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【みじめ】スキルで異世界生存中  作者: 岩流佐令
第二章 獣人奴隷解放
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54匹目 ハジメ、就寝中

ファムファタル黙考


 彼の音が聞こえる。あたしの下。もう寝ちゃったらしい。つまらない。けど、こうして温もりを感じていても、誰も怒らないのだから。居心地がいい。リーナちゃんみたい。


 誰かの上で寝るのは久しぶり。お母さんはしてくれなかった。毒が移っちゃうからって。でもあの毒って感染性はないのに。だけど、お母さんはあたしをあまりぎゅってしてくれなかった。お父さんがいたらこんな感じかな。男の人はよくわからない。やったことがない。


 人間のひとは食べられちゃうから、駄目だからってリーナちゃんは言ってた。でも、この人はあたし、そうは思わない。この人は全然わからないひと。なんで優しくするの。あたし働いてないのに。モンスターも殺せないし、女のひとだってできない。なのに。なんで。


 リーナちゃん。リーナちゃん女のひとにされちゃった。さっき食堂で見た女の子。彼の前に座ってた。リーナちゃんに似ている。あたし思わず、リーナちゃんって呼ぼうとしちゃった。苦しくなる。だって違う子だから。もういないから。だから何かしてたかった。だから片付けてた。


 手を動かしてると忘れられる。何かしていたい。じゃないと嫌になる。息が痛い。目的がほしい。生きる目的。彼。この人。なってくれるかな。あたしの生きる目的。駄目だろうな。彼にも、彼自身の人生がある。あたしはなんでここにいられるんだろう。いつまで、ここにいられるんだろう。


 息を吐く。耳鳴。細かい音が聞こえる。夜の音。空気の音。血の流れる音。寝てる。生きてる。死んでない。よかった。


 できればずっと生きてほしい。でも無理かもしれない。この人は無茶をしすぎる。たぶん目を離した隙に死ぬ。なんかそんな気がする。でも、あたしよりは生きるかな。生きるだろうな。人間のひとだもん。あたしたちの寿命っていくつだっけ。お母さん言ってた気がする。忘れちゃった。まだ死なないと思うけど。


 彼のにおい。すごく好き。ずっと嗅いでいたい。ずっと一緒にいたい。泣きたくなる。なんで。


 顔をうずめる。まだ起きない。けっこう疲れてたみたい。今日はとても頑張ってた。戦ってるところを見た。彼、一人で戦ってた。どうしてみんな助けなかったんだろう。あたしなら絶対に助けるのに。でも、そんな力ない。あたし弱いから。なんにもできない。人のモノを盗むことしか。きらいな能力。もっとちゃんとしたのがよかった。もっと役に立てるのが。


 あたしは全然役に立ててないな。全然この人の力になれない。たぶんまた捨てられる。そのときはどうしよう。いやだ。捨てられたくない。なんで。考えるのも嫌。どうしてこんなに怖いの。こわい。でも、考えなくちゃ。じゃないと生きていけないから。生きていく。


 なんか。この人がいなくなったら、今度こそ死んでもいい気がする。彼がいない、そんなの考えたくない。けど、考えたら、想像したら、やっぱり死んだほうがいいと思う。なんでだろう。せっかく生きてきたのに。お母さんの約束、守れなくなっちゃう。それも嫌だけど、でも。


 こわい。こんなことなら、こんな感情になるくらいなら、やっぱりあのとき死んどけばよかったかもしれない。痛い。あのまま、暗いまま。暗くて、全部簡単で、はっきりしていた世界。お母さんと、リーナちゃんと、生きてさえいればよかった世界。戻りたいのかな。それはちがうかも。絶対に違う。あんなの地獄だ。


 あたしも女のひとにされるところだった。絶対に嫌。でも死ぬのもいやだった。わがままかもしれない。みんなやっていたのに、あたしだけ逃げたんだ。今、どうなっているんだろう。あの屋敷で、みんなどうしてるんだろう。生きてるかな。かわいそう。痛い。何かしていたい。息が痛い。どうしよう。


 首を噛んだ。たぶんずっと起きない。朝までは大丈夫かな。いい匂いがする。舐める。あ、のどぼとけっていうんだっけ。初めて見た。お腹が熱い。なんでだろう。くらくらする。のどぼとけあったんだ。あんまし見てなかった。あたしには無いな。ネズミだからかな。


 お腹がすごく熱い。なんでかな。そういえば、こないだも熱かった。いつだっけ。


 ああ、あのときだ。忘れたかった。でも忘れたくない気もする。この人だけ忘れてほしい。覚えてるかな。たぶん、覚えられてるだろう。あの朝の反応がそうだった。嫌だ。すごく嫌。本当に忘れてほしい。なんだったんだろう、あたし。なんなんだろう。わかんない。くらくらしてる。


