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【みじめ】スキルで異世界生存中  作者: 岩流佐令
第二章 獣人奴隷解放
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64匹目 ハジメ、ダンジョン無双中⑩

ベル③

「はあ……なんとか逃げ切れましたね」


 ダビィが言った。対面するベルの方は、もうクタクタである。


 ゴブリンから逃げた弱小女子二匹。彼女らは現在、人間二人がギリギリぎゅうぎゅうで入れる窮屈なネズミ穴へと、その身を潜めていた。


「でもまだ油断はできない……です……よ」


 ベルは息切れがすごい。二人とも敬語だから、台詞がややこしい。今のはベルの声だ。とても疲労した声。


 と、ウサ女子ダビィがにわかに瞳を輝かせる。


「ベルちゃんすごい! すっごく足速いですね! スプリンターベル! おかげで私、命拾いしちゃいました!」


「命拾い……ですか」


 ベルは疲労している。彼女はダビィを引っ張ってダッシュし、恐ろしいゴブリンの群れから逃げ切った。一人で走るより、よほど疲れた筈だ。


 で、当の引っ張られたダビィは、割とケロリとしていたりする。


「あなたは命の恩人です♪ お礼になんでも叶えます♪」


「……じゃあここから出してください」


「あーごめんなさいそれ無理♪」


「え!? なんで!?」


 珍しくベルが絶叫している。即答したダビィ。疲れ果てたベル。二人は仲良く穴の中。


「いやー私もね、ダンジョン管理なんか頼まれてるけどさ。基本設計しただけなのよ。点検整備は裏ルートでいつもやってる。あと警備とか色々は、メルダさんがやってくれてるからなあ……」


「えっと……つまり?」


「道とかよくわかんない。てへっ♪」


「……」


 絶句ベル。てへぺろダビィ。二人は仲良く穴の中。


 ちなみに穴というのも、ほぼ壁である。坑道みたいなダンジョンのルート、その横壁の浅い隙間に、すっぽりと女子二人が収まっているのだ。

 イメージとしては、カプセルホテルの個室ユニットみたいな。まあまあ狭い。


 向かい合う二人。体育座りの、脚を若干交差させて収まる。近い距離感。


「なんかねー、侵入者が入ったとかで。一人はメルダさんが闘ってるんだけど、もう一人は戦略的放逐したみたいで。絶賛逃走中って。

 あ、それがあなたなのかな、ベルちゃん?」


「メルダ……? 闘う……? すみません、たぶんそれ、あたしとは別件です」


「んーそっか。じゃああなた、私が探してた侵入者じゃないんですねー。

 そういえば、あなた奴隷ピアス付いてますもんねー。脱走者を捕まえろって指示は出てないんでー。私の業務外ですー。らは♪」


「はあ……」


 ニコニコダビィ。呆れ笑いベル。呑気な空気。


「グルルルルルル……」


「あちゃーすみません。たくさん走ったらお腹すいちゃったみたいで。お恥ずかしいなー、えへへ……」


「ああ……違う」


「ふぇ?」


「違うよこれ……もう本当やだあ……」


「?」


 振り向くダビィ。人格が崩壊しかけているベル。二人の穴を覗き込んでいるゴブリン。


「うわあゴブリンだえへhwhwhww」


 やべえ感じで変なふうに笑い出したダビィ。こちらも人格が崩壊した。

 と、襲うゴブリン。庇って避けさせるベル。


「ぷぎゃ」


「痛ッ」


 ダビィを庇ったベルは、肩の肉を少しゴブリンのナイフに削られた。穴から出た二匹。その眼前、大量のゴブリン。全て武器を佩帯している。


「ああ、ベルちゃん! 私を庇って……!」


「大丈夫です。かすり傷です。それより逃げて」


「もーう許しませんッ。こらあゴブリーンッ。あんたらみんな血祭りじゃーッ」


「いいから逃げてよめんどくさい……」


 ポロッと本音が出たベル。この子にもちゃんと人間性があったらしい。今にも舌打ちしそうに俯いている。


 が、気にしないダビィ。この子は本当にバカの子だ。単身、ゴブリンへと突撃。


「オラオラオラー!」


「ギイイイイイイイ!」


 なんか善戦しているダビィ。まあ、さっきも地面崩落させたくらいだし、ダンジョン管理とか任されているんだから、戦闘力はあるのだろう。


 ゴブリンたちをなぎ倒す。が、いかんせん数が多い。苦戦するダビィ。


「ふえーんめっちゃいるよー。ゴブリンめっちゃいるよー。

 あ、なんで私の服狙うんですか? やだっ。帯がほどけちゃった! ああー私の服持ってかないでー」


「……ところでなんでダビィさんは柔道着なんですか?」


「ん? これ? 規則でね。ここで働く条件って感じ、ダンジョンマスターのお達しよ。

 なんかこの制服の所為で、従業員三人しか集まらなかったの。まあ、お給金良いし、私も故郷の弟たち食わせてやんなきゃだし、あんま気にしてないよー。

 あ、こらゴブリーン! 私裸になっちゃったじゃないの、服返しなさーいッ」


「はあそうですかよかったですね」


 もうベルはやる気がない。昨夜のハジメみたいだ。疲れた人間は、だいたいこんな感じだろう。虚ろな目をしている。


 いつの間にかゴブリンに服を奪われ、下着だけになったダビィ。巨乳。馬鹿。ウサギ。


「ちょっちこれどうしまそー。数が多いなー。なんとかしていっぺんに集めらんないかなー?」


「一箇所に?」


「うん、一箇所に。そしたら私のスキルでやっつけられるのにー」


 下着姿のダビィに問うたベル。答えた彼女。と、ここで閃いた様子のベル。提案する。


「ダビィさん、あたしそれたぶん出来ます。一箇所に集められます」


「え? ホント? やってやってー」


「敵はいくつですか?」


「うーんと、いち、にい……八百匹くらい?」


「大丈夫です。いけます」


「おーうベルちゃん、やっちゃってやっちゃってー!」


「……すうー」


 深呼吸するベル。キャラがなんか変わってる気がする。気功を整えるようなポーズ。


 おそらく、彼女も一人の女の子なのだろう。その過去は辛く激しいものであったし、従って精神年齢も成人レベルまで成長しなければならなかった。が、まだ肉体的には少女の年齢と言っていい。


