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【みじめ】スキルで異世界生存中  作者: 岩流佐令
第一章 気絶、拉致、臨死
7/80

6匹目 ネズミ、脱走中

しんだ

「チュー三郎! なんで、来ちゃ……あ」


 ()()はネズミを見るなり、にわかにそう叫んでハッとした。

 ネズミの鳴き声に顔を起こした、檻の中の少女。

 少し幼く見える──が、美人だ。

 地べたに尻が裸のまま、直接座っている形だ。


「……人間の、ひと?」


 こちらに気がついた。目が合う。

 少女の瞳に、恐怖と敵意が映った。


 身動ぎ、丸裸の玲瓏な脚が警戒し防御するように縮こまる。

 その繊手は上方に両腕とも高く縛られ、背後の壁に縄できつく括りつけられている。


「ちゅ、ちゅう」


 いつの間にかネズミは、ハジメの右隣のアンティーク風の机に乗っかっていた。燭台の置いてある机だ。

 その天板にもう一つ、これも置かれた金属製の小箱を、ネズミはカリカリと引っ掻く。


「ちゅ……」


 悲しげな声を出すと、ハジメの方を振り向いた。

 どうやらネズミには開けられないらしい。


 ハジメは小箱を開ける。蓋がずっしりと重い。中には小さな錆びた鍵のようなものが入っていた。

 鍵を取る。たぶん、檻の鍵だ。


「あ」


 少女が小さく叫ぶ。キョトン、と目を見張っている。

 檻に歩き近づきながら、それにしても──とハジメは思考する。


 ひどい、有り様だ。

 その裸体は暗所にも見るからに痩せていて、身体中に痣や擦り傷、それに鞭で打たれた跡みたいなのが幾つもある。

 およそ人間の仕打ちとは思えない、否、だからこそ人間の残虐性が垣間見える、惨憺たる光景だった。


 と、気がつく。

 少女の、肩ぐらいの少しクセのある柔らかな銀髪に紛れて、一対の人間ではない耳介が生えている。

 あれはそう、まるで。……


「……()()()?」




 ■■■




 ガシャンッ。


 鍵穴の方も錆び付いていて、手間取りつつ開けると、そんな音がした。

 ネズミがちろちろと少女のもとへ駆け、その鋭利な門歯で彼女を縛る縄を食い千切る。


 少女の腕は、解放された。

 その表情は恐怖こそ残っていたものの、自分を救ったらしきハジメに対する敵意は薄れた。

 が、代わりに困惑の感情が訪れる。


 すると、ネズミがなにやら少女に耳打ちするようなポーズをした。

 少女はそれを聞き取れているのか、『えっ?』とか『うん……』とか頷いている。

 やがて、彼女の恐怖の色のほうも薄れてきたようだ。


「あの……ありがとうございます」


 少女は口を開いた。

 話しかける──ハジメ(おれ)に。


「ああ、いえ、その……」


 女子の、裸である!

 とはこの場合、思えなかった。

 その姿態は凄惨で、目を背けたくなるほど、哀れ。


 ハッとようやく気がついて、ハジメは真っ裸の少女に自分の着ているシャツを手渡した。

 距離を取りつつ腕をめいっぱい伸ばして、引け腰になりながら。


「…………」


 少女はうやうやしくそれを受け取ると、ペコリと小さく律儀に御辞儀をした。

 なよやかな手付きで被る。

 と、ちょろりん、とその腰に、可愛らしいネズミの尻尾のようなモノが生えているのが見えた。


 着ると、彼女は立ち上がった。

 小さな体軀に太腿の方まで、際どいワンピースのようにすっぽりと収まっている。

 それはハジメにとって、むしろ丸裸のときより目を逸らしたくなる光景だった。

 背徳、というか、罪悪、というか。


 そのチラと覗くなめらかな太腿にも、小さな擦り傷が何個かある。

 見てはいけないもののような、残酷と優婉との間に。

 しかし、たしかに光る生命力が、少女には在った。


「あ、あの。これも……っ!」


 言いつつ、動転しながらハジメはズボンも脱ぐ。

 その白く艶かしい太腿も隠さねば、と思考したのだ。

 ハジメは脱いだ。

 が、勢い余って()()()()()()()


「「あ」」


 二人は同時に言った。

 ハジメは呼吸が停止した。

 少女の恐怖の色が、再び濃くなった。


「あ……の。()()は、大丈夫、です……」




 ■■■




 しんだ。

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