 あ、たぶんこれ血管だ。自分のも触ってみる。あたしのよりちょっと太いかな。あまり変わらないかも。ちょっとよくわからない。舌から振動が伝わる。おもしろい。真ん中あたりがかたい。でこぼこしている。不思議。生きてるってことかな。うれしい。けど、少し怖い。


 なんかまた息が苦しくなってきた。目の奥がじんじんする。胸がにぎられているように痛い。だめ。いろいろなこと考えちゃう。息を吸って、吐く。首に反射して、熱がくぐもった。これはあたしの匂いかな。わかんない。混ざっちゃった。息がずっと反射する距離で。彼の首が湿ってくる。


 横顔がきれい。顎を舐めた。少しチクッとする。なんだろう。ひげかな。彼にも生えてるのかな。男のひとは生えてるって聞くけど。この人のことはわからない。


 この人。本当によくわからない。どこから来たんだろう。なんであたしを出したんだろう。何をしているんだろう。どうやって生きてきたんだろう。これから、どうするんだろう。


 知りたい。知りたくない。知ったら、どうなる。知って、どうするの。どうしようもない。どうにもできない。だって彼の意思だから。あたしのじゃない。結婚してるひととかいるのかな。どうなんだろう。訊いたことない。聞くなんてできない。死ぬかもしれない、あたし。


 ザクロさん、だっけ。あの人はどうなのだろう。昔から知ってる人かな。でも、初めて会ったときの反応は、ちがう気がするな。ただの憶測だけど。いつの間に仲良くなったのだろうか。好きなのかな。きっとそうだろうな。じゃなきゃ、あんなことしない。あんなことは。


 なんでキスしてたんだろう。それも、あたしの目の前で。やっぱり、そういう意味かな。あの人のものなのかな。ずるい。なんで。嫌だ、すっごくいや。あの人のものになるのが、あの人といるのを見るのが。あたしひどいかも。自由意志の尊重。あたしが一番ほしかったものなのに。なんで、この人が行くのが嫌なんだろう。それこそずるいのに。行ってほしい。行ってほしくない。変なのかもしれない。時間が経ったら治るかな。たぶん大丈夫だろう、きっと。大丈夫だよね。


 あたしさっきからおかしい。生きてるかな。彼も生きてる。夢みたいな気がするけど。思考がまとまらない。お腹だってずっと熱い。汗をかいてきた。なにもしてないのに。これってどういう状態なんだろう。回復薬で治るかな。明日材料買ってこよう。でも、今はどうしよう。今すごく変だ。なんか立てない。脚に力が全然入らない。どうしたんだろう。怖い。


 くらくらする。首を噛む。強く。お腹が変な感じ。浮いてるみたい。もっと噛む。声が聞こえた。息がかすれるような音。彼が少し動く。起きたのかな。あ、首を横に向いただけだ。あたしのほうを見なくなった。向こう側を向いてしまった。全身の血が、冷えた気がする。あ。


 なんで。あ、とまらない。駄目だ。なんか全然止まってくれない。痛い。なんで。泣いてる、あたし。声聞こえちゃう。今起きないで。おねがい。今起きないでください。寝てていいから。すぐおさまると思う。すぐおさめるから。起きないで。絶対に見ないで。


 お腹が熱い。どうすればいいんだろう。苦しい、熱い、心臓が痛い。わかんない。どうすればいいの。怖い。死にたくない。


 これ本当に危険かもしれない。向こう向かれて、もっとお腹が熱くなった。意味がわからない。あたしのカラダなのに。恥ずかしい。でもやっぱり、怖い。一人が怖い。


 恥ずかしいけど、起きてほしい。すごく恥ずかしいけど。そしたら、治る気がする、彼が起きてくれたら。怖いけど、あたしの今の顔見ても、彼なら許してくれるかも。だから、起きて。ただそれだけで全部治るのに。なんで寝てるの。あたしこんなに苦しいのに。噛んでやる。頭がおかしい。あたしなのかも。


 起きて。助けて。すごく苦しい。溺れそう。怖い。なんなの。あたしなんなの。何がしたいの。どうなりたいの。誰を呼んでるの。馬鹿みたいに。


 あたし馬鹿なんだ。なに考えてるんだろ。ぜんぶ妄想なのに。誰も来やしないよ。怖いのはしかたない。感情を殺せ。今までだってそうしてきた。そうやって生きてきた。だから。殺さなきゃ。彼は起きないから。お腹が熱くても。殺すの。
























































































































 あたしは何をしていたのだろう。




 ■■■




「ちゅう」


「……チュー三郎?」


「ちゅ、ちゅ」


「え?」


「ちゅう」


「……あたし?」


「ちゅ」


「あ……行くの?」


「ちゅう、ちゅ」


「え、ちょっと待ってくださいね」


「ちゅう」


「どこに行きたいの」


「ちゅ」


「……ダンジョン? なんで」


「ちゅ、ちゅちゅ」


「よくわからないけど……そこまで言うなら」


「ちゅう」


「うん……行くわ」




自分の記憶を『盗んだ』

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