方も、孤独に嗜む程度ですがね、言わずもがな。見ての通り独身ですから、僕。ハッハッハ、この情報は余計でしたか?

 それと前半については、研究も兼ねた合理的な判断だと思うのですがね、個人的には。獣人奴隷ピアス。いやはや、なんとも画期的な発明じゃあありませんか。

 こちらでは、主に脱走防止の管理手法として活用させてもらってますが。

 獣人研究は奥深いですよ、なんとも。ネズミさんたちには、まだまだ頑張って生存していただきたいですねえ。

 あ、五人くらい死んじゃったんだっけ? あんましよく覚えてないですけど」


「てめえ……人の命をなんだと、」


「……」


 と、イヌは無音で防ぐ。ビードへと向かったハジメの怒りの雷撃パンチを、その一撃を、いとも簡単に風で撹拌するように。


 吹き飛ばされるハジメ。彼女の張る、結界のような巻く風には、どう足掻いても近づけない。それでバリヤーを張られてしまえば、彼女どころか、それに防衛されるビードの元すらも。


 ハジメの前に立ち塞がるマロナ。ご主人ビード様を、完璧にボディーガードしている少女。


 ハジメは戦略を変えた。その忠実なるイヌ耳少女の方へと、コンタクトを取ってみる。


「おいお前、ご主人様はこう言ってるぞ。人として最低な人間だ。

 これを見ても、聞いても、まだ護衛するつもりか? お前の意思はどうなんだ?

 希望が無いだあなんだ、主人がさっき言ってたが、それは本当なのか?

 お前は……マロナは、こんな腐った環境に身を置いて、それでいいのか!?」


 言っても無駄な気もしたけれど、しかし言わずには、問わずにはいられなかった。

 説得なんて、できないだろう。できる余地があるならば、最初からこんな戦い、用意されていなかっただろうから。


 と、マロナは言う。これはちょっと意外だったが、黙秘を敢行されると思ったが。

 風の防壁を一旦解いて、静止して。彼女はわりと誠実に、ハジメに応じた。


 それは、まさに『イヌ』の答えであるように。

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