 たまにはハッチャケたい時だってあろう。今がその時だ。これは、ダビィの馬鹿っぽい抜けた雰囲気が、そうさせてくれたことでもある。


 馬鹿が伝染したわけではない。ただ、ずっと気を張り詰めていたベル少女なのだ。たまにはこういう、友だち同士でふざけ合うシーンがあってもいいんのではないだろうか?


「乖糂陋誣瀰冽瓏流・盗式!」


 ……だから、こんな謎呪文を叫んでも、誰も彼女を責めるいわれはない。


 そしてその小さなネズ耳少女は、瞬時にして姿を消した。その場にいる全員が気がついた時には、もうすでに別の場所にいた。


 その地面に、八百匹分のゴブリンたちの武器を積み上げて。


「「!?」」


 全員が絶句した。もちろん、ダビィも。


 ダンジョンに積み上げられた武器たち。弓、棍棒、ナイフ、槍、輪刀、レイピア、鎌、ヌンチャク、ハンマー、メイス、屶、鏢、チャクラム。


 それらメジャーマイナー混合武器たちの上に君臨し立つ、一匹のネズ耳少女。


 彼女は開口する。ダビィに向かって。


「あの、罠設置お願いします」


「あ、はい」


「「ギイイイイイイイ!?」」


 ゴブリン軍は自分たちの武器を取られた、『盗まれた』ことにあっけにとられていた。が、すぐに気づき、己が商売道具を取り戻そうと奔走しだす。


「よっと」


 と、着々と地面を破壊していくダビィ。彼女の種族スキル【掘削】であった。


 ここからはなんとなくおわかりであろう。


 一箇所に集まったゴブリン軍。武器の山から、己のそれを探すのに躍起になる。


 その周囲を囲むように地面にひびを入れていくダビィ。結構範囲が広い。が、素早く終わらせる。合図を出す。


「ベルちゃん準備OKよー。どいてー」


「わかりました……おっとと」


「ギイイイイ、ギイイイ!?」


「ギイイイイイ!」


 ゴブリンパニック。『それは俺の武器だ』みたいに奪い合っている。その武器のてっぺんから下山するベル。麓へ、地面へと到着。離れる。


「よし、ベルちゃん離れましたね。いっくよー……【掘削】ッ!」


「「ギ?」」


 ドゴーーーーーーーンッ。




 ■■■




「やったー今度は上手くできた! えへ♪」


 ダビィが言う。今回は、自分は巻き込まれなかったらしい。


 ちなみに解説しておくと、前回ハジメが聞いた轟音とはこのことであった。二度目のダビィの【掘削】。およそ八百匹ものゴブリン軍を地の底へ叩きのめした、強烈な地面崩壊、その音。


 で、その哀れな敵軍はというと。


 もうゴブリンたちの声は聞こえない。彼らの生存に関する音声は、全て消滅した。それら肉体は、おそらく遥か地下で崩落した地面の岩とともにミートソースになっていることだろう。


「ありがとうベルちゃん。あなたは私の恩人です! お礼になんでも叶えます♪」


「それさっきも聞きました……」


「あれー言ったっけ? らは♪」


「……」


 おちゃらけるダビィ。もうそういう人なんだと諦めるベル。ダビィが提案する。


「そうそう、じゃあお礼に『裏ルート』の情報をリークしましょう」


「裏ルート?」


「うん。このダンジョンを絶対安全安心に抜け出せるルート、裏ルート。私もいつもそこから出勤しているのー」


「はあ」


「でねでね? その門の解錠パスワード教えたげる」


「え、いいんですか?」


「うん! ベルちゃん友だちだからね!」


「友だち……」


 憔悴気味のベルは、そこでにわかに瞳が明るくなった。続けるウサ耳ガール・ダビィ。


「まあそしたら私、たぶんこの職場クビになるけど。でもいいわ。もともとそろそろ辞めよっかなーって思ってたの。従業員の子、みんなちょっと変だし。雇い主も変態だし」


「……あなたが言います?」


 ぼそっと本音が漏れるベル。ちなみに、ダビィの服はゴブリンの武器とともに遥か下層だ。柔道着消滅。今、彼女は下着姿。


「じゃー私トンズラするから。雇用主にバレる前に逃げちゃう! あ、でも一応メルダさんのとこは行っとくかなー。侵入者の件とか、私離脱するよーとか、色々言っとかないと。

 まあ、それは今は置いといてー。パスワード言うね? あ、あとちなみに──」


 色々と独り言ちつつも、早口で巻くダビィ。と、ぽん、と手を合わせて、ベルへとにこやかに告げる。


「百桁あるから、ガンバッテ覚えてね♪」


「え……」


 その時。


 ベルが絶望の表情で絶句するのと。

 その耳介の奴隷ピアスが、パキンと割れるのとは。


 ──同時のことだった。


かいじんろうふびれつろうりゅう・とうしき

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